対戦・シムルグ
2時間経ってアグとベル、及び飛んだ国民たちは防空街に戻ってきた。
アグたちはメデラの部屋の中に戻ってきていた。
そしてアグはエネルギーを使い果たして、気絶した。
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫です! 力をたくさん使ったので、気絶しているんです…」
アグは城内の隣の部屋のベッドに寝かされ、ベルもその部屋で待機した。
メデラは何度も何度もお礼を言ったあとに、その部屋を立ち去った。
「ものすごい数でしたね……」
あれだけの人間を飛ばして好き勝手できる能力…。
正直ゾナさんの禁術はどのシャドウの禁術よりも恐ろしい力なのかもしれませんね……。
他のレアが持っていたと思うとゾッとします。
アグは目覚めることはなく、ベルは城内を案内され、浴場なんかの施設も自由に使っていいと言われ、ありがたく湯船にも浸かった。
そして夜になって、ベルもまた隣のベッドに寝転んだ。
「シムルグもまた、異空間に飛ばして倒すつもりでしょうね…」
アグさんはどんどん強くなっていく。
力を得ていく。
彼ならどんなシャドウだって、ゼクサスだって、倒してしまう、そんな気がします。
そして5日後の午後になって、ようやくアグは目覚めた。
「うぅ……」
「アグさん!」
「やっば……どんだけ寝てた…?」
「丸5日です」
「はぁ……」
予想はしていたが、ゾナの禁術のエネルギー消費は半端ない。
今回はさすがに人数も多すぎたか…。
「メデラ様!」
地上の巡回に出ていたスサノが隣のメデラの部屋へ声を荒げながら入っていく音が聞こえた。
「わかっています! これは……」
「シムルグが防壁を攻撃しています」
「くぅ……」
(私のバリアももう限界でしょうか……)
アグとベルは顔を見合わせると、急いで部屋を出る。
「スサノさん! シムルグは今どこに?!」
「10キロ先の上空に姿を現している!」
「討伐に向かいます!」
「ほ、本当に大丈夫なのか?!」
アグは頷くと、城に1番近い地上へのはしごを上っていく。
ベルも下から追いかけた。
「危ねえぞ! ベルは待機してろ!」
「私も行きます!」
「ったく……」
アグはおそるおそる蓋を持ち上げて顔を出した。
(いた……)
その巨大な鳥は少し離れた空の上から、地面に向かって青い衝撃を放っている。
アグとベルは地上に出ると、その恐ろしい怪鳥を見上げた。シムルグはこちらに気づいてはいない。
「空間に飛ばせばこっちのもんだ! ケビン!」
アグはケビンを生み出すと、シムルグに近づけた。
ケビンは空を飛び、シムルグに向かっていく。
ケビンはシムルグをその視界に捉えると、その目を輝かせた。
(……飛ばせない??!!!)
しかしシムルグに対して光が小さすぎるのか、異空間に飛ばすことができない。
「アグさん!」
「くっそ…駄目か……」
シムルグはケビンの存在に気づくと、青の衝撃を放った。
激しい青いいかずちを受け、ケビンは消えてしまった。
シムルグはアグとベルの存在にも気づくと、こちらに向かっても攻撃を仕掛けてきた。
「バレました!!」
「ちぃっ!」
アグは吸収防術で攻撃を防ぐ。ベルは彼の後ろに隠れた。
(重い……っ!! 跳ね返しなんてしたらこっちのエネルギーが即効切れる…っ!!)
「ケビンの数を増やすのはどうですか?」
「駄目だ…対象の数以上は生み出せないっ」
シムルグは攻撃を緩めると、旋回してこちらに迫ってくる。
(このままじゃ防戦一方になるっ!)
考えろ…
呪術は時間がかかるし…火炎もこの状況下じゃ当てられそうにない。
勝つのは空間束縛するしかない…
そのためには……
「っ!」
アグは再びケビンを召喚する。
「アグさん?!」
「巨大化させる!」
ベルに聞いたが、巨大化は耐久時間が短く、巨大にすればするほどすぐに元の大きさに戻ってしまうという。
あのサイズだ、持つのは数秒、だけどそれだけあれば充分だ!
アグの禁術でケビンはだんだん大きくなっていく。
その大きさはシムルグより2回りほど小さい。
(くっそ…これが限界か…?!)
ケビンは光を放った。シムルグは目を眩ませるが、光は全身を覆っていないからか、まだ飛ばされない。
(まだ足りねえのか…?! これ以上はもう…)
アグが限界を感じると、ケビンが更に大きくなり始めた。
「え?!」
「アグさん!!」
アグが振り向くと、ベルもケビンに術をかけている。
巨大化対象を巨大化。
相当なエネルギーを必要とした。
だがそのおかげで、ケビンはシムルグを見下ろすほどに大きくなった。
シムルグは光に飲み込まれ、姿を消した。
「飛びました!」
「っ!!」
アグも同様に姿を消した。
ベルはくらっとして、その場に倒れた。
気を失うほどではなかったが、しばらくは動けそうにない。
(あとはお願いします…アグさん…)
良かった…私も少し、役に立てました……。
アグは異空間にシムルグを閉じ込めた。
(勝った……)
アグは薄ら笑って、勝利を確信した。
シムルグはその狭い部屋で大暴れしていた。
部屋の壁や天井に向かって青の衝撃を放つが、ビクともしない。
(効かねえよ)
シムルグは攻撃が効かないことを理解したようだが、非常に怒った様子だ。
(ここでは俺が絶対的)
「さて」
アグは壁に手を当てると、その手はシムルグの部屋の床から現れた。
シムルグの青い身体に2秒ほど手を触れる。
(トレース)
アグは青の衝撃をトレースすると、手を抜いた。
「いただきましたと」
この空間で出来ることは、好きなものを生み出すこと。
(どう料理しようか)
アグがその部屋に注いだのは、油だ。
天井から雨のように滴る油はシムルグの身体を濡らしていく。
充分行き渡ったところでその部屋に小さな火を落とした。
(燃えつきろ)
瞬く間にシムルグの身体に炎が回って、骨の髄まで燃やし尽くす。
ヴぎャあと痛烈な叫び声と共に、シムルグは灰になった。
シムルグが死ぬと、アグは異空間から速やかに帰還した。
「ハァ……ハァ……」
アグはベルの隣にそのまま倒れ込んだ。
巨大な魔族を異空間に飛ばしたからか、思いがけないほどのエネルギーを使った。アグは再び気絶した。
「アグさん…倒したんですね…」
ベルは気絶したアグを見ていた。
(強い…強すぎます……。しかし、この術はエネルギーを使いすぎる……。まるで諸刃の剣ですね……)
ベルが動けるようになるまで、2人はそのまま倒れたままだった。




