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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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ナルシア大陸防空街

少し歩くとアグとベルは街についた。

しかしその街は無残にも破壊され、住居も木々も倒されてめちゃくちゃになっていた。

街には誰1人いない。


「これは…」


すると、遠くから人間が駆けてきてアグたちに言った。


「良かった! まだ生きていたやつがいたんだね!」

「??」


30代くらいの男だった。


「もう皆死んだかと思っていたよ…! ほら、早くここから離れよう! こっちだよ!」


男は手招きすると、アグたちを案内した。

馬車に乗せられ、更に大陸内部の方へと連れて行かれる。

男は馬に乗って馬車を運転していたが、窓から顔をだしてアグは尋ねた。


「皆死んだって……」

「怪鳥シムルグさ…! さっきもいただろう。あの鳥が現れてから、この大陸の北側はもうめちゃくちゃさ…皆、防空街に避難しているよ」


馬車に乗って移動している間、その男から話を聞いた。

男の名前はスサノ。この大陸でいう騎士団の1人のようで、大陸中をまわっては、人間たちに防空街への避難を誘導しているようだ。


防空街とは、シムルグの攻撃を受けないように新しく作られた地下空間の街だった。その街の上空には攻撃を跳ね返すバリアが張られているという。そんな人外的な環境を作ったのは、とある呪術師と防術師だという。


「この大陸にも呪術師がいるんですね。それに防術師って…」

「あの攻撃を防ぐバリアだ。只者ではなさそうだな…」


スサノはちらちらと上空を気にしていたが、シムルグの姿はないようだ。


「シムルグは動いてるやつを襲ってくるんだ。あいつを見かけたら、どんなに怖くても動かずにじっとしていることだな」


そして2時間ほどかけて、馬車は防空街に到着した。

その間にアグとベルが別の大陸から来たことを知って、スサノは驚いていた。


そこには地面に蓋された丸い入り口があって、それを開けると、はしごがかかっている。そこを降りていくと、防空街なのだそうだ。


アグとベルが降りていくのを確認すると、スサノは蓋を閉めつつ自分も降りた。


「馬車はいいんですか?」

「ああ。あれは呪術で出してもらったものだからな。ここで待機させてる。万が一シムルグにやられても問題ない」


その長いはしごを降りると、地面にたどり着いた。


「すご……」

「街……ですね…!」


そこは地下とは思わせないような、れっきとした1つの街だった。

青く塗られた天井は空を思わすようだ。灯りを天井にちりばめてはいるが、やはり外に比べれば暗い。

しかし街には人々が多く賑わっていた。


「大陸中の人々をこの街に集めるのが俺たち騎士団の仕事だが、北側の国民はもうほぼこの街に避難できているといってもいい。シムルグの攻撃で死んでしまったやつも多いが、生きてるやつ、逃げてこられたやつはたくさんいる。この街で俺たちは、生きていくことを選んだんだ。とはいえ、食料は地下にはないからな…。俺たち騎士団がスキを見て地上から調達している。逃げそびれた人間も探しながらな」


外へと続く入り口は100メートルおきくらいに多く存在していた。

街は広いが、人で溢れている。大陸の3分の1の人間がここに住んでいるとスサノは言った。


(俺がナルシア大陸に来たときにはシムルグの話なんてなかった…。おそらくここ数ヶ月の間に出現して、この大陸を襲っているってところか…)


「だけどやっぱり、なかなか外にも出られないもんだし、シムルグが街を破壊して回ってるせいもあって、食料不足でな…皆空腹に耐えながら暮らしてるよ。太陽がないから食物も育たないし…正直参っていたところさ」


そこで、アグは言った。


「この街を作った呪術師と防術師に会わせてもらえますか? 皆さんの空腹を一旦改善することを約束しましょう。そのあとシムルグを討伐することも」

「え?! な、何言ってるんだい君…。あのシムルグの力を見ただろう? 人間が敵う相手じゃ…」

「アグさん……」


ベルも心配そうにアグを見ている。


「大丈夫です。手はありますから。ただしその2人の術者に、俺を会わせることが条件ですけどね」

「…わかったよ。こっちだ」


スサノはアグとベルを2人の術者のいるところへと案内した。


「この街はいつから作られたんですか」

「ちょうど4ヶ月ほど前かな…。毎日少しずつ建物を作っていって、ようやく今の形まで仕上がったよ…」

「そうですか…」


(街はなかなかの大きさだ。街の創造は大変見事だが、ベーラさんなら1ヶ月あれば作れるレベルだな…。呪術師の力量はあの人に比べればそこまで…ってところか。ただしシムルグの攻撃を防御できる防術師、こっちは期待できそうだ)


その街をひたすら歩いて1時間ほどすると、ようやく1人目の呪術師の元にたどり着いた。


「よおスサノ! また新入りか?」

「いや、彼らは別の大陸からやってきたんだ。食料問題とシムルグ討伐を引き受けてくれると言っているんだが…」

「ええ?!」


呪術師の男は驚いていた。


「アグ・テリーです。ここから東のユリウス大陸というところから来ました」


アグはすっと手を差し出した。

呪術師の男は流されるようにアグの手を握る。


「ブロンダだ…。外の大陸から使者がくるなんて初めてだ……」

「心配はいりません。必ず俺が皆さんを救います」


ベルはそわそわしながら、堂々たる様子のアグを見ている。


「それじゃ、防術師のところへ案内してくれますか、スサノさん」

「あ、うん。ブロンダとの話はもういいのかい」

「はい」


(トレースは終わったからな…)


アグたちはブロンダの家をあとにした。


「防術師はどこに?」

「ここからまた2時間ほど歩いたところなんだ…」

「わかりました。それじゃ…ちょっと待っててください」


アグは馬車と馬を作り出した。それを作るのに3分ほどかかった。


「き、君も呪術師だったのか?!」


スサノは驚いていたが、アグは顔をしかめていた。

スサノに運転をしてもらい、アグとベルは馬車に乗り込む。


「またトレースですか」

「ああ…だけど、乗り手は出せない。呪人を出せるのは優秀な才ある呪術師だけだ。ベーラさんに比べると大したものは作れないし、時間もかかる」

「ベーラさんは一瞬でぽんぽん出してましたもんね」

「あれは相当すごい技術だったってことだな…。まあでも当面呪術が使えるのに越したことはない」

「そうですね!」


そして3人は、数十分で防術師の住みかに到着した。

驚くことに、そこは城だった。


「お、お城ですか?!」

「メデラ様はこの街の守り神であるからな。もともと一国の姫様だった彼女は今や防空街中の女王としても崇められている」

「なるほど…」


そしてスサノはなんと、この国の騎士団長だという。

スサノはアグとベルを連れて城に入り、メデラの部屋のドアをトントンとノックした。


「入りますよ、メデラ様」

「ど、どうぞ!!」


中から聞こえたのはおどおどした様子の高い女の子の声だった。

ドアを開けると、茶髪の猫っ毛の女の子がちょこんと座っている。その目も猫目だったが、性格は大人しそうだ。

女王という雰囲気はあまりなかった。


「す、スサノさん! お疲れ様です!」

「メデラ様もお疲れ様でございます」


その少女こそが、防術師のメデラだった。

自己紹介を終えたあと、防術についてはあまり知らなかったので、トレース前に彼女から話を聞いた。


「防術は、見えないバリアを貼って攻撃を防ぐ術です。バリアは出し続けている間、体内のエネルギーを消費します」

「え? でも、この街を作ってもう4ヶ月くらいたっているんですよね?」

「そうです。その間、ずっと出し続けています。そろそろ限界かなとも…思っているんですけどね…」

「………」


(防術のエネルギー消費自体は少ないのか…? いや、あの攻撃を防ぐバリアを出し続けてるんだ…おそらく、この子の体内エネルギーが相当多いに違いない…)


「バリアが強力であるほど、また範囲が広いほど、エネルギー消費も激しいです」

「理屈通りという感じなんですね」

「はい! 防術は跳ね返し型と吸収形の2つがあります。跳ね返すのは膨大なエネルギーが必要なため、今の外に張っているのは吸収型です」

「なるほど…」

「跳ね返し防術は相手の力をより強力にしてカウンターができますが、そのバリアの反射した角度の方向にしか放出できません。避けられてしまえばそれまでです」

「…よくわかりました。ありがとうございます。今日までよく耐えてくれました。全国民の命は俺が保証します。あとはお任せください、女王陛下」

「異大陸の方々…本当に感謝します!」


アグは彼女の前でかがむと手を差し出した。彼女の手を握ると、手の甲にそっとキスをする。


(防術ゲットですね!!)

(相当使えそうだなこれ)


アグとベルはちらりと目を合わせては軽く頷いた。


そのあと、アグはメデラに全国民に食を提供すると伝えた。

メデラにその方法を伝えると信じられないという様子だったが、何とか納得してもらって、協力を得られることとなった。


「さてと」


アグはケビンをたくさん生み出し始める。その色は赤青黄色と様々だ。

色とりどりのケビンたちが、その街中に瞬速で飛びながら分散していく。


「ケ、ケビンがたくさんですぅ!!」

「さ〜、何体出せるかなあ…」

「な、何だこいつら!!」

「まあ!」


スサノもメデラも、びっくりしてケビンを見ている。


他の街の住民たち皆のところにも、ケビンはやってきた。


「ケビン、連れてけ」


アグが念じると、ケビンたちは一斉に光を放った。


「うわっ!」

「きゃ!」


スサノはその光にまたたく間に吸い込まれた。その近くにいたベルもついでに異空間に飛ばされる。


アグもそのあとその異空間にとんだ。


(なぜだか数が把握できる…。全部で300万とんで24人てところか…)


驚くことにケビンの作成に増減はない。エネルギーもほぼいらない。飛ばすのが3人に1匹だとしても、100万匹は出せたということだろう。まだまだいくらでも出せそうといった感じだ。


ケビンは一瞬にして300万人以上もの人間を、異空間に集めた。


「なんだここは?!」

「ど、どうなってんだ?!」

「助けて! 誰かぁ!!」


飛ばされた人間たちは皆混乱している。あまりにも数が多いので100人ごとに部屋を分けた。


(部屋多……。というかまじで四次元空間……把握できるのが逆にすご…)


「皆さん突然すみません。危害は一切くわえませんので安心してください」


アグの声は部屋中に聞こえていた。

全ての部屋を周るのは難しかったので、ププの要領で部屋の壁に映像として自分の部屋を流した。

ちなみにベルとメデラはアグと同じ部屋にいた。


「誰だお前!!」

「ふざけんな! こっから出せ!!」

「おい! メデラ様がいるぞ!」

「本当だ!! メデラ様!」

「メデラ様に何をする気だ!!」


(アグさん…大丈夫ですかねこれ…)


ベルは心配そうに彼を見ているが、彼に迷いはない。

すると、メデラが話し始めた。


「こ、この方は私の友人アグ・テリーです。今から国民の皆様の空腹を満たすために私がお願いしました! 皆様、感謝の気持ちを胸に、たくさん召し上がってくださいね!」


すると、全部屋に豪華なご馳走が現れる。


「な、なんだこれは!!」

「ご、ご馳走……」

「待て待て、毒かもしれんぞ」

「お腹空いたよぉ〜!!」


メデラの前にもご馳走が現れた。

するとメデラはニッコリと笑って、いただきますと言うと、それを食べ始めた。


「うん!! とっても美味しいですよ!! ぜひみなさんも!!」


それを見た国民たちは皆、空腹にも耐えられず、目の前のごちそうを食べ始めた。


「うまいい!!!」

「久しぶりにこんなご馳走見たよ!!」

「うおー! 美味すぎるぅ!!」

「美味しいねお母さん!!」

「ああ、いっぱいお食べ! メデラ様に感謝を!!」


アグはその様子を把握しながら、安心したように椅子に腰掛けた。

最後にアグは言った。


「今から2時間、その部屋にいてください。それがここから出る条件です」

(最も、他の部屋には皆行けないからな。自ずとクリアするよ)


ちなみにトイレは各部屋に5つほど設置した。必要なものがあったら助けを求められる呼び出しボタンも完備した。


皆、満腹になるまで、無限に現れるご馳走を頬張った。


「ありがとうございます! アグさん!」

「いえ、大したことは…」

「何をおっしゃるんですか! この防空街中の国民たちの飢餓を救ったのです! あなたは英雄です!」


メデラはアグに何度も頭を下げてお礼を言った。


こうして国民の空腹問題は解決した。

アグにとっても空間束縛の上限を知るいい実験にもなった。


あとはシムルグを、倒すだけだ。



















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