ファリスブルム国到着
「誰もいないな」
ベーラ一行は東の大陸アマリアに到着した。
ゼクサスたちが上陸した場所よりもそれは北の海岸だった。
「はぁ〜!! ひっさしぶりの陸だな〜!」
レインはぐーんと両腕を伸ばした。
2ヶ月余りの航海を終えた5人は一安堵だ。
ここからは大陸を東に進む。地図を見る限り船で回り込むよりはそちらの方が明らかに早いのだ。
荷物は5人で分担して背負った。ほんの僅かに余った食料と研究材料一式、最小限の着替えなんかを持っていき、船は消した。
「地図にはなんて?」
「このまま行けば大きな国があるようだ」
「っし! それじゃあさっさと行くか」
ベーラは馬車を作り出す。
「5人乗るには狭くねえか」
「そう言われても。大きくすると乗り手が出せないぞ」
「呪人を出すのは大変なんでしたっけ…」
すると、「僕が馬に乗りますよ」とソヴァンが言った。
「あんた運転できんの?」
「任せてください!」
と、颯爽と馬に跨った。
4人はソヴァンに御者を任せて馬車に乗り込んだ。
そうしてたどり着いた国は、ファリスブルムという大きな国だった。国の真ん中にはセントラガイト城にも劣らない大きな城がそびえ立つ。
城下町は賑わい、出店からは嗅いだこともないようなスパイスの匂いが漂っていた。気候は少し暑いくらいだ。
その衣服はたくさんの柄があしらわれており、きらびやかな刺繍があって色鮮やかだった。ガーグラと呼ばれるロングスカートが人気らしく、女性は皆それを履いている。男性も派手やかな洋装で、下はサルエルパンツのような形だ。
明らかに違う装いの5人は、その街ではかなり目立っていた。
街の人たちは5人をじろじろと見ている。
「あ、明らかに浮いてますよ…」
「ふむ」
5人は路地裏に入って人目を避けた。
「まあこんな感じだろうか」
と言って、ベーラはその街の住人が着ているのと似たような衣服を作り出した。
「さすがですベーラさん!!」
「これ着るんですか…」
「文句言うなハルク!」
「呪術ってほんとすごい…!」
ベーラはついでに簡易更衣室っぽいものを作り出して、皆で順番に着替えた。
「なかなかいいじゃないか」
「メリさん似合ってますよ!」
「あんたも割と似合うわね」
レインはハルクを見ると、ゲラゲラと笑っていた。
柄物のトップスに黒に金色のラインの入ったサルエルパンツを履いたハルクは、レインを睨みつけた。
「何で笑ってるんですか」
「いや、あまりにも似合わねえから!!」
「知りませんよ…」
いつも白衣を着ている彼にしては相当珍しい装いだった。
「というか、ベーラが衣服出せるなら持ってなくてよくね?」
「そうですね! かさばるから捨てちゃいますか?」
「いいけど私に何かあったらお前ら服なくなるぞ」
「え……」
まあ荷物はそのままにして、5人はその国を進み始めた。
途中で食料を調達しようと店に寄ると、問題が発生した。
「なんですか? その硬貨は」
「……」
5人は顔を引きつらせた。
沈黙したまま店を出ると、顔を見合わせる。
「嘘だろ?! 一文無しってことか?!」
「……ここは異大陸…ユリウス大陸の硬貨は使えないようだ」
「ええー! どうするんですか?! 食料もうなくなりますよ?!」
「言葉は通じるのに、盲点でしたね」
「しゃあねえ! 動物狩って食うか!」
「いやいや! この地図見てくださいよレインさん! 大陸超えるのに最短でも3ヶ月はかかりますよ! そんな生活無理ですよ!」
「何かお金を稼ぐ方法はないんでしょうか…」
仕方なく街をうろついていると、ハブのような店を見つけた。中には怖そうな人間たちが揃って酒を飲んでいる様子が伺える。
「ちょっと待ってろ」
「え?! 何かここやばそうですよ?」
「いいから、そこで待ってろよ」
レインは1人、その店の中に入っていった。
「私も見てくるよ」
「べ、ベーラさん!」
レインを追うように、ベーラも中に入っていった。
レインはカウンターで酒を飲んでいるガラの悪い奴らに絡んでいく。
「よぉ。聞きてえことがあんだけど」
「何だ? てめぇ」
「見ねえ顔だな。異国もんか?」
レインは偉そうに彼らの隣の椅子に座った。
「金に困ってんだよ。さっさと稼げる方法知らねえか?」
ハゲの目つきの悪い男が答える。
「兄ちゃん、人に物聞く態度じゃねえな」
「いいからさっさと教えろよ」
レインはその右手を獣化させ、鋭く尖った爪をハゲの喉元に突き立てる。
「ひっ!」
「な、何だ?! 人間じゃねえのか?!」
「死にたくねえなら教えろよ」
ハゲが冷や汗をかいていると、ベーラがやって来た。
「おい、一般人を脅迫するなよ」
「誰だおメェ!」
「今度はババアがきやがったぞ!」
男がそう言ったので、ベーラは眉をピクつかせた。
「誰がクソババアだ」
ベーラは男たちの顎に土の柱をぶつけると、全員その衝撃でカウンターの椅子から転げて気絶した。
レインは呆れた様子でベーラを見ていた。
「一般人を襲うなよ…てか、クソとは言ってねえだろ」
「すまん。いつもの癖で」
すると、2人のところに別の男がやってきた。
「やあ! 君たち見慣れない顔だけど、強いんだね! どこのギルド?」
「…ギルド?」
「え? ギルドに入ってないの?」
「そもそも何だよギルドって」
男はレインたちを見て、驚いたような顔をしていた。
「この大陸でギルドを知らない奴なんているんだ…」
「悪いが、私達は外の大陸から来たんだ」
「ええ?! ど、どうやって?」
「船で来たに決まってんだろ」
「ふ、ふね…? ふねって何なんだい?」
「……」
外ではハルク、メリ、ソヴァンの3人が待機していた。
「レインさんたち…遅いですね」
「ソヴァン、あんた様子見てきなさいよ」
「わ、わかりました……」
ソヴァンはその怖そうな雰囲気の店の様子を、外からちらっと伺う。
(怖そうな人がいっぱい……いや、でもメリさんに言われたら仕方な…)
「よ! 待たせたな!」
「うわああ!!」
レインとベーラが店から出てきたところだった。
「何だレインさんか……」
「んあ?」
「遅くなったが話を聞いてきた」
ベーラは3枚の紙を3人に見せた。
メリたちはその紙を覗き込んだ。
「なんですか? これ」
「依頼を適当に受けてきた。こなせば報酬金がもらえるらしい」
「なるほど…」
レインとベーラは話を始めた。
ここアマリア大陸にはギルドというチームを組んだ者たちが存在する。
ハブにはたくさんのギルド宛の依頼が張り出されていて、店の主人が依頼主との間をとりもってくれる。依頼者の依頼をこなすと、記載されている報酬金がもらえるという。
依頼はギルドに入っていないと受けることができない。
話を聞いた男は、レインとベーラにぜひ自分たちのギルドに入ってほしいと言っていたが、それは断った。
「え? でもギルドに入らないと依頼が受けられないんですよね?」
「そうだ。だから作ったんだ、新しく」
「ギルドをですか?!」
「そ! リーダーはベーラ。俺たち5人はギルドになった!」
どん!とレインは腕を組むと、3人を見据えた。
「私達はギルド《セントラガイト》だ」
「それは…ギルドの名前ですか…?」
「そうだ」
「母国愛強すぎかよ」
「いや、他に思いつかなかったし。何でもいいだろもう」
「まあいいけどさ…」
「それで、引き受けたのがこの依頼ですか?」
依頼は3つ。
北の入江に住む凶悪な角の生えた魔物の討伐。
ファリスブルム城内研究所の臨時補佐。
南東のラグルの洞窟内での珍素材捜索。
「3つも受けたんですか?」
「分担して派遣に行った方が効率がいいだろ」
「旅は長え。金はある程度集めといたほうがいいからな」
「どうやって分けますか?」
「ハルクは研究補佐に行ってくれるかなと思って」
「いいですよ。報酬かなりいいみたいですしね。でも7日間泊まり込みってなってますけど」
「その間に私たちも金を集めておくよ。終わったらアジトに戻ってくれ」
「了解です」
「メリさん! 僕と一緒に洞窟行きましょう!」
「は?! 何で私があんたと」
ソヴァンに腕を掴まれたので、メリはうざそうに彼を睨む。
「まあでも、素材はメリが一番詳しいだろ」
「そうかもしれないですけど…」
「まあいいじゃねえか。行ってやれよ」
ソヴァンはにこにこしながらメリを見ている。
「…わかったわよ。行けばいいんでしょ!」
「やったー!」
「じゃあ私とレインで魔物討伐を」
「てか何だよ魔物って。魔族じゃねえの?」
「そうかもしれないと思ってな。行く価値はありそうだろ」
「バイコーンだけは勘弁してほしいぜ」
そんなこんなで、ギルドを作ったベーラ一行は、1週間かけて資金集めに取り掛かった。
国の外にこっそり地下に続くアジトを作って、寝床を確保する。
メリたちには依頼の受け方を説明し、素材捜索が終わり次第、他の依頼をこなすようにと伝えた。
必要ならばメリたちが使えるようにと、エントランスホールに馬車を用意した。
2台あった無線はベーラとメリがそれぞれ所持した。
「おいソヴァン、1週間でどっちがたくさん金稼げるか勝負しようぜ」
「いいですけど、僕とメリさんが組んだら最強ですからね!」
「どこがよ! 新人丸だしチームじゃないのよ! ていうか、レインさんとベーラさんは部隊No.1のコンビなんだから!」
「え! そうなんですか? まあでも負けませんよ!」
ハルクは依頼の紙を持ってさっさと城に行ってしまった。
「何も言わずに行きやがった!!」
「メリさん! 早く行きましょう!」
「う、うん…」
「俺らも行くぞ!」
「ああ。それじゃあまたな、メリ、ソヴァン」
レインとベーラは北の入江、メリとソヴァンは南東のラグルの洞窟にそれぞれ向かっていった。




