集う魔族たち
ゼクサスは1人、その世界を旅していた。
彼のこげ茶色の髪は少し伸びて、肩をこえていた。
彼の新しい身体はまだ15歳くらいの少年だった。
本来成人しない身体に適合は難しいと言われていた。
だからヌゥの時は、彼女が20歳になるまで待っていた。
しかしゼクサスは、この少年の身体が自分に適合することを確信していた。
少年の心は既にゼクサスに乗っ取られていた。
今この子の身体には、2つの意思がある。
ゼクサスと、リアナだ。
身体を動かす権限はゼクサスにあった。
しかしリアナは、ゼクサスに話しかけることができた。
2人は脳内で会話することができる。
【どこに向かってるの】
「友達に会いに」
【あの悪魔以外にも友達がいるんだね】
「カルベラのことかい」
【そうだよ。ヌゥをやたらと欲しがっていたよね】
「あいつは魔王直系の魔族だ。だからあいつの愛は歪んでるんだよ。愛を知ろうとしたって無駄なのに。私たちの血が、誰かを愛するなんてこと、許しはしない。だからもう、俺はあいつを助けはしない。あいつにはもう寿命が数十年しかないからね。そのままあの子と2人で、仲良く幸せに死ねばいい」
リアナは悲しかった。
【どうして魔族は、誰かを愛しちゃいけないの?】
「魔王がそれを、望まないから。魔王は誰も愛せない。愛が嫌いなんだ。この世界で1番ね」
【どうして……?】
「無駄だからだよ。魔王が生んだ魔族は皆、本当の愛を知らない。知る必要もない。力が欲しいなら、憎悪がある。子孫が欲しいなら、1人で残せる。要らないんだ、愛なんて。私たちには」
【………】
ゼクサスは小舟に乗っていた。舟は何もせずとも自然とその場所に向かっていた。
カルベラの要塞から、更に東に進んだところにやってきていた。
大人2人がやっとほどの小さな小舟で、海を渡る。
背中にはデスサイズとログニス、懐にはケリオンを所持している。
それ以外には、何も持っていない。
【友達って、一体誰なの?】
「シーサーペント」
その何もない海の真ん中で、ゼクサスは立ち止まる。
すると、ゴゴゴゴと大きな渦が巻かれて、中から巨大な大海蛇が姿を現した。
その顔は蛇というよりは竜のよう。たくさんの牙が垣間見える。
その真っ白な身体の背中には棘ついたヒレがついている。
石のような黄色い瞳で、シーサーペントはゼクサスを見つめた。
【ゼクサス……】
「久しぶりだね、ヴェーゼル」
懐かしの友を前にしようと、ゼクサスの表情は変わらなかった。
【…待ってたぜ、お前に会えるのを】
「私もだよ、ヴェーゼル」
【今度こそ人間を殺すんだろう】
「そうさ。君なら力を貸してくれるだろう」
【もちろんだ。大事な友の頼みだからなぁ!】
「君ならそう言ってくれると思ったよ」
ゼクサスは口元を緩ませた。
ヴェーゼルもまた、笑っているようだった。
【あの戦争の雪辱を晴らすいい機会だぜ】
「ふふ…」
【他にも誰か、連れてきたのか?】
「まあね。カルベラの鏡で何体かコピーしたはいいけれど、世界中に散らばってしまったようだ」
【そうか。そいつらを探しに行くんだろ?】
「まあ当面はね」
【わかったよ。とりあえず、乗りな】
ゼクサスは、シーサーペントのヴェーゼルの頭の上に乗った。
ヴェーゼルは海を優雅に泳ぎ、東へと進んでいく。
「この先の大陸にデスイーターがいるよ」
【あのうるさいガイコツか。俺はあいつらは、あんまり好きじゃねえんだけどな】
「まあそう言うな」
ヴェーゼルは3日ほど海を泳ぎ、その大陸にたどり着いた。
大陸に着くと、ヴェーゼルはゼクサスを陸におろした。
「君も一緒に来るだろう」
【行きたいのは山々だけど、無理だ。俺は海の中でしか生きられないぜ】
「大丈夫。いいものがあるからさ」
そう言って、ゼクサスはヴェーゼルに薬を飲ませた。
【ゔっ……!!】
ヴェーゼルは苦しんだあと、その姿を人間に変えた。
長い薄青白い髪に、黄色の瞳。凛々しい顔立ちで、背は高かった。
「ゔっ、おえっ、な、なんだこれ……」
「人間が作った禁断の薬だよ。それを飲むと人間になることができるのさ。ただし寿命が人間と同じになる」
「なっ、なんだと?! ゼクサスお前っ、何を勝手な…」
「でも安心して」
そう言うと、ゼクサスは自分の中の核の1つをヴェーゼルに入れた。
「私はね、3つ核を持ってる。1つはノア、もう1つはリアナ、そして最後にこの身体の少年がもともと持っていた核。君には特別に少年の核をあげる。君は親友だからね」
ヴェーゼルはしゃがみこんで、苦しんでいる。
「ゔっ…ゔぐっ…!! ハァ…ハァ…ハァ…」
「妖精を捕まえて実験したんだけどさ、魔族は100%呪人の核と適合するみたいなんだよね」
「な…何を…言ってんだ……さっきから……」
「これでヴェーゼルはシャドウだ。私の血を飲めば、歳をとらない。寿命によって死ぬことはなくなるよ」
「……」
(ぅぅっ…く、苦しい……!!)
自分の体内に何かが入ってくる感覚。
これが核だというのか…。
ヴェーゼルはゼクサスを見上げた。
「っ!!!」
ゼクサスの冷たい目を見たヴェーゼルは、恐怖を覚えた。
ゼクサスの憎悪に、支配されそうな感覚を覚える。
ゼクサスは自分の右腕を、ヴェーゼルに差し出した。
「飲んで、ヴェーゼル」
「………ああ…」
ヴェーゼルはゼクサスの腕に噛み付くと、その血を飲んだ。
(っ!!! な、なんだこれ……力が……みなぎる………)
ヴェーゼルは血を飲み終わると、目を見開いて、ゼクサスと目を合わせた。
(これだ……俺が魅せられたのは、この力だ……)
ヴェーゼルは敬愛の意を示すような眼差しでゼクサスを見た。
それを見たゼクサスは、ニヤリと笑った。
「それじゃあ行こう、ヴェーゼル」
「わかったよ……どこまでも、ついていくよ…お前に……」
ゼクサスたちが着いたその大陸の海岸には、誰もいなかった。
人工的な物は何もなく、自然が広がる。
ゼクサスとヴェーゼルは、その平原を歩いていく。
ヴェーゼルの歩きはどこかぎこちなかった。
「難しいな…2本の足で歩くってのは……」
「君は海の大蛇だからね。ゆっくりでいいよ。急いでないからさ」
シーサーペントのヴェーゼルは、平原を歩き続けるうちに、だんだん人間の身体にも慣れてきたようだ。
しばらく進んで平原を越えると、人間たちの墓場が見えてきた。
「あそこだね」
「はぁ…俺は気乗りしねえよ」
「大丈夫。私に背くようならすぐに殺すからさ」
ギャハハハ…と濁ったような笑い声が聞こえ始めた。
その墓場に住んでいるのは、1匹のデスイーターだ。
デスイーターは死んだ者の魂を食べて生きる魔族だ。
その姿はガイコツのように骨しかなく、黒い大きなローブを身をまとっている。
歯をガタガタとかみならして、薄気味悪く笑っている。
デスイーターはゼクサスの姿を見つけると、飛んでこちらにやって来る。
「ギャハハハハッ! お前がゼクサスかァァ! 待ってたよ! この俺様を呼んでくれるなんてさァァ!」
「よくわかったね、私だと」
「当たり前さァ! 血の匂いがぷんぷんするもんなァ! たぎってるよォ、魔王様の血流がねェ!」
デスイーターは濁ったような声でゼクサスに言った。
「名前はなんだデスイーター」
「俺様はグリダ。ギャハハハ! それにしても本当にいい匂いだァ! 魔王様を思い出すよ!!」
ゲラゲラ笑っている彼をヴェーゼルは顔をしかめながら見ていた。
「で、その隣の人間は誰だい?」
「シーサーペントのヴェーゼルだ」
するとグリダは驚いたようにヴェーゼルを見た。
「シーサーペント? 人間の姿になれるのかい?」
「特別な薬を使ったのさ」
「ほぉォ?」
グリダはじろじろとヴェーゼルを見ていた。
「……」
ヴェーゼルは明らかに嫌そうにその下品なガイコツを見ていたが、グリダは全く気づいていなかった。
「まあイィよ。それで? 戦争するんだろぉ??」
「そうさ。人間を滅ぼすんだよ。君も私の仲間になって、手伝ってくれるだろう?」
「ギャハハハハッ! ああイィとも。そのためにお前が来るのを待ってたんだ!!」
グリダは迷いなくゼクサスを受け入れた。
グリダの餌は死んだ人間の魂だ。
ヴェーゼルはこのデスイーターが反対してゼクサスに殺されたら良かったのにと思っていたが、それは叶わなかった。
「じゃあ手始めに、この大陸の人間を殺すかィ? 俺様もたまに街に出て人間を殺してはよく食ってるよ」
「それもいいけど、先にユニコーンのところに行ってもいいかい」
ユニコーンは、頭に1本の角が生えた馬の姿の魔族だ。
「少し歩くけど、行こうか」
「俺はどこへでも、ついていくよ」
「ギャハハハ! 何でもぃィよ! この生活にも退屈していたからさァ!」
そして3人は、魔族ユニコーンのところへと足を進めた。




