甲板飲み
「うんま! この魚!」
「見た目よりはいけますね」
「美味しいですね!」
甲板で魚焼き網をベーラに作ってもらって、レインとハルクの釣った魚を焼いて食べていた。他にもバーベキューセットを用意して、期限の早そうな野菜な肉なんかも焼いたりなんかして、5人は甲板で軽い宴会を開いていた。
男たちは魚の焼き網を取り囲んで、お酒を飲みながら楽しそうに話をしている。
メリはぷぅーっと口を尖らせながら、その手にご飯をよそったまま手を付けず、デッキチェアに座ったまま彼らを見ている。隣にはベーラがいた。
「メリも飲んでもいいんだぞ。船の同行は私が見張っているから」
とベーラは言った。
「いいです! 私も飲みません!」
「そうか。そういやソヴァンはお前に寄ってこないな」
メリはむぅっとした表情で、ソヴァンを睨んでいた。
「何かあったのか」
「何にもないですよ! また告白してきたから、振ってやったんです! そうしたら諦めたんですよ!」
「そうなのか」
ベーラは山盛りのご飯を食べていた。
(何なのよもう! 急に冷めたように私から離れちゃって! 所詮その程度だってことね。まあ別に、元々好きじゃないし。せいせいした!)
とは言いながらも、そばにいないといないで何だか物寂しい気持ちになる。自分がわがままなことを言っているのは、わかっているのだけれど。
ソヴァンは楽しそうに、レインとハルクと話をしている。
レインはちらりとメリを見ると、ぼそっと呟いた。
「おいソヴァン、メリが睨んでんぞ」
「ほんとですか? やった〜」
ソヴァンは酒に酔ってほんの少し顔を赤くしながら、嬉しそうにしていた。
「何で喜んでるんですか」
「押しても駄目なんでちょっと引いてみてるんですよ! 効果あるかな〜」
「お前もよくやるなぁ〜」
レインはもはや面白そうにこの2人を見守っていた。
「そういやもう、ハルクにもどもり取れたんだ」
「はい。この前たくさんお話させてもらって、そうしたら段々慣れてきて…。ベーラさんももう、大丈夫です」
「そっか。良かったな!」
ハルクは酒瓶を持ってくると、ソヴァンに注いだ。
「ありがとうございますハルクさん!」
「応援してますよ。頑張ってください」
ソヴァンはゴクゴクとお酒を飲み干した。
「美味しいです!」
「よっし俺も俺も! ついでくれ〜!」
「飲みすぎじゃないですか?」
「いいんだよ今日くらい!」
「ハルクさんも飲みましょう!」
「…まあいいでしょう。たまには」
3人は酒瓶を次々に開けて、盛り上がってる様子だ。
「なんなのよ盛り上がっちゃって」
メリはつまらなそうに彼らを見ている。
「だからメリも飲んだらいいじゃないか。ほら」
と言って、ベーラはメリに酒瓶を渡した。
「〜〜!!」
メリはそれを受け取ると、観念してぐびぐび飲んだ。
「いーい飲みっぷりだ」
ベーラは無表情のままメリを煽った。
メリはそのまま1人飲み続け、あっという間に顔を真っ赤にしていた。
男たちも結構飲んだようで、案の定この中で1番弱いハルクはもう潰れる寸前だ。
「ぅぅ〜」
「はい、お前の負け〜!」
「勝負なんて…してませんけど……」
ハルクはくらっとして、レインにもたれかかった。
「ハルクさん〜あんまり強くないんですねぇ!」
「お前も相当酔ってんじゃねえか!」
「僕はまだ行けますよ! レインさんには負けません」
「何言ってんだ、そんなべろべろで」
ソヴァンは嬉しかった。
もう過去の痛みなんて、思い出せないくらい、今が好き。
どもりもなくなって、大好きな仲間と一緒にお酒を飲める。
片思いだけど、好きな子ができた。
それだけでもう、僕は幸せだ。
「レイン〜」
「なぁ〜にもう!! 気持ち悪いやつだな!!」
ハルクはニヤつきながらレインに抱きついた。
(こいつ酔っ払うといつもこれだよ…)
「ハルクさんってレインさんのこと好きなんですか?」
「いや、嫌いです」
「おい!!! 何やねん!!」
そう言いながらも、ハルクはレインを離さなかった。
「お前が好きなのはマルティナだろ」
「そうなんですかね……わかんないです……」
「え? マルティナって誰ですか?」
「ラミュウザへの紹介状書いてくれた女いただろ。あいつはハルクの、元カノなんだってさ」
「ハルクさん! この前好きな人いないって言ってたのに! 僕に嘘ついたんですか?」
「うーん……わかんないです……」
「駄目だこりゃ」
「ハルクさん酔ったら可愛いですね」
「可愛くねえよ! 調子がいいんだこいつは!」
「ぅう〜……くー」
「寝やがった…」
レインはハルクを背負うと、部屋に寝かしてくると言って船室に行ってしまった。
「行っちゃった……」
仕方なくソヴァンは、1人残った魚を食べていた。
「メリ」
「何ですかぁ?! ベーラさん!!」
「……」
メリは明らかに悪酔いしている。ベーラはいつも先に潰れるので知らなかった。メリもまた、酒癖が悪いということを。
「ソヴァン1人になったぞ。行ってくれば」
「えー?! んもう! わかったわよっ!」
「……」
メリはふらふらしながら立ち上がった。
「海にだけは落ちるなよ……」
「わかってるわよ〜!」
メリはベーラにさえも悪態ついて、ズカズカとソヴァンのところへ行った。
ソヴァンもそれに気づいて、メリの方を振り向いた。
(うわ! やった! メリさんから来てくれた…! セイバスの作戦は本当どれも効くな〜! いや、でも様子が変…あれ……めっちゃ怒ってる……ような……)
「ソ〜ヴァン〜!!!」
「えっ!!」
メリは顔を引きつらせてソヴァンを睨んでいる。
「な、何で怒ってるんですか…ね……」
「んんん〜!!!」
メリは明らかに酔っていて、足がから回った。
「ひゃっ!」
「ええっ」
メリはソヴァンに向かって倒れ込んだ。ソヴァンも酔っていたのでしっかりとは支えられなくて、そのまま後ろに倒れた。
「大丈夫ですか…」
メリはソヴァンに覆いかぶさったまま、彼を睨んだ。
「あんたのことなんて好きじゃないの!!!」
「は、はい……知ってます。すみません……」
「でもそばにいなくなったら何かちょっと寂しいの!!!」
「っ!!!」
ソヴァンは心臓がバクついているのを感じた。お酒のせいだけではなさそうだ。
(うっそぉ…! 嬉しすぎ…)
「ごめんね…ソヴァン…」
「え…何で……?」
「私まだ引きずってるの……それなのに、あんたに甘えてる…。だからごめんね……ごめん……」
「……」
メリさんは…素直な人だ……
だから僕は…あなたが好き……
「甘えていいのに…」
「駄目よ…。そんなわがまま、許されないもの…」
「いいじゃないですか…。だって、僕がいいと、言っているのに…」
「でも駄目…。ソヴァンを傷つけるだけだもの…」
メリさんは辛そうに僕を見下ろしていた。
身体は酔っていて、彼女にまたキスでもしたいと思ったけれど、彼女の気持ちをくむとさすがにそれは出来なかった。
「メリさん…僕は……傷つかないです」
「そんなの嘘よ…じゃあ何でさっき、どっか行っちゃったの…」
「…メリさんの気を…引こうと思って…」
「何それ…バカじゃないの…」
「すみません……」
メリは立ち上がった。ソヴァンもゆっくりと身体を起こした。
「バカ…変態…ストーカー……」
「すみません……」
「だけどあんたのこと…嫌いじゃないから…」
メリはそのままふらっと意識を失った。
「あ……」
ソヴァンはメリの身体を支えた。
「あっれー! メリも知らねえ間に潰れちゃってんじゃん」
「レインさん」
ハルクを部屋に寝かしてレインが戻ってきたところだった。
「ったく、日付も変わってねえってのに」
「レインさん…僕が朝まで付き合いますよ」
「おお! いいねぇ! じゃあメリを寝かせてこいよ。寒くなってきたし、部屋飲みにしようぜ! ベーラももう部屋に戻ってったよ」
「はい!」
僕はそのあとレインさんの部屋で朝まで飲んだ。
レインさんの昔話を聞かせてもらったり、僕の昔話も聞いてもらった。
前よりも、彼と仲良くなれた気がする。
そして僕たちは、それから何日も航海を続けて、東の大陸にたどり着いた。




