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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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甲板飲み

「うんま! この魚!」

「見た目よりはいけますね」

「美味しいですね!」


甲板で魚焼き網をベーラに作ってもらって、レインとハルクの釣った魚を焼いて食べていた。他にもバーベキューセットを用意して、期限の早そうな野菜な肉なんかも焼いたりなんかして、5人は甲板で軽い宴会を開いていた。


男たちは魚の焼き網を取り囲んで、お酒を飲みながら楽しそうに話をしている。


メリはぷぅーっと口を尖らせながら、その手にご飯をよそったまま手を付けず、デッキチェアに座ったまま彼らを見ている。隣にはベーラがいた。


「メリも飲んでもいいんだぞ。船の同行は私が見張っているから」


とベーラは言った。


「いいです! 私も飲みません!」

「そうか。そういやソヴァンはお前に寄ってこないな」


メリはむぅっとした表情で、ソヴァンを睨んでいた。


「何かあったのか」

「何にもないですよ! また告白してきたから、振ってやったんです! そうしたら諦めたんですよ!」

「そうなのか」


ベーラは山盛りのご飯を食べていた。


(何なのよもう! 急に冷めたように私から離れちゃって! 所詮その程度だってことね。まあ別に、元々好きじゃないし。せいせいした!)


とは言いながらも、そばにいないといないで何だか物寂しい気持ちになる。自分がわがままなことを言っているのは、わかっているのだけれど。


ソヴァンは楽しそうに、レインとハルクと話をしている。

レインはちらりとメリを見ると、ぼそっと呟いた。


「おいソヴァン、メリが睨んでんぞ」

「ほんとですか? やった〜」


ソヴァンは酒に酔ってほんの少し顔を赤くしながら、嬉しそうにしていた。


「何で喜んでるんですか」

「押しても駄目なんでちょっと引いてみてるんですよ! 効果あるかな〜」

「お前もよくやるなぁ〜」


レインはもはや面白そうにこの2人を見守っていた。


「そういやもう、ハルクにもどもり取れたんだ」

「はい。この前たくさんお話させてもらって、そうしたら段々慣れてきて…。ベーラさんももう、大丈夫です」

「そっか。良かったな!」


ハルクは酒瓶を持ってくると、ソヴァンに注いだ。


「ありがとうございますハルクさん!」

「応援してますよ。頑張ってください」


ソヴァンはゴクゴクとお酒を飲み干した。


「美味しいです!」

「よっし俺も俺も! ついでくれ〜!」

「飲みすぎじゃないですか?」

「いいんだよ今日くらい!」

「ハルクさんも飲みましょう!」

「…まあいいでしょう。たまには」


3人は酒瓶を次々に開けて、盛り上がってる様子だ。


「なんなのよ盛り上がっちゃって」


メリはつまらなそうに彼らを見ている。


「だからメリも飲んだらいいじゃないか。ほら」


と言って、ベーラはメリに酒瓶を渡した。


「〜〜!!」


メリはそれを受け取ると、観念してぐびぐび飲んだ。


「いーい飲みっぷりだ」


ベーラは無表情のままメリを煽った。


メリはそのまま1人飲み続け、あっという間に顔を真っ赤にしていた。


男たちも結構飲んだようで、案の定この中で1番弱いハルクはもう潰れる寸前だ。


「ぅぅ〜」

「はい、お前の負け〜!」

「勝負なんて…してませんけど……」


ハルクはくらっとして、レインにもたれかかった。


「ハルクさん〜あんまり強くないんですねぇ!」

「お前も相当酔ってんじゃねえか!」

「僕はまだ行けますよ! レインさんには負けません」

「何言ってんだ、そんなべろべろで」


ソヴァンは嬉しかった。


もう過去の痛みなんて、思い出せないくらい、今が好き。


どもりもなくなって、大好きな仲間と一緒にお酒を飲める。


片思いだけど、好きな子ができた。


それだけでもう、僕は幸せだ。


「レイン〜」

「なぁ〜にもう!! 気持ち悪いやつだな!!」


ハルクはニヤつきながらレインに抱きついた。


(こいつ酔っ払うといつもこれだよ…)


「ハルクさんってレインさんのこと好きなんですか?」

「いや、嫌いです」

「おい!!! 何やねん!!」


そう言いながらも、ハルクはレインを離さなかった。


「お前が好きなのはマルティナだろ」

「そうなんですかね……わかんないです……」

「え? マルティナって誰ですか?」

「ラミュウザへの紹介状書いてくれた女いただろ。あいつはハルクの、元カノなんだってさ」

「ハルクさん! この前好きな人いないって言ってたのに! 僕に嘘ついたんですか?」

「うーん……わかんないです……」

「駄目だこりゃ」

「ハルクさん酔ったら可愛いですね」

「可愛くねえよ! 調子がいいんだこいつは!」

「ぅう〜……くー」

「寝やがった…」


レインはハルクを背負うと、部屋に寝かしてくると言って船室に行ってしまった。


「行っちゃった……」


仕方なくソヴァンは、1人残った魚を食べていた。


「メリ」

「何ですかぁ?! ベーラさん!!」

「……」


メリは明らかに悪酔いしている。ベーラはいつも先に潰れるので知らなかった。メリもまた、酒癖が悪いということを。


「ソヴァン1人になったぞ。行ってくれば」

「えー?! んもう! わかったわよっ!」

「……」


メリはふらふらしながら立ち上がった。


「海にだけは落ちるなよ……」

「わかってるわよ〜!」


メリはベーラにさえも悪態ついて、ズカズカとソヴァンのところへ行った。


ソヴァンもそれに気づいて、メリの方を振り向いた。


(うわ! やった! メリさんから来てくれた…! セイバスの作戦は本当どれも効くな〜! いや、でも様子が変…あれ……めっちゃ怒ってる……ような……)


「ソ〜ヴァン〜!!!」

「えっ!!」


メリは顔を引きつらせてソヴァンを睨んでいる。


「な、何で怒ってるんですか…ね……」

「んんん〜!!!」


メリは明らかに酔っていて、足がから回った。


「ひゃっ!」

「ええっ」


メリはソヴァンに向かって倒れ込んだ。ソヴァンも酔っていたのでしっかりとは支えられなくて、そのまま後ろに倒れた。


「大丈夫ですか…」


メリはソヴァンに覆いかぶさったまま、彼を睨んだ。


「あんたのことなんて好きじゃないの!!!」

「は、はい……知ってます。すみません……」

「でもそばにいなくなったら何かちょっと寂しいの!!!」

「っ!!!」


ソヴァンは心臓がバクついているのを感じた。お酒のせいだけではなさそうだ。


(うっそぉ…! 嬉しすぎ…)


「ごめんね…ソヴァン…」

「え…何で……?」

「私まだ引きずってるの……それなのに、あんたに甘えてる…。だからごめんね……ごめん……」

「……」


メリさんは…素直な人だ……

だから僕は…あなたが好き……


「甘えていいのに…」

「駄目よ…。そんなわがまま、許されないもの…」

「いいじゃないですか…。だって、僕がいいと、言っているのに…」

「でも駄目…。ソヴァンを傷つけるだけだもの…」


メリさんは辛そうに僕を見下ろしていた。

身体は酔っていて、彼女にまたキスでもしたいと思ったけれど、彼女の気持ちをくむとさすがにそれは出来なかった。


「メリさん…僕は……傷つかないです」

「そんなの嘘よ…じゃあ何でさっき、どっか行っちゃったの…」

「…メリさんの気を…引こうと思って…」

「何それ…バカじゃないの…」

「すみません……」


メリは立ち上がった。ソヴァンもゆっくりと身体を起こした。


「バカ…変態…ストーカー……」

「すみません……」

「だけどあんたのこと…嫌いじゃないから…」


メリはそのままふらっと意識を失った。


「あ……」


ソヴァンはメリの身体を支えた。


「あっれー! メリも知らねえ間に潰れちゃってんじゃん」

「レインさん」


ハルクを部屋に寝かしてレインが戻ってきたところだった。


「ったく、日付も変わってねえってのに」

「レインさん…僕が朝まで付き合いますよ」

「おお! いいねぇ! じゃあメリを寝かせてこいよ。寒くなってきたし、部屋飲みにしようぜ! ベーラももう部屋に戻ってったよ」

「はい!」


僕はそのあとレインさんの部屋で朝まで飲んだ。

レインさんの昔話を聞かせてもらったり、僕の昔話も聞いてもらった。


前よりも、彼と仲良くなれた気がする。


そして僕たちは、それから何日も航海を続けて、東の大陸にたどり着いた。

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