ベーラ隊出航
「よし、出航だ」
ベーラたちは2日かけて港にたどり着くと、前回のものよりも更に大きな客船を作り出して、乗り込んだ。
「でっっか!」
「す、す、すごい……こ、この前の…何倍も……お、大きい…」
「すごい! すごすぎますベーラさん!!」
「研究室、治療室、鍛冶場、道場を追加した。食堂、大浴場、皆の個室も完備だ」
「アジトじゃん!」
「それじゃ私は研究室に」
ハルクは海を一望すらせず、研究室に行ってしまった。
「おいおい! そんなに焦って研究するこたあねえだろ」
「やりたいことがたくさんあるんで」
「そうかよ…」
船に乗ったのはベーラ、レイン、ハルク、メリ、ソヴァンの5人だ。
(はぁ……随分少なくなっちまって……)
レインは部隊のメンバーの顔を見ながら、寂しく思いながらも、自分がベーラと一緒に皆を引っ張っていかなければいけないんだと、強い責任感に駆られていた。
「また勝手に動いてんぞ」
「国王が保持していたらしい自動運転装置を借りておいた」
「準備万全だな〜」
頼れる相棒を見ながら、心を強く持つ。
目的は1つだ。俺は、俺のできることをする。
「とりあえずこのまま東に真っ直ぐ突き進む。世界地図によると、2ヶ月ほどでアマリア大陸というところがあるらしい。そこで再び食料調達だ」
「なるほどね〜。反対側に行くまで何ヶ月かかるかね〜」
レインはデッキチェアにどしんと座ると、手を頭の後ろにやって空を見上げた。
「私、鍛冶場見てきていいですか?」
「ああ。1階の研究所の隣だ。2階が個室、3階がキッチン兼食堂、4階が道場と治療室、5階が大浴場、露天風呂つきだ」
ベーラはドヤ顔だった。
「おお! 露天風呂まで!」
「メリさん! 僕も一緒に行っていいですか?」
「ちょっと! ついてこないでよ!」
鍛冶場に向かうメリを追うようにソヴァンも行ってしまった。
甲板にはベーラとレインが残っている。
ベーラもレインの隣のデッキチェアに腰掛けて、空を見上げた。
太陽の日差しは心地よく2人に降り注ぐ。
「いい天気だな〜」
「そうだな」
レインは横目でベーラを見つめた。
「………」
すると、ベーラもちらりとレインを見た。
ほんの少しだけ見つめ合った後、2人は何も言わず、また空を見上げた。
「うわ〜すごいですね」
初めて見る鍛冶場に、ソヴァンは目を輝かせた。
「メリさんは鍛冶が出来るんですね。すごいなあ…」
「そんなに大したことないわよ。それに…」
メリは悲しそうな表情を浮かべる。
「この船には剣士はいないもの」
「メリさん…」
ソヴァンは腰に下げた自分の拳銃を見る。
「あんたもいらないし…」
「僕のために剣を打ってください!」
「は?」
「メリさんの剣、欲しいです!」
「あんた剣で戦えるの?」
「戦えません!」
「要らないじゃん!!」
メリはわけのわからない彼に対して突っ込みをいれる。
「でも戦えるようになります! これから!」
「あのねえ…そんな簡単に…」
「メリさんも訓練したいですよね? 相手します」
「んもう……」
メリは呆れて彼を見ている。
「銃の訓練はいいの?」
「こっちはもう極めてるんで!」
ソヴァンは拳銃を取り出すと、くるくると回してメリに銃口を見せた。
「ちょっと! 危ない危ない! こっち向けないでよ!!」
メリは笑って彼を見た。
ソヴァンも笑って、拳銃を腰にしまった。
「打ってくださいね、かっこいい長剣!」
「しょうがないわね…」
メリは鉄素材を見繕っていく。
ソヴァンは丸椅子に腰掛けて彼女を見ていた。
「ちょっと、そんなすぐにはできないわよ。ずっとここにいるの?!」
「メリさんのそばにいたいんで」
「もう…同じ船に乗ってるじゃない…ほんとストーカーなんだから」
メリが鉄を熱していると、トントンとドアをノックされた。
「は、はい!」
ソヴァンがドアを開けると、ハルクが立っている。
「ああ、ここにいましたか」
「あ、えっと……」
「ソヴァンさん、研究室まで来てもらっていいですか」
「は、はい……」
メリはソヴァンを連れて行くハルクをちらりと見た。
ハルクも一瞬メリを見ると、口を開いた。
「何作ってるんですか」
「ソヴァンの剣…ですけど…」
「…私にも打ってもらえませんか?」
「え…」
メリは驚いたようにハルクを見た。
「駄目ですか…?」
「いや、全然いいですけど…突剣でいいんですよね?」
「はい」
「わかりました! 任せてください」
「ありがとうございます」
ハルクはお礼を言って、ソヴァンを連れて鍛冶場を出ていった。
ソヴァンはそわそわしながらハルクについていく。
隣の研究所に入ると、うつむいた様子でハルクを見ていた。
「ソヴァンさん」
「は、はいっ!」
「拳銃を見せていただけませんか?」
「え…は、はい…どうぞ……」
ソヴァンはハルクに自分の拳銃を渡した。
「君たちがクラーケン退治に出ている頃、アグさんと話していたんですが、禁術解呪の薬をいれた弾丸を開発中なんです。これが試作なんですが」
ハルクは弾丸を取り出すと、ソヴァンの拳銃の弾を抜いて入れ替えた。
「フランジブルの9×16mm、ぴったりですね」
「あ、ありがとうございます…!」
ハルクは弾を元に戻して、彼に返した。
禁術解呪の弾も同様に彼に渡した。
「まだ5発しかありませんが…持っていてください」
「あ、あ、ありがとう…ございます」
ソヴァンはペコリとお辞儀をした。
「吃音症なんですか?」
と、ハルクは彼に尋ねる。
「え、は、はい…す、すみません……」
「謝ることではありませんよ。れっきとした病気なんですから」
「そ、そうですよね…で、でも…あんまり…し、知られていなくて…」
「そうですよね。大変ですよね」
「あ、で、でも…す、少しずつ…治って…い、いるんです…」
「メリさんとは普通に話していましたよね」
「は、はい…」
「好きなんですね」
ソヴァンはドキっとして、うんうんと頷いた。
「ハ、ハルクさんは…い、いないんですか…? す、す、好きな人は…」
「いませんよ」
「そ、そう…ですか…」
「幸せになってほしいって、思う人ならいるんですけどね」
「え…そ、それって、す、好きだからじゃ、な、ないんですか…?」
ハルクはふっと笑って、首を軽く横に振った。
「そうだ、拳銃の弾、他にも試作で作ろうと思ってるんですよ。何か案あります? 例えば煙弾とか、麻痺弾とか」
「つ、追加効果を…ふ、付加できるんですね」
「そうです」
「お、面白いですね…そ、そうだなぁ……」
ソヴァンは少しばかりハルクと話をした。
そのまま研究の話を聞いたりなんかもしたけれど、思ったよりも楽しかった。
 




