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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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憤慨

やっと話ができるようになったベーラは、レインにププの映像をみせた。リルフランスに着いてから、ヌゥが監禁されるところまでの一部始終を見たレインは、愕然とした。


「何だこれ……」

「うう……ひっく……ぅぅ……」


ベーラは再び泣き出した。

レインは喪失とした表情を浮かべる。


「私……これからどうしたら……」

「いや……落ち着け……とりあえず皆に話すしかない。これは……見せない方がいいか……」

「……ひっく……うん……そうだな……」

「…立てるか?」

「ああ……」


レインに支えられ、ベーラはゆっくりと立ち上がった。


「俺が話す。お前は黙って座ってりゃいい」

「すまない……」


ベーラは涙を拭いながら立ち上がった。


「ベーラ、お前のせいじゃねえんだ。そんなに落ち込むなよ」

「っく……すまない……わかってるよ……」

「行くぞ」

「ああ」


レインは皆を大広間に集めた。


「何ですか突然、皆を集めて…」


ベーラが泣いた後だということは、皆にもわかった。ベーラは1人うつむいて、何も話すことができない。


「……ベーラさん…?!」


それを見て、皆は神妙な面持ちでレインとベーラを見ていた。


「ヌゥとアシード、エクロザの遠征だが…」

「な、何かあったんですか?!」


アグは焦った様子で彼らに問う。


「結論から言うぜ。アシードとエクロザが死んだ」

「っ!!!」


皆は愕然とした表情を浮かべる。


「え…?」

「う、嘘でしょ……?!」


すると、アグは立ち上がって声を荒げる。


「ぬ、ヌゥは?!」

「ゼクサスとカルベラって奴に連れて行かれた。生きてはいるが、監禁されている」

「……?!?!」


アグは震えて、椅子にがくんと座り込んだ。


(アシードさんとエクロザさんが死んで……ヌゥが……監禁……?)


「精霊界で何があったか話す。とりあえず、落ち着いて聞け」


レインはププの情報を話し始めた。


皆それを聞いて、愕然とした。


大切な仲間が死んで、頼りにしていたエクロザまでも殺された。

ヌゥも捕まり、武器も全て奪われ、まさに絶望の状況だった。


「……ププはどうやってそれを伝えたんですか…?」


アグはぼそっと尋ねた。ベーラも顔を上げると、話す。


「ププが見てきた物を映像で映すことができる。それを見た」

「ベーラさんが?」

「レインもだ」

「見せてください。俺にも」


アグはまっすぐとベーラを見ている。


「…見ない方がいい。話した通りだ」

「見せてください」

「アグ…ベーラさんはあんたに気を遣って…」

「いいから見せろっっ!!!」


アグは怒った様子で立ち上がると、ベーラの胸ぐらを掴んだ。


ベーラは怯えた様子で彼を見た。


「おい! やめろ!!」


レインもすかさず割り込んで、ベーラからアグの手を引き離す。


「お前は見たんだろ! 俺にだって見る権利がある!」


アグはレインに向かって怒鳴りつけた。


「ヌ、ヌゥが拷問受けてんだぞ…そんなの……お前が見たら……」

「構わねえよ! さっさと鳥をよこせ!」


アグはレインを振り払って、再びベーラに掴みかかった。


「ひっ!」


ベーラは怯えるように両腕を前にやる。


「ププ〜!」


ベーラの懐からププが飛び出した。

アグはププを握りつぶすように掴むと、広間を出た。


「アグっ!」

「アグさんっ!!」


皆が彼を呼ぶが、そんな声は聞こえちゃいなかった。


アグは部屋にこもって鍵をかけると、ププに命じて壁に映像を映し出させた。


アグは食い入るようにその映像を焼き付ける。


「………」


ヌゥが精霊たちに理不尽に傷つけられる様子をじっと見ていた。

彼女の苦しむ顔が、耐えうる姿が、ぼろぼろにされていく身体が、焼き付いてもう、離れない。


「ヌゥ……」


アグは涙を流しながら、その映像を見ていた。


やがてアシードが死に、エクロザのコピーが死に、エクロザが死んだ。


(アシードさん……)


ヌゥを守って死んだ彼に追悼し、アグはぼろぼろと涙をこぼす。


ありがとう……


アグは何度も涙を拭った。


そして、話に出ていた、カルベラという悪魔の姿に目がいった。


『その子は俺のなんだから』


カルベラは大切そうにヌゥを抱えていた。

こいつは……一体何なんだ……?!


『…やっとこの子と一緒にいられるさ」


カルベラはそう言っていた。


何でこいつがヌゥを……


最後には、ある部屋の中が映った。ヌゥは両手と両足に手錠をはめられ、鎖で繋がれている。彼女の意識はまだ戻っていないようだ。


「ずっと一緒だよ…」


カルベラは、ヌゥに近寄ると、意識のない彼女を抱きしめた。


(こいつ……)


アグは歯を噛み締めながら、怒りの眼差しでカルベラを見ていた。


「俺も君もね、もうここから出られない。ここが2人の家だ、永遠に」


カルベラはそんなことを言って、愛おしそうにヌゥの頭を撫で回した。

すると、ゼクサスの声が聞こえた。

開いた扉に持たれながら立っていた。


「そんなにその子が好きか」

「もちろんさ。君も本当は知りたいんだろ。愛ってやつを」

「まさか。この世で1番嫌いだよ、そんなもの。君じゃなかったら殺してるよ」

「それは悪かった」

「まあいいよ。それよりこのドア閉めたら、次に誰かがドアを開けるまで君もここから出られなくなるけどいいのかい」

「構わないよ、手間かけて済まないね」

「気にするな。外からも誰も入ってこないように、見張りをおいておくよ。もし必要なものがあったら、そいつに頼んでくれ」


ゼクサスはそう言った。

カルベラはありがとうとお礼を言っていた。


「で、君はこれからどうするのさ。武器はあと1つだろ」

「そうだね。しかしまあ、遠いんだよね。エクロザに頼りすぎだったか」

「仕方ないさ。もう死んだものは」

「まあそうだね」

「気をつけて、ゼクサス」

「ああ、それじゃあ。お幸せに、カルベラ」

「ありがとう」


そんな話をして、ゼクサスは行ってしまった。

ププは扉が閉まる前に、こそっと隙間から脱出した。


「ああ、服がボロボロだった。着替えさせてあげよう」


そう言ってカルベラはヌゥから離れた。


映像はそこで終わっていた。


それらを見終わったアグの中で、何かがプツンと切れた。

枯れたような目で映像が終わった壁を見たまま、ふと冷静になった彼は、思考を開始する。


「……」


カルベラはヌゥを殺すつもりはない。

こいつはやたらとヌゥを大事にしている。


「……」


どこなんだ……この部屋は……


「ププ〜!」


アグはププを見ると言った。


「ここがどこか、わかるか?」

「ププ〜!!」


アグは世界地図を広げた。ププはその場所を指し示す。


(海の上………)


アグはププを見上げるが、ププは絶対にここだという表情で、その場所を指し続けた。

ユリウス大陸から南東へ。

ウォールベルトを超え、更に大陸の端をこえて、おそらく船で1週間はかかるだろうと予想される場所だった。


(ここにいるのか……)


助けに行きたいのは山々だが、1人で行っても助けられるかどうかは不明だ。


アグの脳内は落ち着いている。

冷静に、思考していた。

しかし何かの糸は、切れたままだ。


ヌゥを助けたいのは山々だが、それには残りの武器、ラグナスを、ゼクサスより先に取る必要も否めない。

4つの武器が揃ったら、ゼクサスは神の力を手に入れてしまう。ゼクサスを倒すことなど、ほんに不可能となってしまう。


向こうもエクロザコピーを失った。

一瞬で空間移動することはできないはずだ。

ゼクサスもまた、急ぐ様子はなかった。


アグは世界地図を見る。


ラグナスの眠るのは地底火山。

ちょうどこの大陸の裏側にあると言っていた。

ゼクサスが場所を知っていると過程しても、簡単に行ける場所じゃないはずだ。


……落ち着け。


優先はラグナスだ。それは間違いない。


カルベラはヌゥと一緒にあの部屋から出られないと言っていた。

ゼクサスは1人で取りに行く。


やってやる。

ヌゥを助け出す。

そして、奴より先に、武器を取る。


この俺が。


絶対。


そのためなら、どんな犠牲も、厭わない。



その頃、広間には重い空気が漂い、泣いているベーラをレインが慰め、他の皆も心配そうに彼女を見ることしかできなかった。


「皆……すまない……私が……しっかりしないと…いけないのに…」


こんなに崩れたベーラを見たことがない皆は、不安な表情を浮かべたままだ。


「お前のせいじゃねえじゃん。な? ベーラ…」


レインが言うと、メリも続けた。


「そ、そうですよ。ベーラさんのせいじゃありません! もう! アグったらあの子のことになると、前が見えなくなって…」


そう言いながら泣きそうになるメリを、ソヴァンは心配そうに見ていた。


「メリさん…」


立ち上がって、メリのそばにいくと、肩に手を当てた。


「まあでも、状況が悪くなったのは確かです。起こったことはしょうがありません。今後の対策を立てないと」

「ハルク、お前なあ……」

「わかってますよ。私だって…」


ハルクもまた、辛そうな表情を浮かべる。


「でもこんな時は…誰かが冷静にならないと……。これ以上の犠牲はあり得ない…そうでしょう」

「……そうだな。考えよう」


ベーラもまた、うんうんと頷いた。


「私、アグさんの様子を見てきます」


ベルはそう言って立ち上がると、広間を出ていった。


トントン、とアグの部屋のドアを叩いた。


「アグさん…!」


アグがドアを開けると、ベルが立っていた。


(……!)


アグは何かを思いついたように、目を見開いた。


「大丈夫ですか? アグさん」

「っはは……」


アグは軽く笑った。


「アグさん……?」


(やってやるよ……全員、利用してやる……)


「ああ、ごめん。何?」

「あの、皆さんが今後のことを話そうって」

「わかった。行くよ」


ベルはアグから滲み出る殺気を感じて、少したじろいだ。


アグは、ベルの胸元についたムーンストーンのペンダントをじっと見ている。


「ア、アグさん…?」

「うん? どうかした?」

「いや…その…大丈夫、ですか?」

「うん。早く戻ろっか」


アグはベルに微笑んだ。


(アグさん……)


平然とした面持ちで広間へ向かうアグを、ベルは早足で追いかけた。






















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