リルフランスへの道中
ギャオオオウとおおきな唸り声をあげて、レインはワニの大群に襲いかかる。ワニたちは無残に噛み殺されて次々に海に落とされた。
ダン ダン ダン
ソヴァンは船の一番高いところに登ると、ワニたちを撃ち殺していく。
「すごい数だな…」
ダン ダン ダン
メリもまた双剣をつくりだして、ワニたちに攻撃した。
(弱い! いける! でも数がっ…多すぎる!!!)
カスっ カスっ
「ああ、弾切れだ」
ソヴァンが拳銃をカチカチやっていると、下から2丁の拳銃がくるくると回って飛んできた。メリが拳銃を生み出してソヴァンに投げたのだ。
「メリさん!」
ソヴァンは目を輝かせて喜んでいた。
「うわ〜メリさんの身体から出てきた拳銃…やばあ……」
「早く撃ちなさいよ! クソ変態男!」
「勿体ないけど使いますね〜」
ダン ダン ダン
甲板のワニたちは減ってきてはいるが、海中から次々と船に上ってくる。
ベーラは巨大な柱で船を持ち上げて浮かせた。
「うおっと!」
皆はバランスを取る。
「キリがない。先に海のやつを一掃する」
「おい、雷はやばいぜ」
「そんな馬鹿なことはしない」
そう言って、ベーラは巨大な網をつくりだし、水中に潜むワニたちを逃げられないように囲んで捕らえ、海中から持ち上げた。
ワニたちは特別製のその網を破ることはできず、大きなひとかたまりにされている。
「うわ〜呪術ってすごいなあ…」
ソヴァンは初見のベーラの術の威力に大変驚いていた。
「メリ!」
「了解です!!」
メリは巨大な大砲を生み出すと、そのかたまりにむけてセットする。
メリを襲おうとする甲板上のワニたちを、レインとソヴァンが駆逐した。
「行くわよーっっ!!!」
ドッカァーーン!!!
と巨大大砲が飛ばされ、100匹近くいたワニのかたまりに直撃した。
激しい爆発音と煙が上がって、そのかたまりは木っ端微塵になった。
「うっひょー! 派手だなぁ」
「的が動かないなら余裕よ!!」
「おい! メリ! 後ろ!」
「え?」
船上のに潜んでいたワニが、メリの背後から襲いかかった。
ダン ダン ダン
ソヴァンが上から2人を見下ろす。
「これで終わりですよ」
「よっしゃあー!! 雑魚で助かったぁ!」
「やりましたね!」
「今夜はワニの唐揚げか」
「お前こいつらまで食うの?!?!」
すると、海中からばしゃんと誰かが顔を出した。
「ま、まだ…いる?!」
「待て、ワニじゃない」
「クラーケンかぁ?!」
「違うわ! 見て!」
それは、可愛らしい人間の顔をしていたが、海中にあるのは人間の身体ではなかった。
彼女を見て、皆は目を見開く。
「に、人魚?!」
「た、助けてください…人間さん」
人魚は船を見上げながら、4人に向かってそう言った。
ヌゥたちはリルフランスに向かって足を進めていた。
自然の森を抜けるのに何日もかかった。
食べ物は森に山ほどあったから困らなかった。
精霊たちは食べなくても生きていけたから、木にはいつもたくさんのフルーツがなっていたし、エクロザが頼むと食べ物の精霊たちが現れて喜んでどんな料理でも用意してくれた。
毎日野宿だったけど、草や葉っぱの精霊がふわふわの寝床を用意してくれたし、雲の精霊が快適な布団をかぶせてくれた。
その日の朝、早起きしたアシードはカトリーナを持って素振りをしていた。
ヌゥも寝ぼけながらも起き上がると、姿を現したカトリーナが彼女を覗き込んだ。
「うわあああ!!!」
【うふふ! おはようございますヌゥさん】
「び、びっくりしたぁ……。あれ、素振りしてたんじゃなかったの?」
カトリーナは立てかけられた大剣を指さす。
【今は筋トレ中だから私は休憩】
「そ、そっか……」
ふわぁ…眠い。眠いけど、目覚めてきたぁ……。
アシードもよくやるなあ、ここに来ても毎朝訓練か。
あの歳になっても筋肉がすたれないわけだ。
カトリーナはヌゥの隣に腰掛け、腕立て伏せをするアシードをうっとりとしながら見ていた。
エクロザはまだ眠っている。
【ご主人様、本当に素敵だわ…】
「カトリーナはアシードのことが好きなんだね」
カトリーナはヌゥの方を見ると、にっこりと笑った。
アシードなんかには勿体無いくらいの美人だ。なんて言ったらアシードに失礼だけど。
【ご主人様は私と一心同体。毎日私を磨いて手入れをして、起きる時も寝る時も挨拶をしてくれるわ。戦った後はいつもお礼を言ってくれるのよ】
「そうなんだ。大事にされてるんだね」
【君も大切にされているよね】
「…?」
カトリーナは頬に手を当て、好き透るような翡翠色の瞳でこちらを見ている。
【アグはあなたが大好き】
「……そう、みたいだね」
【あなたも大好き?】
「え…?」
カトリーナにそう問われて、俺は頷いた。
「うん、大好き」
【両思い、素敵だね。まあ、私の愛には敵わないでしょうけれど!】
カトリーナは目を閉じて、胸に手をどんと当てた。
ヌゥもそれを見てにこっと笑った。
「こんなに美人な子に好かれるなんて、アシードもすみにおけないなあ」
【うふふ! まあでもあなたも、なかなか可愛い顔してるわよ】
「はは。そりゃどうも!」
すると2人の元にアシードが駆け寄ってきた。
「おい、さっきから何を話しておるのじゃ」
「べっつに〜」
「起きたならお前も鍛錬せぬか」
「わかったわかった! やるって!」
ヌゥはすくっと立ち上がると、デスサイズを抜いて素振りをした。
アシードがカトリーナを手に持つと、カトリーナはすうっと消えて剣の中に宿っていく。
「はぁ…この鎌重いんだよねぇ」
「伝説の武器か! どれ、わしにも持たせてくれんかの?」
【むぅう〜!!】
カトリーナはアシードの持つその剣を重くしていく。
「うおお! 何の……これしき……」
ドスーンと音を立ててカトリーナは地面に突き刺さった。
「ヤキモチ焼きなんだね、カトリーナ」
「全く困ったやつじゃ」
カトリーナが腕を組んで、ふんっとしている姿が目に浮かんだ。
「おはようございます皆さん」
「ああ! おはようエクロザさん」
「まだ早いぞ。連日歩き続けておる。もう少し寝ておってもよいぞ」
「いえ、大丈夫です」
エクロザが起き上がると、パンの精霊が色鮮やかなサンドイッチをかごにいれて持ってきた。
「おはよう人間さん! ねえ、食べる?」
「ありがとうございます」
「あ! 俺も俺も!」
ヌゥがサンドイッチを手に取ろうとすると、パンの精霊はさっとかごを避けた。
「あれ!」
「君にはあげないよ」
「何で?!」
アシードもやってきてサンドイッチを手に取ると、ぱくぱくと食べ始める。
「パンに恨まれるようなことでもしたんじゃないか」
「しないよそんなこと」
「どうしてヌゥにはあげないのですか?」
エクロザが聞くと、パンの精霊はそっぽを向いてすっと消えてしまった。
「うーん……」
「まあわしのを半分やろう」
「ありがとう…」
リルフランスに近づくにつれて、そんなことが増えてきた。
精霊たちは明らかにヌゥに意地悪をするようになって、ヌゥも最初はきょとんとしていたが、だんだん悲しくなってきて、しまいにはムスっとしていた。
「何で俺は精霊に嫌われてるのかな」
「どうしてでしょうか…」
「ふうむ。しかしさすがに可哀想になってくるのう」
それでもケリオンを回収するために、足を止めるわけにはいかない。
「うわっ!」
突然地面が泥のように柔らかくなり、ヌゥの下半身が地面に落ちた。
「なっ、何?!」
「早く帰りな!」
土の精霊は笑っていた。
「何するのさ!」
「帰れ! 帰れ!」
土の精霊はヌゥに罵声を浴びせたあと、どこかに消えた。
「これまた酷いのう」
「どうしてヌゥを…」
ヌゥはアシードとエクロザに腕を引っ張ってもらって、何とか脱出できた。
彼女のズボンは泥だらけになった。
「あと1日もすれぱ、リルフランスに着きます」
「さっさとケリオンを回収して、撤退したほうがよいかの」
「そうですね」
「……」
どうして俺は、精霊に嫌われるんだ…。
リルフランス…精霊の国。
俺はものすごく嫌な予感がしたが、その足を止めなかった。




