海戦準備
「お前たち、水着は持ってきてるのか」
と、ベーラは皆に尋ねた。
「んあ?」
「え?」
「も、持って…きて…ません…」
3人はノーと答える。
「準備が悪い奴らだな」
「いや、本当に海に行くことになるとは思わなかったからよ」
「話するだけだと思って…」
「ぼ、僕も…です……」
ベーラは腕を組んで3人を見た。
「クラーケンとの戦闘があるかもしれん。びしょびしょになるかもしれんぞ」
「確かに」
「び、びしょびしょ…」
ソヴァンはメリの方を見てきた。
メリは白地のボタンシャツにえんじ色のキュロットを履いている。
「ちょっと! 何考えちゃってんのよあんた!」
「いやぁ…メリさんその服でシースルーになるとどうなるかなって」
「己はオープンスケベなんかぁ?! ほぉぉおお?!?!」
声を荒げるメリを他所目に、レインは言う。
「まあ俺は獣化するから別にいらねえよ。ライオンは泳ぐの得意だぜ、意外と」
「まあそうかもしれんが、一応全員分作ってやろう。この私が!」
「何でノリノリなんだ」
「それじゃあメリ、こっちに来な」
メリはソヴァンにべーっと舌をだして睨んだあと、ベーラの元へ行った。
「お前らのはこれだ」
そう言ってベーラは2つの男性用水着をつくりだして、さっさとメリと船内に入った。
それは無駄に派手なアロハ柄の水着だった。
レインとソヴァンはそれを拾って顔をしかめる。
「派手ですね…」
「あいつは何でさっきからリゾート旅行気分に浸ってんだ」
「ふふ。あぁ、でもベーラさん、ナイスですね。メリさんの水着姿を拝めるなんて! 怒られはしたけど、こっちに来てよかったな〜」
「ていうかお前、どもりとれると結構ズカズカ行くな」
「え? そうですか?」
「……」
メリとベーラは個室に入ると鍵を締めた。
「水着なんて、着たことないですよ」
「そうなのか? 泳いだことないのか?」
「おっきいお風呂でプカプカ浮いたぐらいですかね」
「それはちょっと心配だな。水着に浮力補助の能力をつけておくか」
「何と便利な!」
ベーラはメリの水着を作り出した。これまた真っ赤で派手なビキニだった。
「いや、これはないですよ! ベーラさん」
「なぜだ。若いんだからいいだろう、このくらいはっちゃけて」
「何ではっちゃけるんですか! クラーケンと戦うんですよね? 露出多すぎて怪我しますよ!」
「そうか…」
ベーラは残念そうに真っ白のラッシュガードと腰に巻く派手柄のパレオを作り出した。
「防弾性だ」
「…まあいいですよ、これで」
メリはその水着セットを受け取った。
「ベーラさんは?」
「私はこれだ」
そう言って、真っ黒で地味な色の水着、いや、普通の服にしか見えない長袖の上着のような服と、膝下まであるズボンの、上下の服を作り出した。
「ええ! ずるい! 私もそれがいいですよ!」
「駄目だ」
「んもう! ベーラさんもビキニ着てくださいよ!」
「さすがに厳しいだろう。歳的に」
「大丈夫ですよー! ベーラさん若く見えますもん」
「そういう問題ではない」
「ぶう〜〜」
「まあいいから着てみろって」
「しょうがないですねぇ、もう!」
と言って、2人は水着に着替えた。
「似合うじゃないか」
ビキニをとりあえず着たメリに向かってベーラは言う。
「見ないでください!」
メリはさっさとラッシュガードのチャックを上まであげて、パレオを巻いた。
「じゃあ海泳いでみるか」
「え? 今から?」
「実戦で海に落ちたときのために、泳ぐ練習しといた方がいいだろう」
「まあ確かに…」
そう言って2人は甲板に戻った。
レインとソヴァンは振り返って2人を見る。
「な、なんでですか〜メリさん!!」
「な、何よっ」
ソヴァンはメリに駆け寄って、ラッシュガードのチャックに手をかけて引っ張ると、その中身を凝視した。
「あ〜! 何だ、赤いの着てるんですね! まあこれだったらいいですよ」
「ぎぃやあああああ!!!!!」
メリはソヴァンにビンタを食らわそうとしたが、しゃがんで避けられる。
「このひらひらも、いるかなあ…」
なんて言って、今度はパレオに手をかけようとしたので、メリは全力で逃げた。
「何やってんだあいつら」
「ルーキー同士で馴染んでくれて良かったな」
「てかお前、普通の服じゃねえかよ! 地味だし! 俺らにはこんな派手な水着作っといて!」
「見たくないだろう、おばさんの水着姿なぞ」
「はいぃ?!」
レインはベーラを見下ろしながら、何を想像したのか歯を噛み締めて顔を赤らめる。
「あっ、当たり前だろ! クソババア!」
「誰がクソババアだ」
こっちはこっちで、激しい攻防が始まっていた。
まあようやく落ち着くと、男たちも水着に着替えて、一旦船を止めると、皆は海に入った。
「獣化はしないのか」
「今はいんだよ。遊びなんだから」
「ふむ」
メリは初めての海に緊張してか、バシャバシャと溺れそうになっている。
「あ、足がつかないぃ!!」
「メリさん!」
ソヴァンは颯爽とメリに駆け寄って、彼女の手をとった。
「触るなぁぁ!!!!」
「大丈夫、何もしませんよ。暴れたら余計沈みますよ」
「絶対! 絶対許さん! 船に戻ったら、覚えてなさい」
「まあまあ。落ち着いてください」
(こんの変態クソ野郎め…。てかベーラさんもレインさんもどこ行ったのよ! こいつと2人きりにしないでってのに!)
ベーラとレインは船の反対側まで来ていた。
「んで、メリたちは?」
「ああ。ソヴァンが、自分は泳ぐの得意だから、メリに教えてやるってさ」
「ほーう」
レインは面白そうだったので、2人のことは放っておくことにした。
ベーラは浮力のある柱を創り出す練習をする。
「ん? いつものと違うのか?」
「ここは海のど真ん中だからな。下から生やすタイプは海底が深すぎて瞬時に足場にならない。おい、獣化して乗ってみろ」
「やっぱり水着いらねえじゃねえかよ」
レインはライオンになると、柱の上に乗った。
「どうだ?」
「んまあ、ちょっとはバランスとんねえといけねえな。もう少し大きくしたら?」
「よし、やってみるか」
と、真面目に実戦対策を行っていた。
メリは仕方なくソヴァンに泳ぎを教わる。
彼の手に引かれながら、バタ足をして前に進む。
「何だ、泳げるじゃないですか」
「あったり前じゃない! 私を誰だと思ってんのよ」
「手離してみます?」
「ああ! それはもうちょっと待って!」
(ベーラさんのつけてくれた能力で確かに身体は浮きやすくなってる。でもこの状態で戦うってのは…無理ね。やっぱり基本は船上から攻撃するのが無難ね。まあでも、船から落ちた時に最悪自力で戻れるくらいには泳げるようにならないと)
「てかあんた、それ持ってきたの?」
メリは彼の腰にかかっている2本の拳銃を見た。
「防水製なんで!」
「あ、そう…」
「これがないと、メリさんを守れませんから」
「ふうん…」
(銃騎士だと、言っていたっけ…)
メリはにこにこと笑っているソヴァンを見ていた。
彼の身体には、いくつかの傷跡が残っている。
「…騎士団って身体そんなにケガするんだ」
「ん? ああ、これは違いますよ。両親にやられたんですよ、昔」
「え?」
「色々されました…。基本殴られてましたけど、酷い時は熱した鉄の棒当てられたり、剣できられたり。その時の傷がね、消えないのも多くって」
「……何それ。虐待?!」
「そうですよ。あはは…少しくらい同情してくれましたか?」
「……」
メリは顔を引きつらせた。
(何なの…何で笑ってるの……)
「まあ昔の話ですよ、そんなの。じゃあメリさん、片手ずつ、離してみましょう」
「…わ、わかったわよ…」
その後メリとソヴァンも、割と真面目に泳ぐ練習をして、メリは1人で船の周りを1周できるくらいに上達した。
最後は4人で合流して、浮力の柱を使いながら、実践練習を行った。
「まあ、こんなところでいいだろう」
「だな〜! まあ余裕っしょ! たこの相手くらいな」
「油断するなよ。この前の二角獣みたいにやばいやつの可能性もある」
「まじかよ…そしたらまたシンクロして倒すしかねえな」
「何ですかシンクロって」
「俺とベーラのとっておきがあんのよ〜」
「僕もメリさんとシンクロしたい」
「黙れ! キモい! こいつ、日に日に変態が増してく!!」
「あれはここぞという時だけにしろ。次は死ぬかもしれん」
「だな」
「えっ! 何ですか死ぬって…やめてくださいよ」
「前衛が4人もいんだ。何とかなるだろ〜」
柱の上でプカプカと浮きながらのんきに話をしていると、突然彼らに向かって水流弾が飛んできた。
「はあっ?!」
「っ!!」
「危ない!!」
ベーラとメリが盾を作り出し、それを防いだ。
「何なの? クラーケン?!」
「いや、違う…」
4人は柱の上から、周りを見渡す。
いつの間にやら、4人はワニの頭をした獣の大群に、囲われていた。ワニは水中に身を潜めている。
数匹のワニが頭を出すと、その口から水流弾を飛ばしてくる。
「くそ!」
ベーラとメリは再び盾をはってそれを防ぐ。
ダン ダン
ソヴァンが拳銃で水流弾をとばしたワニを返り討ちにした。
「やるじゃねえの!」
「水中のは無理ですね」
「ちょっと! 船が!」
大量のワニたちが、ベーラたちの船にのぼって占領している。ワニは二足歩行で歩いており、その手にはナイフと盾を持っている。
「ベーラ!」
「わかってる!」
ベーラは4人の立っている柱の下から柱を何層にもだして、船まで届かせた。
「俺らの船に乗るんじゃねええ!!!」
獣化したレインは誰よりも先に船に飛び乗ると、ワニたちに襲いかかった。




