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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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ライオンとお姫様

俺はある日、ライオンへの戻り方のコツを掴んだ。本当に偶然で、急にライオンになった時には心底焦ったが、念じるとすぐに人間の姿に戻ることが出来た。たまたま誰もいない場所だったから、本当に助かった。そして俺は、自在にライオンに戻れるようになった。


しかし、この街でライオンになるのは混乱を招く。そのことを自分以外に知る者はもちろんいない。


城の外壁をこえて、フローリアに会いに行くことも出来たかもしれない。だけど俺はライオンに戻れると気づいた時から、ある計画を立てていた。


フローリアが20歳の誕生日を迎え、城下町の皆に挨拶をする日が迫っていた。その日初めて、フローリアは表へ出るのだ。


やるならこの日しかない。俺はこの日をずっと待っていた。


ついにその日、フローリアは城のバルコニーから顔を出した。美しいお姫様の登場と、その祝福の日に、貴族たちは城下に集まり大賑わいであった。フローリアは貴族たちに向かって、にこやかに手を振っていた。


「皆様、本日は私のためにお集まりいただいて、誠に喜ばしいかぎりです…」


フローリアの挨拶が始まった。

城下の貴族の群れの1番後ろで、俺は腕を組みながら、彼女の話を聞いていた。


(フローリア…俺は……)


話が終わったところで、俺はライオンに姿を変えた。赤いたてがみのライオンは、そのまま城に向かって突進していく。


ライオンになったレインを目にした貴族たちは、悲鳴をあげて逃げ回った。城下は一瞬にして大混乱となった。


(俺は平民たちを……助けたい……!)


兵士たちは、怯えながらも城を守ろうと剣を振るったが、レインはそれを軽々と避けた。城壁を飛び越えて、壁を蹴り上げ、あっという間にフローリアのところまでたどり着いた。


フローリアは甲高い悲鳴をあげていたが、俺は構わずフローリアの身体を咥えると、そのまま城を飛び降り、逃走した。


「ひ、姫様ああ!!!」

「は、早くあの獣を殺すのじゃ!!」


王族も貴族たちも混乱する中、王の命令で兵士たちはライオンを追いかける。しかし、あっという間にライオンは姿を消してしまった。


「絶対に姫を助け出せ!! 姫を助けた者の望みは何でも叶える! 急ぐのじゃ!!」


兵士たちは総動員でライオンの捜索に向かった。


レインは平民の街を駆け抜け、そのまま検問所も強行突破する。検問の兵士たちも、突然のライオンの突進に手を出せるはずもない。レインは国を抜けた先のマリーナの森に身を潜めると、フローリアを降ろした。


「きゃっ!!」


フローリアは涙を浮かべ、酷く怯えた顔でこちらを見つめる。腰が抜けてしまって、逃げることも出来ない。


「怖がらせて悪かった」

「……!!」


フローリアはその声を聞くと、目を見開いた。


そしてレインは、人間に姿を変えた。フローリアは驚きのあまり目を見張る。


「れ、レイン……なの……?」

「久しぶりだな、フローリア」


フローリアは立ち上がると、レインに駆け寄り抱きついた。


「会いたかった…ずっと…ずっと会いたかった…」

「俺もだよ…」


レインもフローリアを抱きしめ返した。


(ずっと、会いたかったよ……ずっと……)


フローリアは涙を流した。そしてレインの目にも、一筋の涙がこぼれ落ちた。


(ああ、またこの匂い…)


初めて会った時と同じ、花のような匂いがした。


「あなたは一体…」

「俺の本当の姿は、ライオンなんだ。記憶がないっていうのは嘘だ。ライオンの俺は子供の頃、どこかの研究所に捕まって、人の身体に変わることが出来る薬を飲まされた」

「そう…だったの…」


フローリアは思い出す。初めてレインと会った時、彼は四足歩行で歩いていた。確かに動物みたいだった。だけど本当に動物だとは、思いもしない。


「どうして教えてくれなかったの」

「嫌われると思って」

「そんなわけないじゃない…」


レインは彼女の涙を自分の手で拭った。


「手荒な真似して悪かったな」

「私、食べられて死ぬんだって思ったわ」


フローリアは笑ってみせた。俺も同じように、口元を緩めた。


「どうして誘拐したの…?」

「お前に見てほしいものがある。その格好じゃバレるから、このローブで隠してくれ」


レインは持っていたボロ布のローブを取り出すと、フローリアに渡した。フローリアは言われた通りにローブで頭と服を隠し、俯いて顔が見えないようにした。


レインはフローリアに、平民たちの街を見せた。何も知らなかったフローリアは、レインと同様にショックを受けていた。


そのままレインは彼女を連れて、少年の家に帰った。


「レインさん、おかえりなさい。あれ、その人は?」


レインは未だに彼の家に居候を続けていた。子供も成長し、少し大きくなっている。


「こいつと大事な話をする。入ってくんじゃねえぞ」

「はぁ……わかりました…」


レインはそれだけ言って、フローリアを自分の寝室にいれた。


「レイン、ここに住んでるの?」

「そうだ」

「平民たちがこんなところでこんな暮らしをしているなんて、私…知らなくて……」


フローリアは涙を流した。王族である自分のせいだと、酷く責任を感じているようだ。


「話がある。フローリア」

「何?」

「俺と、結婚してくれないか」


フローリアはハっと顔を上げた。


「私と…?」

「……駄目か?」


レインはゴクリと息を呑んだ。


するとフローリアは、泣きながらレインに抱きついた。


レインにとっては賭けだった。彼女の気持ちが変わっていないか。ライオンである自分を受け入れるか。全部、賭けだった。


「結婚する! レインはレインだもの」


レインはヘナヘナと力が抜けるのを感じた。


「レイン、私、この国を変えたい。レインと一緒なら、出来る気がするの」

「俺も、そう思ったんだ。フローリアと結婚して王族になったら、国を変えて平民たちを助けられるんじゃないかって。もちろん、そのためだけに結婚しようってんじゃないぜ。その…」


レインは小さい頃、フローリアの好きだと言ったおとぎ話の絵本が頭をよぎる。最後に王子様が、お姫様に言う台詞を思い出しては、同じ言葉を彼女に贈る。


「愛しています。あなたのことを。この世界中の、誰よりも」


レインは言ったあとに、急に恥ずかしくなって顔をそむけた。


「レイン、それ…」

「俺は王子じゃねえけど……これからなるから……。王子になるから……」


すると、フローリアはレインの頬に両手を当てると、彼にキスをした。レインは驚いて、顔を赤らめた。


「私も愛しています。あなたが人間でも、ライオンでも、構いません」


その時俺は、人間の姿になれて良かったと、初めてそう思えた。


だって俺、人間に恋をしたから。


「父上を説得しなくてはいけませんね」

「そのことだけど」


レインは準備してあった動物の生肉を取り出した。


「ライオンを倒して姫を救ったってことで、王様に懇願すっから」

「まあ驚いた。用意がよろしいわね」


その後、フローリアを連れて城に戻った俺は、姫の命の恩人と称され、盛大に感謝された。騙しているのは悪い気もしたが、フローリアの説得もあり、何とか俺は正式に姫との結婚にありついた。


その日から、俺は王族になった。レイン・ガルサイアと、名前をもらった。



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