世界地図を見る
「んで、俺たちはどうしたらいいの?」
ヌゥは頭の後ろに手をやって、椅子にもたれながら言った。
レインたちを見送ったあと、残った皆はまた広間に集まっていた。
「古の武器はあと2つ、ゼクサスに見つかる可能性はあるのか?」
「あります」
「えっ!!」
「コピーは私と同様、過去に行けます。過去の世界では何も手出しすることはできませんが、過去の私を追いかけていけば、どこに隠したかは簡単にわかるでしょうから」
「いや、駄目じゃん! 早く取りに行こう!」
「簡単にとれるところには置いていませんが…そうですね。回収に向かったほうが良さそうです。コピーもそろそろ薬の効果がきれて術を使えるでしょうから」
「じゃあ行こう! 今すぐ! ね?」
ヌゥはベーラに向かって言った。
「それもそうだが、武器はどこに隠してあるんだ?」
「精杖ケリオンは、精霊の国リルフランスに」
「精霊の国?!」
「長剣ラグナスは、地底火山に」
「……」
エクロザさん…とんでもないところに隠しやがったな…。
てか地底火山になんて、そもそも人間が取りにいけんのか?
「…それは一体、世界のどの辺りなんだ?」
「あ、そうだ! ビギンにもらった航海図持ってきます!」
アグは部屋からかつて海賊にもらった地図を持ってくると、広間の机の上に広げた。
「ちゃんと見たことなかったけど、こんなに世界って広いんだ!」
「そういえばゆっくり見る暇もなかったしな…」
その大きな紙の右側を埋めるのはユリウス大陸だ。ビギンたちの航海図の中ではかなり大きい大陸だ。その西に進むと離れ小島リドルがあり、その更に西に広がる大陸にはリアナたちの故郷がある。確かエルスセクトでお世話になったおばさんが、ナルシア大陸と言っていたっけ。
ビギンたちは港町ヨークスティングに寄ってすぐにユリウス大陸に出航したから、大陸名が書かれておらず、大陸の絵も途中で切れている。アグはその地図にナルシア大陸と、アグたちが通ってきた雪の街エルスセクトからヨークスティングまでの位置関係を軽く記録した。
更にユリウス大陸から南西に進んだところに、妖精の国リオネピアを記録する。
航海図の北にはビギンたちの故郷、オーラズネブル大陸が書かれていた。ここはもう、シャドウに侵略されたと言っていたっけ。
他にもアグたちが未知の大陸や小島がいくつか記載されている。
ベーラたちも地図を覗き込んで見ていた。
「こうして見ると世界は広いんじゃな〜」
「本当ですね! ユリウス大陸でさえも、行ったことがない国がほとんどだというのに」
「これは一部でしょうし、まだまだ未知の大陸もありそうですね」
すると、エクロザは言った。
「素晴らしいですね。ここまでの地図を作るのは大変だったことでしょう」
「こんな貴重な地図を無料で提供してくれたんだ…いつかまたお礼をしたいよ」
「それで、杖と剣はどこにあるって?」
エクロザは、ユリウス大陸の東、地図の外側を指し示す。
「場外かよ」
「精霊の国はこの辺りです。とはいっても、もうほとんど世界地図に近い形が出来上がっていますよ」
エクロザはその四角い地図を軽く丸めた。
「世界は丸く、繋がっているのです。抜けているのはこの地図の裏側の一部でしょう」
「へえ〜世界は丸いんだあ!」
「地底火山はここ、ちょうど大陸の裏側です」
(そりゃあ人間には見つからねえな)
「まずは精霊の国リルフランスに行くのが良いでしょう」
「精霊って何? 魔族?」
「精霊は自然界の力を司る神の生んだまた別の存在です。実態はなく、ある意味で別世界に住んでいます。彼らの国に行くには特別な道を通らなければなりません」
「何でそんなところに精杖ケリオンを?」
「ケリオンを神から授かった女性ウルドガーデは、精術師と呼ばれ、精霊たちの力を借りることのできる人間でした。ウルドガーデは大変平和を愛する優しい女性で、魔族との戦争にも心を痛めながら戦いました。私もその昔、彼女の記憶を消し、精杖ケリオンを取り返すべく、彼女に会いに行きました。非常に聡明な女性で、自らの意思でケリオンを差し出し、誰にも見つからないようにと、精霊の国にそれを隠すことを提案までしてくれました」
4つの武器にはそれぞれ持ち主がいた…。ウルドガーデのような善良な持ち主もいたんだな。
「ウルドガーデは、精霊の国リルフランスへの道を私に示した後、その記憶を私に差し出しました」
「いい人ですね…」
エクロザは頷いた。
「彼女の記憶を奪うことをためらいもしましたが、彼女も記憶を消すことを望みましたので、例外なくそうしました」
「でもそんなところにあるなら、取りに行かなくても見つからないかな?」
「いえ、私のコピーもまた、リルフランスへの道を握っています。これまでは何よりもゼクサスの身を案じていましたから、彼らがリルフランスに行くことはありませんでしたが、ゼクサスは新しい身体を手に入れ、コピーも自由に動けるようになった。いつ彼らがケリオンを奪いに向かっても、おかしくはないのです」
ヌゥは立ち上がると、焦って言う。
「だったらやっぱり早く…向かわないと!」
「そうですね。ただ、私の移動能力を持ってしても、リルフランスに直接向かうことはできません。行けるのは精霊世界の入り口の前までなのです。その入り口を通ったあとも、私は精霊の世界を瞬間移動はできません。また、人間の個人が持つ特異な能力、呪術や忍術、もちろんシャドウの禁術と、使うことができません。入り口からリルフランスに着くまでには、歩いて2週間はかかります」
なるほどな…。人間の力が及ばない世界ってわけか。エクロザのコピーもそこでは禁術の空間移動は使えない。精霊が身を呈して杖を守っているとすると、確かに簡単に手に入れることは難しそうだな。だがそれも時間の問題でもあるか…。
「更に、リルフランスの入り口は狭く、一度に行けるのは3人が限界です。私が行くとなると、あと2人しか連れていけません…」
「うむ。人選を見直すか。呪術が使えないなら、私は行っても力になれなそうだし」
ベーラは改めて皆の顔を見る。
「うん? ソヴァンはどうした」
「え?」
「あれ?」
皆は周りを見回すが、そこにはソヴァンの姿はない。
アグは顔を引きつらせた。
(あいつまさか…)
すると、ベーラの無線がなった。
「空間移動まじぱねぇ〜!! 一瞬かよ!」
モヤから出たレインは目の前のヴィルスゲーテ国を眺めながら意気揚々としていた。
「信じられませんね…さっきまで城の広間にいたのに」
ハルクも続いてモヤから出る。
「えっと、海の方に行けばいいんですよね!」
メリが最後にモヤから出たと思いきや、彼女の後ろからソヴァンがひょっこり現れる。
「うわ〜すごい。禁術って何なんですかね! 空間移動って! すごすぎる…」
「ぎやあああああ!!!!」
メリはとんでもない声の悲鳴を上げた。
「おい! お前なんで来てんだよ! メンバーじゃねえだろ」
「す、すみません…」
「モヤ、消えてしまいましたね」
「無線! 無線で連絡してください! 早く追い払ってこの変態を!!」
「それは勘弁してくださいよメリさん!」
「大体あんたなんでここにいんのよ!」
「そりゃあ、僕がメリさんを守らないと!」
「必要ないわよ! 早く無線でエクロザさん呼んでくださいよ!」
「面倒くせえよ…今着いたばっかだろ。ラミュウザに話聞くだけなんだ。1人くらい増えたっていいだろ。ほっとけ」
「じゃあさっさと行きましょう。時間が勿体無いですし」
「だな〜。ほれ、行くぜ」
レインとハルクはさっさとヴィルスゲーテ国に入っていった。
「う、嘘でしょう〜…」
メリが隣を見ると、ソヴァンが彼女ににっこりと微笑みかけている。
(まじ、ストーカ〜!!!)
メリは彼を無視しながらスタスタとレインたちについていった。
「ああ、待ってくださいよ〜」
ソヴァンもメリを追いかけていった。
「んで、海岸はどっちだ?」
「み、右ですよ…! そのまま噴水超えて…は、橋を渡ったら、左に…曲がって、ろ、路地を抜けて、まっすぐいけば…海岸…に、で、出ます」
「んだよやけに詳しいじゃねえか」
「セ、セシリア様と…遠征に…き、来たことが…あるので…」
「ふうん。じゃあま、さっさと行ってみようぜ」
「そうですね」
ソヴァンはレインとハルクの前では、どもった様子でもじもじとしている。
ソヴァンに言われた通りに進んでいくと、海岸に出た。
何やら海岸に研究者の格好をした人たちが、数名集まっている。
「おい。あれじゃねえの?」
「それっぽいですね」
レインたちは彼らの元に近づいていった。
「なっ、なんだ…?!」
「どうかしたんですか? …うっ」
レインとハルクは研究者たちのその足元に倒れている1人の人間を見ると、顔をしかめる。
「どうしたんですか? え?」
「こ、こ、これは…」
あとからやってきたメリとソヴァンも、その人間を見て顔を引きつらせた。
そこに倒れていた人間の顔は、魚になっていた。




