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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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明かされる歴史

ゼクサスとエクロザは、遥か西の国、ロクターニェにたどり着いた。

その国は実はもう遥か昔に崩壊しており、今残っているのは古代遺跡のみだ。


表向きは観光地としてあてがわれているが、最西の遺跡に足を運ぶ者はなかなかいなかった。そして誰も存在すら知らないその遺跡の地下には、カルベラという男がひっそりと住んでいる。


そこに着いた頃にはもう、エクロザの薬の効果も完全に切れて、モヤを作り出すことも出来るようになっていた。


ゼクサスたちは遺跡の中に入っていった。

観光客は誰もおらず、受付の年老いた男は居眠りをしている。


2人はそのまま進んでいき、隠し扉から地下に降りていった。


やがてある部屋の前まで来ると、扉を3回ノックする。


「どうぞ、お入りよ」


中から男の声が聞こえて、ゼクサスは扉を開ける。


中にはドアのように大きな鏡があって、その前には男が鏡に向かうように座っていた。

ぶかぶかの服を着て、乱れた黒色の髪をしている。


男は鏡越しにゼクサスとエクロザを見た。


「おや、見知らぬ身体だが」

「お久しぶりですカルベラ様」


エクロザはその男に深々と礼をした。


すると、男はすぅっと光り輝いたかと思うと、その姿を変えた。真っ黒な体に、頭からは2本の角が生えている。

その風貌は絵本に出てくる悪魔みたいだ。


彼に顔はない。赤い目が2つ、その頭についているだけだ。


カルベラと呼ばれたその男はこちらを振り向くと言った。


「ヌゥ・アルバートの身体が欲しいと言っていなかったかい」

「ああ。やめたんだ。あれはもう要らない」

「何だい。お前が欲しいというからあげたのに。要らないんなら俺がもらうよ。元々あの子は俺のなんだから」

「好きにしていいよ」


カルベラはふぅとため息をついた。


「そういやバイコーンはもう死んだのかい」

elnathエルナトのことか」

「名前なんて知らないが」


カルベラはひょうきんとした様子で、ゼクサスと話している。


「人間はまだそんな力があるんだね」

「私も驚いているよ。奴らがelnathを倒す力を持ってるなんてね」

「今度はもっと強い魔族をコピーした方がいいか」

「そうだね。でもそれより先に、武器を集めようかと思ってね」

「場所はわかっているのかい」


エクロザは頷いた。


「精霊界です。あなたも一緒にきていただけませんか、カルベラ様」

「あそこは魔族を嫌うだろう。俺なんかが行ったら殺されちまうよ」

「いいえ。あなたはもう立派な人間ではありませんか。どうか、お力を」


そう言ってエクロザは頭を下げた。


「頼むよカルベラ」


ゼクサスも言った。


「まあ、君に言われちゃ仕方ない。その代わり、あの子を俺のものにする。いいな」

「わかってるよ」


カルベラは再び人間の姿になると、ゼクサスとエクロザと共にモヤをくぐった。




オリジナルのエクロザは、セントラガイト城に帰還すると、ベーラのところにやってきた。


「ゼクサスはいたのか」

「はい…。最西にある遺跡、ロクターニェにいます」

「…どうしてそんなところに」

「あそこには、カルベラが住んでいるんです」

「カルベラ……?」


(確かベルが、ゼクサスの口から、そんな名前を聞いたと言っていたか…)


エクロザは神妙な面持ちでベーラを見ると、言った。


「私の知る全てをお話します。皆さんを集めていただけますか?」


ベーラは頷いた。


そして皆は、3階大広間に集まる。

ベーラの隣にはエクロザが腰掛けた。


エクロザは皆の顔を見回す。


ヌゥもまた、彼女をじっと見ていた。

エクロザと目があって、彼女は静かに頷いた。


誰1人口を開かない。

エクロザが話し出すのを、ただ待っていた。


「私はおよそ、1000年前に生まれました」

「っ!!!」


エクロザは続けた。


「更に私が生まれる1000年前、つまり2000年前この世界は、人間と動物たちの他に、魔族と呼ばれる者たちが住んでいました」

「《新世界大戦》で読んだ通り………」


メリは口を開いた。

エクロザはその本を彼らが見つけたことも、すでにベーラから聞いていた。


「私も本を読ませていただきました。ですが、あの本は私の知る歴史とは少し違っていました」

「……」


メリは自分の記憶の話を思い出す。


「聞かせてもらっていいか、エクロザ」


ベーラは言った。

エクロザも頷いて、話を始めた。


「魔族には、たくさんの種族がいました。私も全てを把握しているかと言われると、自信がありません。ほとんどの魔族はこの世から絶滅してしまいましたが、生き残っている者たちもいます。それがあなた達の知る、妖精やドラゴンたちです」


ヌゥはリオネピアで会ったキサティたちのことを思い出す。


「ドラゴンはもう絶滅していると言われているが」

「いや、イースというドラゴンの獣人が生きておる」

「この前のシャドウの奇襲からも助けてくれたと聞きました」


エクロザは続けた。


「人間と魔族の関係は、種族によって異なりました。妖精のように言葉が話せ、人間と仲良くしようとする者もいましたし、ドラゴンのように自分と人間は別世界の生き物だと、人間とは別の場所で群れをなし暮らす種族もいました。言葉の話せない魔族もたくさんいましたが、魔族以外の動物たちと同じように、それぞれの適した生活場所で暮らしていました」


2000年前、そんな遥か昔に、存在していたという多くの未知の生き物たち。一体それがどんな世界だったのか想像もつかないけれど、きっと今自分たちがいる世界とはまるで違う場所なんだろう。


「人間は人間、魔族は魔族、そのことはその世界で、暗黙の了解でした。人間は今と同じように、子供を産んで子孫を残しましたが、魔族は違いました。魔族は今の言葉で言うなら、単為生殖動物。つまり、自分1人だけで、子孫を残すことができたのです」


アグは腕を組みながら話を聞く。ドラゴンには性別がないと聞いたことがあったな…。単為生殖は虫なんかの普通の動物にも意外と多いが、そいつらは全てメスだと言われている。妖精は確かに女ばかりだった…。恋をするのが少ないといってたのは、女同士だからだったのか? いや、そもそも女に見えただけで、あいつらに性別なんてなかったのか…。


「ところがある日、その常識を覆すことが起きました。その歴史史上初のことでした」

「…?!」

「人間と魔族の間に、子供ができたのです」

「っ!!」

「いや、そもそもどうやって子供を作ったの?!」


人間と魔族は別の生き物。人間と犬の間に子供を産ませるようなもの。物理的には不可能だ…。


「まずはどうして子供を作りたかったのか。これが人間と魔族の間に戦争が起きる原因となったのです」

「…??」

「魔族は人間よりも、遥かに長寿であることを知っていますか?」


エクロザは皆に問いかけた。


うーん…。どっかで読んだ本には、確かにドラゴンの寿命は800歳くらいと書いてあった気がする。妖精については見聞は残っていないのか、読んだことはないな。まあエクロザさんが言うなら、そういうことなんだろうが。


「種族によってももちろん異なるのですが、短くても500年近くあると言われています」

「500年…」

「長えな…」

「はい。人間にとっては不老不死とまではいかなくても、それだけの寿命を手にしたいと切望する者は多かったのです」

「!」

「人間はその寿命を伸ばすための1つの手段として、魔族の血を手に入れることを考えたのです」

「……」


人間と魔族に子供ができれば、その寿命も魔族に近しくなるのでは、と考えたわけだな…。


アグはちらっとヌゥの様子を見た。

彼女の頭の上はハテナだらけだ。

(…駄目だなあいつはもう。パンクしてやがる)


「話はそれますが、今の世界でも同じようなことを考えた人間がいましたね」

「え?」


エクロザはレインの方を見た。


「獣人……」


レインはつぶやく。

エクロザは頷いた。


「そもそも獣人は、人間を長く生きさせるために、その臓器や血液、他にもその身体の全てを、人間のドナーとして使うために作ろうとされたのです」

「そんな……」


レインは唇を噛み締めた。


「もちろんそんな研究、倫理的に許されるわけがありませんでした。動物虐待とも言えますしね。ですからその研究員たちは皆捕まったとききました」


エクロザはベーラを見る。ベーラは頷いた。


「長く生き続けたいというのは、いつの時代の人間も考えることなのですね」

「……」


エクロザは神妙な面持ちでそう語る。


「つまり人間は、最終的に自分たちを魔族にしたいと考えたのです」

「っ!!」

「とはいっても、そう簡単になれるはずはありません」

「んもう! ちょっと待って! 難しいよ! 魔族ってなんなのさ! 俺でもわかるように言ってよ」


(やっぱりパンクしたか…)


アグはため息をつくと、言った。


「とりあえず、魔族っていうとわかりにくいから、犬だと考えろよ。人間が犬になりたいと思ってもなれないだろ?」

「なれるわけないじゃん!」

「だろ? だけどどうしても、人間は犬になりたいんだと。そしてついに犬との子供を作ることができたらしい。さあ、どうやって?」

「えー? ど…どうやってだろう…」

「わかんないよな」

「わかんない」

「じゃあそれをこれからエクロザさんが教えてくれるから、一緒に聞いてみようか」

「うん!」


メリにレイン、そしてアシードまでも、うんうんと頷いていた。

(おい。お前らもヌゥと同レベルかよ)


「魔族が単為生殖動物だとしても、人間は違います。魔族に性別はありませんが、単為生殖するのはメスだと言われているので、仮にメスだったとしましょう。そのメスの中に、人間の染色体を無理やり混ぜ込んで、魔族に子供を産ませたのです。もちろん最初からうまくは行きませんでした。人間の染色体は魔族の身体になかなか受け入れられず、その体内にて排除されてしまったのです」

「アグ、通訳して!」

「いや、言語は同じだろ…」

「いいから!」

(面倒くせえな……)


ヌゥに言われ、仕方なく話をわかりやすくしてみる。


「メスの犬とオスの人間を交尾させるんだよ」

「えっ! 気持ち悪っ!」

「知らねえよ…。だけど犬は人間との子供なんて作れませんよ〜って話だよ…多分」

「なるほど〜!」


(まあ実際ちょっと違うんだろうけど…。犬は単為生殖じゃねえしなそもそも。まあヌゥも納得したから、もうそういうことでいいか)


「わかりにくい説明しかできずに申し訳ございません…」


エクロザは頭を下げた。


「いや! エクロザさん謝らないで! こいつがアホなだけだから!」


アグは全力でフォローした。エクロザは顔を上げると、話を続ける。


「そこで人間は、人間のままでは駄目だと考えたのです。魔族と適合できる染色体を持たなければと。そして何年にも渡って人体に実験を施しました。その研究の末に生まれた魔族と子供を作れる新種の人間、それが皆さんの知る、シャドウです」

「っ!」

「えっ?!」

「はぁぁ?!」


皆は目を丸くしてエクロザを見た。


「シャドウとは何かご存知ですか?」

「呪人の核と適合した人間…でしょうか」

「そうです。シャドウは人間であって人間ではない。人間とシャドウの違いは、魔族と生殖できるか否かです」

「……」


皆ぽかんと口を開けて、彼女の話を聞く。


「アグぅ……」


ヌゥは助けを求めるようにこちらを見ながら、俺の服の裾を握りしめた。


「いやだから…シャドウは犬と…子供を作れる…ってことだろ」

「…じゃあ俺はシャドウだから、俺の身体が男だったとして、犬と交尾したら子供作れんの?」

「何か口にするとすげえ怖いし気持ち悪いな。まあ、犬はそもそも動物だし、あくまで例だから…。そしたらあれだ、妖精にしよう。妖精と子供が作れるってことで」

「ふうん…」

(何だよ。犬よりはいいだろう)


「つまり、2000年前から呪術師は存在していたということだな」


ベーラはエクロザに尋ねた。


「そうです。呪術師以外にも、色々な術を使える人間たちが存在していました。かつてのあなたたちの仲間に、忍術を使える者がいたでしょう」

「ヒズミ……」

「はい。呪術師、忍術師、その他にも複数存在していたと聞いています。もちろん彼らは人間の中ではかなり希少な存在でした」

「呪術師の歴史がそんなに古くからあるとは…正直驚いた」


ベーラも顎に手を当てて、深く考えている様子だ。


「というか、2000年前から人間が生きてたってのも、知らなかったよな。魔族がいたなんて話も、聞いたことねえもん」

「あの本だってただの童話だったしね…」

「習った歴史じゃ、人間が生まれたのは1000年前だと言われていましたよね」


確かに、西暦で見るとそうだ。紀元前に人間が生きていたと考えても、さすがにもう1000年前からいたってのはないだろう…。

そんな話、聞いたこともないんだから。

正直エクロザさんの話が2000年前の世界の話だなんて、信じられないんだよな…。


「まあとりあえず話を全部聞こうか」


皆は頷いて、エクロザに注目する。























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