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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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愛欲

風呂から上がったヌゥ、メリ、ベルが夜ご飯を食べようと食堂に向かっていると、アグとソヴァンに鉢合わせた。


「あ…」

「あれ…ソヴァンも一緒?」


ベーラはシャドウについての話をソヴァンにしたあと、ちょうど廊下にいたアグを見つけた。ソヴァンを3階の空き部屋に案内して荷物を移すのを手伝わせた後、ご飯でも食べてこいと、そのまま彼を託したという。


「メリさん…!」


ソヴァンはパアァと目を輝かせてメリを見つめる。

メリはしかめっ面で彼を睨んでいた。


「アグさんたちも食堂に行くんでしょう? みんなで食べましょう!」


ベルに言われ、5人は食堂のテーブルに並んで椅子に腰掛けた。

すぐさま料理が運ばれて、手を合わせると皆食事を始める。


ヌゥはとろとろのオムライスを食べながら、隣に座ったアグを横目で見ている。というか、睨んでいた。


『アグはね、巨乳好きなのよ!』


(…くそ…メリのやつ……。知らないしそんなの…。ていうか、じゃあアグも本当は、俺のことはタイプじゃないってことじゃん)


ヌゥが不機嫌な様子だったので、アグは気にして声をかける。


「どうした? 大丈夫か?」


ヌゥは怪訝そうな目つきで彼を見ていた。


「別に!」


(まあどうだっていいけど、そんなの! 俺君のこと覚えてないし。好きでも何でもないんだから)


アグは首を傾げる。


(なんで怒ってんだ? メリになんか言われたのか?)


アグはメリのことを見ていた。

メリもそれに気づいて、アグと目を合わせた。


(何かしたのかお前)

(はあ? 知らないわよ! ばーか)


何となく目で会話をした2人だったが、皆もいる手前言葉はない。


「メ、メリさんは…誰か、つ、付き合ってる人いるんですか……」

「?!?!?!」


ソヴァンの突然の発言に、皆は驚いて彼に注目する。

飲み物を飲んでいたヌゥとメリはぶーっと吹き出した。


(こいつ…どもってるけど直球かよ!)


アグは顔をしかめながらソヴァンを見た。

ソヴァンはデレデレした様子でメリを見ていた。


「い、いないけど…」

「じゃ、じゃあ、好きな人はっ……?」


(何で皆のいる前でそういうこと聞くのよ〜!!)


メリが答えられずにいると、ベルはにこやかに答えた。


「メリさんはアグさんが好きなんですよ」


(ベル〜〜〜?!?!?!?!)


ヌゥとアグ、そしてメリは、心の中で彼女の名前を叫びながらベルを見た。


「……」


ソヴァンはきょとんとした顔でベルを見たあと、メリに言った。


「メ、メリさん…アグは…ヌゥのことが…す、好き…なんですよ」

「知ってるわよぉぉおおお!!! 振られてんのよぉおおお!!!」


メリは半泣きになりながら机をバンッと叩いてソヴァンを睨みつけた。


「じゃ、じゃあ…、あ、諦めましょう…! それで、ぼ、僕と…つ、付き合って…ください!」


ソヴァンの突然の告白にメリ以外の3人は顔を赤くして口をぽかんと開けた。

メリも顔を真っ赤にしながら、声を荒げた。


「付き合うわけないでしょーっ!!! バカなの?! アホなの?! 何なのあんた! 意味わかんない!」

「だ、駄目か……さすがに…」

「当たり前でしょうっっ!!!」


メリは苛立っていた。

アグもその様子を見てたじろぎながら、ソヴァンを見る。

ソヴァンは首を傾げながら、目の前のご飯を一口食べた。


(速攻振られたけど全然平気って感じだな…こいつ…思ったよりメンタルやばいな…ていうか)


「何でそんなにメリさんが好きなんですか?」


ベルが聞きたいことを聞いてくれたので、アグも気になって彼を見る。


「え? だ、だって…こんなに可愛い子…み、見たことないし…」

「顔かよ! 顔だけかよっ!」


メリは1人突っ込みを繰り出す。

そりゃそうだまともに話してすらないのだから。


「体型も、こ、好みです!」

「ぶっ!!!」


ヌゥは2回目にして飲み物を吹き出す。

駄目だ…今何かを飲んでは……。

ヌゥは次にこのお友達が何を言うのかと心臓をバクつかせながら、そっとコップを遠ざける。


「ちょっとこいつ! こいつまじやばいって!! 変態じゃん!!」


メリはソヴァンに指を突き刺して叫んでいた。

しかしソヴァンは全く動じていなかった。


(全然食ってる気がしねえ…)


アグはメリとソヴァンの攻防を恐れながら見守る。


「ヌゥの前で…あ、あれだけど…、アグさん、何で…こんな…か、可愛い子を振るんです?」


(こっちになんか飛んできたぁっ!)


「いや、そんなこと言われても……」


アグは困った様子でソヴァンを見たあと、ヌゥを横目で見た。

ヌゥは眉をひそめながらこっちを見ている。


「アグさんのタイプなんですか? ヌゥさんは」


ベルは呑気にデザートを食べながらアグに尋ねた。

(おい、しっかり食い終わってんじゃねえ)


「タイプっていうか…」


アグはヌゥの方をまじまじと見ていた。

それに気づいたヌゥは、へそ曲げたような顔で口を開く。


「俺はアグのタイプじゃないよ! だってアグは、巨乳が好きなんでしょっ!!」


そう言ったヌゥはなんだか怒っている様子で、腕を組んで顔をそっぽ向けた。


(は?)


「はぁあああ?!?!」


アグもまた声を荒げた。


「はあ? いつ俺がそんなこと…」

「だってメリが言ってたもん!」


アグはメリを睨みつけた。

メリはべーっと舌を出してドヤ顔を浮かべている。

(メリ…お前ぇ……)


ヌゥがなんか機嫌悪かった理由はもしかしてそれか?


「アグのバカ! 俺のこと好きとか言って、もう信じない! 大嫌い!」

「はあ?! ざけんなよ! 何勝手なこと言ってんだ」


メリはおかしくて大笑いしていた。


「何笑ってんだ! お前のせいだろ!」

「知らなーい! あーもう私お腹いっぱい! ベルもう部屋戻ろー!」

「そうですね。明日も早起きしないと!」

「め、メリさんの部屋…、ど、どこですか?」

「ちょっと! まじ変態! ついてこないでよ!」


メリたちはヌゥとアグを残してさっさと部屋に戻っていった。


「……なんだあれ」

「……」


隣に座るヌゥは膨れっ面だ。


「いやお前、あれはメリが適当なことを言っただけだぞ」

「……」


彼女からはムスぅっとしているオーラが未だに漂っている。


「ていうかお前俺のこと忘れてんだし、別にいいだろ。気にするようなことか?」

「……」


はぁ…とアグはため息をつく。


「俺らも部屋戻るか、もう…」

「……」


アグはヌゥの手を引いて、3階に上がった。

アグはヌゥを彼女の部屋の前に連れて行く。


「お前の部屋ここだろ」


ヌゥはアグの手を離さなかった。


「何なんだよ、もう……」


ヌゥはそのままアグの部屋まで行って、その中に入った。


「あのなあ、ここは俺の部屋。お前の部屋は、隣」

「知ってる!」


ヌゥはアグのベッドの上にどしんと座り込んだ。


「……勘弁しろよ」

「……」


ヌゥはそこからじっとアグを見上げている。

アグは顔を赤らめながら、彼女の肩に手を置く。


「部屋もどれって」

「戻んない!」

「…戻れよ!」

「嫌だっ!」


アグはそのままヌゥにキスをした。


「っはぁ……」


そのままヌゥを押し倒した。


「っんん……ん…」


しばらくキスをしたあと、アグは彼女から顔を離す。

ヌゥは顔を真っ赤にして、まだ少し怒ったようにこっちを見ている。その目はどうしてか潤んでいる。


「戻れっつってんだろ……」

「……」


我慢できないから。

ほんとに。


「何でアグは俺のこと好きなの。俺は元々男だし、女になってもおっぱい小さいし、料理もできないし、頭も悪いし…うう…」

「いいだろ別に……そんなこと……」

「だって…どうしてかわかんないんだもん。自分の中でアグに好かれるようなところ1つも見つけられないんだもん。俺は何にも覚えてないのに。君のこと知らないのに。なのに、何でか君のこと…うう……気にしてしまって……何で…なんだろう……何で……」


やめろよ。

そんなこと言われたら…俺は…

俺は……


アグは、遮るように彼女の口を自分の口で塞いだ。彼女への気持ちが溢れるばかりで、もう自分では、止められなくなる。


「信じろよ……好きなんだから…お前のことが…」


何回も、言わせんなよ。

何回言ったって、どうせ足りないんだから。


男とか、女とか、関係ないんだ、もう


君が何が得意で、何が苦手なのかも、何でもいいよ


それが君だというなら、俺はその全てを愛することができる

ただそれだけ


それだけなんだ、もう


生まれて一度も人を好きになったことのない君がさ、

初めて好きになったのが俺だった


そんな君の愛をね、俺は絶対にこぼしたくなんてなかった。


俺はそのまま、また彼女を抱いてしまって

だけど彼女も、嫌がらなくって


それがどうしてなのかも

考える余裕もない


俺はただ、君と、一緒になりたいだけ。


「じゃあ…俺のこと、どれくらい好き?」


ヌゥは俺に尋ねた。



『なんで、俺なの?』


あの日、俺はヌゥに聞いた。


『わかんないけど、アグのことが好きだから』

『お前の好きって、なんなの』

『好きは、好きじゃないの? 他に何か、あるの?』


…なあ、あの頃、俺たちまだ、友達だったのにな…。



「お前のためなら死ねる、そのくらい、好き……」

「っ!!!」


ヌゥはそれを聞いて、涙が溢れた。

アグも彼女を見て、同じように涙を流す。




『うーん…まあでも、アグの為なら死んでもいい。そのくらいには、好きだよ』


『死ねるよ……俺だって……お前のためなら……』




ヌゥは涙が止まらなくなった。


(返して……返してよ……)


お願い。


俺の、一番、大事なものなのに。


俺の命よりもさ、大切なものなの…。


お願い、返して…


「うう……うぅ……ひっく……ぐす……」


(俺からとらないで……)


返して。



君の記憶がなくなった俺なんてね、もう俺じゃない。


君のことを忘れてしまった俺なんてね、何の価値もないの。


ああ、でもね


俺…信じられるよ…


君は俺のことが好きだって…


だってきっと、俺と同じ気持ちなんだもんね…


俺さぁ……


君のことがほしくて、たまらないんだよね…。



その日、確かに2人は愛を確かめあって、

気づいたらもう、朝になっていた。




















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