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飛べ

「ベーラ・マーキルだ。よろしく」

「お…おう…」


それはレインがジーマに拾われて、特別国家精鋭部隊に入った日のことだった。


レインは、唯一女性で部隊に所属する、無表情な彼女を見て思う。


(うっわ〜無愛想な女)


綺麗な顔してるけど、化粧っ気もない。年は俺よりは少し上だろうな。服装も地味だし、口調も女らしくないし、やったらとっつきにくい女だな、というのが、第一印象。


(まあ、拾ってもらって文句も言ってられねえか。働かねえと生活もできない。今更サバンナに帰って野生動物生活ってのもなあ…。人間の飯のがうまいし)


「我が名はアシードじゃ! よろしく頼むぞ若僧よ」


あとはやたらテンション高い上裸のおっさんか。まともなやつがいねえな。


「それじゃあ新しい仲間も増えたことだし、皆で食堂でご飯でも食べよう!」

「がっはっは! 今夜は祭りじゃあ〜! 若僧、酒はいけるクチか?」

「んあ? まあ、それなりには」

「明日も仕事あるよ〜飲みすぎないでね!」


俺は早速食堂とやらに連れて行かれてこいつらと飯を食うことになる。ベーラは特に何も話さなかった。なんだ無愛想でその上無口かよ、とその時は軽く思ったが、まあ特に気にしてもいない。


「……まじかよ」


俺はベーラの大食いを見て呆れ返った。

俺がじっと見ているのに気がついて、ベーラは口を開く。


「なんだ」

「いや、どんだけ食うんだと思って」

「お前、それ食べないのか? だったら私がもらうぞ」

「だっ、駄目に決まってんだろ! これは俺のだ!」


危ねえ危ねえ。こんだけ食って人の分までとろうとするとは、なんて卑しい奴だ。というか胃袋おかしいだろ。


「あはは〜ベーラはこれが通常運転だから」

「どんだけ食費かかんだよ…」

「今日はレインの歓迎パーティだから、ジーマのおごりだ」

「えっ?! 嘘でしょ?!」

「がっはっは! ならば酒も飲みまくるぞぉぉ!!!」

「ちょ、ちょっと、勘弁してよ…!」


まあこいつが変な女だってことはよくわかった。思ったよりも嫌な奴ってわけでもなさそうだ。


俺とベーラは一緒に仕事をすることが多かった。

まあこの頃は人数も少ないし、当たり前なんだけど。

仕事を教えてもらうのも兼ねて、2人で派遣にもよくいかされた。


その日は国の内乱者の制圧の仕事だった。戦闘任務はこの日が初めてだった。


敵の陣地は崖の上にあって、こちらが下から攻めるというなんとも不利なスタートだった。

向こうは何人もの内乱者が壁の隙間から弓矢を構え、迎撃体制をとっている。


「おい…この人数、たった2人でどうすんだよ…」

「私はここで待機している。お前1人で行け」

「はいい?!?!」


ベーラは腕を組んでレインを睨む。というか元々睨んでいるような顔なだけだろうけど。


(まじかよこいつ…俺一人にやらせんのかよ…嘘だろ…)


「何してる。早く獣化しろ」

「わーったよ」


レインはしぶしぶライオンの姿になる。


「私が呪術で援護する。お前は突っ込んでいけ」

「大丈夫かよその適当な作戦……」


まあこの女がやれというのだからしゃあねえ。ここまできて引き下がるわけにもいかねえからな。


レインは敵の陣地に向かって駆け出した。


敵は当然のごとく矢を放ってくる。


「避けるな! 進め!」


ベーラの声が聞こえて、レインはそのまま一直線に駆けていく。


すると、ベーラの土の柱が、飛んできた矢をすべて薙ぎ払った。


(まじか!)


敵も驚いている様子だが、レインは足を止めずその壁に向かって飛び上がる。


(やべ…近くに来たら思ったよりも高え!)


レインが飛び越えられないと察したとき、下から足場が現れる。


(これはあの女の…術!)


レインはその土の柱を踏んで軽々と壁を飛び越える。


「うわああ!!!」


ライオンの襲撃に人間たちは叫びながらも戦おうとするが、彼の敵ではない。

あとから近づいてきたベーラは影に隠れながら、レインの背後から襲う人間の武器を、土の柱で見事にガードする。


(何だ…これ…)


レインはベーラの術に驚きながらも、人間たちを全員薙ぎ払った。


(何て…戦いやすいんだ……)


レインは戦いを終えると、ベーラを見つめた。

ベーラも無表情のまま、こちらを見ている。


「何だ」

「いや…お前すげえな……」

「倒したのはお前だろう」

「いや…まあいいけど……」

「ふん……」


ベーラの愛想は悪かったが、そんなことは全く気にならなかった。


「さっさと帰って報告するぞ」

「ああ、待て待て! 人型にすっから」


と言ってレインが人間の姿になると、彼は真っ裸だった。


「あれ?!」

「……」

「俺の服、どこ行った?!」

「これだろ」


ベーラは、レインが獣化した際に落とした服を彼に投げつけた。


「おお! さんきゅー!」

「……」

「おい! あんま見んなよ! エロババア!」

「誰がエロババアだ」


ベーラの出した柱は、俺の大事なところにクリーンヒットして、俺はしばらく目を回した。


俺は情けなくも服まで着せてもらって、ベーラが生み出した馬車に乗せてもらって、アジトまで運ばれた。


「その獣化、問題だな」

「しょうがねえだろ…」


俺はベーラを睨みつけた。


ところが次の日、俺が食堂で朝飯を食べていると、ベーラがやってきた。そして伸縮機能のある特別製の服だと言って、俺にそれをくれた。しかも着替え用に予備も含めて三着も。しかもデザインもなかなかのセンスの良さだった。


「お前…ほんと凄いな」

「何がだ」

「いや…ありがとな! ベーラ!」

「……」


レインはベーラに笑いかけた。


「そういや、お前…全身火傷が酷いな」

「ん? ああ…まあな…」


ひょんなことからベーラに俺の過去を話すことになった。

ジーマには入隊の時に話をしたのだが、他のメンバーで最初に話したのは彼女だった。


俺の話が終わった後も、ベーラは何の表情も変えなかった。


「……」

「いや、何か言えよ!」

「…どんまい」

「それだけかよっ!!」


ベーラの感想なんてそれだけだった。

まあでも変な同情されるよりは、こっちの方がベーラらしいよ。


「まあ、過去は過去だからな。大切なのは未来と、目の前のご飯だ」

「お前の頭は食うことだけなのかよ…」


朝から丼ぶり5つをペロリと平らげる彼女を見て、俺はおかしくなって、笑うだけだった。


「まあでも、俺が得体のしれないライオンじゃないことはわかったろ」

「別にどんな奴でもいいよ。あいつが仲間にしたやつならな」

「あいつって、ジーマかよ」


ベーラは頷いた。


「随分信頼してんね、あのへたれの隊長のことをよ」

「リーダーを信頼できないと、隊は崩れるぞ」

「まあそうだけど…」

「それにあいつはへたれじゃない。鬼だから」

「はあ?」


ベーラがそんな風に言うもんで、本当はジーマは怒ったらめちゃくそ怖いやつなんじゃねえかと思ったが、あいつが怒ることはなかった。だからもうそんな事を言ってたことも忘れてた。


その後も俺はベーラと組むことが多くて、彼女の呪術はいつも俺をサポートしてくれた。まるで俺の心を読んでいるみたいに、俺がしてほしいことがわかってるみたいに、彼女は俺を守りアシストする。


その日も気分よく仕事を終えて、俺はベーラに近づいた。


「今日も楽勝だったな相棒!」


俺は右手を握りしめ、顔の横にやると、クイクイと手首を振った。


「お前の相棒になった覚えはないが」

「そんなつれねーこと言うなよ! ほら!」


俺はまた右手をクイクイとやる。ベーラも何かわからぬまま、俺と同じように左手を握って軽く上げた。


俺は彼女のその左手に、コツンと軽く拳を合わせた。


「これからお前は俺の相棒だから!」

「……」


レインは笑ってそう言うと、先に歩いていった。

ベーラはまるで表情を変えず、彼の背中を見ていた。




(死ぬな…絶対に死ぬんじゃねえぞ…!!)


レインは来た道を全力で戻っていく。


(くそっ…このペースで間に合うのか?!)


人が乗っていない分スピードは増すが、それでもまだやっとのことでグザリィータに戻ってきたくらいだ。


すると、彼の脳裏に聞き慣れた声が響く。


【飛べヨ。レイン!】

「?! アンジェリーナ?!」


レインはハっとして、辺りを見回す。


【俺の力をやっタだロ? お前ハ飛べる。飛べ、レイン!】


すると、ライオンであるレインの背中に、大きな翼が生えた。


「うわっ!」


その巨大な翼は炎のように真っ赤で、バサバサとそれをはためかせたかと思うと、レインは空に飛び上がった。


レイン自身もまた、アンジェリーナのようにその身体を巨大にし、まるで鳥と獣が融合した新しい動物のように、全身を真紅に染め上げ、その姿を変えた。


「まじか…!」


レインはアンジェリーナにそぐわぬ速さで空を駆け抜けていく。


「速っやぁぁ!!!!」


(間に合う! これなら! ベーラ…待ってろよ…!)



ベーラはもう限界に達していた。

二角獣の光線に、バリアは打ち砕かれようとしている。


(くぅ…ここまでか…)


城が……やられるっ……!!!


すると、大きな影がこちらに迫ってきたかと思うと、そいつは二角獣に激しく体当たりを食らわせた。


「っっ!!」


ベーラは驚いた様子でその巨大な赤い獣を見ている。


二角獣も不意をつかれたか、そのまま地面に身体を打ち付けた。


赤い獣は1人で戦ったベーラを見ると、言った。


「待たせたな相棒!」

「レ、レインなのか?!」


ベーラは開いた口が塞がらないという感じだ。


「乗れよ!」


レインはベーラを背中に乗せると、飛び上がった。











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