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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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貴族令嬢

三人は砂漠の入り口まで一旦戻って、マルティナという名の派手な女を横たわらせた。


「で、誰だよこのクソケバい女は…」

「マルティナ・ビーカルブ。この国の貴族ですよ…。性格も見た通りの高飛車な女性で、貴族の付き合いのせいで顔なじみなんですが、私は正直苦手です」

「だろうな」

「まあでもこう見えて頭は良くて、野生動物生態研究会に所属しているんです」

「え、もしかしてハルクさんの言ってたツテっていうのは…」

「はい…。彼女のことです」


レインとメリは驚いた様子で、未だ完全に伸びているマルティナを見下ろした。


「んだよ…それを早く言ってくんねえと…」

「言わなくても急に一般人を襲わないでくださいよ」

「わりぃわりぃ。で、これからどうする?」

「とりあえずレインは人間に戻ってください」

「ああ! そうだな!」


レインは獣化を解いた。


「とりあえず宿を取りにいきましょう。彼女の家もわかりますが…まあそのうち起きるでしょう」

「わかりました!」

「よし、じゃあいこうぜ〜。担ごうか?」

「いいですよ。私が連れていきます」


レインは頭に手をやって先に行く。ハルクはマルティナを背負って、歩きだした。

メリは後ろから二人に着いていく。


(私もこの人結構苦手だなあ……)


やがてハルクの昔から知る宿を見つけ、部屋を借りた。

宿屋の主人は久しぶりに彼を見たのか驚いた様子だ。


「は、ハルク様?!」

「お久しぶりですご主人」

「随分大きくなられましたねぇ! おや、マルティナ様もご一緒なのですね」

「ああ、彼女は起きたら出ていかせますので、泊まるのは私たち3人だけです」

「そうですか。わかりました」


ハルクは2部屋借りて、個室のカギをメリに渡した。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


メリは宿のカギを受け取った。


「不要な荷物だけ部屋に置いてきてください。私達の部屋に集合しましょう」

「わかりました!」


メリは自分の部屋に向かい、ハルクとレインも部屋に入った。

ハルクはマルティナをベッドに寝かせた。


「まさか、今日彼女に会うことになるとは思いませんでした」

「あの人混みの中、この女もよくお前を見つけられたな〜」

「……」


トントンと部屋をノックする音がして、メリも中に入ってきた。


すると、マルティナがようやく目を覚ました。


「おーおー起きたか〜? 貴族さんよぉ!」

「ひっ! ひいい! ライオンっ!!! 食べられるぅぅ!!!!」


マルティナは思い出したようにレインから退いた。


「食わねえよ。落ち着けっての」

「は、ハルク?! 何なのよ! この男は!」

「仲間ですよ、私の」

「こんなタチの悪そ〜うで頭も悪そ〜うな奴を仲間にしてんのぉ?!?!」

「おいこらてめえ! やっぱり食うぞ?!」

「きゃああああ!!!!」

「レイン…ふざけないでください」

「ふざけてんのはこの女だろうがよ! 口の聞き方教えてやる!」

「なんて野蛮な男なの!? ハルク、駄目よぉ〜! こんな奴と関わっちゃ!」

「……」


メリは騒然とするその場を見ているだけで、何も言えないでいた。


「マルティナ、落着いてください。あなたに頼みがあって来たんですよ」

「あら〜! ハルクが私に? 嬉しい〜!! 何でも言ってちょうだい!」


マルティナは身体をくねくねさせて喜んでいた。


「君の研究会にラミュウザ・ダリシエーという方がいるでしょう。その人に会わせてもらえませんか?」

「ええ? ラミュウザさん? いいけど、彼は今遠征中よ?」

「え?」

「はあ?!」


ハルクはマルティナに尋ねる。


「遠征って、どこに…」

「ここから更に南東の沿岸国ヴィルスゲーテよ」

「…いつ戻るんです?」

「さあ〜…そこから海に潜って、海底の調査に行っているのよ」

「か、海底にですか?」


メリは驚いてつい声を出した。


「あら〜可愛いお嬢さんねぇ! そうなのよぉ! 見たって人がいるんだからっ!」

「見たって何をですか…?」


マルティナは口に手を当てて、目を輝かせながら答えた。


「人魚よぉ〜!」

「人魚ぉぉ?!?!」


三人は顔を見合わせて驚いた。



夜の21時になったので、ベーラは部屋で無線を前に、連絡を待っていた。


「おいベーラ!」

「レインか。グザリィータには着いたのか?」

「着いたんだけどさ、あのラミュウザって奴が遠征に行ってて国にいないんだと」

「そうか…すぐに帰ってくるのか?」

「それが帰る見込みがねえらしくてさ、ヴィルスゲーテから海底に潜って、人魚を探しにいってんだってよ!」

「…人魚? 空想上の生物だろ?」

「そうなんだけどよ」

「まあ外の大陸には妖精もいたことだしな…」

「まあだから、俺たちも明日ヴィルスゲーテに行ってみようと思ってんだけど、いいか?」

「もちろんだ。苦労かけるな」

「いやいや! お気になさらず隊長さん!」

「だから隊長さんはやめろ」

「まあまた遅くても明日の夜には連絡すっからさ。しばらくは帰ってこないかもって皆に言っといて」

「うむ。こちらもセシリアの護衛を頼まれてな、私以外は明日からシルヴィアまで行くことになったよ」

「なんだ、そっちも忙しいな…」

「まあそういうことだから、よろしく頼むよ」

「あいよ。お前もちゃんと休めよ。それじゃあな」


そう言って、無線は切れた。


(皆やたらと私に気を遣ってくるな…)


ベーラはベッドにごろんと転がった。


(ああ…夜ご飯食べるのわすれてた……)


しかし、起き上がるのももう面倒くさい。


(まあいいか…たまには……)


ベーラはそのまま目を閉じて、眠りについた。



メリたちがマルティナから話を聞いたところ、どうやらヴィルスゲーテで人魚の目撃情報が相次いでいるらしい。

それを聞いた野生動物生態研究会の幹部であるラミュウザが、数人の研究員を連れて数日前から調査に向かったとのことだ。


人魚は空想上で語られているだけの生き物で、未だかつて本当に人魚を見たという人間はいない。


上半身が人間で下半身が魚である人魚は、海で暮らす生き物だと言われていて、嘘がホントか、人魚の鱗を食べるとどんな病も治るとされる伝承もあった。


人魚がいるかいないかはさておき、ラミュウザに話を聞きたいメリたちは、翌日ヴィルスゲーテを目指すことに決めた。


さてどうやってラミュウザたちは海底に潜ったのかというところだが、シルヴィア国で開発された、水中で30分間息ができるという魔法のような薬があるのだという。


薬の名前はアクアラング。それがバカ売れして、シルヴィアは一気に国としての名を挙げて、今ではバットラを超える勢いで成長しているという。


マルティナはその薬を提供する代わりに、自分も一緒に連れて行ってほしいと言い出した。文句を言うレインを何とかなだめ、三人はマルティナの同行を受け入れた。


「やったぁ〜! ハルクと一緒に旅に行けるなんて! すっごく楽しみぃ〜! この獣人とかいう野蛮な人がいなければ本当に最高!」

「このクソ女が! 俺にはレインって名前があんだよ」

「あんたこそ! 私を誰だと思っているの?! マルティナ・ビーカルブ様よ?! 貴族の令嬢よ?!」

「知るかよ! 俺は人を見下す貴族の輩が大っ嫌いなんだよ!」

「二人共…もう夜遅いんですから静かにしてくださいよ」

「そうですよ。レインさん、落ちついてください! アクアラングは普通に買ったらすっごく高価なんですよ! それを提供していただけるんだから…ね!」


マルティナは自分の味方をする桃色ツインテールの可愛い彼女に、ぎゅっと抱きついた。自分のふくよかな胸の中に彼女の顔をうずめた。


「あなたは良い子ね〜!! かわいいしぃ!!!」

「っ、うぐっ!!」


(おっぱいでかっ! い、息できないっ!!)


「あなたの名前は何ていうのかしら?」

「め、メリです。メリ・ラグネル…」

「メリちゃん! 素敵なお名前じゃないの〜!」


メリはどうやらマルティナに気に入られたようだった。


「そうだ! 私、今日はメリちゃんの部屋にとーまろうっと!」

「えええ?!」

「マルティナ、3人分しか宿代も払っていませんので。今日は家に帰ってくださいよ」

「嫌あよ〜! 自分の分は明日にでも払うから安心してぇ〜! じゃあ行きましょうメリちゃん!」

「は、はあ……」


メリは困ったようにハルクを見たが、ハルクは目をそらす。


(うわっ! 無視された!)


「レインさん〜!」

「しゃあねえ…頑張れメリ」

「嘘でしょ!! あああ!!!」


メリはマルティナに腕をがっしりと掴まれたまま、メリの部屋に連れて行かれた。


(何でこの人と一緒に……)


マルティナは1つしかないその部屋のベッドにゴロンと転がった。


(……)


「うふふ〜! メリちゃんと仲良くなろうっとぉ〜。私のことはマルティって呼んでいいわよ!」

「マルティさん…」

「さんは要らないわよ〜、さんは!」


(苦手だなあ……)


メリは顔をしかめる。


「私シャワー浴びてきますね」

「は〜い」


メリはため息をつきながら備え付けのシャワーを浴びた。

グザリィータの宿には何故かお風呂がなく、シャワーのみなのだ。


「お風呂はね〜貴族の特権だからあ! お風呂を家に持っていいのは貴族だけなのよ!」


マルティナは肘をたてて顔を手でおさえながら、うつ伏せに転がって足をバタバタさせ、メリに言った。

グザリィータもまた、かつてのガルサイア同様、貴族と平民の立場は大きく差があるらしい。平民をバカにする貴族も多いが、奴隷のように扱うといったことはなく、同じ街に暮らしてはいるので、ガルサイアよりはましだった。


「ねえ、メリはあの二人のどっちかと付き合ってるの?」

「へ?! そ、そんなわけないじゃないですか!」

「あら〜そうなのねぇ」

「私は他に好きな人がいるんです…でも最近ふられたばっかりで…」

「えー?! そうなのぉ?! 私もなのよ! 結婚の約束までしていた婚約者がいたんだけどぉ、私の知らぬ間に他に女作ってたのよ! 信じられないでしょう?!」


それを聞いたメリは目を丸くした。


「え!! 私も、私もなんですっ!!!」

「えーっ?!」


その後二人はまさかの意気投合してしまって、夜遅くまで話し尽くした。


マルティナの過去の男話も聞いたが、彼女はなんというかまあ、男を見る目がないのか男運がないのか、いつも男に浮気されては捨てられていた。もしかしたら彼女の方が遊び相手にされていただけなのかもしれないが…。


メリも話を聞いてもらって、マルティナは大袈裟すぎるくらいにメリの気持ちに寄り添ってくれた。


「婚約指輪までくれたのに?! 何よそいつ! ほんっと最低ね!! 相手の女も同じ仲間とか、あり得なーい! よく仕事続けられるわねえ」

「ええ…まあ…」


メリはアグやヌゥのことをひたすら悪く言われて、そこまでじゃないのだけれどとも思ったが、マルティナは止まらなかった。だけど彼女なりにメリを慰めようとしてくれているんだと思って、メリもマルティナの話を聞きながら、目一杯彼女を励ました。
















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