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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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グザリィータへ

「よし、乗ったか?」


城下町の商店街で昼ご飯を買ったレインたちは街を抜けた。獣化したレインに、メリとハルクが跨った。ベーラの出した固定ベルトをしっかりとつける。


「乗りました!」

「こっちも大丈夫です」

「よっしゃ、それじゃあ行くぜ。振り落とされんなよ!」


そう言って、レインはグザリィータを目指して駆け出した。

マリーナの森を颯爽と駆け抜ける。


「は、速いぃっ!!」


メリは激しく揺れるレインの背中に驚きながら、固定ベルトにつけられた持ち手をしっかりと握りしめた。メリの後ろにはハルクが落ち着いた様子で座ったまま、方位磁石を手に持っている。


「ハルク、方角確認しとけよ」

「大丈夫ですよ。そのまま直進で」


あっという間に森を抜け、元シプラ鉱山だった山道を駆け抜けた。


「だいぶ道が開拓されてきましたね」

「鉱山としてはもう役に立たねえけどな」

「ん? 何の話ですか? ひゃあっ」


メリはバランスを崩したが、体制を整える。


「おい大丈夫か!」

「問題ありません進んでください」

「ハルクさんなんか私にだけ冷たくないですか?!」


メリは顔をしかめながら言った。

レインもため息をつく。


「おい…どうしたハルク」

「すみません。この前メリさんが酔ってるときに荒れてる様子を見て、ひきました」

「えええっ!!!」

「はぁ……」


ハルクは目の前に座るメリにまるで物怖じせずに言い放つ。


「痴情に溺れる人は苦手なので」

「ぐぅ!!!」


メリの心にグサグサと言葉が刺さる。


「おいハルク…メリが可哀相だろ…」

「そう言われましても」

「れ、レインさん…怖い…怖いよ! ハルクさんが!」

「こいつは苦手な人種に冷たくするタチなんだよ…」

「ええ! 苦手って! 私、ショックがでかいんですけれど! 今まで同じ研究チームで仲良くやっていたと思ったのに?!」

「その時はもっと寛容な方だと思っていたんで」

「ぐうぅっ!!!」


(う…嘘でしょ…私? 私が悪いの?!)


メリは自分の後ろからの冷ややかな目線を感じて、いっそう顔をしかめた。


「メリ…あんま気にすんなよ」

「いや、気にしますよ!」

「大丈夫。俺がハルクに初めて会った時もすげえ嫌われてたから」

「え…そうなんですか…?」

「…その話は今はいいでしょう」


鉱山も半ばを超え、頂上にたどり着いた。


「ちょっと昼すぎちまったが、そろそろこの辺で昼飯にすっか!」


レインも人型に戻り、買ってきた軽食を広げる。


「はぁ…食欲が……」


メリは山頂の岩に腰掛けると、顔をうつむかせた。


「おいハルク…お前のせいだぞ」

「知りませんよ…」


ハルクは何食わぬ顔でサンドイッチを食べ始めた。


「おいおい…先が思いやられるな…」


レインは呆れながら、水を持ってメリに近寄ると、彼女の背中をさすりながらそれを差し出す。


「まあとりあえず、飲み物だけでも飲んどけよ…こっから砂漠を超えるんだぞ」

「ううっ…うっぷ」


メリは吐き気をもよおしていた。


「えっ?! そんなにメンタルやられちゃった?!」

「いや…酔いました……」

「はああ?! いや、俺のせいかよ!」

「すいません……うっぷ…」


メリは口を手で抑えた。


(私、もう駄目かも…この旅……! ハルクさんにも嫌われて…自信ないわあ!!!)


「どうぞ」


ハルクはメリに小瓶を渡す。中には白い錠剤が入っている。


「は、ハルクさん……」

「酔い止めです。酔ったあとでも効果はありますよ。成人は1回2粒です。10分もたたずに効き目が出ますよ」

「あ、ありがとうございます……」

「ほれ、水…」

「すいませぇん……」


メリは薬を飲み込んだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ…ハルクさんが優しい…」

「いえ、ここで立ち往生は困るんで」

「ゔっ」


(全然優しくないい!!!)


レインはハルクを小突いた。


「痛っ!」

「いい加減にしろっての! メリは婚約までした男にあっさり捨てられたんだぞ!」

「レインさん! そんなはっきり言わないでくださいよ!!」

「男なんてそんなもんですよ」

「いやいや! 俺を見ろ! そうじゃない男もいるってほら!」

「いいなあ…フローリアさん…死んでも愛してもらえるなんて…それに比べて私は…うっ、うっ、おええ!!!」

「おいい!! 吐くならあっち行けあっちぃ!!」


しばらく休息をとって、メリも落ち着いてきた。


「少しでいいから、食べてください」


ハルクはメリにパンを差し出す。

メリは彼から恐る恐るそれを受け取る。


「空腹は酔いの原因になりますから」

「あ、はい……」


メリはパンを食べ始めた。

(はぁ…ハルクさん何か最近急に怖くなったわぁ…私この前そんなに荒れてたかなあ…)


パンを食べ終わって一息つくと、メリは言った。


「大丈夫です! もう出発しましょう!」

「本当に大丈夫かメリ」

「大丈夫です…すみません…」


レインは獣化し、メリはレインに跨った。

ハルクもメリの後ろに乗ると、彼女を支えるように身体を先ほどよりも近づける。


(え…?)


メリは少しドキっとしながら、持ち手を握りしめた。


「背筋伸ばして」

「え! あ、はい!」


ハルクの言う通りにメリはピンと背筋を伸ばした。

ハルクはメリの後ろから腕を通すと、一緒にその持ち手を握った。


(んんん?!)


メリは緊張した面持ちでそのまま何もできない。


「レイン、いいですよ」

「乗れたのか? んじゃ行くぞ」


レインは駆け出した。

山頂からぐねぐねの下り道を駆け下りていく。


「下見ないで。遠く見て」

「はい!」


(あれ…さっきより全然気持ち悪くないな…薬飲んだからかな? ハルクさんが支えてくれるからバランスが崩れない)


「身体が激しく不規則に揺れたり、見ている景色と身体の動きが合ってないと酔うんです」

「は、はあ……」


(そうなんだ…というか、近いっ!)


メリは少し顔を赤らめた。


「ハルクお前、初めて乗る割には随分慣れてんな」

「昔乗馬を習っていたので」

「は? 初耳だけど」

「聞かれませんでしたので」

「おいベーラの真似すんな! しかもそんなの聞くやついねえだろ」


あっという間に山を下って、荒野を抜けると、ミルガン砂漠に入った。

すぐに見渡す限りの砂漠が広がった。


「こっからが長えからな…スピードあげるぞ?」

「大丈夫です!」

「レイン、少し右にずれてますよ」

「おっけー!」


砂漠に入った途端に気温が急上昇した。


(暑いわね……)


メリはその日差しの強さに目を細める。


「もう慣れてきましたか?」

「え? は、はい」


メリが返事をすると、ハルクは手を離すと、彼女から少し後ろに下がった。


(はぁ〜無駄にドキドキしたぁ!)


「でもハルク、お前すげえな! ピアノに乗馬て、貴族かよ!」

「貴族ですよ」

「えっ?!」

「そ、そうなんですか?!」


レインとメリは驚いたような声を上げる。


「そんなに驚くことですか? 何ならレインは元王族でしょう」

「俺は……サバンナ出身だぞ…」

「そして私は孤児……です…」


すると、レインは尋ねた。


「そういや、ハルクってセントラガイト出身じゃねえの?」

「いえ、私はグザリィータの出身です」

「そうなのかよ! じゃあ故郷に帰るようなもんじゃねえか! さっさと言えよ!」

「別に…そんなに母国に思い入れもありませんし…」


ハルクは興味なさそうに話をする。


「だからハルクさんも薬学に詳しいんですね!」

「以前はグザリィータの薬草学研究会に入っていましたから…でもセントラガイトの研究所の方が断然大きいですし、多くの分野を扱っていましたから、転職したんです」

「ふう〜ん…俺あんまりお前のこと知らなかったんだな…」

「昔のことは話したくありませんでしたから…」

「まあいい思い出もなさそうだったから…聞かなかったんだけどさ」

「ふふ…気を遣わせて申し訳ありません」


ハルクは少し笑いながら、そう言った。


(ハルクさんて貴族だったんだ…。私もハルクさんのこと全然知らないな…。嫌われてるから、聞いても教えてくれなそうだけど…。それにしても暑い……)


メリは果てしなく広がる砂漠の景色を見ながら、垂れてくる汗を手の甲で拭った。


「どうぞ」


ハルクはメリに小さいタオルを渡した。


「あ、ありがとうございます…すみません…」


メリはそれを受け取って、顔を拭いた。


(何なのハルクさん…ツンデレなの?! はぁ……調子狂うなあ……)


それから、途中で水分補給に休憩を取りながら、2時間ほどかけて砂漠を越えた。夕方をすぎて暗くなってきたところにグザリィータに到着した。


「お疲れ様レイン」

「レインさん! ありがとう!」


レインは人型に戻ると、ぐーんと腕を伸ばした。


「っはあ〜! 着いた着いた!」

「馬車だったら砂漠越えるだけで2日はかかりましたよね!」

「とりあえず宿を探しましょうか」


ハルクは二人を先導して歩いていく。


「さすが故郷、詳しいじゃねえか」

「まあだいぶ街並みも変わっていますけどね」


グザリィータは二番目に大きな国。セントラガイトより領土は若干小さいが、似たような感じで街は賑わい、栄えていた。

辺りは暗くなってきたが、店の光や街灯がつき始め、夜でも明るい雰囲気であった。


「あれ〜?! もしかして、ハルクじゃないのぉ?!」


無駄に高飛車そうな女性の声がして、三人は振り向いた。

彼女の姿を見たハルクは、顔を引きつらせた。


「マ、マルティナ……」


メリはその女を凝視する。


彼女は見事に巻かれたブロンドの髪をたなびかせ、非常に濃い化粧を施し、キラキラ輝くアクセサリーを至るところにつけている。胸元がぱっくり空いた真っ赤なドレスワンピースを着て、白いボレロを羽織っている。

顔は整っているし美しい人だとは思うが、あまりにも派手な彼女の印象はあまり良いものではなかった。


「いや〜ん! すっごい久しぶりねぇ!! どうしたのよ、突然帰ってきてぇ!!」

「やっぱり人違いです…」


ハルクはそう言って逃げようと試みたが、彼女に腕を掴まれ、胸を押し付けられる。


「何言ってるのよ〜! 私の名前ちゃんと覚えてくれてるじゃなぁい!!」

「……」


ハルクはものすごくウザそうに、彼女を見ている。

レインは彼女に近づいて、言った。


「おいおい、誰だよこのケバ女は」

「けっ、ケバ女ぁ?!?!」


マルティナはあからさまに怒って、レインに掴みかかった。


「誰がケバ女じゃクソガキぃぃ!!!」


メリは引きつった顔で彼女を見ていた。

(こ、怖ぁぁ!!!!)


レインはニヤっと笑うと、彼女の前で獣化してみせた。

ライオンになった彼は、彼女に向かって大きな吠え声を上げる。


「きゃああああ!!!!!」


どこから出すのかというくらい甲高い叫び声を上げたかと思うと、マルティナは気絶した。


「お、おいライオンだぞ?!」

「きゃああ!!!!!」

「何でこんなところに?! 研究会から抜け出したのか?!」


ハルクはマルティナを支えるとレインに向かって言った。


「何やってるんですか!」

「いや、何かうぜえなと思ってつい…」

「ついじゃありませんよ! 一旦ここから逃げますよ!」

「んだよもう…」

「ひ、人が集まってきましたっ!」


レインはそのままハルクとメリ、そしてマルティナを乗せて、街から離れ、人目のないところまで逃げた。





























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