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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

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ベルの実家

「お父さーん」

「ん? リウムか…珍しく帰ってきたのか…げっ」


カルトは懐かしい二人の姿を目の前にして、濁った声をあげる。


「カンちゃあ〜ん!!」


ヌゥはそのままカルトに駆け寄って抱きついた。


「なっ、なんでこいつらっ…おい! 靴! 靴を脱げ!」


カルトは顔を引きつらせながら、ヌゥを力ずくで引き剥がした。

ヌゥはしぶしぶ靴を脱いで、頭の後ろに手をやって家に上がった。


「リウム…どうなってんだよ…こいつらこんなとこに連れてきていいのか?」

「お父さんが黙っていてくださればもちろん!」

「いきなり連れてくんじゃねえよ…心臓に悪いな…」

「ひっどいな〜感動の再会だっていうのに」

「お前らとの再会に何の感動もねえよ」


カルトは冷たく言い放ったが、本当は少し嬉しそうにしていることをベルは気づいていた。


三人は家に上がり、ヌゥとアグはベルに先導され、リビングの四人がけのテーブルの椅子に腰掛けた。

突然の訪問にしては家は綺麗に片付いていた。今はほとんどカルトの一人暮らしだろうが、家族が住んでいるような暖かみのある家だった。

ベルは飲み物を入れると、二人にふるまった。


「急に来られても、何も食い物ねえぞ…」

「あるもので何か作りますから! お父さんはほら、二人と話をしていてくださいな」


ベルは家の冷蔵庫を開けると、慣れた手つきで料理を始める。


「何なんだよ、いきなり訪ねてきて…何か用でもあんのか」

「いや、なんにも!」


ヌゥはにっこりと笑って答える。


「アグ…お前まで…」

「いや、俺もさっき一緒に来ないかって誘われたばっかりで」


ベルは包丁でとんとんと野菜を切りながら言った。


「私が呼んだんですよ。お二人はもうね、服従の紋を外してもらっているんです」

「はあああ?!」

「カンちゃん、家だと結構声を荒げるねぇ」

「うるせえな…てかお前のその髪の色何なんだよ…。目の色も…そんなんだったか?」

「俺も色々大変だったんだよカンちゃん。もう色々ありすぎてね、話すのも疲れるよ」


ヌゥは出されたジュースをガブガブ飲みながら楽しそうにしている。


「そういや、ジーマが死んだらしいじゃねえか…」

「うん…」


ヌゥたちは辛そうな表情を浮かべた。


「俺もショックだったよ…騎士団にいた頃は、何て生意気なガキが入ったもんかと思ったが…自分の部隊を立ち上げてからは随分丸くなってやがってさ」

「え? 丸くなったって?」

「んだよ知らねえのか? 最年少で騎士になったはいいものの、当時の騎士団長のアシードには、敬意を払うどころか生意気な口ばっかり聞いててよ。まあ俺はさっさと辞めちまったが、アシードからよく愚痴を聞かされたもんだ」

「ええ?! ジーマさんが?!」

「信じられないです…」


ヌゥとアグは目を丸くして驚いた。ベルもその話を初めて知って、口に手を当ててびっくりした様子だった。


「だってカンちゃん、ジーマさんってめちゃめちゃ優しくってね、もう仏〜みたいな感じだったよ。いっつもにこにこしてるし、全く怒んないし」

「はぁ〜人って変わるもんだな…お前らは全然変わんねえけど…」


しばらく話をしていると、ベルが料理を運んできた。

美味しそうな家庭料理が机に並ぶ。ヌゥとアグはその料理を食べて、その美味しさに感動する。


「簡単なものですけど〜」

「ベル、料理できるんだ。やっぱ女の子だな…」

「すっごいベルちゃん! 今度教えてよ! ね!」

「そんなそんな。教えられるほどでは…」


自分の娘がヌゥたちと楽しそうに話している姿を見て、カルトは不思議な面持ちであった。


「リウムと仲良くしてくれてるみたいだな…」

「うん! もうマブダチだってえ! 一緒にお風呂入っちゃうくらいね!」

「は?!」

「あれ?」


アグは顔を引きつらせて、頭に手をやった。


(バカか…こいつ……)


「ヌゥお前、どういうつもりだ?!」


カルトは眉間にシワを寄せて明らかに怒った様子だ。


「いや…嘘…うそだよカンちゃん…」

「てめぇぇ!!!!」


ヌゥはカルトにのされ、隣のソファに倒れ込んだ。


(いや、そうなるって…)


アグは白けた様子で目を回す彼女を見つめた。


「まあまあお父さん。ヌゥさんもアグさんも、すごく私に良くしてくれていますよ」

「気をつけろよリウム…年頃の若い男は何考えてるかわかんねえからな…」

「大丈夫ですよ。だってお二人は」

「おい! ベル!」


アグは声を荒げた。ベルもハっとして口をつぐむ。

(お前まで余計なことを言うつもりか)


「なんだ?」とカルトは不思議そうだ。


「いや…何でも…というか、ヌゥは俺のこと覚えていないんで」

「はあ? 何だそれ」

「記憶喪失なんです。アグさんの記憶だけなくなっちゃったんです…」


ヌゥもすっと起き上がって再び席につく。


「カンちゃんのことは覚えてるよ!」

「みてえだな。リウム、お前が診てやってんのか?」

「ケアはしてますがまだ…」

(おそらく病気ではないので…)


カルトは腕を組んで二人を見ていた。


「まあ、そのうち思い出すだろ」

「俺もそう思います」


アグは、のんきにベルの野菜炒めをつまむ彼女を眺めた。


「10年も一緒にいたのに忘れるとかあんのねぇ」

「しょうがないじゃーん! だって覚えてないんだもん」

「はぁ…」


アグもため息をついて、揚げ出し豆腐を食べた。


(うんま……ベルの女子力…半端ないな)


「ベルちゃんの料理全部美味しー!」

「ありがとうございます〜」

「本当に今度教えてもらお!」

「ヌゥさん料理なんて興味あったんですか?」

「興味あんのは人殺しだけだろ」

「ひどいよカンちゃん!」

「お前ら本当にちゃんと真面目に仕事してんの?」

「真面目も真面目! 大真面目だよ! 日々命がけなんだからね! んもう!失礼しちゃうね!」


シャドウのことは、王族の一部と特別国家精鋭部隊しか知らない。それ以外に誰にも話してはいけない。

例えベルの実の父親でも。


それをわかっているのか、ヌゥは上手くそのことはかわしながら自然とカンちゃんと話をしていた。こいつにそんなことができるんだなと、正直驚いた。


その後しばらく話をして、夜遅くになってきたのでヌゥたちは城に帰ることにした。アグがベルに、たまには実家に泊まったらと聞いたが、朝から訓練するからと言って、一緒に帰ることになった。訓練ときいてカルトは「?」を浮かべていたが、そこはうまく誤魔化した。

カルトは玄関先まできて、彼らを見送った。


「お前らリウムに手出してみろ。独房に連れ戻すからな」

「カンちゃん冗談に聞こえないよそれ! 大丈夫だって! 俺がベルちゃんのことは守るから!」

「お前が一番心配なんだよ!」

「まあ大丈夫だと思いますよ…俺もついてますから」


ベルも笑って手を振った。


「それじゃあねお父さん。また来ますね」

「ああ。もうこいつら連れてくんなよ」

「カンちゃん酷っ!」


カルトは笑っていた。カンちゃんが笑ったところなんて、見たことあったかなあ、なんて思いながら、扉が閉まる。


こうして俺たちは帰路にたった。


「すっごく久しぶりにカンちゃんに会えてよかった! ベルちゃん、ありがとう」

「いえいえ。こちらこそ、来ていただいてありがとうございます」


ベルは二人に礼をした。


「カンちゃんは何にも知らねえんだろ?」

「はい。シャドウのことは何も。まさか私がシャドウだなんて知ったら、お父さんの心臓止まっちゃいます」

「心配かけたくないもんね。ていうか俺もシャドウだった」

「俺もだけどな」

「え? アグもなんだ!」

「ほんとに何も覚えてねーんだから…」

「すぐに思い出しますって」

「じゃあ皆シャドウなんだ。メリもシャドウでしょ? 部隊はシャドウだらけだね!」

「まあ冷静に考えたらそうなるな」

「シャドウって、何なんでしょうね…」

「本当にな」

「人間と何か違うのかなあ…」


そんな話をしながら歩いているうちに、ヌゥたちは城にたどり着いた。



ヌゥたちがベルの家にいる間、ベーラは国王に頼み事をされていた。


「シルヴィア国ですか…」

「そうなのじゃ。ヴィリが死んだことを知って、第一王子アルベウスをセシリアの婿養子に出してもよいと言ってくれておってな」

「四番目に大きな国でしたよね。薬学の有名な」

「そうなんじゃ。今じゃバットラと並んで、三番目に大きくなりつつある」

「信用できるのですか?」

「もちろんじゃ。今は亡き女王がよく旅行がてら遠征に行っておってな。良くしてもらっていたんじゃよ」

「そうですか…。では早速明日からむかいますか?」

「そうしてくれると助かるのう」


ベーラが国王のところから戻ってくると、アシードが彼女を迎えた。


「大丈夫じゃったか?」

「ちょうど良かった。護衛の依頼を頼まれたところだ」

「うむ?」


アシードが話を聞くと、セシリア姫をシルヴィア国まで連れて行ってほしいとのことだった。シャドウの襲撃もあり、物騒なこの大陸を旅するのに、彼女の護衛の騎士だけに任せるのは心もとないということだ。


「私は残るから、ヌゥと一緒に行ってくれないか?」

「もちろんじゃ。アグとベルは待機させるのか?」

「まあその辺はお前に任せるよ」

「よしきた。それじゃあ皆が帰ってきたら、話をしてみるのじゃ」

「すまない。助かるよ」


ベーラはそう言って、部屋に戻ろうとアシードに背を向けた。


「おいベーラ」

「ん?」


彼に声をかけられて、ベーラは振り向いた。


「あまり無理をするでないぞ。わしに手伝えることは何でも言うんじゃ」

「ありがとう。とりあえず報告書の残りを書くだけだから大丈夫だ」

「うむ。手がほしくなったら遠慮なく声をかけるんじゃぞ」


ベーラは頷いた。


しばらくして夜の21時頃になると、ヌゥたち三人が帰ってきた。


「おお! 待っておったぞ我が同士たちよ」

「何だアシード。どうしたの?」

「それが明日から護衛の仕事を頼まれてな…」


アシードは仕事の詳細を三人に話す。


「アグとベルはどうする? ベーラは好きにしろと言っておったが」

「私も…行きたいです! 役に立てるかはわかりませんが…」

「シルヴィア国といえば薬の宝庫だろ。そしたら俺も行こうかな…」

「じゃったら皆で行くとするか」


そうして俺たち4人は翌日、セシリア様の護衛任務につくことになった。








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