表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/341

終身刑の君と世界を救う

「あ、ありましたぁ〜!!!!!」

「えええ?!?!?!」

「まじかあ!!!!!」


静寂としていた図書室の中、メリが大きな声を上げたので、皆は驚いて彼女のそばに集まった。


「静かにしろ! そのまま会議室へ!」


ベーラの命令で皆は、昨日集まったのと同じ部屋に入る。

メリの持つ本を囲むように、皆は顔を覗かせた。


「新世界大戦…?」


そのタイトルを読み上げて、皆は不審そうな面持ちであった。

表紙には黒い槍を持った鎧の騎士が、角の生えた真っ黒で巨大な生き物と闘っている絵が描かれている。

そこまで分厚くもない、右開きのその本は、子供向けといった感じの雰囲気が漂っていた。


「懐かし……。そうだ…こんな本だった…まさか見つかるなんて」

「さすが大陸一の図書室ですね」

「よくこの数から見つけ出せたよな…」

「それでメリ、作者は?」


ベーラに尋ねられ、メリは表紙に載っている作者の名前を読み上げる。


「ラミュウザ・ダリシエー……」

「うん?」


ハルクは少し頭をひねった。

(あれ…どっかで聞いたことあったでしょうか…)


「誰だそりゃ」

「まるで知らないな」

「アグは?」

「いや…全く……」

「女? 男?」

「というか、本名ではなくペンネームの可能性もある」

「なんだよ〜お手上げかぁ?!」


レインは椅子に腰掛けると、手を頭の後ろにやって足を組んだ。


「とりあえず中身は?」

「見てみましょう!」


メリはページをめくり始めた。


大方の話はメリの話したそれと同じだった。

神の生んだ人間と、魔王の生んだ魔族たちの戦いが始まる。


どうやら人間目線で進んでいくこのストーリーは、魔族たちは悪者のように描かれている。

魔王といったらそれはそれは悪い奴で、人間たちを滅ぼそうと全力を上げる。


「うさんくせえな〜…」

「童話なんだからしょうがないでしょう…」

「黙って聞け」


そして神に選ばれた4人の人間たちは最後、4つの伝説の武器を使って魔族たちを滅ぼし、平和な世界を取り戻してハッピーエンドだ。


「うん?」

「あれ? 終わり?」


ページはそこで終わっている。

皆は首をかしげる。


「人間同士で戦争を起こし始めたから、武器に封印したんじゃねえのか?」

「話が違う?!」


メリは本を手に握りしめて、じっと睨むようにしてそれを見ていた。


「記憶違いってことはねえのか?」

「そんなはずは……」

「あ!!」


ハルクが声を発したので、皆は驚いて彼を見た。


「びっくりした…何だよいきなり」

「思い出したんですよ。ラミュウザ・ダリシエー。研究者の名前です」

「はあ?!」

「研究者って…?」


皆はハルクに注目した。


「野生動物生態研究会。そこの幹部に同じ名前の方がいたと思います」

「何それ」とヌゥは尋ねた。

「グザリィータの有名な研究会の1つじゃよ」

「おっさんよく知ってんな」

「こら若僧! バカにするでないぞ!」

「何でそんな人がこの本を…?」

「そこまでは流石にわかりませんが…」


すると、ベーラは言った。


「会いに行って話を聞くのが一番早いな」

「しっかたねえ! 最速で行ってくら」


レインは立ち上がった。


「すまないなレイン」

「いいよ。で、誰乗せてく?」


ベーラはハルクに尋ねる。


「ハルクの知り合いなのか?」

「その人と知り合いってわけではないですけど…研究会にツテがありますよ。私で良ければ向かいますが」

「うわー! 珍しいね!」

「まあたまにはいいでしょう。研究の方はアグさんがいますし」

「任せてください。何ならいつも俺の方がハルクさんに任せっきりにしてたんで…」

「ふむ。それじゃあ護衛ついでに、本のことを知るメリにも行ってもらおうか」

「わかりました!」

「それと、皆に相談があるのだが」


ベーラは言う。

皆は彼女を見た。


「ヌゥ、アグ、メリの三人の、服従の紋を外そうと思う」

「!!」


ヌゥは驚いて目を大きく開いた。


「いいの…?」

「私はこの部隊の隊長を継ぐつもりでいるが、皆、異論はないか」

「ねえよ」

「ないです」


皆が答える中、ヌゥも大きく頷く。


「ヌゥ、アグ、メリ、お前たち三人を私は信頼している。お前たちは大切な仲間だ。仲間を服従する必要なんてない。そう思ったんだ」

「いいんじゃね!」

「お前たちは我が同士じゃからな! そんな命令がなくても、裏切らぬことは重々承知の上じゃ!」

「意義ありません」

「私もです!」


すると、ヌゥは言った。


「俺の、呪いについては…?」

「今はアグに攻撃をしてはならないという命令だったな。お前が望むなら、そのままでもいいが」

「そうなんだ……。えっと……どうしたら…」


すると、アグはヌゥを見ながら言った。


「俺は、外してもらっていい」


皆も続ける。


「まあ、俺らも結局命令されてなかったわけだしな」

「わしは、ヌゥを信じる」

「私も構いませんよ」

「私もです!」


皆の了承を得て、ヌゥは全ての命令を解いてもらうことを承知した。


「それじゃ、ヌゥ、アグ、メリの三人は、三階の広間にきてくれ」

「わかりました!」


ベーラの魔法陣の中にヌゥは立ち尽くして、不思議な喪失感のような気持ちを抱いた。

ああ、今この時から、俺を縛ってくれるものが、何もない。


そうして俺たちはその日、服従の紋から解放された。

部隊のみんなが俺たちを信じて、俺たちも皆のために働き続けることを誓った。


ねえ、アグ。君も俺と同じ牢屋にいたというのなら、君もきっと終身刑なんだろうね。


俺は自由になったわけじゃない。

罪を許されたわけでもない。


だから俺は、この身を捧げても、ゼクサスを倒すよ。

大好きな皆の生きている、この世界を救うよ。


ベーラから解放された後、アグは俺のことをじっと見ていて、俺もそれに気づいて、彼のことをね、見つめ返した。


俺はね、君のことは何も覚えてなかったけれど、でもその時わかったんだ。

君も俺と同じようなことを、考えているんじゃないかってね。


「ベーラ、ありがとう」


俺は、俺のことを信じてくれる彼女に、お礼を言った。

ベーラは礼を言われる覚えはないという感じで、首を振ったあと、俺に手を差し出した。


「お前の力、貸してくれ…」


俺はベーラの手を握り返した。


「俺の全てを、部隊に捧げるから」


ベーラは口元を少し上げて、笑ってみせた。


「アグも、メリも…力を貸してくれ」

「もちろんです」

「私ももっと、強くなってみせます…!」


ベーラは信頼できる仲間たちの顔ぶれを見て、ちょっと涙が出そうになるのを堪えながら、うんうんと頷いた。


私には皆がいる…。

一人じゃない…!


そして4人はその部屋から出た。

部屋の前ではレインとハルクが準備を済ませてメリを待っていた。


「さっさと行くぞ〜!メリ」

「ここで待ってますから準備してきてください」

「は、はい!」


メリは急いで荷物を取りにいった。


レインはヌゥとアグのことを見ると、笑って言った。


「これでいつでも脱走できるな〜!」

「そんなことするわけないじゃん!」


ヌゥは口を突き出して言う。


「へっ! まあでも、これでさし飲みにも行けちゃうわけだな!」

「いいねいいね! 早く帰ってきてよ、レイン!」

「まあ、俺の足なら、一日ありゃあグザリィータまでひとっ走りよ」


レインは胸をとんと叩いて、得意げに言った。


「あとあれか、お前らも、これで心置きなくデートにも行けるわけだな」

「デート?! 行かないよそんなの! 訓練するから忙しいの!」

「……」

「不真面目代表がよく言うな! アグがちょっと寂しそうにしてるぞ!」

「別にしてないですけど…俺も忙しいし」

「ま、記憶が戻ったら好きなだけ行ってこいよ」

「んもう! 行かないってのに」


ハルクはアグに近づくと、研究所の実験状態について引き継ぎをする。


「詳しくは、机の引き出しのレポートに」

「わかりました。ありがとうございますハルクさん!」


ベーラは固定ベルトを作り出すと、無線と共にレインに渡す。


「今から行ったら向こうに着いても夜だろう。昼飯もまだだし、ゆっくり行ってこい。ラミュウザとの接触は明日でもいい。定時連絡だけ21時に頼むよ」

「おっしゃ! 任せろ、隊長さん!」

「隊長さんはやめろよ」


レインが笑っていると、ベーラは言った。


「レイン、頼りにしてるよ」


レインはちょっとだけびっくりして、彼女を見る。


「まあ、お前の相棒は俺だからな! 誰よりも信頼してくれていいってもんだ!」


するとベーラは少し笑って、「ありがとう」と言った。

レインは少しドキっとした。前に進もうとする彼女を支えようって、強く思った。


「すみません! お待たせしましたぁ!!」


メリが急いでやってきた。


「おう! 早かったな!」


レインが手を上げてメリを迎える。


レイン、ハルク、メリの三人は階段を降りて一階へ向かった。

ヌゥ、アグ、ベーラも彼らの見送りのために下に降りる。


「気をつけてね、三人とも!」


ヌゥは言った。


「大丈夫だよ! ま、ゼクサスがいたらそっこー逃げるけどな!」


アグはメリをじっと見ていた。メリも彼と目があった。


「気をつけろよ…」

「わかってるわよ!」


メリは強気に言い放って、誰よりも先に外に出た。

アグは心配そうに、あるいは気まずそうに、彼女を見ている。


「はぁ…仕方ねえなメリのやつも! ま、こっちは任せとけアグ」

「すみませんレインさん…」

「本当面倒くさいですよね…」

「おいハルク! んな冷たいこと言うなよ!」

「なんで私が怒られるんですか…」


ハルクはレインにごつかれて、不愉快そうに彼を見る。


「んじゃ、行ってくら」

「いってらっしゃーい!」


ヌゥは大きく手を振って、みんなを送り出した。



























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ