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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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番外編・鍛錬する少女①

「シエナ、この辺にしといたら?」

「いえ! もう少しお願いします! ジーマさん!」


シエナは汗を垂らしながら、肩で呼吸をしていた。

シエナのボサボサのその髪も、汗でへばりついてペしゃんとなっている。


ジーマも彼女の訓練に付き合ってもう2時間。


(本当にストイックだな〜…仕事帰りの日くらい休んだらいいのに。こっちがもうバテてきた…30すぎたら身体言う事聞かないっての、本当なんだなぁ〜…、歳だよこれ…)


とはいえ、まだ10歳の彼女に負けることなどあってはならない。ましてや隊長の僕がね。だって威厳もクソもないから。まあ元々あんまりないかもだけど。


「はぁあ!!」


シエナはジーマに向かって格闘技を繰り出すが、見事に返り討ちにあった。


「くっそぉぉ!!」


シエナはついに力尽きて、その道場に仰向けに倒れた。


(耐えた……はぁ……若いってすご……)


ていうか仕事帰りでしょ?

よくやるよね毎日…。


いや、強くしてあげるって言ったのは僕だから、もちろん特訓には付き合うんだけどね。

ただ彼女が、本当にすごいなっていう話だよ。


「ジーマさん強すぎ……何でそんなに強いの……」

「そんなにかな……」

「そうですよ! だって元格闘チャンピオンの私が歯が立たないなんて!!」


(ていうかこの人剣士でしょ? 剣を持ってない剣士に負ける私って一体……)


シエナは歯を噛み締めて半泣きになりながらフルフルとすると、バっと起き上がった。


「や、やっぱりもう1回!!」

「えぇっ?!?!」


まじか…とジーマが思った矢先、力が入らずにシエナはまたゴロンと寝転がった。


「シエナ、休息も大事だよ…」

「くぅ〜……」


何とかその日の訓練は終了した。

汗ダラダラの2人は大浴場へと向かった。


大浴場の階に着くと、大きな休憩所がある。

そこは畳ばりになっていて、座布団なんかも用意されていて、風呂から上がったあとくつろげる仕様になっている。


その休憩所のそばに、男女ののれんがかけられて、男湯女湯と続いている。


「じゃあね」

「また明日も…よろしくお願いしますね!」

「わかってるよ」


2人はのれんの前で分かれると、それぞれ風呂に入った。


ジーマは湯船に浸かりながら、はぁ〜と幸せな声を漏らした。


(まあでも、僕も若い頃はシエナみたいに毎日訓練してたっけ。ほとんど素振りとかだったけど…。それにしても格闘家の訓練って、全身使うからすごい疲れるなぁ〜……)


シエナは毎日、よく頑張っているな…。


ジーマは誰もいないその浴室で、しばし身体を休めた。



シエナが女湯に入ると、先客がいた。


「あ! ベーラさん!」

「うん?」


身体を洗っているベーラさんの隣に私も座った。


私が部隊に入って、もう2週間が経つ。

やっと仕事にも慣れてきたし、皆の顔と名前ももちろん覚えた。

部隊の中でたった1人の女性、ベーラさん。

この人はいつも無愛想だ。長い派遣からこの前帰ってきたところで、私が仕事に行く前に軽く挨拶しただけだ。まだまともに話したこともない…。


「お疲れ」


ベーラはぼそっと言った。


「お、お疲れ様です…」


(何かとっつきにくいのよねえ……)


だって能面みたいに、顔色1つ変えやしないんだもの!


「また訓練してたのか」

「は、はい……」

「ジーマに聞いたぞ。毎日してるんだろう? 何でそんなに頑張るんだ?」

「え? そ、そりゃもちろん、あのひょろひょろ隊長を倒したいからに決まってるじゃないですか!!」


シエナがそう言ったので、ベーラはぶっと吹き出した。


(え? わ、笑った? 今笑った? あれ? 目の錯覚?)


「随分頼もしい仲間が増えたもんだ」

「ま、まだ全然ですけど……これからもっと強くなります! ベーラさんの役にもたってみせますから!」


シエナが拳をぐっと握りしめてそう言ったが、ベーラはサーっとシャワーで頭を流していた。


(き、聞いてない……)


「敬語やめようか」

「え? な、何ですかいきなり」


ベーラはシャワーの水を止めて、シエナを見た。


(あれ、この人化粧してない! もともとこんな綺麗な顔なのね!)


私も化粧なんてしたこともないから…何か親近感。

でも大人の人なのに、珍しい〜。


で、何だっけ?


「女の子同士」

「はい?」


シエナはきょとんとした顔でベーラを見た。


「だからやめよう。ベーラさんじゃなくて、ベーラ」

「は、はぁ……」


ベーラはそれだけ言うと、さっさと湯船の方に行ってしまった。


(い、行っちゃった……。マイペース〜……)


シエナは完全に彼女にペースを崩されたが、身体を洗うのを再開した。

全て洗い終わって湯船に向かうと、既にベーラはいなかった。


(あれ、いつの間に…)


ま、まあいいわ。何話したらいいかよくわかんないし。ていうか先輩なのにタメ口なんてきけるかしら…私。


シエナは1人、湯船に浸かった。



ジーマが風呂から上がると、休憩所にベーラがいる。


「あれ? そんなのあった?」


ベーラは随分座り心地のよさそうなマッサージチェアに座っていた。ブルンブルンと椅子は可動しており、肩、腰、それから足まで、彼女の身体をほぐしている。


「今出した」


呪術って便利だなあ、ほんと。

おかげでこのアジトもどっかのホテルより凄いよ。


ベーラは腕を組んでぼーっとしている。僕の方は、見向きもしない。


「ねえ、もう1台それ出してよ」

「断る」


ジーマは苦笑いを浮かべる。


(結構仲良いと思ってるんだけど、たまに意地悪なんだよなあ……)


「いいじゃん。ベーラなら一瞬でしょ。肩凝っちゃってさ」


ベーラはうざそうにこっちを一瞥すると、ジーマの足元にマッサージ棒を生み出した。

先が曲がっていてツボ押しのような形をなしている。


「……」


ジーマは諦めてそれを拾うと、自分の肩に当てた。


(あ、結構いいかも……ジャストサイズ…)


「シエナ、頑張ってるみたいだな」

「え? ああ、うん。毎日相手してるんだけどさ、飲み込みも早いし本当にすごいよ! さっきもシエナは仕事帰りなのに、2時間も訓練ぶっ続けだよ。こっちが参っちゃうところだったよ」


ジーマが笑いながらそう言った。


「随分楽しそうだな」

「え? そう? まあでも本当に若いってすごいよね。吸収力も体力も異常だよ! 僕らも結構歳とっちゃったよねぇ」

「私はまだ20代だ。お前と一緒にするな」

「ああ……ごめん……」


(もう29じゃんか……)


それにしてもこの棒気持ちいいな。使いやすいし。


そうこうしていると、シエナもやってきた。

乾かした髪はボサボサの金髪だ。

顔を隠すように前髪がだらんと垂れている。

変なセンスのパジャマを着ていた。


「あれ、2人共いたんですね! あれ、ベーラさん何ですかその椅子!」

「敬語やめろ」

「えっ……ああすみませ……ごめん……」

「??」


ジーマは首を傾げて2人を見ている。


「シエナ、食堂にジュース飲みに行かないか」

「え? あ、うん! 行く!」

「あ……」


そう言ってベーラはシエナを連れ、さっさと食堂に下りて行ってしまった。

ジーマは1人、置いてけぼりにされた。


(そっかぁ…。やっぱり女の子同士だし、シエナと仲良くしてくれるのかな、ベーラのやつ)


そしてベーラがいなくなったのを見計らって、彼女が座っていたマッサージチェアに腰掛けた。


「やっぱり自動に限るよね〜マッサージは」


と言って電源をつけようとすると、椅子が突然消え去った。


「痛っ!!」


ジーマはドスンと尻もちをついた。


くそ…ベーラのやつ……

常駐で置いといてくれたらいいじゃん…

ケチだなぁ……


ジーマは仕方なく消されず残ったマッサージ棒で、もうしばらく肩をほぐした。

















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