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そこは地獄か天国か

「ジーマさん! ううっ!!」


ベルは扉をドンドンと叩いて、何度も開けようと試みたが、扉が開くことはなかった。


ベルは涙で顔をクシャクシャにして、うなだれた。


「うう……2人共……何で……どうして……」


すると突然、ドアを開けようとする音がした。


「っ!!」


ベルは身体を小さくして、姿をくらました。

ドアが開くと、ゼクサスとエクロザが現れる。


「はぁ…はぁ…」


ベルは恐怖に怯えながら、2人の姿を影から見つめた。


(あ、あれがゼクサス……?!)


少年のようなゼクサスの姿を、ベルは目に焼き付けた。

一瞬しか顔はみえなかったけれど、色は白く、美しい顔立ちで、だけれど血の通っていないような、あるいは人形のような表情で、そして…。


(ヌゥさんに…似ている……? いや、それ以外にも…?)


「可哀想に…アギ……。また私の仲間が死んでしまった」

「奴らの仲間を2人も死に追いやりましたわ。アギはよくやりました」


ベルは廊下を歩いていくゼクサスたちを、身を潜めながら後ろから追いかける。


(2人って……それじゃあジーマさんも……)


ベルは歯を噛み締めながら、また涙を拭った。


「せっかくできた仲間が、いなくなってしまいましたね…」


エクロザは悲しそうに言った。


「大丈夫。この世界は憎悪に満ちている。私の力を求める新しい仲間が、すぐに見つかるよ」


ゼクサスはそう言って、アジトの外に出た。


「ここはもう、要らないや」


ゼクサスは城を振り返って見ると、そう言った。


「これからどこへ行かれるのですか?」

「そうだな…。せっかく外に出られるようになったし、カルベラの所に行こうかな」

「久しぶり…ですね…」

「そうだね…」


(カルベラ……?)

ベルもこっそりと後を追う。


ゼクサスは庭を進んでいった。

エクロザも後から着いていく。


外にはアギが通ってきたユリウス大陸に繋がるモヤだけが残っている。


「申し訳ありません…術が使えないので、すぐにカルベラ様の元には…」

「いいんだ。せっかくだから、私たちの世界を旅をしよう」

「はい…」


ゼクサスとエクロザは、そのモヤに入っていく。

モヤが消えそうになる前に、ベルもすかさず飛び込んだ。


(あ、危なかったです……)


いつの間にかゼクサスたちの姿は見えなくなり、ベルは身体を元の大きさに戻すとモヤの中をくぐり抜けた。


ベルが外に出ると、セントラガイト城の1階大広間に出た。


(ここは…セントラガイト城の中でしょうか? 誰もいない……)


「ベルちゃん!」


大広間に寄ったヌゥは、ベルの姿を見つけてハっとすると、声をかける。


「ヌ、ヌゥさん……」

「ベルちゃん! 大丈夫?!?!」


ヌゥはベルに駆け寄った。


「うぅっ、うっ、あっ、ヌゥさん、ううっ」

「べ、ベルちゃん…?」


ベルはまた涙が溢れて、そのままヌゥにしがみついた。


「うっ、ううっ、ごめんなさい…私……何もできなかった……うっ、ひっく…、ううっ」

「ベルちゃん…」


ベルがぼろぼろに泣くのを見て、ヌゥは2人の死を察する。


「ベルちゃん……」


ヌゥはベルを強く抱きしめた。

ベルの身体は酷く震えていた。


「うう…ごめんなさい……ごめんなさい……ジーマさんとシエナさんが……アギに……ううっ……2人共…死んでしまった……っ…」

「ベルちゃんのせいじゃない。よく帰ってきてくれた…」

「うっ、うゔっ、ぐすっ、私…私も…戦えるようになりたい……私も…ぐすっ、シャドウなのに…、うっ、私も強くなりたい……私も…」

「うん……うん………」


ヌゥはベルを抱きしめながら、ふつふつと自分の中に憎悪が湧き上がるのを感じる。


2人が死んだ。


アギもまた、憎悪に支配されたシャドウだったんだ。

仲間を殺された彼の怒りを、ゼクサスは狙った。


他のシャドウもそうだ。

レニも…ソニアも…ヴィリも…多分ルベルグも……そしてシェラとブラントも……、ゼクサスが彼らの憎悪を形にして、人間を襲わせるシャドウにしたんだ。


ゼクサスの仲間のシャドウは、それ故に悲しい存在だった…。


(許せない……)


ヌゥはまた、自分の身体が変化していくのを感じる。


(ゼクサス……絶対に俺がお前を……殺す………)


覚醒していくヌゥの姿を、ベルは肌で感じていた。


「ヌゥさん……」

「ベルちゃんだけでも、生きてくれていてよかった…。ジーマさんとシエナの仇は、俺が絶対にとる」


ヌゥはベルの肩に手をおいて、そっと離れた。


「ヌゥさん…また…女の子に……」


ヌゥは薄ら笑いを浮かべる。


「なんかもう、どっちでもいいや…。俺もよく、わかんないし」

「ヌゥさん…」

「皆のところ、行こう」

「はい…」


ヌゥはベルの手を引いて、皆が集まる図書室に向かった。


「ベル!」


図書室で例の古の武器の書かれた本の捜索にあたっていた皆は、ベルの姿を見ると大声を上げる。


「ヌゥ、お前また……」

「話はそっちで」


ベーラは、図書室に横に設けられているいくつかの会議室の1つに、皆を集まらせた。


「ベル…よく無事で…」

「……」


ベルの帰還を皆は喜ぶが、ジーマとシエナの姿がないことに皆は大きな不安を抱いた。

ヌゥは震えるベルの手を握りしめると、代わりに言った。


「ジーマさんとシエナは死んだ」

「っ!!!」

「な…んだと……」

「本当なのか? ベル…」


皆は目を見開いて、ベルを見つめる。

ベルは小さく頷いた。


「う…嘘だろ……」


レインは信じられないという面持ちで、ベルを見ている。


「………」

「嘘じゃろ…ジーマ……シエナ………」

「くぅ……」


皆は激しく絶望し、たくさんの涙を流した。

ヌゥもまた、涙を流し、拳を握りしめて震わせた。


「うう……ごめんなさい……皆さん………」


ベルは顔を両手で覆いながら、床に膝をつけ、うなだれるように泣いた。

レインはベルに近寄ると、彼女を抱きしめる。


「お前はよく無事で戻った…怖かったな…ベル……」

「ごめんなさい……うう………ひっく……」


レインはそっと後ろを振り向いた。


「……!!」


皆がぼろぼろ涙を流している中、ベーラただ1人は、いつもと変わらぬ表情で、その場を見据えていた。


(ベーラ……)


すると彼女も、レインと目を合わせた。

目を真っ赤にして泣いているレインを見て、ベーラは淡々としていた。


(……)


レインはそんな彼女を見て、更に涙を流した。


「ベルが落ち着いたら話を聞くぞ」

「……ベーラ」


(誰よりも……辛いに違いないのに……)


レインはベルをなだめながら、歯を食いしばって、彼女から目を背けた。


(くそ……俺がしっかりしないといけないのに……)


ジーマとシエナが死んだんだぞ……そんなの……そんなのって……


(ごめんな……ベーラ……)


誰かがしっかりしないといけないんだ…

わかってる。そうじゃないと、他の奴らが絶望するから……

だけど……俺は平静を保てねえよ……


「うぅ………っく……」


俺らの頭が死んだんだ……

くそっ……


涙が……止まらない………


ベーラは皆が落ち着くまで、一切の涙すらなく、彼らを見守っていた。

ベルが話をできるようになるまで、しばらくかかった。

他の皆も、話を聞ける状況ではなかった。

2人の仲間の死に、皆はひどく心を痛め、泣き崩れ続けた。




「うわ〜。熱いんだけど、ここ…」


ジーマの目の前には、灼熱の世界が広がっている。

煮えたぎるマグマがそこら中から沸き上がって、遠くの火山は激しく噴火する。


空は真っ暗で、星1つない。

空気もどこか淀んでいる…気がする。


ジーマは1人、その世界の中を歩いていく。

わかりやすく1本の道ができていて、自然とそこを進んでいく。


「地獄ねえ…本当に来ちゃったか…」


しばらく歩くと、見慣れた少女が笑いながら大きく手を振っている。


「ジーマさん!!」

「シエナ?!」


ジーマは慌てて足を走らせた。


「こっちですよ! こっちー!」


それは生前の彼女の姿と何ら変わらなかった。


「シエナ…!」


ジーマはシエナの元にたどり着いた。


「何で……ここにいるの……」

「ジーマさんは死んだら地獄に行くって言ってたので! 待ってました! でも来るのさすがに早すぎませんか?!」

「はぁ……」


ジーマはため息をついた。


「目見えるの?」

「見えますよ! て、気になるのそこですか?! ジーマさんも眼帯とれてますけど!」

「え? ああ、ほんとだ。いや、そうじゃなくて…」


シエナはその可愛らしい目をぱっちりと開いて、ジーマを見上げた。


「君はこの世界にいる必要なんてないんだ。まだ戻れるから天国に行きなさい」

「はぁ〜?! 行かないに決まってるでしょ! ジーマさんがいないなんて、それこそ地獄よ!」

「シエナ〜…」


ジーマはその頬を指でかいて、困ったような笑みを浮かべた。


「ねぇジーマさん、地獄にウエディングドレスってあると思います?」

「いやあ…どうかな…」


シエナはいつものように、笑っていた。


「まあ、行きましょうか!」

「え…ああ…うん……」


シエナはジーマの手を引いて歩き出した。

2人はやがて、大きな穴の前にたどり着く。

その穴は異常に大きくて、向こう側をよく見なければぱっと見崖にも見える。


その穴の前で立ち止まると、シエナはジーマの腕を引いて身体を下げようとする。


「何……?」


ジーマがシエナに引かれて身体を低くして頭を下げると、シエナは彼にそっとキスをした。


「ずっと一緒ですよ、ジーマさん」

「……うん」


2人は笑い合うと、再び手を強く握りしめた。


「それじゃあ、行きましょ!」


そして2人は、底なしの穴の中へと飛び込んだ。






第2章完結です!

ここまで読んでいただけるなんて本当に嬉しいです!

第3章に入る前にラフ画と番外編があります。

イメージを損ないたくない方はラフ画は飛ばしてお進みください。

番外編はシエナが入隊したばかりの頃のお話です。

よろしければお楽しみください!

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