表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/341

古のお伽噺

その頃ソニアは罰ゲームでぼろぼろの身体になったあと、アジトに帰還した。


「はぁ…はぁ…」


息つく間もなく、アギがソニアの前に現れる。


「おい、てめえ…」


アギはソニアに近づくと、少し怒った様子で話しかける。


「はぁ〜い? なんですか?」

「奴らを1人も殺せなかった上に、全員まんまと逃したのか?」

「そうなんですよ〜! 皆さん見事に私のラビリンスをクリアしてくださいまして」

「クソの役にもたたねえな…」

「そう言えばアギさん、あなたの能力を教えていただけませんか?」

「は…?」


すると、エクロザが2人の前に姿を現す。

エクロザはソニアに近づくと、彼女の頭をがっと掴んだ。


「い、痛いですよエクロザさぁ〜ん!」


エクロザはしばらくすると、彼女の頭を乱暴に離した。

ソニアは地面に倒れ込んだ。


「アギ、ソニアを殺すのよ」

「は?!」

「ソニアは奴らの中にいる呪術師に服従の紋をはめられ、私達の情報を流すように命令されているわ」

「な、なんだって?!」


アギは驚いた様子でソニアを見る。


「ああ〜さすがエクロザさん、記憶を消すのも読むのもお手の物ですね〜! もうバレてしまいましたか!」


ソニアはニコニコと笑っていた。


「俺たちを裏切るとはな…」


アギは赤い刃の刀を抜き、構えた。


「まあ…」


ソニアもまた立ち上がると、絵筆を取り出して、アギと向かい合う。


「俺は…裏切り者は絶対に許さねえ!!」


アギはソニアに襲いかかった。



城の大広間では、メリが昔に読んだその本の内容を話していた。


それは遥か昔の話。

その世界では、神の生んだ人間と、魔王の生んだ魔族が共存して暮らしていた。


魔族にはたくさんの種族があって、その姿が人間に近しく言葉も話せる妖精や人魚、鳥人などから、動物に近い獣からドラゴンまで、数え切れないほど存在していた。


ところがある日、人間と魔族の中に亀裂が入り、全面戦争が始まる。

その中から選ばれた人間たちは、戦争に対抗するために、神から特異な能力を与えられた。力を得た彼らを筆頭に、人間は魔族たちと戦った。


特にその中でも神の力を大きく受け継ぎ、抜きいでて強い4人の人間がいた。

人間たちは勝利を収め、人間たちに抗ったほとんどの魔族は皆消滅し、人間の支配する世界になったという。


しかし神から力を手にした人間は、それを自分たちの欲望のためにぞんざいに使い始めた。4人は自分に集う仲間を従え、人間同士で争いを始めた。

神は、その4人の姿を武器に変えて、この世の何処かに封印してしまったという。


その武器が、古の伝説の武器と言われている。


その鎌で身体を切り裂くと魂を狩り取れる力を持つという大鎌デスサイズ。

全てを焼き尽くす炎を纏う長剣ラグナス。

自然に宿る精霊の力を自由に操る精杖ケリオン。

そして、唯一魔王を倒す絶対的な力を持つ黒槍ログニス。


メリは話を終えた。

皆は神妙な面持ちでその話を聞いていた。


「いや、もろそれじゃん!」


と、レインは言う。


「それじゃんって言われても…」

「だって武器の名前一緒だろ? 鎌と槍のよ。そんな偶然あるか?」

「でも、本当に何か、童話みたいに書かれてる本なんですよ、その本」

「確かに、魔王とか言われてもねえ…」

「でも、関係してる可能性は高いよね。メリ、その本は何ていうの?」

「すみません…そこまでは…」

「俺もぱらっとめくった程度だから、全然覚えてねえや…」

「そうだよね…」


アグはメリを見て言う。


「でも、話もそうだけど、よく武器の名前まで覚えていたな」

「そりゃあもちろん! 私は武器をこよなく愛してますから!」


メリは自分の胸を手のひらでぽんっと叩いて、ドヤ顔を浮かべる。


「城の図書館ってこの大陸一大きいですよね? そこに置いていないでしょうか?」

「確かにありそうだのう!」

「ちょっと、どんだけ数あると思ってんの?!」

「本を見つけてどうするんだ?」


アグは顎に手を当てて言う。


「気になるのは、誰がその本を書いたか、ですね」

「なるほど…」


すると、ジーマは言った。


「まあでも、今日は色々あったし、もう遅いから、本を探すのは明日にしよう。デスサイズは…」

「俺が持っていてもいいですか? ジーマさん」

「うん。ヌゥ君が預かったものだからね」


ヌゥはシェラから受け取ったそのデスサイズを握りしめた。


「ヌゥ、これを」


ベーラは鎌をしまうための、背中に背負える鞘を作り出してヌゥに渡した。


「ありがとうベーラ」

「うむ」

「そういや、迷宮組の話はどうだったんだ? ソニアはどうしたんだ? 倒したのか?」

「いや、ソニアは私が服従した」

「は?!」

「え?!?!」


レインたちはおろか、迷宮に行ったはずの皆も何も知らないけど?!という面持ちでベーラを見つめる。


「なんで早く言わないの?!」

「聞かれなかったからだ」

「あんたそればっかじゃん!」

「まあでも…奴らの仲間はゼクサスの命令に背くことができないんだろう?」


すると、メリは言った。


「ゼクサスの血を飲んだら、奴の命令に絶対服従よ」

「服従の紋と二重にかけることなんて可能なのか?」

「実際かかったのだから不可能ではないということだな」

「で、ソニアは今何処にいるんだ?」

「奴らのアジトに帰らせて、情報を取ってこさせて…ん?!」


ベーラは目を見開いた。


「ど、どうしたんだ?!」

「……」


少しの沈黙のあと、ベーラは言った。


「ソニアが、死んだ」


皆は驚いた様子で彼女をみた。


「えええ?!」

「な、なんで?」

「ゼクサスを裏切ったのがバレたのでしょうか?」

「…私は服従の紋をはめられた者が生きてるか死んでるかどうかが把握できるんだ。だが、どうして死んだのかまでは把握できない。まあでもおそらく、仲間内で殺されたんだろうな」

「……そんな」

「有力な情報が得られずに申し訳ない」

「いや、それよりも何か…ほら…な…?」


すると、ベーラは言った。


「奴らに情けをかけるな。一体どれだけの人間が殺されてると思ってる? ゼクサスの仲間は皆殺し。そのくらいの気合で臨まないと奴らに勝つなんて不可能だ」


アグは強く言い切るベーラを見て、頷いた。


そうだ…俺たちのこの戦いは、命懸けなんだ。

ヌゥに呪いをかけ酷い目に合わせ、俺達の仲間を奪った奴らを絶対に許さない。

絶対に奴らの息の根を止める。

例え刺し違えても。


アグは唇を噛み締めた。


その後、迷宮に行った皆から、話を聞いた。

ベーラさんだけはどんな試練だったのか全く教えてくれなかった。

まあでも、ベーラさんがソニアと戦い、彼女を服従した話は聞かせてくれた。

これまでにレニとソニアの二人のレアを倒したとあって、ベーラさんの力量が想像以上であることを感じる他ない。


大体話も終わって、皆自由に雑談をし始める。


「ベルちゃんの描いた絵、見てみたかったな」


ヌゥは隣に座るベルに向かってボソっと言った。


「そんなに上手くないですよ。皆さんの姿を描いただけです」

「俺たち、ベルちゃんの宝物なんだね」


するとベルはにっこりと微笑んだ。


「ふふ! そうですよ!」


ヌゥはその笑顔に少しドキっとして、顔を赤くした。


「ヌゥさんも性がコロコロ変わって大変ですよね…。その上記憶喪失だなんて…。何か辛いことや悩みがあったらすぐに言ってくださいね」

「ああ、うん! 今のところは大丈夫! ありがとね」

「いえいえ!」


レインはぐーんと伸びをする。


「そいじゃま、全員揃ったのも久しぶりだし、今夜はパーっとやっちゃいましょ! なあジーマ」

「え? また…? うん…まあいいか。ソニアも死んで、エクロザのコピーも薬を飲まされて空間移動も出来ないみたいだしね。だけどあんまりハメをはずさないでね」

「わーかってるって! ほら、もうそろそろ18時になるじゃん! 皆、大食堂に集合しゅーごうっ!」

「よっしゃあ! 今夜は祭りじゃあ!!」

「仕方ありませんね」


レインとアシードは高らかに笑い、ハルクもそんな2人に付いて一階大食堂へと向かった。


「シエナ、足は大丈夫なの?」

「杖があれば全然大丈夫ですよ! ちょっと痛いだけなんで、折れてるわけじゃないですから」

「そっか…無理しないでね」

「私達も早く行きましょ!」


シエナはジーマの腕を掴んで引っ張った。

ジーマが少し後ろを振り返ると、ベーラと目があった。

ベーラは無表情なそのいつもの顔で、自分を見ている。


「ベーラもほらっ! 早く行こー?」

「ああ」


シエナはベーラの手も引っ張って、3人で部屋を出ていった。


「私達も早く行きましょう!」

「うん!」


ベルとヌゥも立ち上がると、2人で部屋を出ていく。


「……」


アグはその様子を黙ってみている。


「あんた、大丈夫…?」


アグがハっとして横を見ると、メリが心配そうにこちらを見ていた。


「あ…うん……」

「大丈夫って感じじゃないわね! まあ確かにヌゥに自分のこと忘れられるなんて、相当ショックよね〜! だって恋人なんだもん!」

「……」

「完全に内面も男に戻ってるし、このままじゃ、ヌゥをベルに取られるぞー?」


嫌味ったらしく言うメリを見て、俺は何の言葉もなかった。


「冗談よ! 真に受けないでよ!」

「……」

「もう! 何とか言いなさいよね…」

「ごめん…メリ…」

「ちょっと! 謝るのだけはやめて! 惨めでしょうがないわ!」

「ごめん…」

「もう!」


メリはそう怒鳴りながらも、笑っていた。


「すぐに思い出すわよ。大丈夫よ。あの子はあんたのことが大好きなんだから」

「うん……ありがとうメリ…」


アグもメリに笑いかけた。

メリは彼の笑顔に心をつかまれる。


(ああ。このままやっぱり私を好きになったらいいのに。なんてね)


「それじゃ、私たちも行きましょ!」

「そうだな」

「全員揃ってパーティーは初めてじゃない?」

「確かに! 今夜は騒がしくなるな…」

「ふふ! そうね! そう言えばアグってお酒強いの? 私この前初めて飲んだんだけどね、完全に酔いつぶれちゃった!」

「え?! まじかよ…介抱しねえからな…」

「ひっど!」

「俺は酔ったことないから! 体質が強いらしい」

「えー? 酔わないと飲んでもしょうがなくない?」

「俺は酒を味わってんの! お前らガキと違うんだよ!」

「はぁー?! 私の方が歳上だから!」

「知ってるけど。内面的な意味でな」

「言ったなー?!」


メリとアグも笑いながら、食堂に向かった。


ありがとうメリ…。

あれだけお前を傷つけたのに。


最低な俺のことを慰めようとしてくれるなんてさ。


アグは彼女の優しさを感じながら、苦しい気持ちを今だけは忘れようと努めていた。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ