海の街バルギータ
「ねえヒルカ、聞いてよ! すごいの! シャドウの術がね、解かれちゃったの。クモをすっごくおーきくしたのにね、小さくなっちゃったの! すごいよね! すごいよね!」
桃色のツインテールの女は興奮していた。子供が悪いことを思いついた時のように、せせら笑った彼女の顔からは、言いようもない狂気が感じられた。
見た目からは年齢不詳であるが、何となく見た目よりも喋り方は子供っぽかった。色白で、黄土色の瞳をしていて、口元は常に緩んでいた。
無駄にポケットのたくさんついた襟付きのシャツに、髪の毛と同じ桃色のスカートを履いており、軽やかな身のこなしで、意味のないステップを踏んでいる。
女は、青い白衣を着た、黒髪の細目の男に話しかけていた。男の名前はヒルカ・オルジェ。生まれつきの細い目も相まって、人相の悪い顔つきをした男で、背が高く、痩せている。
彼らはどこかの研究所の中にいた。ヒルカが手術台上でその手を動かしている傍ら、ツインテールの女は落ち着きなく動き回っている。
「メリ、そのシャドウはどうした。あいつは催眠術と巨大化、どちらも出来ただろう」
「あー、うん。そいつらにやられて捕まっちゃった」
メリと呼ばれたツインテールの女は、何の悪びれもなくそう答えた。ヒルカも手を止めることなく、淡々と話を続ける。
「またか。一体何体捕まってんだ」
「まあいいじゃない。雑魚なんだからさ〜!」
「雑魚でも貴重な戦力なんだ。あんまり無駄遣いをするなよ」
「ふぁーい。それよりさ、ヒルカ、メリの仲間はできそう?」
「もう少しだ。今度の奴は適合実験をクリアしているレアだからな。きっと強いシャドウになるぞ」
「わ〜い! や〜っとメリのお友達が出来るんだね! 名前はどうしようかな〜」
その研究所は、非常に大きな建物だった。床も天井も壁も、全面真っ白だった。彼らがいるのはいくつもある部屋の中でも、ひときわ広い実験室だった。
そこには何十人もの人間が、1人ひとり透明な縦長のケースに、立ったままの姿勢でいれられていた。皆目を閉じており、生きているかどうかもわからない。たくさんのコードが身体に繋がれており、彼らがヒルカの実験体にされているのは明らかだ。
手術台の上で、ヒルカは人間の解剖を続ける。ヒルカの青い白衣の半分くらいは、血で赤く染まっていた。
「それにしても、ほんとにこの部屋って変なニオーイ! 私、また散歩にいってくるわね」
「ああ、気をつけていっておいで」
「ふぁ〜い!」
メリは、そのツインテールをぶんぶんと揺らしながら、スキップで建物を出ていった。
ヒルカはメリに一瞥もくれず、再びその実験体の身体にメスを入れる。
「やっと適合したんだ…。メリに続く2人目のレアか……どんな力を持ってやがるか、楽しみだぜ……」
ベチャっとヒルカの額に血がとんだ。
ヒルカは解剖途中の人間の体内を、楽しそうにいじくりまわした。
研究所を出たメリは、鼻歌を歌いながらスキップをしていた。人間離れした跳躍で、どんどん先へと進んでいく。やがて研究所を囲う、彼女の背の何倍も高い壁の前までやってきた。
「よっと!」
メリはスキップの流れで、強く地面を蹴った。自分の身長くらい高く飛び上がったかと思うと、壁から足場になるように巨大な盾が生え出てきた。
「ほほい!」
その盾を足場にし、更に高くジャンプし、壁を軽々飛び超えた。そのまま10メートルくらいの高さから落ちたにも関わらず、空中で2回転した後、軽やかに着地して、再びスキップで進んでいく。
「そういや、バルギータに置いてきたシャドウ、どうなったかしら〜!」
メリはそう呟きながら、馬よりも速いスピードで、人気のない荒れ道を、鼻歌をうたいルンルンと進んでいった。
レイン率いる派遣部隊は、出発してから3日後の夜、目的地バルギータに到着した。バルギータは小さな国で、面積はセントラガイトの4分の1くらいである。とはいえ、街並みはセントラガイトとさほど変わりはない。バルギータは鉄鋼業が栄んな国で、セントラガイトの鋼材もほとんどこの国から仕入れているそうだ。
ここユリウス大陸において、一番北にある国がこのバルギータで、最近では造船業にも力を入れ、海を越えた先の大陸を見つけようという試みが始まっていた。漁船は元より存在していたが、長期航海のための船が作られたのは大陸では初めてのことだった。セントラガイトも多くの融資をし、ついに完成した船の精度は大陸最先端だ。
海の向こうの大陸には、まだ誰も行ったことがない。向こうから使徒がやってきたこともまだない。しかしごく僅かの漂流者がいるという噂を、昔からちらちらと耳にする。未知の大陸への進出は、誰もが憧れている夢である。
遥か昔はもっと大きな大陸がこの海に浮かんでいたらしい。しかし天災によって、大陸がいくつかに分断されたのだという。そんな言い伝えがあるのだが、研究者たちの間でも有力な説だと考えられている。未知の大陸が海の向こうに存在している可能性は高いのだ。
しかし、やっと船が完成し、これから航海に出ようと目論んでいた矢先、竜巻が何度もバルギータの湾岸を襲い始めたのだという。多額の資金を投じて完成した船もそのせいで壊れてしまった。
竜巻自体は自然現象として今までに起こったこともあるとはいうが、ここまで連続して竜巻に襲われ、大きな被害が出たのは初めてだそうだ。
更に竜巻が起こる際、怪しい人影を見たという情報が入っている。
あまりにも不自然なので、バルギータの国王がセントラガイトの国王に相談したところ、禁術使いが悪さをしているという可能性があるという結論に至った。こうしてレインたち特別国家精鋭部隊に、派遣の要請がされたというわけだ。
「ああ、こりゃひでえな」
レインたちは迎えてくれたバルギータ王族の家来の男に案内され、湾岸にやってきていた。
湾岸一体は竜巻にやられて酷い有様だ。船着き場は、船共々めちゃくちゃに壊されて海に浮いており、堤防もかなりの損傷を負っている。
「むっちゃくちゃだね!」
「酷いですね…」
「ふうむ」
ヌゥたちその残骸を見て唖然とした。家来の男は話を始める。
「3日に一度は竜巻に襲われております。船の残骸の始末はおろか、堤防の修復も間に合いません。正直またあれに襲われたら、住民の住む場所にも被害がでるかもしれません…」
家来の男は困ったような表情を浮かべている。
「怪しい人影ってのは?」
「造船所の平民が見たという話ですが、竜巻が起きたのと同刻、人影を見たというのです。話ではあそこです」
家来の男は指をさした。そこは明らかに海の上であった。
「えー! 海の上じゃん!」
ヌゥは驚いたようにそう言った。ヌゥ以外の3人は顔を見合わせ、目配せをすると、うんと頷き合った。
「わかったよ。説明ありがとう。あとは俺たちに任せな。住民に被害は出させねえ。国王にそう伝えとけ」
「あ、ありがとうございます!」
家来の男は深々と礼をすると、王の待つ城へと帰っていった。レインは家来の男の姿が見えなくなると、話し始めた。
「間違いなく禁術使いの仕業だな」
禁術という単語はいわば国家秘密、一部の王族しか知らない禁語である。そのことを知らされていないであろう家来の前で、その話は出来なかった。
「竜巻ですか…前にも風を操る禁術使いがいましたもんね」とベル。
「そんなこと言ってたね〜」
ヌゥは頭の後ろに手をやって、呑気に構えていた。
ヌゥはここに来るまでの道中で、これまでに討伐した禁術使いがどんなやつだったかという話を聞かされていた。
捕まえた禁術使いは全部で5人。
2人は催眠術をかけて生き物を操る能力。あとの2人は物の大きさを変える能力。最後の1人は風を操る能力だと。
「いいかヌゥ、風のやつは厄介だぞ。俺とアシードとシエナの3人がかりで、ようやく倒したんだからな」
「ふぅん。ていうか、アシードって誰?」
「アシードは今派遣に行ってる俺らの仲間だよ」
「まあ、実際に戦ってみないとなあ〜」
「呑気だなほんとに…。下手すりゃ死ぬぞ」
「そんな怖いこと言わないでくださいっ!」
ベルは顔をしかめながら、おろおろとしている。それを見てヌゥはケラケラと笑っていた。
「大丈夫だよベルちゃん。俺が守ってあげるから〜!」
「ほ、ほんとに大丈夫ですかね…」
「えっ! 俺のこと信用してないの? 最年少大量殺人鬼のヌゥ・アルバートだよ!」
「おい。外でそのフルネームを口にするな」
ベーラに叱責され、ヌゥは慌てて口を閉じた。
「まあしかし、レインよりは強そうだぞ」
「え? そ、そうなんですか…?」
「そう! そうだよ! 俺の方がレインより強いから!」
「んなわけあるか! あれは不意打ちだ!」
「不意打ちしたのはお前だろう」とベーラ。
「ぐぬぬ……」
最初の自己紹介の時にいなかったベルは、頭にはてなを浮かべていた。
「で、どうすんのレイン」
「この近くで待機して次の竜巻を待つしかねえだろ」
「えー、暇だね。俺この国初めて来たから、ちょっと散策したいんだけど!」
「何わがまま言ってんだ。新入りの分際で!」
するとベーラは答えた。
「それは無断外出に相当する。行くなら私と一緒にだ」
「え! いいの? やったあ! 行こ行こご主人様〜!」
「おい。リーダーは俺だぞ? 何勝手に決めてんだ、クソババア」
その瞬間、レインの足元から何かが飛び出した。そのままレインの顎にぶち当たって、彼をふっ飛ばした。
「ぐぁふっ!!」
ヌゥは唖然としてその様子を見ていた。突然足元から出てきたもの、それは茶色い長方形の塊だった。レインにぶち当たると、そのまま粉々に砕けて、地面にボタっと落ちた。それはただの、土の塊だった。
「レ、レインさん〜…」
ベルはおろおろしながら倒れたレインに駆け寄った。
その間にベーラはヌゥを連れて、街の方へとさっさと歩いていた。
「ベーラ、さっきの何?」とヌゥ。
「呪術だ。土の柱だよ」
「へぇ〜! かっこいい〜!」
レインは座り込んだまま、赤くなった顎を自分の手で擦った。
「いってえ〜……ったくベーラの奴……」
ヌゥは歩きながら、レインの方を振り返った。レインはそれを見て声を上げた。
「敵がでてきたら先に倒しちまうからな! そしたら俺のことをレイン様って呼ぶ約束、忘れんなよ!」
「わかってるよ。それじゃあね、レイン、ベルちゃん〜」
ベーラはレインの方を振り返りもせずに、軽く手を挙げた。ヌゥはちらりと顔を向けたまま、バイバイと手を振った。
ヌゥとベーラが見えなくなると、ベルは言った。
「レインさん、ヌゥさんと仲直りしたんですね」
「仲直りっていうか、まあちょっと約束しただけよ」
「先に禁術使いを倒した方を、様付けで呼ぶんですか?」
ベルはふふっと笑った。レインは立ち上がって、未だに顎をさすっている。
(まあ、それもそうだけど、俺がアグを殺さないって約束をな)
「でも、前にレインさんたちが戦った風使いって、アシードさんとシエナさんがいたから倒せたと言っていましたよね。このメンバーで大丈夫でしょうか…。いえ、その、ベーラさんもすごい術を使えるのはわかってるんですけど、私も全然戦えないし…」
「まあそうだな」
「あうっ」
ベルは自分で言っておいてショックを受けた。
「ヌゥのやつが実際どれくらい強いかだよ。ベルはいなかったけど、ヌゥは俺の不意打ちの速攻攻撃を、すんなり見切ってカウンターしやがったんだ」
「さっき話してたやつですか…」
「実戦経験なしであれだ。相当イカれてる」
「すごいですね…」
「ああ。ジーマが連れてくるわけだぜ」
(それよりも、なぜレインさんは不意打ちを? まあでも、最年少殺人鬼のヌゥさん…初日の馬車での殺気は凄く怖かったですが、味方となれば心強いはずです…)
その頃ヌゥは、バルギータの街をベーラと散策していた。海の見える街バルギータ、潮の香りが街の中まで漂っていた。
「セントラガイトの城下町もすごかったけど、この国もすごく栄えてるんだね」
「バルギータは鉄鋼業が盛んな国だ。それに海に面する街だから、漁業も盛んだ。新鮮な魚はうまいぞ」
「そうなの?! ねぇ、馬車では缶詰みたいなご飯ばっかりだったからお腹空いちゃったよ。ねえベーラ、何か美味しいもの食べない?」
「そうだな。じゃあそこのレストランに入ろうか」
ベーラはすぐ近くの大きな海鮮レストランの店を指差す。看板にはリアルな魚のハリボテ人形が、どーんと目立つように置かれている。
なぜだかベーラは乗り気だった。レストランに入ると、そのわけがわかった。ベーラは超のつく大食いだったのだ。
四角い真っ白のテーブルに、ヌゥとベーラは向かい合わせに座った。壁は全面ガラス張りで、高台にあるその店からは海が一望できる。
「うわ〜凄い! 海の見えるレストランだ!」
「船の残骸もよく見えるがな」
ヌゥはメニューに目をやる。新鮮な海鮮をあしらった料理がおよそ20種類だ。
「何頼もうかな〜」
「すみません。注文を」
「えっ! ベーラ、俺まだ決めてないけど!」
ベーラはヌゥを無視して、店員を呼びつける。
「何に致しましょう」
「ここからここまで」
「…か、かしこまりました!」
ベーラがメニューを指さしながら注文をした。ヌゥには何を指したのか見えていなかったが、店員は急いで厨房に走っていく。それを見たヌゥはベーラに尋ねる。
「な、何頼んだの?」
「全部」
「えっ」
机から溢れるばかりの食事が次々に運ばれてきた。
新鮮な生魚はきらめくように輝いていて、口溶けが非常によく、箸が止まらなかった。
「何この魚! 生なの?! 美味しすぎる!!」
「刺し身を食べたことないのか」
「ないよそんなの! とろける〜!!」
ヌゥは夢中で料理を頬張る。
そしてまだまだ余っている刺し身を箸でさしながら、ベーラに尋ねた。
「ねぇ、これアジトに持って帰れないの?」
「無論無理だ。ここからアジトまで3日かかる。腐るぞ」
「そうかぁ……。アグにも食べさせてあげたかったのになぁ〜…」
「……」
ヌゥは残念そうに刺し身を箸でつまんで、再び口に入れる。
(とろける〜〜)
ヌゥはお腹がいっぱいになってきた。彼は少食である。しかし料理はまだまだある。10人以上でがっついても余りそうな量だ。
「ベーラ、こんなに頼んで本当に食べられるの?」
「無論だ」
「そりゃあすごい。呪術で胃袋を大きくできるの?」
「そんな術はない。体質だ」
「ふーん、体質かぁ〜」
ヌゥはもう限界と言って、残りをベーラに託した。ベーラは焼魚を食べ始めた。魚の骨だけを見事なまでに綺麗に残している。
「ねえ、3年前だっけ? ウォールベルトの人達って、ベーラの一族を襲ったんでしょ? ベーラはよく生きていたね」
「私はその頃既に、特別国家精鋭部隊に入隊していたからな。事件が起こった時、私は村にはいなかったんだ」
ベーラは自分の顔くらいある大盛りのご飯を食べながら答える。
「ふーん。でもさ、ベーラの生まれた村だったんでしょ? ウォールベルトの奴らは、ベーラにとって因縁の相手ってわけ?」
「まあ、そうとも言える」
いつのまにかご飯のどんぶりは空になっており、ベーラはエビの唐揚げをつつき始めた。
「ベーラって無愛想だよね。笑ったりしないし。怒ったりもしないの?」
「うむ。無駄だからな。それに疲れる。怒るのは特にな」
「へー、俺にも教えてほしいな。どうやったら怒らないでいられるか」
「怒ったら気絶するように命令してやろうか」
「えー! それは勘弁だよ!」
「冗談だ」
そう言うベーラの顔はぴくりともせず、死んだような目でヌゥを見ている。
そして5人前くらいのちらし寿司を頬張り始めた。
またご飯食べるんだ、とヌゥは思ったが、特に口には出さなかった。
「ベーラの冗談って怖いね。でもさ、服従の紋の痛みは尋常じゃないよ。黙ってたけど、出発1日目はまだかなり痛かったんだよ」
「すまない。手加減をし忘れた」
「……」
ヌゥは怪訝な顔でベーラを見たが、ベーラは何食わぬ顔でちらし寿司を平らげると、フライの盛り合わせに手を付け始めた。
(ここで揚げ物!!!)
ヌゥはあんぐりと口を開け、もはや彼女のその大食いショーに見とれてすらいた。
「そういや呪術って、服従の他にどんなことができるの?」
カンちゃんの授業で習ったはずだったが、ヌゥはもう忘れていた。ベーラは丁寧に説明してくれた。
呪術は全部で3つの術がある。ただ、術師の力量と応用次第で、オリジナルの術にアレンジすることも可能だという。
1つ目はヌゥのよく知る服従の術だ。服従の術をかけることを、服従の紋をはめるという風に呼ばれることが多い。あらかじめ描いた魔法陣の上に対象を数秒立たせると、服従の紋をはめることが出来る。魔法陣は呪術で出した特別な杖を使えば、どんな場所にも描くことができる。
紋をはめた相手を一生服従させ、命令に従わせることができるという、恐ろしい術である。
2つ目は創造の術。無から物を生み出すことができる。どのくらいの大きさ、強度、能力(例えばベーラの馬車は、攻撃を防ぐ能力・自身以外は解錠ができないようにする能力を持っている)などを与えられるかは、術師の力量による。
馬も呪術で創造した「呪馬」と呼ばれる生き物。馬車の乗り手も「呪人」と呼ばれる生き物だ。彼らは自分の意思で動くことが出来るが、「物」に分類されている。主人の命令は絶対に聞く。
呪馬などの動物の姿の物を造り出すのも相当難しいが、呪人を造り出すのはそれ以上に難しい。呪人を造れる呪術師はほんのごく僅かである。
造った物はベーラが消そうと思えば消すこともできるし、ベーラが死んだあとも残すことができる。ただし呪人などの動く「物」は、出していると体内エネルギー(術師が術を使うために必要な力、体力のようなもの)を異様に消費するため、使わなくなったらすぐに消しているという。
3つ目は天候操作の術。気候を自由に変えることができるが、ベーラでも自身の半径10キロメートルが限界で、それを使うと体内エネルギーをかなり使うし、しばらくその他の術が使えなくなる。体内エネルギーを使いすぎると、術師は気絶してしまうそうだ。負荷の方が多いため、ベーラはほとんど使ったことはないという。
「へ〜すごいね! じゃあさ、雪を降らしてよ! 俺見たことなくってさ」
「話を聞いていなかったのか? 断る」
「あら〜残念だな〜…」
そしてベーラは食卓のすべての料理を美しく完食した。周りのテーブルの者たちから、驚きの眼差しを浴びていた。
「ベーラ、お金持ってるの?」
「お前が余らせた資金がここにある」
ベーラはいつのまにかレインから預かっていた、ヌゥの装備用の資金を取り出した。
「うわ、もっと食べとくんだった」
その後もヌゥとベーラは、バルギータの散策を続けた。
あっという間に日が落ちて、辺りが暗くなってきた。
その時、住民たちが急にざわつき始めた。海に竜巻が発生したのだという。
「ベーラ!」
「今夜来るとは好都合だな」
2人は急いで湾岸地帯へと駆け出した。