奪われたモノ
「ちぃっ! ならばもういい! リアナの核はこの手に取り返した! 別の身体を探して入るまでだ! ヌゥ、お前はもう要らない!!!」
「っ!!」
ゼクサスはヌゥにその手を伸ばし、ヌゥの首を掴み、握りしめた。
「ううっ……」
ヌゥは必死に暴れ、その手を離そうとするが、ほどけない。
(くぅ……息がっ……)
「死ね! ヌゥ・アルバート!!」
ゼクサスが更に力を込めようとしたその瞬間、ゼクサスの腕が斬り落とされた。
「っ?!?!」
そこには大鎌を振り下ろしたシェラの姿があった。
ゼクサスは驚いた様子で、目を大きく見開いた。
腕を斬られたゼクサスは、ふっと後ろに飛んで下がった。ゼクサスの右腕が地面に落ちる。
「シェラ……どうして……?!」
ゼクサスは焦っていた。
ヌゥもまた呆然としていると、シェラは叫ぶ。
「逃げろ!」
ゼクサスは信じられないといった様子で、シェラを見ていた。
(どうして君が……。まさかこの私を……裏切るのか……?!)
「ここから逃げろ! ヌゥ!」
シェラはヌゥの手を引っ張って、走り出した。
ゼクサスの部屋を出ると、廊下に出る。
ヌゥは驚いて、その廊下を走りながらシェラを見る。
「ど、どうしてっ…!」
「お前たちを信じたくなった…」
「俺…たち…?」
シェラは頷いた。
「ゼクサスの身体は、古の武器でしか崩せないバリアに守られている。俺のデスサイズ、エクロザのオリジナルの持つ黒い槍ログニス…他にも2つあると言われているが、ここにはない。全ての古の武器が揃った時、強大な力を得られるとも言われている。ゼクサスもその力の存在を知って、デスサイズを所持していた。ログニスも狙っている。あとの2つも裏で探しているらしい」
「何で…俺に教えてくれるの…?」
「お前ならあの憎悪にも、立ち向かえると思ったから…」
2人が廊下を抜けて広間に着くと、アギが刀を持って待ち構えている。
「どういうつもりだ! シェラ!」
アギは2人に襲いかかった。
「これを持って逃げろ! ヌゥ!」
シェラはデスサイズをヌゥに渡した。
「ゼクサスよりも先に手に入れろ! 他の3つの武器を!」
シェラはヌゥの手を離すと、アギに向かって地割れを起こす。アギは高く跳んでそれを避けた。
その間にヌゥは部屋の扉を開けて廊下に出た。
「シェラ! てめえ!」
アギは声を荒げた。
ヌゥもまたそれを見て声を上げる。
「シェラ!」
「いいから行け! 外にある右から3番目のモヤがユリウス大陸だ!」
「ありがとう!」
ヌゥは廊下を走り抜け、外に出た。
「逃がすかっ!!」
アギがヌゥを追おうとするが、シェラが竜巻を起こしそれを食い止めた。アギは赤い刃のその刀を抜き、竜巻を斬り裂く。
「てめえ!!」
「行かせねえよ…!」
シェラは顔を引きつらせながらも、笑っていた。
(いいんだろ…これで…なぁ、シェラ……)
シェラの脳裏では、ブラントとシェラが向かい合っている。
【もう、終わりにしよう、ブラント】
(わかってる…ごめんな…シェラ……)
シェラはにっこりと笑った。ブラントは涙を流している。
(ごめんな…君の身体だったのに……)
【いいのよ。ブラント。あなたの気持ち、嬉しかった】
(ごめん…ごめんな……)
シェラは首を横に振った。
そしてニッコリと笑うと、ブラントに言う。
【あの子を助けてくれて、ありがとう】
ああ、オレは、どうして間違えたんだろう…。
なぁシェラ、君はそんなこと、望んでいなかったのに。
『あなたと一緒にいれればそれでいい』
君の望みを、叶えてあげたら良かったのかな…。
シェラの前に、ゼクサスがゆっくりと近づいて来る。
アギもそれに気づいて、道を開けると言った。
「ゼクサス様っ…部屋から出て大丈夫なのですか?!」
ゼクサスは何も答えず、シェラの目の前までやって来た。
シェラは1歩も動けず、ゼクサスのことをずっと見ているだけだ。
「シェラ、本気かい?」
「ゼクサス様…申し訳ございません」
「私に背いた君がどうなるか、わかっているね…?」
「はい…」
シェラは目を閉じた。
(ソニア、お前の占い、やっぱり当たったな……)
シェラはそのまま、笑った。
ブラントは、シェラに近づくと、彼女をぎゅっと抱きしめた。シェラもまたそれに答えて、彼を抱きしめ返した。
【私とあなたは2人で1つ】
(うん……)
【ずっと、一緒だよ……】
ゼクサスは彼女に手をかざす。
そこから真っ黒な闇が現れると、あっという間に彼女を飲み込んだ。
「シェラ…私は悲しいよ」
ゼクサスは言った。
ゼクサスに飲み込まれたシェラは、跡形もなく消え去った。
アギはその様子を見て、息を呑んだ。
「さようなら、シェラ」
ゼクサスはシェラの死に、目を閉じて追悼した。
ヌゥはわけもわからず必死で廊下を駆け抜け外に出た。
(ハァ…ハァ……)
「行かせるかぁ!!!!」
ヌゥがハっとして振り向くと、エクロザのコピーがヌゥを追いかけてきていた。
(コピー?! もう目を覚ましたのか…?! いや、でもあいつはもう数日間能力は使えないはずだ…!)
ヌゥは全速で庭を駆け抜け、モヤに飛び込んだ。
「待てぇっ!!!」
エクロザのコピーもモヤに飛び込むと、異空間の中でヌゥを追いかける。
(くそっ…追ってくる…!! 何であいつのほうが速いんだ…っ!!)
「お前はあの方の驚異になり得る」
「っっ!」
エクロザのコピーは怒り狂った形相でヌゥを追いかけると、ついに彼を捉えた。
「お前の力の源を……奪ってやるっ!! それが私があの方のためにできることだ!!」
「んなっ!!」
エクロザのコピーはヌゥの頭を鷲掴みにした。
「ぐあっ!!」
ヌゥは顔を引きつらせる。
(なんだ?! 何か…何か俺の大切なものが…、失われていく感覚っ!!)
ヌゥは身体をよじらせてコピーの手から離れると、モヤを抜けた。
(はぁ…はぁ…はぁ……何だ……何を盗られた……?!)
ヌゥはエクロザのコピーにさらわれた場所と同じ、練習場にでていた。
(くそ…禁術は使えないはずなのに…それ以外の、何か別の力なのか…? ああ…でも何を盗られたのか、はぁ…思い出せないっ…)
「おい! ヌゥ!」
ヌゥは聞き慣れたその声に反応して振り返る。
「レイン!」
そこにはレインの姿があった。
「おい、お前、その髪…」
「ああ、うん。男に、戻れた…みたい」
「そ、そっか…。良かった…のか?」
「うーん…まあもう、どっちでもいいんだけどさ」
「お前、その鎌は…」
「とっても大切なもの。もらったんだ…」
レインは複雑そうな表情を浮かべる。
「どこ行ってたんだよ…てか、皆もいねえんだけど…」
「え?」
「アジトから戻ってきてさ、そのあと飯食いに行って、16時に広間に集合だって言ったから待ってたのに、ハルクしか来ねえし…」
「い、今何時?」
「もう16時半。誰もこねえから、心配して俺が探しに来たんだけど、みんなの匂いがここで消えててさ…。そしたら今、お前が」
「えっと…ああ…そうだ。皆、ソニアっていうシャドウにつれていかれちゃって…」
「はあ?! またかよ! 今朝シエナとメリがさらわれて帰ってきたばっかだってのにか?!」
レインは焦った表情を浮かべる。
「うん…」
「お前だけ、戻ってきたのか…?!」
「いや、俺はゼクサスのアジトに連れて行かれて…」
「はいい?!?!」
「でも何とか逃げて帰ってこれて…その時男に戻ったりもして…敵のシェラが俺を助けてくれて…」
「ちょいちょいちょい! 待った待った! も〜う頭パニックよ! ちょっと、落ち着け? な?」
「いや、レインが落ち着いてよ」
「ああ、そうだよな…」
レインは深呼吸する。
「えっと…とりあえず…あれだ。エクロザ…だっけ? アジトに戻ったけど、そいつはいなかった。そいつの力がないと、ラビリンス何とかってとこには行けねえみたいだし…くそ…助けにもいけねえのか…」
「ラビリンスに送られたのは6人。全員がやられたとは思えないし…まだゲームを続けているところかもしれない」
「そうだよな…くそ…ここにきて奇襲が多すぎるな…」
「そうだね」
「仕方ねえ…とりあえず広間に集まってお前の話を聞いておくか」
「わかった」
ヌゥはレインと共に城の3階大広間へ向かった。
中に待っているアグとハルク、2人の姿を見て、ヌゥは唖然とする。
「え……?」
「うん? どうした?」
レインは不思議そうにヌゥを見る。
「ヌゥ、大丈夫か?!」
アグは立ち上がると、ヌゥに向かって言った。
「お前、男に戻ったのか…?」
「あの…えっと…」
見かねたレインも尋ねる。
「見た通り、戻ったみたいだぜ」
「レイン…あの…」
ヌゥの様子がおかしいことに、レインも気づく。
「なんだよ。どうした……?」
すると、ヌゥはアグを指差すと、言った。
「この人、誰……?」




