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対戦・ソニア

ベーラはソニアの足元から土の柱を生み出し、彼女を狙う。

ソニアはそれを避けながら2枚の天使の翼を描くと、それを自分の背中につけ、空を飛んだ。


(描いたものが本物のように機能するのか。だけどっ…)


ベーラは四方から土の柱を生み出してソニアに向け、襲わせる。


(呪術の創造のほうが遥かに速い!)


ソニアは更に上に飛んでそれを避ける。


(描かせるスキを与えるな! 生み出し続けるんだ!)


ソニアはベーラの攻撃を避けていく。

するとソニアは、それらを避けながら画筆で虎の絵を描いた。虎は本物のように動き出し、ソニアの意志とは無関係にベーラに襲いかかる。


(あれを避けながらこの絵の上手さ…恐れ入るよ!)


ベーラは鉄の檻を生み出し、虎を閉じ込めた。


「やるわね!」


ソニアは空をすばやく飛び回りながら、波の絵を描いた。

それは激しく地面を波打ち、津波のように彼女に降り注ぐ。

ベーラは自分の足場に鋼鉄の柱を生み出し、津波よりも高いところに自分を連れて行く。


(レアとのバトルだ…土には構ってられないな)

(なんて柔軟な創造力。呪術といえど、このスピードで創れるなんて…この子、天才なの?!)


ベーラは天井から広範囲に雷を落とす。

ソニアは避雷針を描いて直撃を防いだ。

下にはまだ先程の津波が荒れており、地面に当たった電気はビリビリと海面を沿って流れていった。


「おい、その棒の絵は避雷針のつもりか」

「そうよ。私がそう思って描けば、そうなるのよ」

「何でもありで困ったもんだな…」

「それはお互い様でしょう!」


ソニアは丸をたくさん描くと、それをベーラに向かって飛ばした。


(なんだ?!)


ベーラは鋼鉄の盾をだしてその丸を受け止めたが、盾に触れるとその丸は激しく爆発した。丸がいくつか盾に当たると、その盾は壊されてしまい、残りの丸がベーラを襲った。

盾を何層も出して丸の爆発を防ごうとしたが、その圧倒的な丸の多さに盾の方が足りなくなり、ベーラは爆風に巻き込まれて後ろに飛ばされた。

その先に柔らかいクッションを生み出して、衝撃を免れる。


「爆弾のつもりか」

「ふふ…防ぎきれなかったみたいね」

「本当にまともな絵が描けなくなったみたいだな」


ベーラがそのように挑発すると、ソニアは案の定怒っているようだった。


「絶対に殺してやる!」


ソニアは空中に剣を描こうとした。ベーラは阻止しようと土の柱を飛ばして妨害する。


(近距離戦に持ちこまれたら分が悪い!)


ソニアは空中を自在に飛び回り、それを避ける。

描いていた途中の剣の絵は消えてしまった。


(途中で描けなくなってはいけないようだな)


ソニアはちっと舌打ちをすると、ただのブイの字を囲っただけのブーメランの絵を描いた。

そしてそれをベーラに投げつける。


ベーラは頑丈な網を作り出してブーメランをキャッチした。

ベーラはそれをソニアに投げ返して攻撃した。

ソニアも同じように格子状の網を描いて同じようにキャッチをする。


「おいおい。盗作は反則だろう」

「そんなルールはありませんよ!」


ベーラとソニアは人外的な創造力のぶつけ合いで、攻防を繰り返す。


「はぁ…はぁ…」


先に疲れが見え始めたのはベーラだった。


「ふふ…さすがのあなたも、呪術の使いすぎでしょう! おまけにこの切迫状態ですから、普段よりも力の消耗が激しいに違いありませんね!」


ソニアはにっこりと笑って、丸の爆弾を投げ続けた。

ベーラは盾を何重にも出してその爆弾を受ける。


「疲弊するのを待った方が早そうですねえ!」

「そうは…いくか!」


ベーラは大きく頑丈な盾を6つ作り出し、ソニアを囲った。


「?!」


そのあと盾は箱のように合体し、ソニアはその大きな四角い盾の中に閉じ込められた。

中からソニアがどんどんと盾を叩く。


「ちょっと! 出しなさいよ!」


ソニアは中から攻撃するための絵を描いているようだが、盾はびくともしない。


「時間稼ぎして休憩でもするつもり?! 無駄よ! 攻撃されない私は、集中して絵を描くことができるわ。どんな絵が描けるか、楽しみにしていなさい!」


そう言ってソニアは静かになった。黙々と何かを描いているに違いない。


「はあ…はあ…」


この巨大な盾を創るのに、ベーラはほとんど全力を使った。もうこれ以上は創造をする気力がない。

ベーラは最後に、小さな杖を作りだした。


盾に囲まれたソニアは、それを打ち砕くための絵を丁寧に描いていた。


この画筆は、絵が細やかであればあるほど、より強力な力を得る。


(ふふ…バカね…私に絵を描く時間を与えることは、私と戦う上で1番やってはいけないことなのよ…)


ソニアは先ほどベーラに話したように、シャドウになる前は有名な絵描きだった。


「素晴らしい才能だ!」

「見てください! この色彩を! いやぁ、天才的だ!」


ソニアの絵は、非常に美しく鮮明なものだった。特にその艶やかな色使いは、他の誰にも真似できないと高い評価を受けており、彼女自身もそのことを自負していた。


その中でも彼女の代表作は3つ。

景観を美しく描いた「庭園」と「城」、そして、ある少女が画筆を持って絵を描いている情景を客観的に描いた「夢」。


ソニアは幼い頃から絵描きになることを夢見ていた。

そんな彼女自身を描いたのが「夢」なのではないかと、ファンの皆は説をとなえていたが、ソニアは肯定も否定もしなかった。


ところがある日、彼女は事故にあった。

道を歩いていた彼女に、坂道を駆けていた馬車が止まることができず、全速力で衝突したのだ。

彼女は全身をひどくケガし、その国の医療会に運ばれ治療され一命はとりとめたが、失明してしまっていた。


その目を開けたとき、何も見えない真っ暗な世界に彼女は絶望した。

日常生活においても地獄しか待ち受けないその事実ももちろんのこと、自分はもう絵が描けないんだとそう気づいて、彼女はひどく落ち込み、心も鬱状態になった。


そして後にその事故が、彼女の才能を妬んだ他の絵描きによる故意的なものだったことを知る。


その時ソニアの心は、悲しみよりも怒りが勝っていた。

それに気づいたあの方が、ソニアに手を差し伸べる。


ソニアはシャドウとなり、あの方の命令を聞くことを強いられた。その命令は、たくさんの人間を殺すことだった。

元々穏やかな性格の彼女にとって、それはとても辛いことだった。

しかし、あまりにたくさんの人間を殺したので、彼女の感覚もおかしくなった。人を殺すことに、ためらいがなくなったのだ。

あの方の命令通り、ある1つの名前も知らない小さな大陸は、彼女の手に落ちた。


それが一段落し、ソニアは再び絵を描こうと試みた。

しかし、たくさんの人を殺したその手で描いた絵は、生前の物とはまるで別物だった。


何度試みても、昔のような絵が描けないことに気づいたソニアは、現実世界に絶望した。

そこでソニアは、ラビリンスの能力で、その迷宮内に、夢の世界に入る扉を作り出した。

そして自分自身もその中に入り、代わりにもう1人の自分を画筆で描き、その画筆をも彼女に託した。


ソニアは夢の中で、今も美しい絵を描き続けている。


「うふふ……もう少しよ…もう少しでベーラ、あなたを殺すための最高傑作が完成するわ。ふふ…絶望なさい。私の力の前に……」


ソニアは空中のキャンバスに、「闇」を描いていた。


それは、すべてを飲み込み、破壊する闇。

その闇の中には、うっすらと人間の姿がある。

それは、3人目の自分。

誰よりも強く、憎しみに溢れ、全てを無にする力を持った、最強の存在となるよう願いを込めて描いた。


その絵は美しく、麗しく、暗いのにも関わらず、艶やかだった。


ああ、まるで、生前の私の絵のようだ!!


ソニアは感動した。

ベーラ、あなたへの憎しみが、私に絵を取り戻してくれた!


その絵が完成すると、描かれたもう1人のソニアが動き出した。

闇のソニアは夢の番人のソニアを頭から食らって、その中に取り込んだ。


もう一度、生前の私のように絵を描くことが、私の望みだった。

私の望みは叶った…。

私は満足した。

私は闇の中で、生きるよ…。


夢の番人のソニアは笑いながら消えてしまった。

そして、闇の力を得たソニアは、その盾を飲み込んだ。


ソニアはそのまま地面に着地した。

闇にまとわれた自分を感じながら、ベーラを見て笑った。


「見よ…この美しい姿を……。これが私の、最高傑作「闇」だ……」


ソニアはベーラを飲み込もうと、彼女に近づいていく。


「ふふ…恐ろしくて、声も出ないのか…」


ソニアがベーラに手をかけて、彼女をとりこもうとしたその時だった。


「ゔっ、ああっ、ぁっ、な、何っ…なんだ…これはっ…」


ソニアが突然苦しみだした。

ベーラはふっと笑って彼女に言う。


「服従者ソニア、私を殺そうとすれば、お前は死ぬ」


ソニアは目を見張った。


(な、なんだ…この力は……)


ソニアは地面にかかれた魔法陣に気づいた。この部屋一体、床も、壁も、天井にも、すべての壁に魔法陣が描かれている。


「ソニア、お前はもう、私に逆らえない」

「な、何だ…何なんだ……」

「シャドウのくせに呪術の基本も知らないのか」

「服従の…紋……?!」


ベーラは悲壮な笑みを浮かべると、彼女に言う。


「まずはこの棺の自分を目覚めさせろ」

「それは…できないっ!」

「命令だ」

「うぁっっ」


ソニアの身体を酷い痛みが襲った。


(何故だ! 私は全てを飲み込む闇だぞ…?! こんな呪術師ごときの力に屈するはずっ……ううっ……)


「仕方ない。なら私が起こそう。お前は動くな」

「やっ、やめろ! うああっ」


ベーラを止めようとしたソニアに、再び激痛が走る。ソニアは立っていられないほどの痛みに襲われ、地面にひれ伏した。


ベーラは棺の蓋を外し、眠っている彼女を起こした。


「っ! こ、ここは…どこですかぁ?」


うーんと伸びをして、本物のソニアが目を覚ます。


「やめろっ! やめろぉぉ!!!」


闇のソニアはベーラを殺そうと襲いかかった。

しかしその時、闇のソニアの心臓が、ぐしゃっと潰れた。


「主人を殺そうとすれば死ぬと言っただろう」


闇のソニアは真っ赤な血をまき散らせ、その場に倒れた。

彼女の血は、ベーラの顔にも飛び散って、彼女の顔を伝って、流れるように落ちていった。


「ふわぁ〜私、なんだか夢を見ていたみたいですねぇ〜」


長い長い夢を見ていたソニアは、クラクラしていた。

その地面に立ったソニアにもまた、服従の紋がはめられた。


「ソニア、お前は私に服従している。今後私達に手を出すな。ゼクサスの仲間の情報を教えろ」

「わかりました〜。ですが、私新入りで、情報なんてほとんどありませんよぉ〜!」


ソニアはゼクサスが何者なのかも、ゼクサスの仲間たちの能力も、ほとんど何も知らなかった。気絶しないところを見ると、本当に知らないらしい。


「ならば奴らの情報を手に入れて、後日私に提供しろ」

「いいですよぉ〜。ご主人様っ!」


ソニアはにっこりと笑って言った。


「その前にソニア、私と私の仲間をこの迷宮から出せ。命令だぞ」

「そうは言われましても、あなたはまだ出られませんよぉ」

「何故だ」

「望みを叶えていただかないと、出口が現れませんので!」


ソニアはにっこり笑って言った。

はぁ…とベーラはため息をついた。


「そのルールを変えてもらうことはできないのか」

「残念ですけど、できませ〜ん!」

「……」


(その喋り方やめろと命令したいが、ここで死なれても気絶されても困るな…)


「わかったよ。じゃあ望みを叶えるために、皆のところへ連れてってくれ」

「わかりましたぁ〜」


ソニアは扉を生み出すと、ベーラと一緒に中に入った。


どこからともなくベーラが現れたので、皆は驚いた様子で彼女を見る。


「べ、ベーラさん!」

「生きていたのね! クリアしたのね!」

「どうして黒い扉に入ったんですか!!!」


シエナ、ベル、メリは、泣きそうになりながらベーラに抱きつく。


「わしは、信じておったぞぉ!! うおおお!! 0%の扉をクリアするとは、さすがベーラじゃ!」


アシードは既に泣きながら彼女の帰還を喜んだ。


ジーマはベーラの前に立つと、彼女を見下ろした。

ベーラも彼を見ていた。


すると、ジーマは彼女の頬を思いっきり叩いた。


「!!」

「?!」

「じ、ジーマさん?!?!」


ベーラは一瞬、何が起こったのかわからなかった。


「ふざけんなよ! てめえ! ううっ……」


ジーマは彼女を怒鳴りつけたあと、泣き崩れた。


「女をビンタするとは、最低か」

「お前が悪いんだ……っく……絶対許さねえ……」

「ちゃんと生きて帰っただろう」

「うう…ベーラ……」


ジーマは止まらない涙を何度も拭った。


「ああ〜お取り込み中悪いですけど、ベーラさんはまだクリアしていませんので!」

「え?!」

「はぁ?!」

「どういうこと?! てか何であんた普通にいるの?!」

「まあ皆さんはアフタヌーンティーの続きを楽しんで、ほいっと!」


ソニアが合図すると、ベーラとジーマの立っている床に穴があいて、2人だけ別の空間に移動させられた。


(あとはご自分で、ご主人様!)


ソニアは笑うとその場から姿を消した。


私の望みは、君が幸せになること。

と、もう1つ。


「な、何これ…」

「私はまだ試練中だからな。お前にも付き合ってもらう」

「試練中って、何?! まだこれから何かやるの?!」

「黙っていろ。すぐに終わる。あと、少しかがめ」

「え? 何なのさ…もう…」


ジーマは言われた通りにする。

ベーラはジーマに近づくと、彼の頬にそっとキスをした。


「ずっと好きでした。多分、これからも」

「え?!」


ジーマは顔を真っ赤にして、頬に手を当てた。

ベーラはふっと笑って彼に背を向けると、大きくバンザイした。


「あ〜クリアしたっ!」

「え?! 何?! えええ?! ちょっと! 何なの?!」

「うるさいな」

「いや…え?! ベーラ……ええ?!」

「安心しろ。お前とシエナの邪魔はしない。ただ、お前のことが好きだってことを、伝えたかっただけなんだ」

「そんな……嘘でしょ……いつから……」

「『le meilleurメイユール souvenirスーヴニール』で2人でご飯を食べた日からだ」

「え?! そんなに前から?!」

「!! お前あの店のこと覚えているのか?」

「覚えてるよ…。メニュー全部頼んだじゃん。そう言えば最近セントラガイトの城下町に移転したんだよ」

「あはっ…!!」


ベーラは笑った。


「あはははっ!!」

「え? 君がそんな風に笑うとこ初めて見たんだけど…ていうか僕の前で笑ったことなんてなかったよね…」

「いや、おかしくってつい」


ベーラは笑って涙が出そうになった。


「えっと…ベーラ…」

「なんだ」


ジーマは彼女に笑いかけると、言った。


「ありがとう」


ベーラはうんうんと頷いて、何とか笑顔を作った。


覚めない夢を見るより、ずっといいよ。

だってこんなに清々しい気持ちは久しぶりだから。


好きになって良かった、君のこと。


「あ、なんか扉出てきたけど」

「出口だな」


2人の前には、真っ白な扉が現れた。


「出ようか」

「うん」


ジーマとベーラは並んで、その扉をくぐった。










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