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描画の扉

「描画の扉って言われても…、一体何なのかな」

「さあね〜! 私あんまり絵描くのとか得意じゃないんだけどっ」

「皆で力を合わせれば大丈夫です!」


メリ、シエナ、ベルの3人は、1つしかないその廊下を進んでいく。そこを抜けると、1つの部屋に出た。


部屋の中には、椅子が3つ並べられている。そして椅子の前には、それぞれ鉛筆とキャンバスが用意されている。


「ようこそ! 描画の扉へ!」


すると、ピンク色の可愛らしいうさぎが現れた。耳にはリボンつけていて、フリフリのワンピースを身に着けている。そのうさぎはフリップを首からかけていた。


「かっ、可愛い!!!」


3人は声を揃えて言った。


「か、可愛いだなんて……あっ、そのっ、あ、ありがとうございます〜!!」


うさぎはデレデレとしながら3人に近づいた。


「私の名前はルルです。この試練のガイドを担当致します!」

「可愛い〜!!!」


シエナはうさぎを持ち上げ、ベルもメリもうさぎによってたかって、ルルをちやほやした。ルルはまんざらでもなく嬉しそうで、幸せそうにしている。


「で、では…試練の説明を!」

「え? あ! そうだった! 試練よね!試練!」


シエナはルルを下ろした。


「それでは皆さん、お好きな席についてください」


ルルに言われた通り、3人はそれぞれ席についた。


「この描画の間では、1人ひとり順番に、ある質問が与えられます。右隣の人はその人が何を描いたのかと、左隣の人は質問が何なのかを当てるのです。2人共が正解して、ようやく正解となります。今日は3人いるので、質問は3問与えられます。3問中2問正解すれば、あなた方の勝ちです」

「何を描いたのかと質問が何なのかが、異なるのですか?」

「はい。例えばお題に、あなたの1番好きな○○を描いてくださいとあったとします。〇〇以外は回答者にも提示します。仮に動物としましょう。それでは黒髪のお嬢さん」

「ベルと申します」

「ベルさんが、犬が好きで、犬の絵を描いたとします。そうしたら、右のあなたが『犬』、左のあなたが『動物』と答えることができたら、正解です」

「何か思ったより難しそうね…」

「ちなみに、嘘を描いてはいけません。猫が嫌いなのに猫を描いてしまったら、その時点で不正解となります」


(画力はもちろんのこと…3人の意思疎通も試されそうね)


「それでは始めましょうか!」

「え?! もう?!」


試練の開始に3人は緊張する。

お遊びみたいな試練だが、2回間違えれば死んでしまう。


(こ、こんな意味わかんないゲームで死ぬなんてごめんよ…)


「それじゃあ、そこのツインテールのお嬢さん」

「わ、私から?!」


ルルはメリの前にフリップを見せる。


「お題はこれです。あなたの1番好きな○○に出てくるモノを描いてください」


フリップには、〇〇に入る文字が書かれていて、メリだけが見える。


「わ、わかりました…」


メリはさらさらとそれを描いた。


「それでは2人に見せてあげてください」

「何か人に自分が描いた絵を見られるのって恥ずかしいな…」


メリが描いたのは、頭にカチューシャをつけた、肩につくくらいの髪の女の子の絵だ。目はぱっちりと開いて、美しい顔つき。レースのフリルのついたその洋服は、シエナもベルも大変見覚えがある。


「わかった!!!!」


シエナとベルが声を揃えて叫んだ。ルルはにっこりと微笑む。


「それでは金髪のお嬢さん」

「シエナです」

「シエナさん、彼女が描いたのは何ですか?」

「アリスちゃん!」


シエナは堂々たる面持ちで答える。


「ベルさん、質問の〇〇は?」

「絵本、ですか?」

「2人共、正解です!」


ルルは拍手をしてみせた。

シエナとベルはその絵を覗き込むように、まじまじと見つめる。


「メリ、絵うっまー!!!!」

「誰がどう見てもアリスちゃんです!!」


その絵の上手さに2人は驚嘆した。

ルルも笑って言う。


「お見事ですねメリさん! 絵かきを目指してはいかがですか?」

「いえ、私は鍛冶屋なので…」

「まあ! そうなんですね! 勿体無い!」

「そ、そうですかね…」


メリはたじろぐ。

シエナはガッツポーズをしてみせた。


「なんだ! あと1回正解したら私たちの勝ちじゃない! 楽勝じゃん!」

「もう次で決めちゃいましょう!」


シエナとベルはきゃっきゃと喜んだ。


「それでは続けましょう! ではシエナさん」


ルルはシエナを指さす。


「は、はい!」

「お題はこちらです! あなたの1番好きな〇〇を描いてください」


ルルは自分のフリップにお題を書くと、シエナに見せた。


「なんだ、簡単じゃない!」


ベルとメリもドキドキしながら彼女を見つめる。


「大丈夫よ! 任せて!」


シエナはさらさらと絵を描き始めた。

メリは彼女が絵を描く様子を静かに見ていた。


(シエナの絵って、どんなんだろ……)


「描き終わったら見せてあげてください」

「はい! これよ!」


シエナはどーんとその絵を2人に見せた。


(げっ)

(うんん??!!)


ベルとメリは唖然とした。


(わ、わからない………)


シエナの絵は、幼稚園の落書きレベル、下手したらそれ以下であった。


「え? わかったでしょ?」

「ごめん、何それ……」

「ええええええ?!?! あれに決まってるじゃない!」

「さすがに私も……まずその絵が何なのか…」

「嘘でしょおおおおお?!?」


いや、何でこれでわかると思ったのよ!

まじで何なの?!

質問答えるどころちゃうわぁ!


「ベルさん、彼女が描いたのは何ですか?」

「えっ…えっと……」

「とりあえず何か答えて!」

「えっと……その……」

「ブッブー! 時間切れ! 不正解!」


ルルは言った。


「ちょおっとおおお!!! 何やってんのよベル!」

「す、すみません!」

「いやいやシエナ! あんたのせいでしょ! 何なのよこれ! ブラックホール?!」

「そんなわけないでしょう! カレーよカレー!」

「はああああああ?!?!?! どこが?!」

「お題はあなたの一番好きな食べ物、でした!」

「ええええ!!!! 絶対今の正解できたやつじゃん!」

「何で2人共わかんないのよおお!!!」

「わかるかぁああ!!!!!」


シエナとメリはこのしょーもない試練のせいで初めて喧嘩をする。


「それじゃあメリ描いてみてよ!」

「んもう! カレーだったらこうでしょう?!」


メリはアリスの隣にさらさらと絵を描いてシエナに見せる。


「おおお!」


ものの見事なカレーの絵にシエナは感動した。


「おお!ちゃうやろ…」

「メリさん、ヒズミさんみたいになってますよ」

「もうあかん…3人でヒズミのとこ行こ…」

「やめてよ! ブラックジョークにもほどがある!」


ルルはシエナの描いたカレーを眺める。


「…逆に抽象画の才能があるかもしれません」

「ほんと?!」

「おい! 調子に乗らないの!」


ルルは咳払いをすると、続けた。


「それじゃあベルさん、最後の問題ですよ」

「は、はい!」

「あなたの〇〇を描いてください」


〇〇の部分が書かれたルルのフリップを見て、ベルは一瞬困惑する。


「え……?」

「ど、どうしたの?」


心配そうに2人がベルを見た。すると、ルルは言う。


「最終問題ですからね、少し難しいですよ! 描く側に時間制限はありませんから、ゆっくり描いてくださいね!」

「それじゃあ、ちょっと時間かかりますけど…描きますね」


ベルは微笑むと、それを描き始めた。


大きいキャンバスでよかったです。

だって小さいと描ききれないですもの。


私はね、メリみたいに上手には描けないけれど、細かいところまでだってね、よく覚えています。


ベルは穏やかな面持ちで、キャンバスに絵を描いていく。


シエナもメリも、黙って彼女が描き終えるのを待った。


(な、長いわね…)

(一体何を描いているの…?)


「終わりました」


30分、いやそれ以上かかったかもしれない。

ベルはゆっくりとキャンバスを裏返した。シエナとメリはごくんと息を呑んで、その絵を見る。


「!!!!!」


そこには、部隊の皆がアンジェリーナに乗って空を飛んでいる絵が描かれていた。

メリにも劣らない優しいタッチで描かれたそのキャンバスの中には、いきいきとした皆の姿がそこにある。


ジーマの腕を掴みながら幸せそうに微笑むシエナ。

山積みの缶詰を頬張っているベーラに、それを見て笑うレインとアシード。

新しく出来た剣を見ながら話し合うアグとメリとハルク。

ヌゥの後ろから手を回して楽しそうにじゃれ合っているヒズミ。


そこにはベルはいない。

これはベルが見ている景色だから。


「メリさん、彼女が描いたのはなんですか?」

「部隊の皆…」

「シエナさん、あなたの〇〇を描いてくださいの、〇〇に入る言葉は何ですか?」

「えっと…えっと……」


シエナは、ベルが今日のランチで言っていた言葉を思い出す。


『私、部隊の皆さんのことが大好きです。皆さんは、私の宝物です!』


「宝物だ!」

「2人共、正解です!」


3人は顔を見合わせて笑い合って喜んだ。


ルルはベルの描いた絵を見ていた。


「とっても素敵な宝物ですね」

「ありがとうございます」


ルルは皆の絵を回収すると、言った。


「良かったら、皆さんの絵をこの部屋の先の展示室に飾らせていただいてもよろしいですか?」

「え! ブラックホールも?!」

「カレーだって言ってるでしょ!」

「私もアリスの横にカレー描いてあるんだけど…」

「じゃあ代表して、ベルの絵を飾ってもらお!」


ベルはびっくりした様子だった。


「ベルさん、よろしいですか?」

「は、はい!」


3人がルルに連れられて奥の部屋に進むと、そこは美術館のように綺麗な絵がたくさん飾られていた。


ここは敵のシャドウの作ったラビリンス《ミュージアム》。

だけどそこには素敵な絵がたくさんあった。


美しい庭を描いた風景や、立派な城を描いた絵、他にもたくさんの絵が飾られている。


「この絵、綺麗……」


メリが思わず立ち止まった絵は、1人の少女が、草原の向こうに見える花畑の絵を、キャンバスに描いている風景だった。

絵の下には、タイトルがあり、「夢」と書かれていた。


ベルとシエナもメリのところにやってきて、3人でその絵を眺めていた。


ルルは空いているスペースに、額縁に入れたベルの絵を飾って、タイトルに「宝物」と書いた。









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