ラビリンス《ミュージアム》
「うわっ」
「きゃっ」
「痛っ」
穴に落ちた皆は気づけば地面に打ち付けられた。
(どこよここ…。)
メリはゆっくりと起き上がる。
ふと目をやると、その床は大理石で出来ていた。
かなり落下したかと思ったが、衝撃はそれほどではなかった。
メリが周りを見渡すと、小さな四角い部屋の中にいた。
目の前には、扉が3つ。右から赤い扉、青い扉、黒い扉だ。他には窓も何もない。
「痛たたた…」
「皆、大丈夫?!」
「なんじゃ、ここは…」
「びっくりしました…」
ジーマさん、アシードさん、ベーラさん、シエナにベル、そして私の6人は、どうやらまたあのソニアのラビリンスに連れてこられたらしい。
まもなくまた例のうさぎが現れた。
「皆様! ソニア様のラビリンス《ミュージアム》へようこそ!」
「ま、またあのうさぎ!」
シエナはうさぎを指さす。うさぎは咳払いをすると、話し出す。
「おほん! またあなたたちですか! 1日に2回もラビリンスで遊べるなんて、本当に幸せ者ですねぇ! まあでも初めての方も多いので、改めて自己紹介いたします! 私はラビリンス《ミュージアム》のガイドのピエールです! 」
「何でうさぎが喋るのじゃ」
「おっさん! 黙ってて!」
「可愛いうさぎさんですね!」
ベルは近寄ってうさぎをまじまじと見つめた。
「お嬢さん! あんまり見つめないでくださいな! 恥ずかしいのでっ!」
「あら、すみません」
「えっと、それじゃあ説明させてもらいますよ…」
ピエールは6人の前に立つと、話を始めた。
「ここはソニア様の創り出したラビリンスの1つ《ミュージアム》です」
「一体いくつあんのよ!」
「それはソニア様のみぞ知ることです」
「シエナ、口を挟むな。とりあえず話を聞け」
ベーラに注意されてシエナはぷぅとほっぺを膨らすと、だんまりした。
「ルールは簡単です。今から皆さんには、3つの試練に挑戦していただきます。目の前に扉が3つあるでしょう。そのうち2つをクリアすればあなたたちの勝ちです。皆さんは3チームに分かれて、それぞれの扉に入ってスタートします」
「1人1つの扉しかくぐれないということだな」
とベーラは言う。
「さようです! 先にクリアしたチームはおいしいアフタヌーンティーをご用意してますので、待機してくださいな」
「ほう」
「いや、食べ物につられないで! てかさっきまでデザート食いまくったわよねえ?!」
「クリアできなかったチームはどうなる?」
「ああ、死にますね」
「?!?!」
ちょっと小バカにうさぎの話を聞いていた皆は、一瞬で顔色を変える。
(そうだ…これはレアのシャドウとの戦い…。油断してる余裕なんてない…)
メリは息を呑んだ。
「1チームしかクリアできなかったら?」
「その場合はクリアしたチームの皆さんにも死んでもらいます」
「…!!」
それを聞いて、皆は目を見張った。
「《ミュージアム》はソニア様のお気に入りのラビリンスですから! 大変強い力で創られているのです」
(その分ソニア様が負けたときの代償も大きいのですが、まあそれはあなたたちには関係のない話なのです)
ピエールは続けた。
「それでは扉の説明をさせていただきます」
皆は黙ってそのうさぎの話を聞く。
「では一番右のこの赤い扉、ここは描画の扉です。ここでは絵を描いていただきますよ〜。皆さんの芸術性を拝見するのが楽しみですぅ!生存率は70%です」
「は? 戦闘すんじゃないの?!」
「この扉では戦闘する必要はありません。ソニア様は様々な試練をお作りになるのです」
「……」
「真ん中の青い扉、ここは迷宮の扉です。待ち受ける罠をくぐり抜け、ゴールを目指すのです。生存率は50%です」
「……身体能力が問われそうね」
「そして最後の黒い扉、ここは最難関! 夢の扉です。試練内容は入ってからのお楽しみなのです! ちなみに生存率は0%です」
「ぜ、ゼロぉ?!」
「そんな扉を作るなんてずるいのじゃ!」
「まぁまぁ落ち着いてください。生存率はこれまでこのラビリンスに挑戦して、無事生還できたかどうかの統計で決められています。黒い扉からはまだ誰も出てきたことがないだけなのです。ソニア様はインチキは嫌いですから、クリアできない扉は作りません。必ず正解があるのです」
「……何それ…」
「扉の説明は以上です。誰がどの扉に入るか決まったら、私に声をかけてください。私もさっきの《庭園》の罰ゲームの後で、ちょっと疲れているのです。少し寝させていただきます」
そう言って、自由なうさぎはぐーかーと眠り始めた。
「な、何なのよこれ!!」
「死ぬって…本当に死ぬの?!」
「我が同士たちよ! 落ち着くのじゃ! 落ち着けぇ!」
「おっさん大きい声ださないで! あんたが落ち着きなさいっての!」
「出口もないからな。言われた通りに扉に入るしかないだろう」
「ベーラ、あんたよく冷静でいられるわね…」
「とりあえず、全員助かるには、全員がクリアするしかないってことですね」
「とにかく、チーム分けをしようか」
ジーマは言った。
皆も仕方なく頷いた。
あまりにも理不尽なゲームが始まってしまったが、どうにも逃げ場がない。
「6人いるから、2人ずつにわかれますか?」
「いや、右から3-2-1で行こう」
「え?!」
「黒い扉を1人で行かせるんですか?!」
「ああ、それは僕が行くから、いいよ」
「はあ?!」
「何を言っとるんじゃジーマ! 生存率0%なんじゃぞ?!」
「まあ、死なないでしょ」
「ジーマさん! 油断してません?!」
「してないけど」
「どんな理不尽な試練かわからないですよ?!」
「クリアできない試練はないって言ってたから、大丈夫。任せて」
「任せてって言われても…」
シエナは手を挙げる。
「だったら、だったら私も行きます! ジーマさん1人で行かせるなんて、嫌です!!」
「シエナ、君は赤い扉に入りなさい」
「なっ! 何でですか!!」
ジーマは彼女の足を指さす。
「君はケガ人だ。まともに歩けもしない。僕の足手まといになりたい?」
「それは…」
「シエナ、諦めろ。こいつは一度決めたら曲げない」
ベーラはジーマの方を見た。彼はにこっと笑った。
シエナは仕方なく手を下げる。
「それからベルも、赤い扉に入って」
「は、はい…」
ジーマは人選を見定める。
「アシードとベーラは青。行ける?」
「無論だな」
「まあわしに描画など無理じゃからな! 迷宮上等じゃ!」
「てことは私が…」
「メリが赤だね。3人共、大丈夫?」
「はい…。この中じゃ1番生存率も高いですし…」
「うん。落ち着いていけば、大丈夫だよ」
ジーマは笑いかけた。
「何か意見は?」
納得した皆は何も言わない。ジーマが黒い扉に入ることだけは、皆心配でしかなかったけれど。
「じゃあ、うさぎを起こすよ」
そう言って、ジーマはピエールに声をかけた。
「えっ! もう決まったんですか! 早いなあ…全然眠れなかった…」
ピエールはぶつぶつとつぶやきながら、眠そうな目をこすって起き上がる。
「それじゃ、扉を開けますよ〜!」
ピエールが右の扉から順番に開けていく。
「赤い扉は3人のお嬢さんですね! 3人力を合わせて頑張ってください!」
「皆、行くわよ!」
「はい!」
「絶対ここから出る!」
シエナ、ベル、メリは、赤い扉の中へと入っていった。
ベーラ、アシード、ジーマは、彼女たちの背中を見守る。
「いってきます!」
シエナは最後にそう言って、ジーマの顔を見ると、ドアを閉めた。
次にピエールは青い扉を開く。
「ここはお2人ですね」
「よし! 行くぞベーラよ!」
「うむ」
アシードは果敢に中を進んでいく。
ベーラはその入り口でジーマの方を振り向いた。
ジーマは笑いながら、ベーラに手をふった。
その時、ジーマの右顔面を、土の柱が力強く攻撃する。
ジーマは完全に油断していて、何が起こったのかも理解できない。
「ここには私が入る!」
ベーラは黒い扉を開けると、さっと中に入って扉を閉めた。
「は?! ちょっ」
ジーマが黒い扉を開けようとするが、鍵がかかって開かない。
それを見たピエールは言った。
「一度閉まったら開きませんよ。そっちの青い扉にどうぞ」
「は……? ベーラ……何で……」
するとアシードが戻ってきた。
「おい、ベーラ何をしておるんじゃ」
「……」
「何じゃジーマ、まだそこにおったのか? あれ? ベーラは?」
ジーマは黒い扉を指さした。
「なっ! ベーラが入ったのか?!」
「油断した…くそ……僕の提案をのったふりをしてたんだ…」
「…仕方あるまい。わしたちは迷宮を全力でクリアする。ベーラも必ず黒い扉をクリアする。信じるんじゃ…」
「くそっ!」
ジーマとアシードは、青い扉に入った。




