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マリーナの森(※)

アグとシエナは途中で買った昼食を持って、城下町を進んでいった。マリーナの森を抜ければ小さな村がある。そこで一晩明かし、翌日の早朝にシプラ鉱山に乗り込むという予定であった。


だだっ広い城下町を抜け、町外れの峠を越え、田舎道を進み、森の入口にたどり着いたのは昼頃だった。


(普通に疲れた……)


アグは数時間歩き続け、息切れしていた。しかしシエナはぴんぴんしている。こんなに身体の小さい女の子なのに、全く異常な体力だ。


2人は森の手前で昼ご飯を済ました。シエナおすすめのカレー屋のカレーは予想以上に美味しかった。


食べ終わったらすぐに出発するように急かされた。もう少し休憩したいという希望を彼女に伝えたが無視された。


(何でそんなに元気なんだ……)


「それじゃ、森に入るわよ。迷いやすいから、しっかり私についてきなさいよ!」

「はい……」


そしてシエナとアグは、森の中に入っていった。


マリーナの森。セントラガイト国の南に位置する広大な森だ。入口と呼べる場所はない。人の手は加えられず、自然のままの姿である。


森の中に道はなく、木と木の間を縫うように進むしかない。見渡す限り奥まで全て木々だらけだ。なるほど、これは下手に進めば迷子になる。


シエナは予め持ってきていた方位磁石を手に持って、南東に進んでいく。方角に従って真っ直ぐ進めば、徒歩なら2時間はかからず森を抜けられるという。


現在1月の半ば、季節は冬だ。セントラガイトは雪の滅多に降らない国であった。

とはいえ、冬は寒い。コートが必要なくらいには。


「あ〜あ。森ってほんとに嫌〜い! ジーマさんの頼みじゃなかったら、絶対こんなところ来ないのに!」

「シエナって何でそんなにジーマさんが好きなの」


アグが尋ねると、シエナは「はぁ〜?」と言いながらうざそうな表情で彼を見た。しかしすぐに目を輝かせながら、顔をきゅんきゅん赤くして話し始めた。


「優しくてかっこよくて、強くて頼りになるからに決まってるじゃな〜い!」

「……」


(前半はわかるけど後半は……そんな風に思ったことないけど)


彼女の中ではジーマの全てが美化されているのだろうか。それとも彼にはアグの知らない一面があるのだろうか。


『あはは〜』


アグはジーマのへらついた笑顔を思い出す。


(やっぱ頼りにはならなそうだけどなぁ……)


シエナはデレデレした様子だ。どんな妄想をしているのかは知らないが、デレついたついでに彼女の口からはよだれが垂れ始めた。


「あぁ〜早く大人になりたぁ〜い! 結婚したぁ〜い!」


シエナはほっぺに手をやり、やがて目はハートになった。


恋する乙女モード全開って感じだな。まあ誰が誰を好きになろうと自由だけど、でもシエナとジーマさんって……


「相当歳離れてない?」


アグがそう言うと、シエナは一瞬で鬼の形相になり、声を荒げた。


「歳が離れてたら結婚しちゃいけないの?!」

「いや、そんなことは言ってないだろ…。でもジーマさんて、今何歳よ」

「35!」


シエナは堂々と即答する。


(お前14歳だろ……2まわり以上ちげえじゃねえかよ…)


「親子じゃん…」

「うっさいわね! 親子じゃないわよ!! 20歳になったら結婚するの! ジーマさんと約束してるの!」


(それ、娘が大きくなったらパパと結婚するって言ってるのと同じ類の約束じゃねえの…)


シエナはアグにべーっと舌を出して、敵意を剥き出しにした。


(まあ別に何でもいいか。俺には関係ないし)


ジーマさんも大変だな〜。こんなに小さい子に好かれちゃって。


「うふふ〜早くジーマさんに会いたいなぁ」

「好きだねぇ〜…」


それからジーマの話をし出しては、シエナは幸せいっぱいの笑みを浮かべた。アグはそれを横目で見たあと、軽く微笑んだ。


「何よ! 馬鹿にしてるの?!」

「いや、可愛いな〜と思って」

「はぁ?!?!」


アグにはそんなに深い意味はなかった。小さい子を愛でるような感覚だった。だけれどシエナの顔は真っ赤になった。


「な、何言ってんの?!」

「え? そんな動揺すること…?」

「何なの?! あんた私のこと好きなの?! 私がいくら可愛いからって……駄目よ! 私はもうジーマさんのものなんだから!!」

「……」


必死に両手を前にやり抵抗するシエナを、アグは白けた目で見ていた。


「安心しろ。ガキは好みじゃねえから」

「はぃい〜?!?!」


何故かフラレたような気分になって、シエナは思いっきり顔をひきつらせながらアグを睨んだ。


そのあとも他愛もない話をしながら、しばらく森を歩き続けた。足もかなり疲れが見られた。これまで独房と教室を行き来するだけの生活だった。身体はなまりになまっている。彼女の話にも相づちをうつのが精一杯になってきた。シエナが先頭を歩いたまま、やがて話も途絶え、そのまましばらく歩いた。


「おい、あとどれくらいで森を抜けられる?」

「だらしないわね! まだ先よ!」


森を歩いてもう2時間以上経ってないか…? ちょうど昼頃には森に入ったと思ったけど…。夜のうちに抜けないと、森で野宿するはめになるぞ…。

それにしても、本当にこっちで合ってんだろうな。


そういや、少し前からシエナの様子がおかしい。口数も減って、何となくきょろきょろしだしてる…?


「シエナ、それみせろ」

「あっ、ちょ、ちょっと!」


アグはシエナに追いつくと、彼女の持っていた方位磁石を取り上げた。針がぐるんぐるんと回っている。完全に壊れていた。アグは心の中で大きなため息をついた。


(やっぱりな……嫌な予感がしてたんだ…)


「なんで言わねえんだよ、壊れてるって」

「と、途中まではちゃんとしてたのよ! 突然こんなぐるぐるに、なっちゃって、うっ、うっ」


(シエナの小手が針を狂わせたな…)


方位磁石は持ってねえや…。シエナが案内してくれるって聞いてたからさ…。強い磁石があったら直せるけど、さすがにそれも持ってはいない。


シエナは今にも泣きそうなのをこらえて、両手で目をこすった。


「おい…泣くなよ」

「な、泣かないわよ! 私は先輩なのよ! 後輩にかっこ悪いところは見せられないわ」

「わかってるよ。じゃあ先輩! 鉱山の方角はどっちだ? 南西か? 南東か?」

「南東…」

「よし、南東だな。じゃあま、大体こっちだな」


アグは進むべき方角を指差した。


(……こっちから来たじゃねえかよ)


「な、何でわかるのよ」

「影だよ。影の向きで大体な。午後になると影は東北東を指すからさ。ってことは、南東だったらこっちの方ってわけ」

「ふうん…凡人のくせに結構やるじゃない…」

「ただ、日没になったらもうわかんなくなるけどな。行くぞ」


アグたちは大体の方角を見極め、進みだした。季節は冬、日没が来るのは早い。疲れたとも言ってられない。急がなくては…。


少し進んだところで、カサカサっと何かが動く音がした。


「きゃっ」


シエナはびっくりして、アグにしがみついた。


「はぁ?」


(おいおい。さっきまでのでかい態度はどうした。俺を守ってくれんじゃねえのかよ。頼りねえなあ、前衛のエースさんよ…)


「シエナ、そういやこの森、何か住んでんの? 動物とかさ」

「く、く、クモ!」

「まあ虫はごまんといるだろうけど…」

「違うの! アグ! 前!」


アグが前を向くと、自分たちの10倍はある巨大なクモが立ちはだかっていた。


「げっ!!」


さすがのアグもドン引いた。真っ黒い無地のまあるい身体に、アメンボのように長い脚が8本。


(こんなにでかいってのに、目の前に来るまで何で気づかなかった…?)


「ドクイトクモだな…巨大すぎるけど」

「な、なんでこんなにでかいの! 無理無理無理! 虫だけは無理!」

「女の子みたいなこと言ってんじゃねえよ! 前衛隊のエースなんだろ。さっさと倒せよ!」

「エースだけど! こいつは無理! 無理なものは無理! 絶対に無理!」

「はあ?!」


(くそ…役に立たねえ護衛だな…)


道案内もできない。敵も倒せない。

何でついてきたんだこいつ。


(何て言ってる場合じゃなかった!!)


巨大なクモは間もなくアグとシエナに襲いかかってきた。


「きゃああああ!!!」

「まじかっ!!!」


アグとシエナは一目散に駆け出した。しかしクモは木々をその巨体でなぎ倒しながら、物凄い速さで追いかけてくる。


(このクモ……もしかして禁術か?!)


禁術の中には大きさを変える能力があるって言ってなかったっけ…。


シエナは半泣きで、アグに目もくれず先に逃げていく。全速力のシエナに、あっという間にアグはおいていかれた。


(こいつ、まじでガキ! いや、クソガキだ!!)


アグは瞬く間にクモに追いつかれた。巨大クモの黒い影がアグを覆う。


「!」


(俺の足じゃ逃げ切れない…。仕方ねえ、試してみるか)


アグは上着に仕込んだ裏ポケットから、手榴弾を取り出した。ビスを口で引っ張って抜くと、クモに向かって投げつけた。


「新型のお手並み拝見だ! おらよ!」


手榴弾がクモに当たると、激しく爆発した。煙がもくもく湧いて、一瞬何も見えなくなった。


「な、何?!」


だいぶ先に行っていたシエナは、爆音がすると足を止め、後ろを振り返った。


煙が晴れると、クモは足を数本失っていた。バランスを崩し、必死に立ち上がろうとしている。


「固いな…。まあでも、こんなもんか…」


シエナは口をポカンと開けて、目を何度も瞬きさせた。


(あいつ、やりやがったわね…!)


アグはポケットから、黄緑色の液体の入った小瓶を取り出し、ちらりと確認した。


(ハルクさんと完成させたこの禁術解呪の薬、試してみるか…? 身体にかけてもさすがに量が少なすぎて弾かれるよな…。やっぱり直接飲ませるしかねえか…)


「だ、大丈夫…?!」


シエナは恐る恐るアグの近くまで戻ってきた。アグは眉間にシワを寄せて、少女を罵倒する。


「何で護衛が先に逃げてんだよ!」

「だ、だってぇ……」


シエナは目を潤ませながらアグを見上げた。


「…まあいいよ」


すると、アグは赤色の液体の入った小瓶を取り出した。同じものをシエナにも渡した。


「お前も飲んどけ」

「な、何よこれ!」

「解毒剤だ。先に飲んでおいた方が効果も高まる」 

「ふうん…。ていうか、臭!!」


シエナが瓶の蓋を開けると、あまりに強烈な臭いに吐き気を催した。鼻をつまみながら、それを飲みこんだ。


「まっずい!!」

「良薬口に苦しだからな」

「何それ」

「はあ? ことわざ知らねえのか?」

「知らないわよそんなの!」


(ったく、頭もガキだな…。まあいい。問題はどうやって飲ませるか)


「アグ! 危ない!」


やっと残った足で立ち上がった毒グモが、口から糸を吐き出したのだ。シエナの声のおかげで、既のところで横に飛びのき、糸を避けることができた。


糸はピンと勢いよく伸びたまま、アグの後ろにあった木にべったりとはり付いた。普通のクモの糸よりも太さがある。アグはその糸を指で触った。


固い…。かなりの弾力がある。これ、何かの素材として使えるんじゃねえの。


「アグ! また来るわよ!」


シエナの声でまた避けることができた。何故だろう。声がしてからクモが糸を出すモーションに入る。なので一般的な運動神経のアグでも、避けることができるのだ。


「いつ糸を出すのかがわかるのか?」

「いつって、クモの口が少し開くじゃない」

「はあ?」


アグはクモの口を凝視する。


(クモの口…? 場所はあの辺だろうが…うん、何も見えない。なるほどな、シエナは非凡な前衛隊、相当目がいいらしい)


「さっきみたいに糸を出す時、教えてくれるか?」

「わ、わかったわ。その代わり早く倒してよね!」

「わかってるよ」


ていうのは嘘。この糸をもう少し出させてからだ。

まあ、余裕があればだけど!


毒グモは2人に近づいてきた。バランスを取るのにも慣れたようだ。動きも早まっている。


「下がれ! シエナ!」

「い、いやぁぁ! 気持ち悪いい!!!」


シエナはいつの間にやらだいぶ遠くまで逃げている。


「おい! あんまり遠くまで行くなよ! 声が聞こえなくなるだろ!」

「だ、だって! 気持ち悪いんだもん!!!」


自称エースが聞いて呆れるな…。まあ何とか聞こえるけど。


「アグ! 来るわよ!」


アグはまた糸を避けた。そのあとも何度も糸を吐き出させた。シエナの合図のおかげで、集中していれば避けるのはそう難しくない。


「ちょっと! 早く爆弾で殺しなさいよ!!」


(うるせえな…こっちは実験中なんだよ)


連続して攻撃を避けられたクモは、非常に怒った様子だ。すると、クモはついに毒を吐きだした。クモの口から、真っ黒な液体が激しく飛び散った。


「うわっ!」


毒は糸と違い、放射状に撒き散らされたので、アグは完全に避けることができなかった。顔を守った腕の一部に毒がかかった。


毒を浴びた腕の皮膚が、一瞬で焼けるように痛み始めた。


「痛えな…解毒剤あってこれかよ」


まあ先に飲んでおいてよかった。痛みは俺でも耐えられる。飲んでなかったら、もうやられてんな…。


疲れてきたし、そろそろやるか。


「アグ! 大丈夫?!」

「なんとかね」

「でも朗報よ! 今ので糸と毒を出す時の違いがわかったわ。口の開き方が違うの!」

「そりゃあ頼もしいよ」


ついでにこの瓶を、あのクモの口に放り込んできてくれたら、もっとね。


アグは走ってクモに近づいた。


毒は無理だ。狙うのは糸を出す瞬間だ。

糸を出すモーションはもうわかった。糸を出す前の数秒、シエナの合図があれば、瓶を口に放り込める。


「アグ! 毒よ!」

「ちっ!」


毒の放射範囲は2メートルはあった。でも近づいたこの場所からじゃあ、もっと狭いはずだ。いける!


アグはクモの横に回り込み、倒れ込むようにして毒を逃れた。受け身をとりたかったが、足がもたつき立ち上がるのが遅れてしまう。


「アグ! また毒!」


(連続?! 毒の方がモーションが早い…次は避けきれねえ)


アグは立ち上がることを諦め、クモに手榴弾を投げ入れた。手榴弾の爆発で毒を飛び散らせ、何とか防ぐことに成功した。その間に体制を立て直す。


(あいつ…本当に凡人? 確かに動きも一般人レベルで遅いし、受け身も下手くそだ。でも間違いなく、戦闘のセンスがある…!)


「アグ! 次は糸!」


アグは彼女の合図に頷いた。


(よし! ここからなら届く。これでもう決めてやる)


アグはクモの口が大きく開いたところに、黄緑色の液体の入った瓶を投げ込んだ。クモは「ゔっ」と苦しそうな様子を見せて、そのまま小さくなっていった。


(きた!! 成功した!!)


アグは目を輝かせて喜んだ。シエナも遠くからガッツポーズをした。


「馬鹿な! 禁術が解かれた?!」


影からクモを操っていた禁術使いの男が、無意識に声を出してしまった。

アグにはわからなかったが、シエナには聞こえてしまっていた。


「誰なの?! そこにいるのはああ!!!」


シエナは禁術使いの居場所を一瞬で見抜き、男の前に飛び出した。男が声を上げるより早く、腹に見事な回し蹴りを食らわした。男は宙に浮き、勢いよく飛ばされたかと思うと、木にぶつかってそのまま倒れこんだ。


「こいつが犯人ね! 虫を巨大化させるなんて、最っ悪!!!」


シエナは男に近づくと、怒った様子で腕を組んで仁王立ちし、その男を見下ろした。アグが彼女の元に駆けつけた頃には、男はもう目を回していた。


「禁術使い……」


見たところ、全くもって普通の人間であった。


「そうよ! また虫を操られたらたまんないわ! こいつは死刑よ! 今ここで私が死刑にするわ!」

「やめろ。禁術使いは捕らえて牢獄行きだろ。俺たちの実験にも使うんだぜ」


まあ、人体解剖は無理かもだけど…。


「ふん。それじゃあこいつ、どうすんのよ」


完全にのびた禁術使いの男をアグも見下ろした。森は静寂を取り戻した。いつの間にか、空が夕焼けに染まっている。


「もう日が暮れるからな…。その辺の木にでも縛りつけておこう。俺たちもこれ以上動くのは危険だ。今日はここで野宿だな」

「ええ〜?! 最悪〜! 虫だらけの森で野宿なんて!」


アグはリュックからロープを取り出すと、気絶している禁術使いの男を木に縛り付けた。目を覚ます気配は全くない。


「暑……」


逃げ回りすぎて暑い…。アグは防寒具を脱いだ。風が吹けばもはや涼しい。


アグはどうしてか、昔から寒さに強かった。その分暑がりなのであった。体質だろうからどうしようもない。


すると、シエナのお腹がぐ〜と鳴った。シエナは赤面しながらお腹を抑えた。


アグがリュックに入れて持ってきていた、非常食の缶詰を、晩ご飯にとシエナと2人で食べた。


「ふん。用意がいいわね」

「いや。準備不足だった。方位磁石を忘れたからな」


アグに嫌味を言われ、シエナはキッと彼を睨んだ。


「まあでも、シエナのおかげでクモを倒せたよ」

「ふ、ふん! そうよ! 私が合図してあげたから倒せたのよ! あんた1人じゃ絶対無理だったんだからね!」

「はいはい」

「禁術使いを倒したのも私だし? やっぱり私が部隊のエースよね! うん。それにしてもこの鯖みそ缶、結構美味しいじゃないの!」


缶詰を夢中で食べる彼女を、既に食べ終わったアグは、頬杖をついて眺めていた。それに気づいたシエナは再びアグを睨みつけた。


「何見てんのよ!」

「いや、別に」


その後アグは、ハルクに借りた簡易テントを設置した。2人用と言ってはいたが、なるほど、なかなかに狭そうだな。


「シエナ、中で寝ていいよ」

「え? アグは?」

「外でこいつとテントを見張ってるよ」

「まさか、寝ないの? それに夜は寒くなるわよ? ずっと外にいるつもり?」

「お前が起きてから1時間くらい仮眠もらえばそれでいいよ。防寒具はいいやつ買ってもらったし。圧縮して毛布も持ってきてるし」

「ふうん…」


アグはその後、クモの糸の回収を始めた。リュックから取り出した糸巻きの棒に絡め取っていく。


(爆発の近くにあった糸は全部燃えちまってんな…。糸は可燃性か…)


まあでもこれは使えそうだ。巨大化したクモの吐いた糸、禁術が解かれても残るということも発見だな。


シエナはテントの前の切り株に座ると、腕を組み、アグの様子をじっと見ていた。


(ていうか、あのリュックにどんだけ物いれてんのよ)


やがてシエナは1人、テントに入った。小さなシエナが1人で寝るには十分な広さだ。


(でも、囚人のくせに、優しいところもあるじゃない)


中にはシエナの分の毛布も用意されていた。シエナは口を尖らせながらも、その毛布にぐるんとくるまった。


(まあ、ジーマさんほどじゃないけど!)


シエナは目を閉じると、やはり疲労もあったのか、すぐに眠りについてしまった。


挿絵(By みてみん)

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