表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/341

君は浄化する光の如く

その少し前、ヌゥとアグがエクロザと共にアジトに戻ってくると、アジトが見るも無残に粉々になっていた。


「な、何これ!?」


ヌゥは慌ててアジトに駆け寄った。


「…研究所は無事みたいだ」


アグは不審な顔つきで研究所内を見る。


「ただ、誰もいないな」

「どういうこと?!」


エクロザもまた、顎に手をやる。


「ちょっと、探してきます。あなたたちは、ここで少し待っていて」


そう言うと、エクロザはモヤの中に入っていった。


ヌゥは不安な面持ちで、アグにしがみつく。


「み、皆…無事だよねぇ?!」

「信じるしかねえ…。別の場所にいるだけかもしれない。エクロザさんを待とう」


(くそ…俺たちが飛ばされてる間に、一体何が…)


すると、エクロザが戻ってきた。


「み、見つけました…!」

「え?! みんな無事?!」

「皆さんセントラガイト城にいます。しかしあなたたちの仲間が2人、時空の歪でシャドウに連れて行かれて、今まさに戦っています」


ヌゥは声を荒げた。


「すぐに連れてって!」


エクロザは頷いた。


「ただし、奴らは特別な異空間にいます。私はその入り口を作るのが精一杯。一緒にはいけません」

「わかった! 俺が行ってみんなを助けてくる」


するとアグはヌゥの腕を掴む。


「俺も行く」


ヌゥは頷いた。


エクロザはモヤを作り出した。2人はその中に飛び込んだ。




「おらおらぁ! じっと捕まりゃケガさせねえぜ!」


シェラはヌゥに向かって大鎌を振り下ろす。

ヌゥは避けるが、振り下ろした勢いで激しい地割れが起こる。

その先にはアグとシエナもいる。


「っ!!」


ヌゥは加速すると、2人を抱えてそれを避けた。


「アグ! シエナと一緒に、ここから離れて!」


アグは頷くと、シエナを背負って走った。


「おいこら! 勝手なことしてんじゃねえ!」

「うるさい! お前はここで、俺が殺す!」


(大鎌を持つシャドウ……こいつがオーラズネブル大陸を……!!)


ヌゥは手に電気をためると、シェラに立ち向かった。


アグはとにかくその場から離れようと、シエナを背負って庭園内を逃げた。


「ごめんアグ…」

「何がだよ…」

「私があんたを守らなきゃいけないのに……」

「しょうがねえだろその足じゃ…先輩もたまには後輩に頼っていいんだよ」


シエナは顔を上げると、周りを見渡し始める。


「絶対私がソニアを見つけ出すから!」

「ああ、期待してるよ先輩」


(アグに背負われて視界が高くなった…! ソニア…どこにいる…! 絶対私が先に見つけてやる!)



ヌゥは超加速してシェラの背後に回り込み、電気の球を0距離から撃った。


「ゔあっ!!」


シェラはそれを受けて、ふっ飛ばされた。

その身も骸骨となったシェラの身体の骨が、カラカラと鳴って崩れる音が聞こえた。

しかし骨はすぐに元通りになり、すっと起き上がる。


「はははっ! 効かねえなあ! オレのデスサイズの力にはさすがのお前も敵わねえってか?!」


シェラは高笑いしながら、再び宙に浮いた。


「大人しく捕まれ!」


シェラは竜巻を起こすと、ヌゥに向かって放った。


(あの鎌が……奴に力を与えている!)


ヌゥはそれを避けてシェラに近づくが、竜巻は方向を変えて後ろからヌゥに襲いかかる。


(操れるのか! こいつはおそらくレアのシャドウ! 雑魚の出す竜巻とは違うね!)


ヌゥは方向を変え、レンガの壁の前に立った。そして竜巻がくる瞬間、その場からさっと離れた。壁に直撃した竜巻は、その衝撃で勢いを殺して消えた。


「逃げてばっかじゃ勝てねえぜ!」


シェラは息つく間もなく連続して技を繰り出す。

地面はそれによって掘り起こされていった。


しかしヌゥは靴の使用にもだいぶ慣れてきていて、彼女に攻撃が当たることはない。


(くそっ! 何でこれを避けられんだよ!)


シェラは焦っていた。


ヌゥはついに、彼女の鎌に手をかけた。


(っ!!!)


「オーラズネブルを侵略したのはお前か」

「だからなんだってんだ! あれはオレの大陸だ! お前には関係ねえだろ!」


ヌゥはその大鎌に強力な稲妻を送る。耐えられなくなった彼女の手からそれは離れて、ヌゥに奪われた。


「か、返せ! それは…オレの…」


すると、骸骨だった彼女の姿は、元のシェラの姿に戻っていく。


シェラは目を見張って、ヌゥを見つめる。


すると、ヌゥの脳内にリアナの声が響いた。


【ヌゥ、彼らを助けてあげて】

(リアナ?!)


ヌゥの身体の中から、透明なリアナが姿を現す。

リアナはシェラの身体の中にすっと入っていった。


(な、何だこれは…。リアナ…君は何を……)


そしてヌゥは、彼の中に眠る本当の彼女の存在に気づく。

ブラントとシェラ、2人の記憶が、ヌゥの脳裏に刻まれていく。


「君たちは…一体…」

「っ!!」


呪人の核である彼の脳裏にもまた、この身体の本当の主のシェラの声が響く。


【やめて…ブラント……】


シェラ……?!


【あなたは、死神なんかじゃない】


オレは、あの大陸で殺した人間たちの顔を思い出す。


逃げまどう人間たち、泣きわめく子供。その絶望の中、必死に守ろうとする母親。オレたちに対抗しようとする男たち。


オレは殺した。泣き叫び、命乞いをする人間共の首を、数えきれないくらい斬り落とした。


オレは死神になりたかった。

人間なんて、大嫌いだ。


『はじめまして。私はシェラ・リィック』


出会ったときから笑顔でオレに話しかけてきたシェラ。


『私たち、ただの奴隷だけど…、私ね、ブラントと友達になりたいの』


オレは、本当は君を助けたかっただけなんだ…


だって、辛かったんだよな…君も……オレと同じように…


『そんなこと、言ってもらえたの初めて…』


オレはな、シェラ、君を傷つけた奴を…許せなくて…。


ヌゥもまた、シェラとブラントの哀しみを感じていく。

ヌゥは悲しみに暮れた表情でシェラを見ると、言った。


「その子は悲しんでるよ。たくさんの人を、その子の手で殺したんだ。殺したくない人間たちを、たくさんたくさん、殺したんだよ。その辛さが、君にわかるの?」

「やめろ……この子じゃない…オレが殺ったんだ…オレは人間に…復讐したくて…」

「その子はそんなことは望んでいない。その子はただ、君と一緒に暮らしていければそれでよかった。君と話をして、辛いときでも笑い合って、1年に一度、君とおいしいご飯を食べられさえすれば」

「やめろ…オレは…この子を自由にして…それで…」

「君はその子の自由を奪って、人を殺させているだけだ。それじゃあ彼女は君の奴隷であるのと同じだ」

「…!!!」


【ブラント、もう、終わりにしようよ】


やめろ……


ブラントは、その脳内の、真っ白な世界に立ち尽くす。

目の前には、シェラが座っている。


「シェラ…」

【ねえ、終わりにしよう】

「オレはお前と…ずっと一緒に…いたくて…」

【私は、あなたに人殺しなんてしてほしくない】


ブラントは膝をがくんとついて、うなだれた。


そして現実世界でもまた、彼はヌゥの前で膝をつく。

ヌゥは彼に近寄ると、そっと抱きしめた。


「辛かったんだね…君も…彼女も…」


彼は、ヌゥの胸元に顔をうずめた。


シェラはブラントに近寄って、背中をなでた。

そしてブラントとシェラの2人は、真っ白な光に包まれていくのを感じていた。


(何て……あたたかい……)


ヌゥ…君は……何なんだ…


ブラントとシェラの脳裏に、リアナも足を踏み入れる。

2人は顔を上げると、リアナの存在に気づいた。

ゼクサス様と同じ顔のその少女は、2人を見てにっこりと微笑んだ。


リアナはブラントとシェラに近づいて、2人を優しく抱きしめた。

2人は生まれて初めて触れる、その感情に涙した。


「君は…?」ブラントは問う。

「私はリアナ。ヌゥと一緒に生きている核よ」

「リアナ…」


君も呪人の核だというのか…。


君たちから、感じる……

ゼクサス様の憎悪とはまるで真逆の……強い力……


この力は……何……?


優しくて、あたたかくて…穏やかな……これは…


愛だ………。


その現実世界で、シェラは涙を流し、愕然とした。


「オレは…」


(オレは……間違っていたんだ……)


その時だった。すごい勢いで、ソニアがヌゥめがけて襲いかかってきた。


「はぁ〜い!! 私の仲間を洗脳するのはやめてくださいねぇ〜!!!」


ヌゥは彼女に気づかず、死角をとられた。


(しまった!)


ソニアはその手に画筆を持ち、ヌゥを狙う。


「少々荒っぽく行きますよぉ〜!!!」


ソニアがヌゥを捉えた瞬間、攻撃しようと構えたソニアの腕を、銃弾が撃ち抜いた。


「はぁ?!?!」


ソニアが銃弾の飛んできた方向を見る。

何も見えないその視界の遥か向こうでは、アグに背負われたシエナが煙を上げたライフルを構えていた。


「ゲーム終了! ゲーム終了!!」


うさぎのピエールがどこからともなく現れ、ぴょんぴょん跳ねると楽しそうにそう叫んだ。


「ソニアたちの、負け! 撤退後ペナルティがあるよぉ!!」


ピエールがそう言ったあと、ソニアとシェラの姿が消えた。


「うわっ!!!」


ヌゥ、アグ、シエナ、そしてメリは、一瞬の空間の歪みを感じたあと、城の庭園に姿を現した。


「な、なんだ?!いきなり…!」」


突然4人の姿が現れるのを目にしたレインたちは驚いた。


「ヌゥ、アグ、お前たちまで……」


ベーラもまた驚き、彼らを見る。


「し、シエナ……」


アグに背負われたシエナを見つけたジーマは、無我夢中で彼女に駆け寄る。


「シエナ…生きてる……あぁ…良かった…良かったっ……」

「ジーマさん…私、また足をケガしちゃった…」


シエナはなんとか笑顔を作って、ゆっくりとアグから降りた。


「うぅ…シエナ…………」


ジーマは泣きながら彼女を強く抱きしめた。


「ちょっとっ、大丈夫ですよ! すぐ治しますって!」

「君が……いなくなったらと思ったら……怖くて……うう……良かった……良かった………」

「大げさですよ…この私が…簡単に死ぬわけないじゃないですか」


シエナもまた、彼を抱きしめ返した。


ヌゥは気絶しているメリを抱えた。


「メリさんは…?」


ハルクとレインが心配そうに駆け寄る。


「俺が気絶させた。核に身体をのっとられていたんだ」

「ヌゥ…お前……その姿は……」

「まずはメリとシエナをベルのところに」

「ああ…そうだな」


ひとまずメリとシエナを城に運んだ。

ちょうどベルとアシードが揃って、皆がいないことを不審がって探していたところだった。


「なんじゃ?! どうしたんじゃ?! みんな勢揃いで」

「どけおっさん! ベル! 2人の治療を!」

「わ、わかりました! 空き部屋を1つ治療室にしてあります! そこへ!」

「わかった!」


シエナとメリは治療室に運ばれた。

他の皆は部屋の外で待機した。

場は騒然としていたが、一旦落ち着いた。お互いに話したいことも聞きたいことも山積みだ。


「ベルたちには改めて話をするとして、一旦3階の広間に集まろうか」


ジーマがそう言うと、皆は頷いてた。そのまま廊下を歩き、広間へと入った。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ