死神のカード
「シェラさ〜ん」
「何だ。もう《庭園》におびき寄せたのか?」
「そうですよぉ〜! それでは行きましょ!」
ソニアがシェラの手を引いて行こうとすると、アギがやって来て、彼らを止める。
「おい! どこ行く気だ?!」
「お庭の散歩ですよぉ!」
「はぁ?!」
「うふ! すぐに帰りますので〜! ゼクサス様のこと、お願いしますねぇ!」
「おい!」
そう言うと、ソニアとシェラはアジトの庭園に入っていった。
「……」
アギは呆れた顔で庭に行く彼らを見ていた。
ソニアの能力、それは、異次元空間に迷宮、即ちラビリンスを、創り出すことだった。ラビリンスに入るには、ソニアが生じさせた境界となる入り口を通るだけで良い。入り口はいくつも作ることができ、出口となる場所も自由に決められる。
そして、ラビリンスのルールをクリアしない限り、一度入った人間がそこから出ることはできない。
「ここ! 入口はここですよぉ!」
ソニアたちが庭園のある境界線を超えると、シエナたちと同じ、迷宮のような庭園にたどり着いた。
2人が行き着いた先には小さなテーブルがあって、アフタヌーンティーのセットが用意してある。
「…なんだよこれ」
「休憩所ですぅ〜。朝ごはん、まだでしたから〜」
「午後に食うやつだろこれ…」
「まあまあまあ。今、私のお友達のピエールがお相手してくれてますから! 少し待っていてくださいな」
ソニアは西洋風の白い花柄の椅子に腰掛けると、紅茶をいれて飲み始めた。
……悠長すぎかよ。
これから奴らを倒すってのに…。
シェラは自由奔放な彼女を呆れた様子で見ている。
まあでも確かに腹は減っている。シェラも向かい席に座ると、スコーンを手にとってかぶりついた。
「甘っ!」
「美味しいでしょう?」
「おいしいけど…朝は米派なんだよ…」
「まあ…それは失礼しましたぁ…」
ソニアは紅茶のシフォンケーキを頬張った。
紅茶ばっかだな……
はぁ…サンドイッチでも食うか…
そうして食べ終わった2人は、ワゴンの中に食器類をしまった。
「さて、それでは景気づけに!」
ソニアは何もなくなった机の上に、カードを並べ始めた。
「おい…なんだよいきなり」
「うふふ…占いですよぉ! よく当たるんですよ〜〜!」
「はぁ……」
完全にこの女のペースに乗せられてんな…。
タロットカードってやつか?
はぁ…占いねえ…。
「あらまあ!」
「なんだよ」
「シェラさん。今日はやめた方がいいかもしれませんよぉ?」
「はぁ?!」
ソニアは死神のカードをシェラに見せた。
黒いローブをまとった骸骨が、大鎌を持っている絵柄のカードだ。
「はっ…ははははは!」
シェラは大笑いした。
「何かおかしいですかぁ?」
「ソニア、それはオレにとって、1番のラッキーカードだぜ」
シェラは背中の大鎌を抜いて振り下ろした。
「縁起がいいぜ!」
「まあ! デスサイズですね!」
シェラはニヤっと笑った。
「さっさとぶっ殺してやるよ。裏切り者をな」
「はい。お気をつけて〜」
シェラは呑気にくつろいでいるソニアを置いて、庭園の中に入っていった。
「な、何なのよあいつぅ!」
シエナは地団駄を踏んで叫んだ。
「な、何でシエナもここに?」
「え? メリがこの庭に入っていくのが見えたから」
「あのね…アグが…アグがいたの…」
「私も見えたわよ。でも、あれは多分、偽物よ?」
「えっ?!」
メリはがっくりとした。
「ごめんシエナ…敵の罠にかかったんだわ…。私のせいで、シエナも危険な目に…」
「何言ってんのよ! チャンスじゃない! あっちから来てくれるなんて! 私達2人でお手柄あげちゃいましょうよ!」
シエナはニコっと笑ってメリの背中をたたいた。
メリもそんな彼女を見て元気をもらい、にっこりと微笑み返した。
「でも、どうする? 見渡す限り庭なんだけど」
「迷宮というからには、出口があるはずよ」
その庭園は、木や花、芝生が幾何学的に線対称で飾られている。綺麗に切りそろえられた背の高い葉っぱの固まりは、まるで迷路のように道を作りだしていた。また時折、レンガを積んだ壁が行く手を阻んでいる。
空を見上げると、雲が流れているところが見える。ここは城の庭ではないのか…だとしたら、一体何処なのだろうか。
「なんか、秘密の国のアリスちゃんの花園みたい!」
シエナがそう呟いて、メリも同じことを思っていたと同意した。
2人はきゃっきゃと手を繋いで、その庭園の素敵さに対する感動を、ほんのしばらく分かち合った。
ガサガサ
突然奥の芝生が揺れる音が聞こえて、シエナとメリは構えた。
すると、ぴょーんと可愛らしい2足歩行のウサギが飛び出してきたのだ。
「う、うさぎさん?!」
「何? 何なの?! 敵なの?!」
ウサギは青いジャケットを羽織って、金色の縁のメガネをかけている。
「皆様! ソニア様のラビリンス《庭園》へようこそ!」
「う、うさぎさんが喋ってる!」
うさぎはにっこりと笑うと、丁寧にお辞儀をした。
「私はラビリンス《庭園》のガイドのピエールです!」
「ガ、ガイド?!」
「そうです! まあガイドと言っても、軽く説明させてもらうだけですけれど! ここはソニア様の創り出したラビリンスの1つ《庭園》です。ここでは様々な植物を堪能でき、まるで花園に迷い込んだお姫様の気分を味わうことができますよ〜」
「………」
「さて、《庭園》から抜け出すためには、ソニア様を探し出さなければいけません」
「ソニアって、さっきの女の子?」
「はい。残念ながら、この迷宮には出口がありません」
「え? ないの?!」
「はい。ソニア様に直接触れるか、何かしらの攻撃を当てることが出来たら、あなたたちの勝ちです」
「ふうん…そんなの楽勝じゃない!」
「シエナさん…相手はレアのシャドウですよ?!」
「あんなか弱そうな女の子、私の敵じゃないわよ!」
ピエールはふふふと笑った。
「ソニア様はああ見えてもかなりの実力の持ち主ですよ。油断しないことです」
「ふうん! まあ、やってみないとわかんないわよそんなの!」
「そして、あなた達もまた、鬼に追われる身となるのです」
「え?! そうなの?!」
「はい! 鬼に捕まるとあなたたちの負けです」
「負けたらどうなるの?」
「鬼に殺されるでしょう! 鬼は今回、あなたたちを殺すつもりでここに来ていますので」
「………」
「時間は無制限です! ソニア様を見つけるか、鬼に捕まるか! それでは隠れ鬼ごっこ、楽しんでくださいね! お姫様たち!」
そう言って、ピエールは消えてしまった。
「…は、はぁぁああ?!?!?!」
「し、シエナさん…これは…」
「まあいいわ! とにかくソニアって子をぶっ倒したらいいんでしょう!」
シエナはキョロキョロとあたりを見渡す。
(レンガ張りの壁があって視界が悪いか……私の見える範囲にはいないみたい…? んん?!)
「メリ! 避けて!」
「えっ?!」
突然庭園の地面が割れながら近づいてきて、2人を襲った。
シエナはメリの手を引いて、いち早くその攻撃を避けた。
地割れはレンガの壁の1つまで止まらずに進んでいって、その壁を破壊して勢いを失い止まった。
「な、何?!」
シエナが地割れが来た方向を見ると、見覚えのある女が近づいてきた。
メリもそいつを見てハっとする。
「へっへっへ! もう見つけちまったぜぇ!」
女は声を上げると、再び2人に向かって鎌を振り下ろし、地割れを起こす。
メリは巨大な盾を地面に突き刺すように出して、それを防いだ。
「この技は…!」
すると、赤いショートボブのその女は、大鎌を肩にのせ、のっそりと近寄ってきた。
「あんたは…シェラ?!」
「メリ・ラグネル……随分雰囲気が変わっちまったじゃねえか……」
「な、何であなたまでここに?!」
シェラはニヤっと笑うと言った。
「鬼は、このオレだからな!」
シェラは大鎌の先を2人に向けた。




