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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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ミラという少女

ミラにゼクサスが取り憑いたのは、彼女がまだ6歳の頃。


幼い彼女が自分に不思議な力があると、そしてそれを自在に使えるようになったのも、その頃だった。


ゼクサスに取り憑かれたミラは、怒りの感情が湧くと、その相手を傷つけずにはいられなかった。


呪術を使える彼女の怒りは凄まじかった。

服従の紋で誰かにはめて恐ろしい命令をさせたり、創造の術で刃物なんかを作り出して母親に大怪我をさせたり、天候の術で吹雪を起こして街を襲わせたりと、甚だしかった。

ふと我に返ってその残劇を目にしたミラは、大いに絶望した。


見かねた両親は、彼女を拘束するという手段をとった。


怒っていない時のミラは、普通の女の子だ。

ミラは両親に従い、自ら両手を差し出して、鎖をはめてもらった。


自分が外に出れば、誰かを傷つける。

ずっとここで、一人で生きていこうと思ったミラだったが、その寂しさに耐えられなくなって、二人の呪人を作った。


1人でなく2人作ったのは、自分の力を最大限まで使いたかったから。人間のような高性能の呪人を二人も作れば、他の呪術を使う力もなくなる。それが狙いでもあったし、単純に女の子と男の子、どちらの友達もほしいと思ったからだ。


呪人は主人の命令にしたがうのが原則だが、そうしてしまうと彼らに鎖を壊すように命令してしまうかもしれないし、彼らを使ってまた悪さをしようとするかもしれない。


なのでミラは、自分の命令を聞かなくてもいいという命令をかけた。こうして二人の呪人は、まるで人間のように、ミラの意志ではなく自分の意志で考え動くようになった。そして、ミラの意志ではもう彼らを消すことができないようにした。これで彼らは、私が死ぬまでずっとそばにいてくれる。そう思った。


最初に作ったのは、リアナだ。


リアナは突然ミラの前に命を宿すと、ミラの方を見た。


「私は…誰……?」

「はじめまして、私の名前はミラ。あなたの名前はリアナよ」

「私はリアナ……あなたはミラ…」

「そう。私たちは今日から友達よ」

「友達…!」


リアナはニコッと笑って、ミラに抱きついた。


「私、これからミラの友達!! よろしくね!!」

「うん! よろしくね」


予想以上に明るくていい子に仕上がった。

彼女に私が怒りを覚えることなんてなさそうだ。


次にミラは、ラディアを作り出した。


「……」

「はじめまして。私はミラ。あなたの名前はラディアよ。今日から友達になるの。どうかよろしくね」

「……よろしく」


ラディアは少し、ぶっきらぼうな少年に仕上がった。


「ねえ! 私はリアナだよ! よろしくね!」

「あ、ああ…よろしく」


リアナは満面の笑みでラディアを迎えた。


リアナはすごく明るくていい子で、3人のムードメーカーだ。ラディアは物静かな印象だったけど、打ち解けていくうちによく話すようにもなって、本当はすごく優しい子だってわかった。


初めて出来た友達に、ミラはすごく心が安らいだ。

彼女の中のゼクサスも、表に出てくることはなかった。


しかし、ミラがラディアに恋をしたとき、その関係が変わっていく。


ミラはラディアと仲のいいリアナを疎ましく思うようになってしまった。

それでもリアナは10年近くも一緒に過ごした大事な友達。

ミラの心の中では葛藤が始まった。


ミラはやむを得ず、リアナに相談をした。

リアナは恋なんてしたことがないみたいなことを言っていたが、それでもミラは不安だった。


ラディアが、リアナに気があることに、気づいていたからだ。


ラディアはいつも、リアナを目で追っていた。

二人きりで話をしていても、気づけばリアナのことばかり…。


そしてある日の夜、ミラは目を覚ました。


(リアナ…?)


リアナがいなくなっていた。


もしかしてと思って、ミラがラディアの部屋を覗くと、彼もいない。


(あの二人……どこへ……)


ミラの不安が高鳴った。


【二人は公園に行ったよ、ミラ】

(……!!! あなたは……私の中の……)

【ミラ、早く行かないと……】


声は脳内を通してミラに話しかける。


ミラは鎖を外した。その頃のミラは、本当はもうその力があった。


ミラは急いで公園に向かう。


(…いた!)


ミラは影から二人の様子を見ていた。


そしてラディアが、リアナにキスするところを目撃した。


その時、ミラの中で何かが壊れた。


ミラの中に取り憑いた怒りが、ミラを支配した。


(………消してやる。リアナを……)

【いいぞ…ミラ……もっと怒っていいんだよ……一緒にあの子を殺そう】


ミラは彼らを睨みつけると、家に帰った。


そしてシィトルフォスの氷の洞窟に入った3人は、湖の前にたどり着いた。憎悪に支配されたミラは、湖の中にモンスターを作り出し、リアナを襲わせた。


ところが、突如現れた金髪の女に邪魔をされてしまった。


(誰? 誰なの?!)

【エクロザだ…私を殺そうとする、私の敵だ。何、心配はいらない。私の力を受け入れろ。一緒にあの子を殺そう】

(うん…私はリアナを……消す!)


しかしエクロザはミラに襲いかかってくる。


(くそ! くそ!)


「邪魔をするなあああ!!!!!」


私は、あなたが憎い…リアナ……


「消してやる! リアナ! お前なんか!!!」


それなのに、どうしてあなたは……


「ミラ!」


リアナはエクロザからミラを守るように立ちふさがった。


「どいてください!」

「どかない! ミラを殺さないで!」

「その子はもう、ゼクサスに支配されているんです!」

「ミラは私の大切な人なの!」


(………!!!)


リアナ…どうして私を守るの?

私はあなたを、殺そうとしたのに。


ミラの目には、涙が浮かんだ。


ああ、リアナはすごくいい子で、私の初めての友達。

優しくて、明るくて、あなたみたいになりたかった。


あなたの笑顔を、たくさん覚えている。


(やめて…ゼクサス)

【何を躊躇う。早く消してしまえばいい。お前の憎悪に、身を任せて】

(いや……私は……本当はリアナのこと……)


ゼクサスは、このリアナという少女のことをじっと見つめた。


【………】


リアナの心には、憎悪がない。


【………】


そしてゼクサスは、彼女に執着した。


この世の全ての心に存在するはずの、憎悪。

それが私なのだから。


彼女の中にも、あるはずだ…

醜い、汚れた、憎しみと怒りが……


ゼクサスはリアナの身体をのっとった。

そして半分になってしまったリアナの核を持ったまま、姿を消した。




ラディアがモヤを通り抜けると、真っ白い部屋にたどり着いた。

天井も床も真っ白。窓もドアもない。箱の中のようだ。


「一体…何が起こったんですか……」


ラディアは言った。エクロザは辛そうな顔で彼に言う。


「あれはゼクサス。人間の憎悪が具現化したものです」

「……リアナは…どうなるんですか……」

「君も、その子も、呪人ですね?」

「…そうです。そういえば、ミラは……」

「ミラ…あの子が君たちの主人ですか?」

「…はい」


エクロザは続けた。


「あの子はまだ生きています。死なないように、ゼクサスがその力で凍らせたんです」

「……」

「でも生きているといっても、君たちを作る力はやがて失われてしまいます。その時、君たちは消えてしまうでしょう」

「……!!」


ラディアは喪失とした表情を浮かべた。


「君が持っている核を持つ呪人は、リアナといいましたね」

「はい…」

「ゼクサスはリアナを欲しがっていました。あの子の中に、何かを感じたんでしょう」

「……リアナを、取り返したい……です……」


守れなかった。


「ゼクサスも、リアナを生かすための器を探すでしょう」

「器…ですか?」


エクロザは頷いた。


「シャドウという生き物を、君は知っていますか?」

「…いえ…」


エクロザは、シャドウが呪人の核と身体からなるものだと説明する。

ラディアは混乱する頭を回転させて、何とか理解しようとした。


「シャドウになれば、もしミラの力が消えても、君たちが死ぬことはありません」

「…!!」

「私はゼクサスを倒したい」

「…俺もです…リアナを…取り返せるなら…なんだって…」


エクロザは、ラディアを見つめた。


「君も、シャドウになる気はありますか?」

「……!!」


俺は、エクロザさんの話を聞いて、シャドウになることを決意した。

エクロザさんもまたシャドウであり、生きた人間にその核を宿したのだという。そして彼女は、驚くべきことに時を操る力と、空間移動の能力を持っていた。


そしてまた、リアナの半分残された核も、シャドウとして生きながらえさせることに決めた。俺達はエクロザさんの空間移動の力で世界を転々としながら、リアナと俺の核に適合する人間の身体を探した。


「そう簡単には…見つからないですね」

「そうですね。つらければ、やめてもいいんですよ?」

「いえ…絶対にリアナを助けたいんで…。もしもこの世界にいなかったら、時を超えた世界に行っても探します」


エクロザは笑って、彼を見た。


「あなたにとってリアナは、すごく大切な人なんですね」

「…はい。愛してますから。彼女のこと」


俺達は世界をまわるうちに、ヒルカという男の児童施設を見つけた。様子を見ていると、ここにいる子どもたちは世界の各地から拉致されてきたことがわかった。赤ちゃんから10歳に満たないくらいの子どもたちが、100人近く集まっている。


俺達はそこに収容されているたくさんの子どもたちに目をつけると、彼らのいないスキを狙って適合実験を開始した。


適合するかを試すには、小さく削り取った核の浸かった液を飲んでもらう。適合しないと、顔が真っ赤になって、しばらくすると消えるのだという。


子どもたちの耳の後ろには、番号がかかれている。


「エクロザさん! この子……!」

「ラディアさん! こっちもです!」


98番と、100番の二人の赤ちゃんが、それぞれリアナ、ラディアの核に適合した。


「二人は歳も同じ…奇跡ですね……この際、性別は仕方ないでしょう」

「もちろんです。生きてさえくれれば…」


すると、ヒルカが施設に戻ってきた。一人の少年を部屋に連れて行くと、ヒルカはその子に実験を施し、それに失敗した少年は死んでしまった。


「…!!!」


ラディアとエクロザはその様子を見ていた。


「せっかく君たちをシャドウにしても、あの男に殺されてしまいますね…」

「ねえ、エクロザさん。この子どもたちを皆、元の親のところに返すことはできませんか?」

「……やってみましょう」


エクロザはまず、子どもたちをすべて誘拐し、真っ白な箱の部屋に移動させた。


「適合した二人以外を、親のところに連れていきます」

「お願いします…!」


100人近くいた子供達は、エクロザの力により、ヒルカに誘拐された少し後の時間に、無事に送り届けられた。

そして、俺とリアナに適合する二人だけが残された。


「ごめんな……二人共…」


俺はその二人の赤ちゃんに、頭を下げた。


「仕方ありません。ゼクサスを放っていては、もっと多くの犠牲者が出るでしょう」


ラディアも頷いた。


「まずはリアナのシャドウを作りましょう」

「お願いします…」


エクロザは呪人をシャドウにする方法を知っていた。

こうして、98番の赤ちゃんはシャドウとなった。

見た目は何一つ変わらない。


「この子は、リアナなんですかね…」

「いえ…リアナの核は半分だけですから…。記憶を形成する部分の半分はゼクサスに奪われてしまいました。不完全な核のシャドウですから、もしかしたら、あなたのことも忘れてしまっているかもしれません。でもきっと、その身体の奥にリアナの心を秘めているはずです」

「そうですか……」


ラディアはその赤ちゃんを抱きしめた。


「俺がシャドウになったら、どうなるんですかね…」

「あなたは全ての核が揃っていますから、あなたが大きくなるにつれて、ラディアとしての記憶を思い出すでしょう。本来呪人の意思は人間の意思に負けてしまいますが、この子はまだ赤ちゃんですから、あなたの意思を強く持っていれば、自然とあなたの身体にすることができるはずです。大丈夫ですよ。私が責任を持って、あなた達二人を育てますから」

「…ありがとうございます。エクロザさん…」


俺はその後のことは全て彼女にたくして、その赤ちゃんの身体を借りた。


エクロザは二人の赤ちゃんの頭を撫でた。


ところがその時、モヤの中から突然誰かが姿を現した。

エクロザはその姿を見て、唖然とする。


「わ、私………?!」


エクロザと瓜二つのその女は、ニヤッと笑った。


「その子供を、こっちによこしなさい」


エクロザは時を操り、女の動きを止めようとしたが、効かなかった。


(ど、どうして…!?)


エクロザは赤ん坊をその手に抱えると、モヤを作り出し、そこに飛び込んだ。


「逃がすか!」


女はエクロザを追ってモヤに入った。


エクロザは広がるモヤの中を必死に逃げた。


「待て! その子供をよこせ!」


女はエクロザに追いつくと、両方の赤ん坊の頭をガッと掴んだ。


「やめて! 離して!」

「お前たちがゼクサス様を倒そうとしていることは知っている! そう出来ないように、余計な記憶は消してやる!」


女は赤ん坊に何かの術をかけた。


「やめなさい!」


エクロザは必死で子どもたちを奪い返した。

赤ん坊の鳴き声が響き渡る。


(駄目! このままじゃ捕まってしまう! この子たちだけでも逃さないと!)


エクロザは2つのモヤの出口を作り出し、その赤ん坊二人を、他の子どもたちと同じように、それぞれの母親の場所に続くそのモヤに入れた。


「ちぃっ! ゼクサス様の器を…どこへやった……」


女はエクロザを睨みつけた。


「あなたこそ! どうして私の姿を…」

「お前に教える必要などない! お前はもうここで死ね!」


女は激しい時の歪みを形どるその力を放った。

エクロザは、その力に飲み込まれた。










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