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鬼を斬って、鬼になる

「すっごーい! 城の中ってこんなんなってるんだ!」


シエナは興奮して、城の中を眺めた。

セントラガイト城にやってきた部隊の一行は、そのほとんどが初めて城に足を踏み入れた。


「3階の部屋、たくさんあるから、好きに使っていいってさ」

「ほんと?! じゃあ私はこの部屋〜!」

「じゃあ私、シエナの隣にしよーっと!」


シエナの隣の部屋のドアをメリは開けた。

楽しそうにする彼女たちを見ながら、レインも声を上げる。


「ったくガキ共が…それにしてもでけえな…ガルサイア城とは規模が違う」

「がっはっは! この大陸一の巨大城だからのう!」


出入りしたことのあるハルクとベルもその様子を見ていた。


「とりあえず、今日は皆休んで。明日また、話をしよう」


ジーマはそう言って、皆も頷いた。

それぞれ皆、好きな部屋を個室に借りた。


皆が部屋に入ったのを確認すると、ベーラはジーマに問う。


「何だったんだ。国王の話は」

「うん……セシリアと結婚して、王権を継がないかって」

「………???!!!」


ベーラが驚いたのを見て、ジーマは笑った。


「お前…どうするつもりだ?!」

「はは…断るに決まってるでしょ。ていうかもう断ったのに、セシリアと話をしろって王様がうるさいんだよ」

「……」

「これから、彼女と話してくるよ」

「シエナは…シエナには言わなくていいのか…?」

「話を聞くだけだよ…別に何もないし…」

「それでも……話した方が……いや……何でもない…」

「……大丈夫だよ、ベーラ。セシリアはもう過去の人だ。僕がシエナを裏切るなんて、あり得ないよ」

「……ならいいが」

「それじゃ、いってくるね」


彼は笑って、セシリアのところに行ってしまった。

私は彼の背中を見ながら、複雑な気持ちになった。


ジーマはセシリアの部屋の前にたどり着く。

昔と変わってない、扉の形。

護衛と称して、よく彼女の世話をしていたっけ。


ジーマは扉をノックする。


「どうぞ」


セシリアの声がする。変わっていない、彼女の声。


扉を開けると、セシリアがベッドの上に座っていた。

エメラルドグリーンの髪が、ベッドにふわりと広がっている。


「失礼します…」

「そこに、掛けなさい」


セシリアは自分の前の椅子を指さした。

その椅子も、よく覚えている。彼女と向かい合わせに座って、勉強を教えたり、一緒に本を読んだり、たくさん話をした。


ジーマはその椅子に腰掛けた。


「久しぶりね、ジーマ」

「…そうですね」


ジーマはどこか冷たい表情で、彼女を見た。


「私との結婚の話だけど…」

「その話なら、お断りします」


セシリアはふふっと笑って、下に目線をやった。


「…随分冷たいですね」

「…そうでしょうか」


セシリアは顔を上げて、透き通るような青い瞳で彼を見つめた。


「なら、どうして断るのか、理由を教えてください」

「結婚を決めた子がいるんで」


セシリアは表情を変えないジーマのことを、少し寂しそうに見ていた。


「そう…。そうですよね。あなたと離れてから、もう15年もたったんですもんね…。そんな人が出来ても、当然ですよね」

「……」

「結婚はまだしないのですか?」

「…まだ、その子はできる歳じゃないので」

「……!」


セシリアは驚いたように彼を見る。


「一体いくつなんですか…?」

「14歳。今年で15歳になります」


それを聞いて、更にセシリアは驚いて目を丸くした。


「ジーマ…あなた本気なんですか?」

「本気ですけど…いけませんか?」

「いえ……そんなことは…」


セシリアは困惑していた。

ジーマもそんな彼女を見て、何とも思わないわけではなかった。

しかし、冷たい態度を貫いた。


「話はそれだけですか? 僕の気持ちは変わりません。…もう行きますよ」

「ま、待ってください!」


セシリアはその右手で、ジーマの手を捕まえた。

ジーマは彼女の細い指を見て、ハっとする。


「何で……これ……」


彼女の右手の薬指には、集中しないと見えない、透明な指輪がはめられていた。


「捨てたんじゃ…」

「探したんです……」


セシリアは泣きそうな顔で言った。


「ごめんなさい、ジーマ……」

「………」


その昔、彼女にあげた透明な指輪。


今でも本当は、彼女と過ごした日々を覚えている。

だけど僕はもう、過去に立ち止まったりはしない。

未来に向かって、新しい恋をしている。


本当はもう全部、忘れたいのに。

忘れることができない。


彼女に抱いた想いは、きっと本物だったから。


ジーマは思い出す。彼女との出会いを。

そして、彼女を愛したその日々を。



ジーマが初めてセシリアはに会ったのは、彼が15歳の時。その当時セシリアはまだ10歳だった。


彼がセシリアと出会うまでに、まずは彼が他人に心を閉ざすこととなったある事件の話をしなければならない。


ジーマは子供の頃から剣術を学んでいた。

ジーマは戦争で両親を失った。他にも似たような子供たちが村にはたくさんいた。その中のジーマを含んだ同年代の5人の子どもたちは、村にいる面倒見のいいエリルという男に育てられ、皆で剣術を教わっていた。5人の子供たちは仲が良くて、皆がみんな親友みたいな存在だった。

エリルはもう50歳近いおじさんで、その昔騎士団に所属していたという。剣の腕は確かで、子どもたちはエリルのような騎士になることを目指して日々鍛錬していた。


中でもジーマともう1人の少年アギは逸材と呼ばれ、他の子供たちは足元にも及ばないほどの才能があった。2人は鍛錬を怠らず、むしろ誰よりも努力していた。

エリルも彼らの才能に目を見張り、自分の全てを教えようと彼らに剣術を叩き込んだ。やがてジーマとアギは、エリルを遥かに超える剣士となっていた。


ある時、村の近くの山で、鬼が出たという噂が広がった。

話によると、山に行った人間は皆、その鬼に食われてしまったらしい。


見かねたエリルがその山に鬼を倒しに行ったが、彼は帰ってこなかったという。


「おいジーマ! あの山に鬼を倒しに行くぞ!」


青髪の少年アギがジーマに声かける。


「え? アギ、本気で言ってる?」

「あったり前だろ! エリルさんが殺されたんだぞ! 俺たちが仇をとらねえでどうする!」


他の子どもたちも集まってくる。


「ジーマとアギがいれば大丈夫! 絶対倒せるよ!」

「私も、エリルさんの仇をとりたい!」

「皆で戦えば大丈夫だよ!」


ジーマは皆の圧に驚いた。噂が本当なら、鬼に食べられて死ぬかもしれないというのに、4人とも意気揚々と鬼を倒そうと張り切っているからだ。

若さ故にその危険に気づかないのか、それとも自分たちの、もといジーマとアギの強さを信じて疑わないのか。


とにかく5人は、山に向かった。


「何だ…何もいねえな…」


アギは辺りを見回す。

まもなく山頂にたどり着きそうだというのに、鬼どころか誰もいない。


「噂は…嘘だったんじゃないの?」

「じゃあどうして皆、帰ってこないの?」


皆が不審に思いながら、山頂にたどり着いた。


「あ…あれ!」


その景色を見て、皆は驚いた。

山頂に、大きな穴が空いている。皆が穴を覗くと、中から不気味な笑い声が聞こえる。


「な、なんなんだ…」

「間違いねえ! この中に鬼がいる!」


中は暗いが、よく見ると底はあまり深くないようだ。アギを先頭に、皆は飛び込んだ。


「お、おい!」


ジーマも最後に、その中に飛び込んだ。


中は予想を遥かに超える広さだ。しかし誰もいない。


「なんだ…声が聞こえたのに」

「ねえ見て、あれ!」


仲間が指をさした先には、1本の黒い刀が刺さっている。


「おお! かっけえ刀!」

「ちょ、アギ! 危ないよお!」


怖いもの知らずのアギは、その黒い刀を抜こうと手を触れた。

すると、刀はおぞましい黒鬼に姿を変えた。


「ぎゃーっはっはっはっはぁぁ!!!!! なんだなんだ?!?! 次は子供か? ひぃ、ふぅ、みぃ、…5人! 5人もいやがる!! 今夜はごちそうだぁ!!!」


鬼は不気味な笑い声を上げて子どもたちをなめるように見回した。


「な、刀が鬼にっ……」

「ぎゃっはっは!! 俺は刀に宿りし黒鬼様よ! さあ、誰から食おうか…!」


鬼は舌をなめずり、よだれをだらだらと垂らしている。


「て、てめえがエリルさんを食ったんだな!」

「エリルぅ? いちいち名前なんか知らねえよ! ただ、ここに来たやつは全員食ってやった! ぎゃっははは!!! 誰も俺に勝てない! 俺に負けるやつは全員俺の餌だァっ!!」

「くそ! 絶対許さねえ!!」


アギは刀を抜いた。他の皆も怯えながらも果敢に刀を抜く。


(ちょ……皆っ……)


ジーマは事態に焦りながらも、刀を抜いた。


(ま、守らなきゃ……僕が……)


『ジーマとアギはすごく強いんだね!』

『2人みたいに私もなりたいなあ!』

『お前たちなら騎士団でトップになれるって!』


仲間たちの声が脳裏にこだまする。


『ジーマ、一緒に国を守ろうな』


最後にアギの声が脳内に響いた。


皆を…守るんだ……。エリルさんの仇を討つんだ…。


「どうしたどうしたぁ?! 来ねえのか?! 来ねえならこっちから行くぜええええ!!!」


鬼はその手に先程の黒い刀を持って、激しく振り回している。


「くそっ!!!」


アギは誰よりも早く前に飛び出した。


「アギ!」

「ひゃっはぁぁ!!! まずはお前からだな!ガキ!」


鬼は自分に襲いかかるアギを殺そうと、刀を振った。

その隙を見て、ジーマはその鬼の腕を斬り落とした。


「ジーマ!」


皆は歓喜の声で彼の名を呼んだ。


「な、なんだとぉぉおおお?!」


鬼は斬られたその腕の先を見ながら、信じられない驚きを見せた。


「仲間に、手を出すな!」


ジーマは鬼に自分の刀を向けた。


「おっお前………そうか……お前………お前か………お前か……」


鬼は様子がおかしくなったと思うと、姿を消した。

その場には、黒刀だけが残った。


ジーマは無意識に、その黒刀を拾った。


「………!!!!!」


身体が何かに支配されるような感覚に陥った。

黒刀を持つ手が離れない。


な、なに…これ………


ジーマはその刀で、仲間の1人に襲いかかった。


「ひぎゃっ!!」


1人はあっという間に首を斬られた。


「じ、ジーマ?!?!」

「な、な、何しやがるんだ!!!」

「きゃああああ!!!!!」


な、何で…何で僕が、こんなことを…!!!


【聞こえるか…俺を斬った男よ!】


すると、黒刀から、先程の鬼の声が聞こえた。

声は自分にしか聞こえていないようだ。


【俺は黒鬼。さ、まずはその邪魔な奴らを斬り落とそうぜ】

「な、何言ってる…やめろ! やめろ!!!」


ジーマの持つ黒刀は、次々に仲間たちを斬り裂いていく。


【知っているか。鬼を斬るには、ただ強いってだけじゃ駄目なんだぜ! 鬼のように非道で冷たい心を持っていて、人を斬ることに快楽を覚える! そんな奴じゃないと、この俺は斬れねえ! まさにお前がそうだ! お前は本当は、人を斬りたくてたまらない!】

(違うっ! 僕はそんなこと、思ってなんか…!!)


「ジーマ、てめええ!!!」

「アギ!」


ジーマは最後に、アギに斬りかかった。アギはすんでのところで後ろに避けたが、顔を浅く斬られた。


(こいつ、本気で俺を……殺そうと……)


「ち、違うんだ…僕じゃない……! 僕じゃ……」

【何言ってんだ?! お前が斬ったんだぜぇ?! よおく見ろよ! 既に3人も生首になっちまってるぜ!!!】


ジーマは、首を落とされた3人の仲間の、無残な姿を見る。


「ひっ」


ジーマは顔が青ざめた。


「やっ……やめて……やめてくれ………」

【ひゃっはぁ! 最高だな!! あとはそいつだけだ!】


ジーマはアギを見た。

アギは怯えるように彼を見ている。


「や、やめて!」


ジーマの声に反して、刀はアギの心臓を貫いた。


「……お前……何で……」

「ち、違う! 違う違う! アギ! アギィィ!!!!!」


ジーマはあまりのショックに意識を失い、その場に倒れた。



















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