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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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孤独な不死鳥

俺は悪魔の不死鳥フェネクス。

何度でも蘇る悪魔の鳥さ。


フェネクスはふんふんと歌っていた。


ある時フェネクスは炎の中から蘇った。


雛鳥のフェネクスは、鳥たちの仲間を探して彼らの巣に潜り込んだりした。

しかし、フェネクス以外は普通の鳥だった。


「お前は、俺達とは色も羽の形も違う」

「お前は家族じゃない! ここから出ていけ!」


フェネクスは巣を追い出されて、サバンナを彷徨った。


「何だあいつら! 俺をのけ者にしやがって! クソッたれ! このクソ! クソ野郎共!」


まだ子供だったフェネクスは、人間の手のひらに乗るほど小さく、弱かった。口だけは誰よりも、達者だっだけれど。


フェネクスがサバンナの森の中を飛んでいると、巨大な鷹に襲われた。


「やっやめろ! 俺を誰だと思ってんだ! フェネクス様だぞ!! クソ! 追ってくんじゃねえ! おい! どっか行けこのカス! うおおお!!!」


フェネクスがもう駄目だと思ったとき、1匹のライオンが鷹を捕えた。それは珍しい、赤色のたてがみの、ライオンだった。


「お………助かった……?」


ライオンは鷹をむしゃむしゃと食べながら、フェネクスに気づいてこっちを見た。


「お、俺を食うなよ…! 俺は不死鳥フェネクス様なんだからな! さすがの俺でも食べられちまったら、生き返ることは出来ねえんだぜ?」

「………」


ライオンはその鳥が何を言っているかはわからなかった。

彼を無視して、その大きな鷹をひたすら食べる。


「…どうやら俺を食う気はねえみたいだな。」


フェネクスはその場を去った。


そして俺は、だんだん成長して大きくなった。


不死鳥の俺は、どんなケガをしても、寿命がやってきても、炎の中に入ればまた蘇ることを、知っていた。

そうやって何回も生き返ってきたから。


初めて俺が生まれた日、俺を生んだ親は言う。


「あなたは悪魔の鳥フェネクス。炎と生きる不死の鳥です。不死の力は悪魔の力。その身を炎に捧げれば、あなたは何度でも蘇りますよ」


そして俺には、蘇生の力があることも知っていた。

親にきいたからだ。


「その力は、あなたに守りたいものができた時に使いなさい。でもその力を使ったとき、あなたは死にます」

「へっ! 誰が使うか! そんな力! 自分が死ぬなんてごめんだぜ!」


俺は何十年も何百年も、生きて死んでを繰り返して来たけれど、家族も仲間も誰1人できなかった。

ずっと1人で、世界を飛んでいた。


「見ろ! フェネクスだ!」

「珍しい鳥だ! 高く売れるぞ!」


やがて人間たちは、俺の存在と力に気づき始めた。

人間たちはその知恵を使ってこの大陸を支配し、俺を襲えるような武器も作り上げた。


ある時、人間たちは束になって俺を襲ってきた。


「どんなに傷つけてもいい! 炎に入れれば元に戻る!」

「おらぁ! おとなしくしやがれ!!」


ありとあらゆる武器を使い、何十人もの人間たちが俺を攻撃する。


「クソ野郎! 何しやがんだ! この! この! この!」


フェネクスは足を鎖で縛られ、空を飛べなくされた。やつらは爆弾で俺の羽を粉々にして、たくさんの槍や剣で俺を突き刺した。


「クソ! クソ! くそったれぇぇ!!!」


俺が痛みに苦しんでいると、その男が、やってきた。


「やめたまええええ!!!!」


男は大剣を振りかざして、あっという間にその人間たちを倒した。


(な、なんだこいつは……)


俺は唖然として、その筋肉ムキムキの見るからに熱苦しい男を見た。


「大丈夫かね! 鳥君!!!」


その男は、俺の足を縛る鎖を斬り落とした。


「グワッグワッ!(誰だてめえ! 汗臭い顔しやがって!)」

「可哀想に。こんなにケガして、痛いんだな。よしよし」

「グワッグワァァ!(きやすく触んじゃねえ! クソ野郎! あっち行け!)」


俺は手足と羽をばたつかせて暴れた。

ちなみに俺は、人間の言葉は話せなかったが、人間が何を言っているかはわかっていた。


「ふむ。傷の割には元気じゃな」


男は腕を組むと、傷だらけの鳥を見回した。


俺は逃げたかったが、傷が酷くて空が飛べなかった。

しょぼくれた俺を見て、男は手をぽんと叩いた。


「なんじゃ。腹が減ったのかのう。待っておれ。飯にしよう」


男が鍋でスープを作ろうと、薪に火をつけた。俺はすかさず、その火の中に飛び込んだ。


「おいおい! なんじゃ! 火傷するぞ?!」

「グワグワグワァ!(いいからもっと火を起こせこの筋肉野郎!)」

「これ! 暴れるな! むむ?!」


男は、俺の傷が治って行くのを見ていた。


「傷が治っておる?」

「グワ!ワワァ!(そうだっつってんだろ! いいから早く火を起こせ!)」


しかしその男はアホで、何で治ったのかわかっていないようだ。俺は勝手にその火に羽や身体を当て、傷を治し、すっかり元気になった。


「おお! なぜかわからんが、見事に治ったではないか! それにしても、立派な鳥じゃのう」

「グワグワグワァ(当たり前だろ! 俺を誰だと思ってんだ! フェネクス様だぞ! このアホめ! はっはっは!)」

「なあに。せっかくだから飯にしようではないか」

「グワッワーワ!(仕方ねえな!それだけご馳走になってやるよ)」


男は鍋でスープを煮込み始めた。


「この辺で、はぐれたドラゴンが暴れていると聞いてな、倒しに来たんじゃよ」

「グワァァ(知らねえよ! 早く飯よこせよ! このカス!)」

「なんじゃ? わしの名前か?」

「グワッワァァ!(聞いてねーよ! お前の名前なんてどうでもいいから飯をはよ!)」

「そんなに知りたいなら教えてやろう。我が名はアシード・ヴォルボスじゃ!」

「グワワァァァ!!!(どうでもいいんじゃボケ! 腹減ってんじゃ俺はぁぁ!!!)」

「あああー!!! こら! やめんかぁ!!!」


フェネクスは鍋にくちばしを突っ込んでそれをベチャベチャと食べ始めた。アシードと名乗ったその男は俺を止めようとしたが、俺は構わず飯を食った。


「グワァァ(食いづらいもん作りやがって! 本当にくそだぜ!!!)」

「そんなにおいしいか。がっはっは。仕方あるまい! また作ってやるからのう!」


すると突然、2人を紫色の光線が襲った。


「危ない! 鳥君!」


アシードは俺に体当たりして、光線から俺を守った。


「グワァァ?(なんだ?なんだ?)」


アシードとフェネクスの前に、例のドラゴンが現れた。


「気高いドラゴンが人間をおそうとは、禁術使いに操られているに違いないぞ!」

「グワッグーワ!(は? 何言ってんの? 禁術使い? わかんねーけどこのドラゴン! 俺を誰だと思ってんだぁ?!?!)」


アシードは大剣を振りかざし、ドラゴンに立ち向かう。

しかしドラゴンはそれを避けると、アシードに向かって光線を吐き出した。


「ふぬ!」


(人間のくせになかなか強いなこの男)


しかし、ドラゴンも強者である。

男はなかなか攻めきれずにいた。


(しゃあねえな。手伝ってやるとするか!)


フェネクスはドラゴンの背後に回り込み、首を噛んだ。


「ウガァァァアアア!!」


ドラゴンは叫びながら光線を吐く。

しかしフェネクスに首を噛まれ、光線は空高くに飛んでしまう。


「むむ! 今じゃ!」


アシードは飛び上がり、ドラゴンの身体を斬り裂いた。

その後頭を切り落とし、ドラゴンを倒した。


「がーっはっはっは!!! やったぞ! わしらの勝利じゃあ!!!」

「グワグワっ(俺のおかげだぜ! 俺が最強なんだ! クソ人間!)」


すると、男は俺に近づいた。


「感謝する! 君は今日から我が同士だ!!」

「グワ?(え? 今なんて?)」


男は俺の肩に手をポンポンとやると、にんまりと笑った。


俺はなぜだか、その男についていった。

初めてだったから。同士だなんて、言ってもらったのは。


俺とアシードは帰路に向かってしばらく旅をした。


やがて俺は彼に心を許し、ご主人様と彼を慕った。

そして俺は、彼を背中に乗せた。


「うむ。そういえば君の名前を決めようと思ってな!」

「グワグワっ!!(おう! かっこいいのをつけてくれよ! ご主人様!!)」

「そうじゃな! アンジェリーナなんてのはどうだ?」

「グワッグワ(な、何だそのセンスのなさは! 鳥につける名前か?!)」

「なんじゃ! そんなに気に入ったのか! それは良かった! 徹夜で考えたかいがあったわい」

「グワグワ…(……まあ、いっか)」


何百年と繰り返した命の末、俺は初めて仲間ができた。

この人生は、今までで、1番楽しかった。


かなりアホだし汗臭いけど、大好きなご主人様。

そして、ご主人様の同士は、俺の同士だ。


俺の名前はアンジェリーナ。

義理と人情はご主人譲り。

仲間思いのしがない鳥さ。


アンジェリーナはふんふんと歌っていた。









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