とっておきの武器
バットラの王子ヴィリは、野心家だった。
自国がこの大陸で3番目であることが、気に入らなかった。
国王は平和を好み、これ以上の発展を望まなかったが、ヴィリは自国を大陸一の大国にすることを夢見ていた。
「これ! ヴィリよ! 兵団にどれだけ金をつぎ込むつもりだ!」
「父さんはこのままでいいんですか?! 僕は嫌です…3番目なんて…。僕の兵団は強い。大将のガトラを筆頭に、皆大国と戦えるだけの力をつけているんです!」
「まさかお前…戦争を起こす気じゃなかろうな……」
「起こしますよ…そのために兵団を強くしたんですから」
ヴィリは国王の言うことを聞かず、大将のガトラと自国を1番にするように日々努力していた。ガトラはヴィリが幼い頃から兵団として力をつけ、立場は違えどヴィリとは深い絆で結ばれた関係だった。
ヴィリは兵団の強化のために多額の資金を費やし、彼等を支えた。
そしてついに戦争を起こし、セントラガイトの間にある2つの小国を落とした。
「明日、セントラガイトを攻めます」
「ヴィリ様…ついにここまで来ましたね」
「ガトラ、お前は強い。お前がいたから、僕もこの国の未来を委ねられた。僕たちは大国になります。この大陸で、1番大きな国に」
「任せてください。ヴィリ様」
セントラガイトを攻めたバットラ軍は、最初はかなり有利だった。
ガトラはセントラガイトの騎士団たちを次々に倒した。
(行ける……! 俺が1番強いっ! ヴィリ様の野望を、叶えてみせる!)
ところが、ガトラの前に栗色の髪の少年が現れた。真っ黒な刀を持って、ガトラに襲いかかる。
(お、鬼………?!)
ガトラの首は一瞬ではねられた。
そしてその後その男に、バットラの兵団たちは全員無残に殺された。
ヴィリはガトラの死、そして育て上げた兵団たちが壊滅したことに酷くショックを受けた。
1人彼が怒りをこみ上げていると、あの方が、彼の前に現れた。
「その怒りを、私のために使ってくれないか?」
「な、なんですか…あなたは……」
「私はゼクサス。お前に力を与える。お前の欲しいものも、与える。その代わり、私に力を貸してほしい」
ヴィリは、ゼクサスの手に堕ちた。
ヴィリはシャドウとなり、強い力を手に入れた。
ゼクサスはヴィリに、セントラガイトへ復讐させることを約束した。
ヴィリはあの方の命令をきき、その時を待った。
あの方の器が育つまで、待ち続けた。
そして現在、ヴィリは、自分の育てたシャドウでセントラガイトを襲った。
その中で1番強いシャドウをガトラと名付け、戦場に送り込んだ。
(僕は手をくださない。ガトラたちが、あの城を、落とす。これはあの戦争の復讐だ…)
そのために僕は、邪魔な君たちを始末する…。
セントラガイトでは、ガトラの率いるシャドウ軍団が、騎士団たちと戦っている。
ジーマとアシードも、数えきれないシャドウを蹴散らしたあと、やっとのことでガトラのところにたどり着いた。
「あ、アシードさん…。それに、鬼憑き……!」
「た、助かった!」
騎士たちは2人の助太刀に歓喜の声を上げた。
ジーマは不快そうに彼らを見る。
「虫のいい奴らだな…」
「まあそういうな」
ガトラはジーマたちの方を見た。
別人なので似ても似つかないが、生前のガトラと同じ装備を纏っていた。
「なんじゃ…レアか?」
「いや…雰囲気からすると少し違う気もするが…」
「レアでなくても気は抜けぬ! 来るぞ!」
ジーマとアシードは剣を構えた。
ヴィリは目の前の獣人に傷をつけられ、酷く怒っていた。
「人間の武器を隠し持っているとは驚きました……獣としてのプライドはないみたいですね」
「プライド? なんだそれ!」
レインは瞬時に獣化して、ヴィリに向かっていく。
(なんで速さで姿を変えるんだっ……)
ヴィリは水を弾のように連続で打ったが、当たらない。
(レアだけど…俺のほうが速いみたいだな!)
レインはヴィリの後ろに回り込んだ。
ヴィリはハっとして水の盾を作り出す。
レインは体当りするが、その盾に威力を吸収された。
(くそっ…厄介な術を使いやがる!)
レインとヴィリの攻防は続いた。
「え? 爆弾ですか?」
「あー、うん。まあ違うのでもいいんだけどさ、俺でも使えそうな武器ねえかな」
「………」
その前日、アグ、メリ、ハルクの3人と、レイン、ベーラは今後の装備についての面談をしていた。
「なんだよ」
「いや、レインさんが武器を使いたいというなんて」
「いけねーのかよ」
「いつも獣化して戦うので、必要ないのかと思っていました」
「……」
確かに俺は、これまで武器を持ったことがなかった。
自分の牙と爪があれば、充分戦えたし、人間よりも強いと思っていたからだ。
ベーラは俺の方を見る。
「私はいいと思うぞ」
「だろ?」
「戦いの幅は広いに越したことはない。1つの力を極めることも大切だろうが、それには時間がかかりすぎる。今はなるべく早い段階で、個々が力をつけていきたいからな」
アグたち研究チームも、顔を見合わせて頷いた。
「俺が作ってある爆弾のストックがたくさんあるんで、それを持っていてください。あとで使い方を教えますね」
「おう! ありがとな!」
しばらくして面談を終えると、レインはアグと一緒に研究所にやって来た。
「……」
アグは神妙な面持ちで爆弾を眺める。
「ん? どうした?」
「レインさん、嫌じゃないですか……これを持つの」
レインは小型化された手榴弾を手にとった。
爆弾は、俺の大切な人を奪った武器。
そのことにアグは、気を遣っているんだろう。
「構わねえよ。強くなるためだ」
「そうですか……。それじゃあ、これも持っていってください」
「…? 他のとは違うのか?」
「これは、とっておきです」
レインは1つだけ、別の爆弾を受け取った。
ヴィリは苛立っていた。
(ちょこまかと小賢しいっ……ライオンの速さと身のこなしはだてじゃない…)
「もう終わりにしましょう。僕の兵団が城を落とす瞬間を見たいですからね」
ヴィリはすごい勢いで水を放出し始めた。
(避けられるなら、動けなくしてやる…!)
「な、なんだと…?!」
あっという間に、レインの足元に水が溜まっていく。
閉ざされた地下室、水でいっぱいになるのは時間の問題だ。
地下室の壁を擦り抜けようと試みるが、何故か通れない。
「無駄ですよ…この地下室は現在と繋がっている…。君もここでは実体なんです。薬にも触ることが出来たでしょう? 僕は自由にここから過去と現在を行き来しているんです」
なんなんだよ!
足場が悪くなる……! くそ!
レインは浅く溜まった水の上を音をたてて駆けながら、ヴィリに襲い掛かる。
奇襲で爆弾を打ち込んだりもするが、片手で盾を出しながら、うまくかわされる。
「動けないでしょう。水の中では」
レインの足を覆うくらいに水かさは増し、ヴィリはその身体を液体として、その溜まった水の中に同化した。
そしてその後、巨大な水竜となって、姿を現した。
「避けられませんよ。次は」
ライオンの姿では低い姿勢だったレインは、人型になり水のかさを稼いだ。水はレインのお腹の辺りまで来ている。
レインはどんどん高くなる水面を睨みつけた。
水竜はその口元に、おぞましいパワーをため始めた。
あれを食らったら、ひとたまりもないだろう。
……こいつは…フローリアの本当の仇だ。
絶対に俺が、殺さないといけない。
レインはアグにもらったとっておきの爆弾のビスをひいた。
アグがこれを俺にくれるなんて……
まるで運命だな…
こいつを倒してくれって、言ってるみたいだ。
…今でも覚えている。
フローリアの声、匂い、笑顔、抱きしめた時の感触。
忘れそうになるのが怖くて、何度も何度も夢に見た。
でも思い出せば出すほど、心がえぐられるように痛くなった。
生きていてくれたらなんて、何度願っても無駄だった。
彼女のいない世界を生きることは、辛くて仕方なかった。
愛してる……今でも………。
「俺も……そっち、行くよ………」
水竜がその力をレインに打つと同時に、レインはそのとっておきを水中に投げ込んだ。
「何?!」
その爆弾は、水中で爆発し、激しい電気を発生させた。
「ぐわァァァああああ!!!!!」
水竜は悲鳴を上げて、最高濃度で感電した。
水竜は人間のヴィリの姿に戻り、倒れた。
彼の出した水も全て、消えてしまった。
レインもまた同様に感電して、ボロボロになった身体でその場に倒れた。




