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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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人形の屋敷

ヌゥは青いゴーストに乗って、空を飛んでいく。

ゴーストは相変わらず気味の悪い笑い声を上げながら、予想以上にはやい速度で東に進んで行く。


ユリウス大陸を抜けると、海に出た。

しばらく進むとユリウス大陸は見えなくなって、周り全体どこを見渡しても海である。


「ふぅ……」


ヌゥは無意識に息を大きく吹いた。


アグ、待っててね……。


俺が絶対、助けるから…。


あっという間に夜になって、辺りは真っ暗になる。

空も海も暗く静まって、波の音だけが聞こえた。


(……!!)


突然、彼の前にモヤが現れた。

視界は暗くわかりにくいが、明らかに怪しいモヤの中へ吸い込まれるように、ゴーストは進んでいく。


中に入ると、まばゆい光に照らされて、ヌゥは思わず目をつぶった。

しばらく光の中を進んでいき、光がなくなったのを感じて目を開けた。暗い夜の中、目の前には古びた屋敷があった。


「ギャハハハっ! ギャハッ、ヒーヒーヒー! クククククク」


青いゴーストは着陸すると、屋敷をその真ん丸な手で指し表した。


「……ここか」


ヌゥはゴーストから降りると、靴の電源をつけて、屋敷に向かっていく。

キーィとドアが開く音が大きく響いた。


中に入ると、その薄気味悪い屋敷の中には、たくさんの人間が固まったように微動だにせず、様々なポースで置かれている。

彼らの頭には、たくさんの釘が刺さっていた。


(人形……?)


ヌゥは彼らを見回す。

彼らは瞬きすらせず、石のようにそこにいる。

ヌゥが目を合わせようと顔をまじまじと見ても、合うことはない。


屋敷には部屋がたくさんあるようだが、ヌゥはひたすらまっすぐ進んだ。 

ひらけている階段を上り、大きな扉を開けると、巨大な広間に出た。

奥に誰かいるようだ。


ヌゥは彼をにらみつけ、進んで行く。


やがてそいつの前までやって来た。

根元が緑がかった美しい白髪の子供だ。前髪はそろって鼻の下辺りまで伸びていて、顔がほとんど見えない。


彼が抱えている気味の悪いその人形は、瞳が左を向いていて、口元がにっこりと笑っている。頬にはそばかすがあって、様々な色の髪で三つ編みをしている。デニムのサロペットに赤いボーダーという可愛らしい服を着ているのだが、ほっぺには赤い染みがあったり、布製の足はほつれて綿がでてきていたりと、無性に薄気味悪いのだ。


「待ってたよ。ヌゥ・アルバート」

「お前が、ルベルグか…?!」

「ははは。そうだよ。よく知っているね」


少年は可愛らしい声で、ヌゥに向かって話しかけた。


「アグはどこ。無事なの?!」


ヌゥはルベルグを睨みつける。


「いるよ。あそこに」


ルベルグは自分の右後ろの壁を指さした。

アグは口を塞がれ、手足をロープで縛られ、宙吊りにされている。

その目は恐怖に怯えていて、ヌゥを見ると目を見開いて、首を振った。


(来るな! こいつはお前を狙ってるんだ!)


ヌゥは繋がれたアグを見たあと、彼に言った。


「約束通り来た。アグを解放しろ」

「ははは…そうは行かない。君には完全体になってもらわないといけないからね」

「完全体……?!」

「君も少しずつ、そうなりつつあるんだろう? 力を開放して、その姿に近づきつつある」


(…覚醒のことを言っているのか)


その意志さえあれば、ヌゥは力を開放することができるようになっていた。髪と瞳の色が変わって、力がみなぎり、強くなれる。初めての時と比べ、覚醒しても意識が保てるようになっていた。もちろん、一度怒りを覚えた相手への攻撃をやめることは難しい。


「この子は君に怒りを与えるための玩具だよ」


ルベルグは笑っている。


「ボロボロになるまで、遊んであげるよ」


ルベルグはそう言うと、気味の悪い人形を背中のリュックに入れ、釘と金槌を取り出した。


「これを打ち込めば、この子は僕の人形になる。二度と人間に戻ることもできない。僕の命令を死ぬまで聞き続けるんだ」

「そんなことさせてたまるか!!!」


ヌゥは覚醒すると、電気の力で加速し、ルベルグに襲いかかる。


(速いっ…!)


しかし、ルベルグの盾になるように巨大な人形が現れ、ヌゥの攻撃を代わりに受けた。


(人形?!)


巨大な人形はヌゥに攻撃を仕掛ける。

ヌゥはそれを後ろに飛んでかわした。


その他にも何十体も、別の人形がわらわらと現れてヌゥを取り囲んだ。

人形の頭には何本もの釘が打たれている。


(こいつら全部…あいつの人形か…)


人形はカタカタカタカタと歯ぎしりをして、何も喋らずにヌゥをじっと見ている。


「お前たち、僕が新しい人形を作るまで、その子と遊んでろ」


ルベルグはそう言って、アグのところに続く階段を上っていく。


「くそ!」


ヌゥの前には人形が立ちふさがる。


「どけええええ!!!!!!」


ヌゥは手のひらに雷を溜め、人形に打ち込んだ。

人形はそれを食らって倒れ込むが、また起き上がってくる。


ルベルグはそれを見て笑いながら言った。


「無駄だよ! 釘を1本でも打ち込めば、そいつは人形となって僕の言うことをきく。うたれた釘の数が多いほど、そいつはより人形に近い身体となる。その身体がある限り、こいつらはどんな痛みを感じても、何度でも立ち上がる!」


(くそ! 数が多すぎて階段までたどり着けない!)


「アグっ!!!」


ヌゥは高く吊るされたアグを見て叫んだ。ルベルグはもうすぐそこまで来ている。


(ここまでか…)


アグは迫ってくるルベルグを見て、恐怖を感じながらも終わりを悟った。


ルベルグは階段を上りきり、小さなバルコニーに出ると、アグの方に身を乗り出し、釘と金槌を持って笑っていた。


「いっぱい遊ぼうね…アグ…」

「やめて! やめてええ!!!!!!!」


ヌゥは人形に囲まれながら悲痛な叫びを上げた。


アグは目をつぶった。


その時、ゴオオオと炎が燃えて、ルベルグを襲った。


「あああぁぁぁ!!!!! 熱い! 熱い熱い熱い!!!」


ルベルグの身体は燃え、激しくのたうち回って、そのまま墜落した。


(な、何だ?!)


アグは突然燃えたルベルグを見て、唖然とした。

ヌゥも人形の相手をしながら横目でその様子を見ていた。


「ヒズミ……」


ルベルグがいたところに、ヒズミが腰掛けていた。

ヒズミはヌゥを見下ろすと、笑いかけた。


「危なかったな〜。すぐ助けたるで」

(ヒズミさん……)


アグもまた、彼を見て驚いた。


「ヌゥ! キャッチできるか?」

「もちろん!」

「ほな、下ろすで!」


ヒズミはアグを吊り下げているロープを燃やすと、アグを下に落とした。

ヌゥは雷で人形たちを振り払うと、アグの真下に行ってキャッチした。

ヌゥは彼の口を塞いでいたテープを剥がした。


「アグ! アグ!」

「っはぁ……はぁ……」


アグは大きく息を吸い込んだ。


(今回ばかりは終わったと思った……)


ヒズミも重力をなくしてそこから飛び降りた。


「よっと」

「ヒズミ…何でここに…」

「何でって、一緒におばけに乗ってきたんやけど?」


ヒズミは姿を隠して、彼に着いてきていた。

ルベルグは完全に彼の存在に気が付かなかった。

ヌゥは泣きそうになるのをこらえて、笑った。


「ありがとう…ヒズミ…」

「はいはい。でも、まだ終わってへんみたいやけど?」


人形たちは、壁際による三人を取り囲んでいる。

落ちたルベルグも、ゆっくりと起き上がった。

散らばった釘と金槌をひろい、握りしめている。


「1人で来いって言ったのに……許さない……約束通り、アグを殺す!」


ルベルグは怒った様子で、三人に向かって言った。

ヌゥとヒズミは、アグを守るように前に出た。


「ヌゥ…お前も死なない程度にボロボロにしてやるよ! 仲間のお前もぶっ殺してやる!」


ルベルグは人形たちに命令した。


「お前たち! 行けええ!!!!」


人形の大群が、ヌゥたちに襲いかかった。



アンジェリーナの上空では、皆がその絶望の状態にうなだれていた。


「くそ……俺たちは片目のジーマ以下なのかよ……」

「私達を守ろうとしただけだ」


荒ぶるレインをベーラがなだめた。


「アシードさん、落ちていきましたけど大丈夫でしょうか……」


ハルクが言う。


「心配するな。あの二人がそう簡単に死ぬはずはない」


ベーラはそう言って、何とか皆を落ち着かせようと思ったが、内心気が気ではなかった。


「うう…ジーマさん…ううぅ……」


泣いているシエナの背中をベルは優しくさすった。


「ちゃんと全員揃ってんだろうな」


レインが言うと、メリはハっとした。


「ヒズミ! ヒズミがいない!」


皆もお互いの顔を見合わせる。


「あいつまさか……」

「ヌゥ君についていったんだと思う…」


メリは心配そうに彼の身を案じた。


「皆バラバラになっちまったな…」

「これからどうするんですか?」

「頃合いを見てアジトに戻るしかないだろう」

「た、助けに行かなくていいんですか?」


ベルは何もできない自分を辛く思いながら、そう言った。

ベーラはいつもの表情で答える。


「私達が行っても、足手まといにしかならない」

「そんな……力を合わせば倒せるって…」

「まともに特訓もできてない…無理だ」


皆はうつむいた。


「…あんなに怒ったジーマさん、私、初めて見ました」

「俺もだよ」


他の皆も頷いた。シエナは鼻をすすっている。

すると、ベーラが話しだした。


「あいつは昔はああだったんだ。いつも一人で、仲間もいなくて、他人を拒絶していたよ。今でもあの刀を持つと性格が変わってしまうがな。でも皆にバレたくなくて、変わろうと必死だったよ。あいつにとっては、初めてできた仲間だったから。私達を、守りたかったんだ」


シエナは涙を拭いて、皆も顔を上げた。


どうやってアジトの場所を知ったのかはわからないが、敵もこちらに、迫ってきている…。


ベーラは空の上から自分たちの大陸を見下ろしていた。
















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