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囚われた囚人

メリは初めての城下町に感動していた。

たくさんの人、たくさんのお店、綺麗で、賑やかで、街の人皆が幸せそうに暮らしている。ガルサイアの貴族の街もすごく栄えていると思っていたけれど、規模が全然違う!


(すっごい! 素材の店も武器屋さんもいっぱいだ! 見たことのない食べ物もたくさん! こんなの全部見きれないよぉー!)


「どこか行きたいところはあるか」


ベーラは彼女に尋ねた。


「えっと…どうして私をここに連れてきてくれたんですか?」

「何だか、穏やかではなさそうだったから」

「…すみません」

「謝ることはないが」


ベーラは無表情のまま彼女を見ている。

するとベーラは近くにあった屋台で、アイスクリームを2つ買うと、メリに渡した。


「私のオススメだ。イチゴとチョコ、どっちがいい?」

「……ではイチゴで」


メリはベーラからコーンに乗ったピンク色のアイスクリームを受け取った。


「イチゴにすると思ったよ」

「どうしてですか?」


ベーラはメリの髪の色を指差す。


「おんなじ色だから」

「ふふっ、何ですかそれ」


メリは笑った。


(変わってるなあ…この人)


2人は近くのベンチに並んで腰掛けた。

ベーラさんと2人でアイス食べてるなんて、不思議だなあ……。


「で、何かあったのか」

「…アグと喧嘩しちゃいました」

「それは羨ましいな」

「え? どうしてですか?!」

「誰かと喧嘩なんて、したことがないから」


メリはきょとんとして、彼女を見ている。


(…やっぱり変わってるな、この人)


「喧嘩するほど仲がいいと、言わないか?」

「言いますけど……喧嘩なんてしないにこしたことはないですよ」

「そうなのか」

「喧嘩というか…私が変な嫉妬しちゃっただけなんですけどね。アグが、ベルと2人きりで研究してたり、ヌゥ君の武器を徹夜で作ったりして…。別に悪いことじゃないんですけど…」

「嫉妬は恋愛につきものだというからな。それほど彼が好きだということなんだろう。私にはよくわからないけれど」


メリはベーラを見て、ニッコリと笑った。


「ありがとうございますベーラさん」

「別にアイスくらい構わないよ」

「いや、そうじゃなくて…」

「……?」

「いえ、ごちそうさまでした!」

「うむ」


その後2人は街のお店を少し散策した。


ヌゥはアグと一緒に研究所に来ていた。

ハルクとベルには朝市で薬草を買ってくるように頼んでいて、そこには誰もいなかった。

黒い小手と靴をとってくると、2人は外に出た。


「何これ!」

「まあとりあえず、着けてみろ」


ヌゥは言われた通りにそれらを取り付けた。


「サイズ合ってる?」

「うん! ぴったり!」


ヌゥは嬉しそうに、手のひらを広げてアグに見せた。


「それじゃ、この岩を殴ってみて」

「思いっきり?」

「思いっきり」


アグはその場を離れた。

ヌゥは言われた通りに、腕をひいて拳を握りしめ、岩を殴った。


バチバチバチバチ


岩は目に見えるような激しい電流を帯びながら粉々に割れた。破片がたくさん飛び散ったが、電気の力で焦げ付いて最終的には消滅した。


「うわ!」


ヌゥは驚いて、手を纏っている電気をみていた。


「痛い?」

「ううん。全然」


思ったよりも威力があるな。


「じゃあ次は、あの遠くの岩」

「うん。どうするの?」

「ここから動かず、電気を放出するイメージで、突き出してみて」

「おっけー!」


ヌゥはまた腕をひいて、遠くにある、自分の顔より遥かにでかいゴツゴツした岩に向かって、拳を突き出した。


(電気を放出するイメージ!!)


すると、手から目に見えるような稲妻がバチバチと音を立てて、岩まで一直線に飛んでいった。その速さは、光のごとく一瞬である。


「おおお!」


ヌゥは興奮していた。

反対の腕でも同じように攻撃する。

どちらの手からも自在に電気が放出できる。


「なにこれ! すっごい!」


喜ぶヌゥを見て、アグもご満悦だった。


「じゃあ次は靴だな」

「おんなじように雷出せるの?」

「出せるよ。やってみろ」


ヌゥは先程よりも大きな岩に、蹴りを食らわした。

もともと怪力の彼だが、電気の力で威力が倍増していた。


「つっよー!」

「それだけじゃねえぞ。ちょっと走ってみ。電流をほんの少し身体にめぐらせて、加速するイメージで」

「よーぅし!」


バチ…バチバチバチ……


(いい感じの痺れだ…痛くない! よし、踏み切れ!)


「…!」


アグはヌゥの加速を見て、目を見開いた。


彼は一瞬で50メートルくらい先まで移動した。


(慣れるのに多少なりとも時間はかかると思ってたけど…初見でここまで…)

(すごい…身体が…加速するっ!)


ヌゥは身体にたぎる電気を感じて、びっくりした。


「おい! 戻ってこい」

「はーい」


ヌゥは靴を使いこなしてアグの元にまた戻ってきた。


「これやばいね! めっちゃ速く動けるよ!」

「あんまり使いすぎるなよ。やりすぎると身体が麻痺して動けなくなるぞ」

「えっそうなの。怖いな〜」

「まあ死にはしねえよ」


アグは左の靴の内側の側面のボタンを指さした。


「小手と靴は無線回路で繋がってる。ここがへこんでたらオン、飛び出てたらオフな。使わねえ時はオフにしとけよ」

「はーい」


ヌゥは右足のつま先で、ボタンを雑に押した。


(ったく……)


「なんでこれを作ってくれたの?」

「お前は剣の扱いも初心者とは思えない上手さだけど、剣に集中してるとスピードがかなり落ちる。剣を降る腕のスピードが、基本的な動きのスピードに追いついていないからだ。まあ、初めて剣なんて使ったんだ。仕方ねえよ」

「ふうん…そうなんだ」

「シエナと同じで、素手と素足を使った攻撃の方が断然速い。今回はスピードを更にあげ、かつ威力をあげる装備を作った。遠距離攻撃もできるから、応用が効く」

「すごいいいじゃん! もう1つ作ってシエナにもあげたら?」

「いや…これはお前しか使えないと思う。普通のやつが使ったら体内に溜まっていく電気に身体が耐えられない。だけどお前は1日で身体が治るからな」

「えっ! 怖いんだけど…明日になって死んでたりしない?」

「今そんなにけろっとしてるんだ。耐性がないなら既に痛みがあるはずだ。まあ大丈夫だろ」

「ふう〜ん」


ヌゥは自分の右手を見ながらにっこりと笑った。


「初めてアグからプレゼントもらった!」

「いや、別にプレゼントってわけじゃないけど…」

「ありがとう!」


彼の屈託のない笑顔が、乱れていた俺の心を癒やしてくれる。


「じゃ、お前はそろそろ道場に集合した方がいいんじゃねえの。俺は後から行くから」

「うん、わかった」


ヌゥはアグに手を振って、先にアジトに戻っていった。


アグも研究所内で少し片付けをした後、アジトに向かおうとした、その時だった。


「!!!!」


誰かに腹を思い切り殴られた。

アグは気絶した。


「はい。捕まえた」


ルベルグはニヤッと笑った。

巨大な体つきの男が、アグを片手で軽々と抱えた。


(こいつがアグ…。ヌゥ・アルバートの中で特別な存在となっている男か)


ルベルグが口笛を吹くと、深緑色の肌の気味の悪い大きなゴーストが、彼の元にやってきた。


「アグさん…頼まれていた薬草手に入れてきましたよ」


ハルクとベルがカゴに薬草を入れて戻ってくると、アグが謎の子供と巨大な男に捕まり、ゴーストに乗って空を飛んでいるところだった。


「え…? だ、誰ですか?!」

「あ、あの子は……!」


ベルはルベルグと目があった。


「誰だお前」


ルベルグはベルを見下ろすと、冷たく言い放つ。

髪が顔に覆いかぶさって、彼の表情は全く見えない。


「ヌゥ・アルバートに伝えてよ。アグを返してほしかったら、僕のところに1人で来い。僕の居場所はこいつしか知らない」


そう言って、ルベルグは青色のゴーストをベルとハルクの前に落とした。


「ひゃあっ!」

「な、何ですかこれはっ…」

「ギャッハハヒハハハハハ! クククククク!」


青いゴーストは薄気味悪い声で笑っていた。


「来なかったらアグを殺す。他の誰かと一緒に来ても殺す。そう伝えろ」


そう言い残して、ルベルグは空高く飛び上がり、あっという間に見えなくなってしまった。


ハルクとベルは突然の出来事に目を見開いて驚くばかりで、何も出来なかった。


「ど、どうしましょうハルクさん!」

「とにかく、早く皆に知らせないと!」

「ギャハハハハハハ! ヒーヒーヒー! キャーハハハハァァ」


青いゴーストはそこから動かずに、ただ笑い続けたままだった。


ハルクとベルは急いでみんなの集まる道場に向かった。


ジーマ、アシード、シエナ、レイン、ヌゥ、ヒズミの6人が揃っていて、アシードがヌゥとヒズミの相手をしていたところだった。


「あれ、メリさんとベーラさんは?」

「買い出しに行ってるみたいだよ。どうかしたの、そんなに急いで」

「た、大変なんです。シャ、シャドウに…アグさんが連れ去られました!」

「……?!?!」


皆は信じられないという表情で、ベルとハルクを見て目を見開いた。









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