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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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いがみ合う二人

アグはその夜、徹夜で武器を作っていた。

1人研究所で、作業を続ける。


「アグさん」


彼の元に、夜食を持って、ベルがやってきた。


「あぁ、ベルか。びっくりした。こんな夜遅くにどうした」

「なんだか眠れなくって…」


ベルは彼の向かいの席に座った。


「危ないから、気をつけろよ」


アグが作っているその何かからは、電流が走っていた。


「それ、なんですか?」

「武器…なのかな、わかんないけど」


真剣に作業に取り組む彼を見て、ベルは笑っていた。


「アグさん、私が裏切り者だと、早い段階で気づいていましたよね」


ベルは雷杖を取り出した。


「まだそれ、持ってたんだ」

「お守りですから…」


アグは気まずそうにうつむいた。


「ごめん。ベルを騙すようなこと言って」

「何言ってるんですか。騙してたのは私なんですから」

「いや、でもその杖は」

「私をなるべく傷つけないように、持たせてくれたんですよね」


ベルはにっこりと笑っていた。


「ごめん。痛かっただろ、感電」


ベルは首を振った。


「何か、手伝えることはありますか?」

「そうだな…それじゃ、この3つの素材を混ぜてくれる?」

「はい!」


その夜、2人は研究所で朝を迎えた。


(できた……)


アグは完成した小手と靴を机の上に並べ、腕を組んでみていた。


向かいのベルは机にうつ伏せ、眠っていた。

アグは彼女に軽めの毛布をかけようと棚から持ってきた。


「アグ、いないと思ったらここに! あ…」


メリが研究所に入ると、彼がベルに毛布をかけているところだった。


「ベルもいたんだ…」

「あぁ。素材の調合手伝ってくれたんだ。見ろよ、今日のノルマ半分以上終わってんぜ」

「……」


メリは不満げな表情をしている。


「そいやお前、昨日ヒズミさん追ってったけど、何か言ってたか?」

「別に。怒ったまま部屋にこもっちゃった」

「ふうん」

「でもさっき見たら、部屋にいなかったわ」

「…また行ったのか? ヒズミさんとこに」

「え? だって心配だったから…」


アグもまた、不満げな表情であった。

そこにはなんだか不穏な空気が漂っている。


「ふうん。まあいいや」

「何作ってたの?」

「ヌゥの武器…というか、装備だよ。見ろよ! 徹夜でやっててさ、ほら!」


アグは小手をメリに渡したが、彼女は受け取らなかった。


「…それ、徹夜でやる必要あるの?」

「は?」

「いや、だからわざわざ徹夜でやんなくてもよくない? しかも、何でベルと一緒にやってるの?」

「何でって、ベルが眠くないからって言ってやって来て、何か手伝うことあるかっていうから」

「2人っきりで? 私に内緒で?」

「内緒も何も、お前は寝てただろ。大体お前の負担を減らそうと思って俺は…」


何でメリのやつ怒ってんだよ…。


「てか、お前こそヒズミさんと、いっつもこそこそ何話ししてんだよ」

「はあ?! アグには言いたくないわ!」

「何だよ…そっちの方があやしいじゃねえかよ」

「あやしいって何よ!」

「先に突っかかってきたのはそっちだろ?」


2人は睨み合うと、ふん!っとお互いそっぽを向いた。


メリは研究所を出た。


「ん……」


ベルは目を覚ました。


「誰か、来ていましたか?」

「いや、大丈夫だよ」


アグは答えた。ベルはアグの顔がひきつっていたので気になったが、何も聞かなかった。



道場で眠っていたヒズミは、ぼんやりと目を覚ました。

隣ではスースーと、寝息を立ててヌゥが眠っていた。


(ほんま、綺麗な顔…)


仰向けのまま、顔を横に向けて彼の顔をじぃっと見ていた。


「うぅん……」


ヌゥが少し動いたので、ヒズミは慌てて顔をそむけた。


(あかんあかん! もう何もせんて決めたとこやで)


すると、ヌゥは寝ぼけたまま彼の腕にぎゅうっと抱きついた。


「んん…」


(まじか! 昨日の今日で…こいつ頭おかしいんか?!)


ヒズミは顔を真っ赤にして、彼のぬくもりを感じていた。


(ちゃうで…! わいは何もしてへんの、この子が勝手に来たんよ)


ヒズミは心の中で1人言い訳をする。

もう一度、ゆっくりと彼の方を見た。


(寝てる……)


ヌゥの目は閉じられていて、スースーと寝息を立てたままだ。


「ヒズミ……」

「……!!」


ヒズミは心臓がバクバクなりながら、彼のことを見たまま身動きが取れない。

それから彼は何も言わなかった。


(寝言……なん………)


この子にとって、わいは友達…。


ヒズミはゆっくりと、彼の頭に手をやって、軽く彼を抱きしめた。


少しくらいは……特別になれたんやろか…。


すると、道場に誰かが近づく足音が聞こえた。

ヒズミは焦ってヌゥの腕を離そうとしたが、抜けなかったので、擦り抜けの術を使ってごろごろと転がって、彼から少し距離をとったところで寝たふりをした。


ドアが開くと、レインが中に入ってきた。

ヌゥとヒズミが道場で眠っているのを見つけた。


(何だよ…仲直りしたのか? 心配させやがってよ……このガキ共)


「う…ん……」


ヌゥは目を覚ました。


「何でこんなとこで寝てんだよ」

「特訓してたらそのまま疲れて寝ちゃった!」

「ったく……そのアホと仲直りはできたのか?」

「喧嘩なんかしてないけど」

「……」


ヌゥはあぐらをかいて、くしゃくしゃの頭を手ぐしで揃えた。

レインもその場に座り込んだ。


ヒズミは寝たふりをしたまま、彼らの話に耳を傾ける。


「んじゃ、特訓の成果は?」

「教えないよ〜! だってレインとベーラにリベンジしたいもん!」

「あぁそうかよ。何回やっても無駄だと思うけどな〜」

「そんなことないよ! 次は絶対勝つもん!」

「はいはい。…でもさ、何でヒズミなんだ?」

「え?」

「いや、アグ一筋なのかと思ってたからさ」

「何それ」

「……」

「レインはフローリアさんとキスしたことある?」

「なんだよいきなり。…そりゃあるよ。結婚したんだぜ?」


(……何聞いてんねんヌゥのやつ……)


「キスしたいくらい好きなのが、恋なのかな」


(……)


「またあの妖精の話かよ。お前も飽きねえなあ」

「いいから、教えてよ」

「まあそういう場合が多いかもな」

「違う場合あるの?」

「動物とか、赤ちゃんとか、花とか、可愛いな〜って思ったときにもキスしたくなったりすんじゃねえの。俺はねえけど。何でそんなこと聞くんだよ」

「昨日ね、ヒズミにキス…」

「ああああぁぁぁぁ!!!!!!」


ヒズミは飛び起きて彼の口を抑えた。


「何だよ起きてたのかよ。いきなり大声出すんじゃねえよ!」


レインは指で耳の穴を塞ぎながら怒った様子で言った。


「んー! なにしゅんの! はにゃしてっ!」


ヒズミはヌゥの口を抑えたまま放さない。


「昨日のことは誰にも言うたあかん! 約束するんやったら離したる!」

「わきゃった! わきゃったからはにゃしてっ!」


ヒズミは焦りながらレインの方を見た。


(なるほど、そういうことか、みたいな顔してるやん!!!)


「いや、違いますからねレインさん!」

「は? 何がだよ」

「だから、その、あれや! 汗かいたまま寝たから身体汚いやろ! な! 風呂行こ風呂! それじゃレインさん、また後で!」


ヒズミはヌゥの腕を引っ張って道場を出た。


(……なんだよあいつら…)


レインは呆れた顔で出ていく2人のことを見ていた。



「ちょっと!痛いよ! 離して!」

「お前、レインさんの前で何言うてんの?!」

「え? なんか変なこと言った?」

「昨日の話しようとしてたやろ! ほんまにあかんで! 絶対! 絶対誰にも言うたらあかん!」

「え〜アグにも?」

「当たり前や! なんなら一番言うたらあかん!」

「だったら最初からそう言ってくれないと」

「言わんでもわかってよ! こっちは襲った上にふられてんねん! やめて! 言わすの! めっちゃキモい奴やと思われるやん!」


ヌゥは口を突き出して不愉快そうだった。


「よくわかんないけどさ、お風呂いこーよ」

「何でわからんの?! アホなん?! 風呂は行かん!」

「なんで行かないの? 行くって言ってたのに」


ヒズミは顔を真っ赤にして、ヌゥの腕を振り払った。


「お前ほんまアホちゃうん…! 行くなら1人で行け!」

「ええ〜? …もう…面倒くさいなぁ…」


ヒズミは先にスタスタ歩いて自分の部屋に戻っていった。

ヌゥは仕方なく1人で朝風呂に向かった。



メリは研究所を出て、食堂に行った。

そこにはベーラとアシードがいて、朝ご飯を食べているところだった。


「おはようメリ」

「今朝も早いな我が同士よ!」

「お…おはようございます」


メリは財布からお金を取り出す。そのお金は一文無しのメリにアグが貸してくれたものだ。

それを使うのはやぶさかだが、仕方ない。メリは1番安いトースト1枚だけ頼んで、2人の近くに座った。


「カトリーナは素晴らしい剣に生まれ変わったのう! 切れ味はもちろん、持ちやすさも改良されておる! カトリーナも喜んでおったぞ!」

「それは良かったです!」


メリはトーストにかじりついた。


「それだけしか食べないのか? 私のご飯もつまんでいいぞ」


机の上にはオードブルのように巨大なお皿に揚げ物がたくさん乗っていた。


「おいベーラ。わしには一口も食わせてくれんのに」

「……」

「無視しないでくれるかのう?!」

「ありがとうベーラさん…じゃあせっかくなので、いただきます!」


メリは朝から油っこい唐揚げやらポテトをほうばった。


「…何かあったのか?」


ベーラは彼女に聞いた。


「別に! 何でもないです!」


(明らかに不機嫌そうだな)


「…外にでも行くか? 気分転換に」

「え? でも訓練や研究が…」

「少しくらい、いいだろう。10時には帰る。アシード、ジーマに私とメリは素材の買い出しに行くとでも言っておけ」

「なんじゃ。2人はそんなに仲良しだったかのう?」

「いや、別に」


メリは不思議そうにベーラを見ていた。

ベーラさん、すごく絡みにくそうな人だと思っていたけど…最近少し、雰囲気が変わったような気がする。


「食べ終わったら行くぞ」

「は、はい!」


そして2人は朝ご飯を食べ終わると、城下町にでかけた。


ヌゥが大浴場に入ると、アグの姿があった。


「あ! アグ! いたの!」

「あぁ…お前かよ」

「待ってて! すぐ洗うから!」

「別に急がなくていいよ…」


ヌゥは身体を洗って、浴槽に入った。


「あったかー!」


アグの隣まで寄っていって、肩まで浸かった。

すると、アグは立ち上がろうとした。


「じゃあそろそろ出るか」

「ええ! 嘘でしょ? 待っててって言ったのに!」

「待ってただろう、来るまでは」

「そういう意味じゃないから〜!」


アグは仕方なくもう一度湯船に浸かった。


「アグと温泉、初めてだね〜」

「これは温泉か?」

「さぁ〜まあ何でもいいじゃんか」


ヌゥは嬉しそうに彼を見ている。


「機嫌いいじゃねえか」

「え?」

「昨日は落ち込んでただろ?」

「ああ〜うん! でももう大丈夫になったから!」

「仲直りしたのか?」

「喧嘩してないよ! 昨日ヒズミに言われたんだ。ヒズミはね、俺のことが好きだって!」


ヌゥはそう言ったあと、昨日のことは誰にも言うなと言われていたのを思い出した。


(あ…言っちゃった。まあいっか)


「…そう言われたのか?」

「うん! 言うなって言われてたから黙っててね」

「……」


(それは、友達として? それとも……)


まあ、俺が干渉するようなことじゃ、ないんだけど。

こいつが元気で笑っているなら、もうそれでいいか。


「そういや、お前に使ってもらいたい装備を作ったんだけど」

「え? アグが? 俺に?」


ヌゥは目を輝かせて、彼を見た。


「うまく使ってもらえるかは、わかんないんだけどさ」

「えー! 絶対使うよ!」

「じゃあ風呂上がって朝飯食ったら、研究所まできてよ」

「行くいく! やったー!」

「…じゃ、俺はもうのぼせるから先出るぞ」

「待って待って! 一緒に行こうよ!」

「お前、今来たばっかじゃん」

「いいの! いつでも入れるから!」


そう言ってヌゥは、また腰巾着みたいに俺に着いてきて、2人で食堂に向かった。

何だかこの感じは懐かしいな。


独房を出てから、まだ1年もたっていないのに。

あの頃の生活が、もう、遥か昔のようだ。


今俺たちは、とんでもない敵を相手にしている。

そして奴らは、ヌゥを狙っているらしい。


彼の左耳に掘られた番号も、謎のままだ。


でも、ただはっきりしていることがある。

俺はこいつを守りたい。

こいつの呪いを解きたい。


そのために、俺は俺にできることをする。


アグは隣で笑う彼を見ながら、そう思った。










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