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ヌゥとヒズミ

まともな作戦が思いつかなかったが、そうこうしているうちに研究チームとの面談になって、研究所に呼ばれた。


どうやらヌゥたちの面談が最後のようだ。


研究所にはアグ、メリ、ハルク、ベルの4人が待っていた。

早速面談が始まる。


「ヒズミさん、何か意見ありますか?」

「うーん。武器なんて使つこうたことないからなぁ…」

「ヒズミは忍術があるもんね」

「下手に身を重くするのも考えものですね」

「せやで〜。まともに使われへんし、要らんと思うわ」

「で、ヌゥは?」

「俺は剣があるよ!」


ヌゥは腰の剣をとんとんと叩いてニコっと笑った。

アグはうーんという表情を浮かべている。


「どうしたの? アグ」とメリ。

「いや、別に……」

「それじゃあ次は防具についてですね…」


その後もある程度話をしたが、採用となりそうな意見は特に出なかった。戦闘訓練を見て判断しようという話になった。


「ねえ、お腹空かない?」

「せやな〜もう遅いし、何か外に美味いもん食べに行こか〜」


ヌゥとヒズミがのんきに話をしだすと、ハルクは言った。


「私はいいです。研究の続きをします」

「俺もいいわ。作りたいもんあるし」


と、研究オタクの2人は外食をパスする。


「じゃあ私も!」とメリ。

「何やつれへんなぁ」

「じゃあベルちゃん来てよ! もう1人いないと俺、外出できないし!」


ヌゥはベルの手を引いた。


「え? あ、はい……」

「ちょっと! ベルは未成年なんだから、変なところ連れて行かないでよ!」

「せやったらあんたも来いって」

「はあ?」


ヒズミは悪そうな顔をしている。


(なるほどヒズミのやつ……しょうがないわね、付き合ってやるとするか)


「わかったわよ! ベルをこんな男2人と一緒に行かせるわけにはいかないからね!」

「失礼なやっちゃな」


と言いながらも、ヒズミはにこやかな笑みを浮かべていた。


(ほんっとに調子がいい奴!)


まあそんなこんなで、ヒズミたち4人は外に出ていった。


「……」


アグはその様子をちらっと見ている。


「行ってきてもいいですよ?」とハルクは言った。

「いや、大丈夫です。それより今日の面談の話ですけど……」


アグとハルクは生真面目にその後も研究所にこもるのであった。



4人はヒズミの行きつけの定食屋にやって来た。

店の前まで来ると、ヒズミがハっとしたように言い出した。


「やばい! めっちゃええ戦術思いついてもうた! うわ〜今すぐヌゥに話したいわぁ! せやけどメリに聞かれたくないしな〜」


メリはわざとらしそうにそんなことを言い出すヒズミを、白けた目で見ている。


(よくもまあペラペラと! ほんとにしょうがない奴ね!)


「ふーん! じゃあ分かれて座りましょ! 私もベルと2人でお話してみたかったし〜」

「ああ、そうなん? それやったらちょうどええな〜! ほな先に入るで。ヌゥ、行こか〜」

「え? ああ、うん」


ヌゥは頭にはてなを浮かべながら、ヒズミについていった。


(ったく、私達を邪魔者扱いして!)


ベルもまた、きょとんという表情を浮かべている。


(まあいいわ。ベルと仲良くなりたいのは本当だしね!)


メリは少しあとから、ベルと一緒にその店に入った。


「さて〜何頼もか〜」


ヒズミはメニュー越しに、向かいに座ったヌゥをチラチラと見ていた。

ヌゥはメニューに集中している。


(やっば! 可愛いわ〜ほんま! こいつほんまは女ちゃうん。いや、一緒に風呂入ったことあったからそれはないか…)


『ねえ、ヌゥ君帰ってきたら、ヒズミもデート誘ったら? ヒズミのテクがあったら、ヌゥ君もヒズミのこと好きになるかもよ』


メリに先日そんなことを言われたのを思い出した。


うん? 何かこれデートみたいやん?

ていうか男相手にテクもクソもないやろ…。

定食屋で飯食うだけよ?


いや、でもあかん…やばい。

意識したら緊張してきたぁ……。

女の子とのデートで緊張したことなんかあれへんのに…。


(ほんまどうなってるん……)


ヒズミの心臓はバクついていた。


ヌゥはそんなことなど露知らず、「何頼もうかな〜?」と呑気な様子で、ペラペラとメニューをめくっていた。


「ヒズミ決めた?」

「え?」


やば…この子ガン見してメニュー全く見てへんかった…。


「ええと…これにしょうかな、焼き魚定食」

「ふうん。ていうか、ヒズミって和食好きだよね」

「ああ、うん。食べ慣れてるし」

「アグもね、和食が好きなんだよ!」


ヌゥはにこやかに笑ってそう言った。

ピシィ……と何かが割れる音が聞こえた。ヒズミの頭の中で。


「やっぱりやめた。ハンバーグ定食にするわ!」

「え? なんでやめるの? 俺もそれにしようかな〜。ああ、でも唐揚げ定食も捨てがたいぃ……いや、このヒレカツ定食ってやつも…。ああ〜決められないぃ!」


ヌゥは再びメニューとにらめっこを始める。


(いやいやいや、優柔不断! 女子かいな!)


「う〜ん……」


ヌゥが迷っていると、あとから入ったベルとメリのところに店員が注文を聞きに行っているのが遠目に見えた。


(いや、女子以下かいな!)


いつまでたってもヌゥが決めないので、ヒズミは言った。


「ヒレカツにし」

「え? 何で?」

「わいのハンバーグと半分こする。唐揚げは単品もあるからそれも付ける。そしたら全部食べれるやん!」

「おおー! ヒズミって頭いいんだねぇ!!」

「せやで! わいは学校も首席で卒業して……」

「アグみたい!!」


ピシピシィィと更に亀裂が入る音がする。それもヒズミの頭の中の話だ。


(こいつ……ことあるごとにアグの名前をだしよって……わいがベーラやったらな、アグって言うた瞬間、気絶する命令かけたるからなぁ!!)


と意味のわからない思考に陥っていた。


とりあえず注文は終わって、2人の元に料理が運ばれた。


「うわ〜美味しそう〜!! ボリュームすごいね!」

「せやろせやろ〜! 値段の割にこのボリューム! 大の大人も大満足!」

「いいねいいね! アグにもこの店教えてあげようっと!」

「……」


ピッシィィィイイと巨大な亀裂が…、というか、もう割れていた。何かはわからないけれど。


「あんた何なん?! どんだけアグの名前出すん! どんだけアグのこと好きなん!!」

「え? そんなに出してた?」

「出してる! もう今ので3回目やで!」


ヒズミは指を3本立てて、ヌゥの眼前に突き立てた。


「何でそんなの数えてんの」

「いや、やから…あんたが何回も……」

「いいじゃん別に。ヒズミってアグのことが嫌いなの?」


(き〜ら〜い〜! 嫌いすぎるぅっ! めちゃ理不尽な理由で嫌ってますけど何かぁ?!)


「俺はヒズミとアグに仲良くなってほしいんだよね」

「はぁ……?」


何を言い出すんやろ、この子…。


ヌゥは自分の定食に乗ったヒレカツを箸でつかむと、ヒズミの更に移した。

ヒズミも約束通り、ハンバーグを半分に切って、ヌゥの皿に移す。


「アグは俺の初めての友達。だからアグのことはもちろん好きだよ」


(友達……ねぇ……)


「ヒズミも俺の大事な友達。だから3人で一緒にいたら、きっともっと楽しいよ!」

「……」


ヌゥは単品唐揚げが4つ乗ったその皿を手に取ると、2つずつ各自の皿に盛り付けた。


「うわ〜! すっごい豪華になった! スペシャル定食だよ〜! いただきまーす!」

「……」


ヌゥは満面の笑みで食べ始めた。

ヒズミは何も言えずに、その皿を眺めていた。


(確かに美味そうやけど……)


「いただきます…」


ヒズミも小さくつぶやいて、それを食べ始めた。


「おいしいねぇ!」

「うん…せやろ…」


ヌゥ、でもわいな、やっぱり嫌なんよ。


友達じゃ……嫌や……。


ヒズミはヌゥをちらっと見ながら、その箸を進めている。


(欲しい…)


この子と2人きりの時間が、何よりも尊い。


「あれ? ヒズミ食べないの〜? 食べないなら唐揚げもらっちゃうよ〜」


と言って、ヒズミの皿から唐揚げを奪い取った。


「え? あ! あかん! わいのやし! とるなとるな!」

「やーだよ〜! もーらい!」

「うわ! セコいやつやなほんまに!」


ヌゥは唐揚げをさっさと口に入れてしまった。


「うーん! 美味しい〜! サクサク〜!」

「大事に置いといたのに最悪や〜…」


はたから見たらそうやろ。

仲の良い友達やろ。


だってわいもこいつも男なんやから。


やからアグのこともただの友達で終わるんよ。


アグが男でほんまに良かった。

女やったら秒でとられてるとこやった。


ていうか、こいつの好みの女が現れたらどうなるん?!


「ヌゥってどんな子が好みなん」


思い立ったらすぐに聞く! それがテク!

なわけないやろ。

もうこちとら頭回ってへんわ!


「え? 何? 女の子?」

「そらそうやろ。え? 何? 男でもいいタイプなん?」


うわ、変なこと聞いてもうた。


「男は男を好きになんないでしょ」


(知らないけど。だって俺、誰かを好きになったことないんだもん!)


ヒズミは顔には出さなかったが2度目の玉砕を食らっていた。


(そらそうや…わいかて、そう思ってたからな〜…)


「そいで? どんな子?」

「ええ〜? 別にないけどなぁ…」

「ないってことはないやろ!」

「じゃあヒズミは?」

「え? わいの話?!」

「いいじゃん、教えてよ」

「えー…せやなぁ……。顔はキレイ系よりは可愛い系かな〜。身体が細くて、背は自分より小さい方がええかなぁ。歳は近い方がええ。あとは、おっとりしとう子より明るい子がええかな! まあ何より、話してて楽しいのが1番やな!」

「へぇ……ねえ、それってさ…」


やば、バレてもうた? そんなわけないか…女の子の話や〜言うてんねんから!


「もしかしてメリのこと?」


ぶー!!っと水をふきだす…ところやったわ!

飲んどう途中やったらな!!


「んなわけないやろ」

「えー? だってヒズミ、メリと最近仲良さそうだよ?」

「ちゃうちゃう! アグの婚約者やぞ? 誰がそんな女好きになるかいな」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ今は好きな子はいないってこと?」


ヌゥにそう言われて、わいは一瞬沈黙したけど、すぐに「おらへんよ」って言うたわ。


叶わへんのはわかってるんよ。

どうしようもないわ。


わいかこの子か、どっちか女の子やったら良かったのに。


もしそうやったら、絶対もう告白してると思うわ。


ほんまは今すぐ言いたいよ。


「ねえヒズミ、そういや思いついた戦術って何?」

「あー…忘れたわ」

「ええええ?!?!」


ヌゥはそんなことあるかという様子でうだうだ言っていたけど、メリとベルも食べ終わってたみたいやったから、さっさと会計を済ませた。

もちろん全員分奢ったりましたよ、女の子に払わせるわけにはいかんからな!


「ヒズミ〜ごちそうさま〜」


ヌゥは手を合わせてニヤニヤと笑っていた。


こいつは女やないけど特別な!


気づけばもう外は真っ暗だ。

お店からの帰り道、ヌゥとベルは先に歩いていく。メリはニヤニヤとしながらヒズミに話しかけた。


「ねぇ、どうだったのよ」

「どうって何がやねん」

「んもう! あの子と2人きりにしてあげたじゃない! ヒズミの恋愛テク炸裂した?」

「そんなんしとう余裕ないねん、こっちには!」

「え〜?」


メリは口を尖らせてつまらなそうにしていた。


「せやけど、ほんまにありがとう」


ヒズミは笑ってメリに言った。


「いえいえ」


涼しい風がたなびく心地良い夜の空の下、4人はアジトに帰っていった。
















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