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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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悲しみの歌姫

レニは、歌うことが好きだった。


ある田舎の村に生まれたレニは、両親と3人で、穏やかに暮らしていた。容姿の美しいレニは、村の中で一番の美人としてもてはやされていたが、そのことを鼻にかけることもない、優しい女性だった。


レニは森で遊ぶのが好きだった。

ここには、たくさんの観客がいるから。


レニが歌い出すと、動物たちが寄ってきた。

鳥やうさぎに鹿、りすやアライグマ、彼らはレニの歌が大好きだった。


「素敵な歌だね」


レニは声をかけられ、驚いて振り返った。

そこには見知らぬ男が立っていた。優しい顔のその黒髪の男は、レニに微笑みかけた。


「だ、だれですか?」

「僕はシャノン。君は?」

「私は、レニです…」

「レニ…いい名前だね。ねえ、もう少し、聞いていたい。だめかな?」

「いえ…」


彼がそう言うので、レニはまた、歌を歌った。


幸せな心地だった。

頭から突き出るように、脳裏に響く私の歌。

風に吹かれながら、彼は目を閉じて、それを黙って聞いている。

それは安らかな時間で、穏やかな気持ちだった。


「とっても素敵だった。ありがとう。ここにはよくくるの?」

「は、はい…」

「そうなんだ。また、来てもいいかな?」

「はい…」


レニはドキドキしていた。

初めて人前で歌ったりしたからだろうか。

その日レニはなかなか眠れなかった。


次の日もまた次の日も森に行ったが、彼は現れなかった。

レニは口には出さなかったが少し残念がっていた。


しかし次の日、また彼が、シャノンがレニの前に、現れたのだ。


「やあ、レニ。また会えたね」

「シャノンさん!」

「あはは、シャノンでいいよ」


シャノンはレニの歌を聞いては、すごく感動したと、褒めてくれた。

シャノンはたびたびレニの前に現れて、森でレニの歌を聞き、そのあと話をしたらどこかへ帰っていく。

レニはいつかわからない彼と会える日を楽しみに、毎日を過ごした。


レニは彼のことが好きだった。

彼に恋していた。


そう気づいたとき、彼からこんな話をされた。


「君の歌は、素晴らしい。どうだろう、僕と一緒に、歌い手の道を進まないか?」


私は嬉しくて、彼についていくことを決めた。

シャノンは私の両親も説得した。

シャノンは、歌い手や踊り子たちを育て、表に出す機会を与えるような仕事をしていた。


私は彼に夢中になりすぎて、彼の言うことはなんでも正しいと思い込み、どんなことも従った。


「…これ、レニに似合うと思うんだけど」


シャノンはやたら露出の多い服をレニに着せたがった。

私は抵抗もあったが、彼のためならと恥を惜しんでそれを着た。


「うん! すごく似合ってるよ! これならもっと人気が出ると思うな」

「そ、そうでしょうか……」


シャノンはレニの姿をじろじろと見ては、頷いた。レニは恥ずかしそうに、手で身体を隠した。


もっと早く、気づくべきだった。


私の歌い手としての仕事はどんどん減っていった。

そして彼の行動はだんだんエスカレートしていった。


「いっそ、脱いじゃった方がいいんじゃない?」

「え?」

「うん。君に歌い手としての才能がないってことは、もうわかっているんだろう? だったら君はその美しさを仕事にした方が絶対にいい。そう思わないか?」


レニはその時、彼のことを怖いと思った。

どうして気が付かなかったんだ。彼は最初から、私を歌い手にするつもりなんてなかった。


「いい仕事があるんだよ。今からそこに行ってみない?」

「い、行きません!」


私は必死で逃げ出そうとしたが、彼に腕を掴まれた。

そして、彼に無理矢理謎の薬を飲まされた。


「んんんん!!!!」


喉が焼けるような痛みが彼女を襲った。

そして彼女は、声を失った。


「君にその声はいらないよ…。君がどれだけ歌っても意味ないから……。君にはその身体だけあればいい」


そしてそのまま、彼に襲われた。


叫んでも声は出ない。

涙も出し尽くして、枯れ果てた。


大好きだと……思っていたのに………。


「また明日ね、レニ…」


レニは喪失とした表情で、帰路に立った。

橋の上を、歩いていた。


「…ぁ、ァァ…」


何度試しても、声は出ない。

私はもう、歌うことができない。


絶望して、その橋から飛び降りようとした時、誰かに手を掴まれた。


私は、あの方に出会った。


あの方は私に声を取り戻させてあげると言ってくれた。

その代わり、あの方に一生付き従うことを、命じられた。


私はその条件をのんで、声を取り戻した。


シャドウとなって絶大な力を得た私は、シャノンを殺した。

そして、もう二度と恋などしないと、心に誓った。


しばらくしてあの方は、私を妖精の国リオネピアに送り込んだ。妖精たちをすべて捕まえ、新しいシャドウを作ろうというのだ。

そして、あの方の器となる人間、ヌゥ・アルバートの捕獲を命じられた。


あの方がそうしたいというなら、私はそれに従うだけ。


ただ、この国にはあまりにも妖精が多すぎる。

私は城に侵入し、妖精女王をシャドウにして、妖精共を従えようと考えた。


その女王は、思ったよりも幼くて、私を見ても恐れなかった。


「あなた! 人間ね! すごく、いい香りがするわ!」


彼女は私に顔を近づけながらそう言った。


「でも可哀想…すっごく愛した方に裏切られてしまったのね…」

「なんなの…あなた」

「私? 私は恋を司る妖精、サイレントアーフ・キサティよ」


私はそれを聞いて、笑いをこらえるのに必死だった。

恋…ですって?

うふふ…私の一番、嫌いな言葉ね……


彼女が私に敵対しないのをいいことに、私は彼女を利用しようと考えた。


「私、人間の国に行ったことがあるんだけど、人間たちって本当にたくさんの恋にあふれているのよ! みんな、それぞれとっても素敵な香りがするの!」

「そう…」

「でもね、妖精たちはほとんど恋をしないの。恋が素晴らしいものだって、みんな知らないのよ。好き同士になる妖精もいるけれど、人間たちの恋には比べ物にならないほど小さな愛よ。恋する喜びを知ってくれれば、もっと素敵な世界になるはずなのに」


なんて…戯言なのかしら!

私は反吐がでそうだった。

私はこの子を利用するだけ利用して、最後はボロボロに傷つけてやろうと思った。


私はキサティに、妖精たちをシャドウにすることで、恋をさせてあげると適当な嘘をついて、彼女を率いれた。

彼女から妖精たちの住処や、能力なんかの全ての情報を聞き出した。


そしてキサティには、人間の国に行き、特別国家精鋭部隊に所属しているヌゥ・アルバートをこちらにおびき寄せるようにと作戦を伝えた。

信用を得るために、自分の技は歌であることもキサティに教えた。そのことを奴らに教えても構わないとも。それほどレニは自分の強さに自信があった。

私の歌で、妖精たちを城に呼び込んだ後、彼らをシャドウにすると約束をして。

キサティはレニの恋する気持ちに絶対の自信を感じていたので、すんなりと彼女を信じた。

そして彼女は、国中の妖精をその歌で従え始めた。



ヌゥは聖堂に檻のまま置かれ、ウルともう1匹の妖精リネットに見張られていた。


「おそらくはじまったわね…レニ様の破滅の歌が」


ウルはリネットに話しかけた。


(破滅の歌…?)


「あれを最後まで聞いたら死んでしまうのよね」

「そういえば、こいつの残りの仲間も2人、捕らえたらしい」


(な…なんだって…?!)


ヌゥはその檻をにらみつけると、思い切って手で掴んだ。

非常なまでの電気が身体中に流れる。

その手はあっという間に焦げて、感覚がなくなってきた。


(こんなところで捕まってる場合じゃない…!)


バチバチバチと、激しい音がしたのでウルとリネットは振り返った。ヌゥが檻を両手で掴んで、開けようとしている。


「馬鹿な! 高圧電流だぞ?!」

「知……る………かぁぁああああ!!!!!!」


ヌゥは手で檻を、こじ開け、檻から脱出した。


「な、なんだって?!」


ウルとリネットは目を見開いた。

すぐにウルは戦闘体制をとる。腰のサーベルを引き抜いた。


「絶対にレニ様のところに行かせはしない!」


ウルがサーベルを突き刺すが、軽々と避けられ、後ろに回り込まれた。


(……速いっ!!)


ウルは回し蹴りをくらい、床に倒れ込んだ。


「ウル!」


リネットは彼女に駆け寄った。


「私に宿りし癒やしの力よ…彼女を救いたまえ……」


リネットはウルのキズを治していく。


ヌゥはそれを横目で見ながら、急いでレニの元へ向かった。



(この歌……すごい力っ……)

(なんて…おぞましい……!)


キサティはその悲痛な歌が響く中、何とかベーラの手足の拘束を解いた。


「キサティ…」

「ベーラ! 本当にごめんなさい! レニが悪いやつだなんて、私…思わなくて…それで…」

「もうすんだことだ…それより、この歌…」


ベーラとキサティは耳栓をつけたが、それでも威力が少し弱まるだけであった。


耳を抑えて、身動きが取れない。


(無駄よ…この歌が終わったとき、あなたたちは死ぬのよ!)


この歌をきくと、彼女の昔の痛みや憎しみが、ひしひしと伝わってくる。

愛する人に裏切られた苦しみ、怒り、悲しみ、それらが一体となって頭の中を覆った。


「レニ…お前の苦しみはわかった…恋したことに後悔しているんだな…」

【そうよ! 恋なんてしても仕方ない。恋なんて、この世に必要ないのよ】

「私もそう…思っていたよ…なぜ人は恋をするのか…不思議だった…」

【うふふ…あなたとは話が合いそうね…彼らの仲間でなかったら、殺さずにすんだかもしれないわね! でも残念…この歌が終わったとき、あなたたちは死ぬのよ】


歌っている彼女の心の声は、歌を聞いている2人の頭の中に直接響いてきた。


【終わりよ…これが最後のサビよ!】


「やぁめろぉおおおおお!!!!」


レニはその頭を、ヌゥに思い切り蹴り飛ばされ、地面に倒れた。


















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