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それは時に辛くもあって(※)

素敵な歌だね。


レニは声をかけられ、驚いて振り返った。


もう少し、聞いていたい。


彼がそう言うので、レニはまた、歌を歌った。


幸せな心地だった。


頭から突き出るように、脳裏に響く私の歌。

風に吹かれながら、彼は目を閉じて、それを黙って聞いている。


それは安らかな時間で、穏やかな気持ちだった。

レニは彼のことが好きだった。

彼に恋していた。



だが、やがて、彼女はすべてを失う。


だったら、最初から、恋なんてしなければよかった。

こんなに辛い気持ちになるくらいなら、好きになんて、ならなければよかった。


恋なんて、いらない。

誰かを好きになんて、ならなくていい。


そうよ。

あんな思いをするくらいなら。


レニは、冷たい目で、城の外を見ていた。




「おい、結構近づいてきたぞ」


レインたちは岩山の陰から城を覗く。

草原を超えると、城の周りは岩山地帯になっていて、でかい岩がごろごろと転がっていた。


「ひょえ〜〜近くで見ると、めちゃめちゃでかいね!」


ヌゥは城を見上げて高らかに声を上げた。


「おい、静かにしろ」


アグは見かねて小声で怒鳴る。


「何も聞こえないね」

「そうだな」


各々は手に耳栓を持って、城を警戒する。


「ずっと歌っているわけじゃないから…今がチャンスかもしれないわね!」


キサティももらった耳栓を握りしめていた。


「よし。じゃあ俺とヌゥでちょっくら突っ込んでくるわ。ベーラとアグは待機しろ。キサティも、危ないから近づくなよ」

「無論、何かあれば私が守る」

「レインさん、これ」


アグは彼に無線を渡した。


「俺も持ってるんで、何かあれば」

「ありがとよ。なあべーラ、この耳栓、ライオンになったらどっか行っちまうかな」

「安心しろ。レインのは特別製だ。服と同じで体に合わせて形も変化する」

「何でもありで助かるよ。それじゃあ行ってくるぜ」

「気をつけてください!」

「行ってきまーす!」

「うむ」


二人は念のために耳栓をつけて、城に正面堂々乗り込んだ。


岩山を加工したと行っていたが、1から作った人工物といってもおかしくないほど見事に造形されていた。

入り口に扉はなく、大きく解放されている。


二人はそこから中に入っていった。


「レニ様、ついに来ましたぞ」


レニと呼ばれた女は、広い部屋の立派な椅子に腰掛け、その城に似つかわしくない巨大なモニターで彼らを見ていた。


レニは美しかった。

青い髪は腰に届くほど長く、波うっていた。

青緑色の深い瞳は、見つめられたら虜になってしまいそうだ。

スタイルが良く、ふくよかな胸の谷間がよく見える、露出のやたら多い服装を着て、その脚を組み直した。


「うっふ……来たわね、ヌゥ・アルバート」


レニは彼を見ながら、赤く塗られた唇を閉じ、微笑んだ。

そして立ち上がると、部屋を出ていった。



「誰もいねえな」

「え? 何?」


二人はお互いの声が聞こえなかった。

それはそれで、そのスーパー耳栓の欠点でもあった。


城の中も、外側に劣らない美しい造りだった。色こそ岩のままだが、床や壁にはそれっぽい模様が彫られているし、螺旋階段があるし、部屋もたくさんある。


「迷子になっちゃうな」


ヌゥは城内をきょろきょろと見回した。


本当に何も聞こえないな。

今歌が流れているかどうかもわからないや。

確かめようもない。


「女はどこかな〜」


すると突然、天井から檻のようなものがガシャンと降ってきた。


「え?!」


音が聞こえず、反応が遅れた。

振り返ると、レインとヌゥは檻で引き離されていた。


「レイン!」


ガシャンと別の檻が次々に降ってきて、ヌゥは一人、巨大な檻に閉じ込められた。


ヌゥが檻から出ようと手を触れると、バチバチっと電流が身体に走って、パッと手を離した。


(うっわ! 高圧電流だ)


ヌゥの手は少し焼け焦げた。


「大丈夫か?!」


レインはヌゥを見て叫んだ。

ただヌゥには何も聞こえていなかった。


「ふふ。待ってたわよ、ヌゥ・アルバート」


レニはその胸を揺らしながら、高いヒールをコツコツと鳴らしながら、彼らの前に姿を現した。

後ろには妖精たちの軍勢を従えていた。


ヌゥは仕方なく、右耳の耳栓を外した。

すぐにつけられるように、手は耳の近くに待機させた。

レインも同様に、それを外す。


「誰だお前は」

「私はレニ」

「シャドウなのか?!」

「ええ。レアのね…」


レニは髪を耳にかけると、にっこりと笑いかけた。

すると、レニはレインの方を見た。


「お仲間さんには、死んでもらうわ」

「やめろ! レインに手を出すな!」

「うふ…お前たち、やりなさい!」


レニの命令で、妖精の軍勢は、レインに襲いかかった。


「簡単にやられてたまるかよ」


レインはライオンとなって、戦闘体制をとった。



アジトでは、メリはまたヒズミの部屋に出向くと、また彼に手伝いを要求した。


「あんな…今何時やとおもてんの」

「朝の5時だけど」

「いや! 寝かして?!まだ! てか、ケガ人! 見て?!包帯! てか、あんたは大丈夫なん?! 手縫うたばっかりちゃうの?! ずぅっとトントントントンして」

「私はシャドウだから…治りが早いの。ヌゥ君ほどじゃないけどね」

「はぁ〜…」

「いいから! お店があくまで待てないの!」

「ほんま自己中かいな……」


ヒズミはしぶしぶ鍛冶場にまたやってきた。


「あれ、鍛冶場が綺麗」


メリは掃除された鍛冶場を見て、驚いた。


「まさか、ヒズミが?」

「…わいは汚いのそのままにできひんタイプやねん」


ヒズミはボソっと呟いた。


「そっか! ありがとう! ヒズミ!」


メリは笑って言った。


「はいはい。そいで? また3時間火出さなあかんの?」

「うん! よろしく!」

「よろしくて……はぁ…もう女には敵わん!」


ヒズミは昨日に引き続き、炎を吐いた。


火を出すこと30分。

いい加減目も覚めて、火力もかなり上がってきた。


「そろそろやるか!」


メリも立ち上がると、その炎を使って鉄を打ち始めた。


カンカンカンカン!


ヒズミは鍛冶の現場を見るのは初めてだったので、まじまじとその様子を見ていた。


「温度、保っててね! 冷えたら駄目だから」

「わかった…」


メリは一生懸命カトリーナを修復していく。


その目はものすごく集中していて、圧倒された。


この子、ほんまに鍛冶屋なんやな…。

こんな女の子が、剣を作れるんや。


カンカンカンカン!


メリは、楽しそうだった。

いきいきとしていた。


「よし! 出来たわ!」


メリは完成したカトリーナをヒズミに見せた。


「なんか前と色違うなぁ」

「ステンレスが入ってるの。難しいのよ〜これを打つのは。でもこれで、カトリーナはサビることがない」

「ふぅ〜ん。そらすごい」


ヒズミはカトリーナを手に持った。


(重っ! おっさんこんな重いの振り回してんの?! はぁ…あり得へんわ…。てかこの子も何で普通に持てるん…)


ヒズミはすぐに大剣を元の位置に戻した。


「ほな、ちょっと休憩や!」


ヒズミは丸椅子に座った。メリも別の丸椅子に腰掛けた。


「ねえ、昨日の話なんだけど」

「なんよ」

「ヒズミって、ヌゥ君のこと好きでしょ」


ヒズミはハっとメリの方を見た。


「なっなに言うてんねん! そんなわけないやんか! わいは男やで?!」

「その焦り方、やっぱりそうじゃない! だから私にアグと早く結婚しろとか言ったんでしょ! まあ確かに、ヌゥ君と話してる時のヒズミ、いつもと様子違うもん。あの妖精も、ヒズミが誰かを好きみたいなこと、言っていたし」


(なんで…なんでよりによってこの子に……)


「ねぇ、何でヌゥ君のこと好きなの? やっぱり可愛いから?」

「ち…ちが……」

「いいじゃない、教えてよ! でも初めて見た。本当にいるんだ、男が好きな男って」

「せやから……違うて……」


メリは茶化すように彼に話す。


「ねえ、ヌゥ君はそのこと知ってるの?」

「しつこいな…違うて言うてるやん…」

「えー? まあでも、ヌゥ君は男だからね〜。でも、ヒズミは顔はいいからモテそうじゃない? 他の女の子を好きにならないの?」


メリがヒズミの方を向くと、彼が泣いていることに気づいた。


「え?! ちょっと、ヒズミ? どうしたの?」

「……」


ヒズミは顔を真っ赤にして、涙を拭った。


涙が、止まらん。


「ヒズミ! 嘘! ごめん! そんなつもりじゃ…」

「……」


誰かにバレた。単純にその事が恥ずかしいのと、またあの子のことを、考えてしまう、その事が、苦しいから。


メリは慌ててヒズミに寄り添う。彼の背中をさすった。

彼は何かの糸がきれたようにボロボロ泣き始めた。


「…やっぱり…あかんかな……好きになったら……あかんの……」

「そ、そんなこと言ってないわよ…ごめん…ごめんってヒズミ……」

「初めて……好きになったんや……男のこと……それまでは……ちゃんと女の子のことが好きで……それやのに……」

「うん……」

「やっぱり……変やんな……おかしいよな……気持ち悪いやんな……」

「そんなことないよ…ヒズミ……ごめん……そんなに好きだなんて知らなくて……泣かないでよ……」


ヒズミはぼろぼろ泣いて、その手で何度も涙を拭った。

メリはちょっとした好奇心で彼に聞いたことを反省した。


「でも…あの子の顔を見るたび、胸が張り裂けそうになって……本気で抱きしめたくなって…でもそんなんできんやん……そんなんしたら……あの子に嫌われてまうの、わかってるし……わいの気持ちがばれたら、絶対引かれるのもわかってるし……」

「ヒズミ……」

「せやからこのまま、仲のいい友達でいようって……それでええって……そう思うんやけど……たまに我慢できんくなって……あの子をそんな目で見てしまうことがあって……すごい………辛いんよ…」


メリは自分もなんだか辛い気持ちになって、でもなんて声をかけてあげたらいいのかわからなくて、彼の背中をさすることしかできない自分に、嫌悪感すらいだいた。


この人は、本当にヌゥ君が好きなんだ。


(なんでよりによって、この子の前で泣いてしもたんやろ…いい歳して、男のくせに…ほんま恥ずい…)


「ごめんなメリ…こんな話……聞かされて…嫌やろ……」

「そんな、そんなことないわよ…」

「ええんやで…素直に気持ち悪いって言っても…その方が逆にすっきりする……」


メリはヒズミを抱きしめた。

ヒズミは驚いたようにメリの首元に顔をうずめた。


「一人で、辛かったね……」


ヒズミの涙が、メリに触れた。

メリは彼をぎゅっと抱きしめてあげることくらいしかできなかった。


「いいじゃない…誰が誰を好きになったって…それを否定する権利なんて誰にもないわ」

「……メリ…」

「だから…そんなに自分を責めないでよ…。いいんだよ、ヒズミは…ヒズミの気持ちに正直になって…」


(ほんまは、誰かに聞いてほしかったんやろか…)


ヒズミはメリの優しさに触れて、少し救われたような気がした。


(好きでおっても…ええん……)


ヒズミはメリにもたれたまま、しばらく動けなかった。







挿絵(By みてみん)

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