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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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まるで虹色の大陸

「で、敵はどんなやつだって?」


レインはあぐらをかいて、キサティに問うた。


(やっとまともな話が始まったか)


「青い髪の女よ。彼女の歌を近くで聞くと、心を奪われて彼女の元に行ってしまうの…。彼女はたくさんの妖精を城に呼び込み、捕らえている」

「歌か…」

「催眠術に近いものでしょうか? シャドウにはそういう能力を持った者がいましたよね」

「シャドウって何なの?」

「俺たちの敵だ。人間と呪人を合体させた、様々な能力を持つ奴らだ」

「妖精を捕まえて、何をする気なんでしょうか…」

「次は妖精と呪人を合体させようとかか?」

「ありうるな」

「ったく、ヒルカを倒してもまだシャドウがうまれんのかよ」

「その女がシャドウかどうかはわからないがな」


ヌゥはこの手の話になると、口数が減る。というか、ない。

まあいつものことなので放っておこう。


「レインさん、何か対策は?」

「うーん、ない! 正面突破でよくねえか?」

「いいね! 正面突破!」


ヌゥはやっと口を開いた。


「いや、だめですよ! その歌をきいて全滅しちゃったらどうするんですか?!」

「じゃあお前が作戦考えろよ。天才なんだから。な、このチームの参謀はお前だアグ!」

「ちょっと…俺はそういうのは得意じゃないんで…」

「んだよ…。じゃあベーラ、なんかねえの?」


ベーラは手のひらに小さなスポンジのようなものをいくつか作り出した。


「なんですか?これ」

「耳栓だ」

「さすがに油断しすぎでしょう!」


ヌゥはそれを耳にはめた。


「皆、なんか喋って!」

「恋愛不適合者〜」

「不真面目代表」

「ぐ〜〜」

「え? 何?」


ヌゥは耳栓をとった。


「腹が減った」

「そうみたいですね!!」

「すっごい! なんっにも聞こえなかった!」

「音の波動を打ち消す能力のスーパー高性能の耳栓だからな」


アグもそれを耳にした。


(確かに……普通のとは違う。完全に無音だ)


「これで行けんじゃね? 正面から突っ込んで、女倒して終わりだろ」

「よっしゃー! 先に倒した方が勝ちだよレイン」

「勝ったら高級ステーキ丼おごれよ〜」

「いいよぉ〜! デザートに特大パフェつけてよ!」


(……こいつら、いっつもこのテンションで仕事してんのか?! 油断の極みすぎねえか?)


そうこうしている間に夜が来て、アンジェリーナの上で皆は眠った。

キサティによれば、このまま飛び続ければ、次の日の朝には着くという。

結局俺たちが対策したのは、耳栓だけだった。



カンカンカン!


メリはカトリーナを打ち直していた。


(ふぅ……ちょっと火力が弱くなってきたかしら…。でも今から火打ち石を買いに行くのもな……誰かについてきてもらわないといけないし…)


「あ、そうだ!」


メリに声をかけられたヒズミは、しぶしぶ鍛冶場まで足を運び、火を吹き出していた。


「あんな今何時やとおもてんの。てか、わいは休養中やねん。いつまでこれやらせるん」

「あと3時間くらいかな」

「はぁぁ?! てかあんた何もしてないやん!」

「火の温度を極限まであげないと。それには時間がかかるのよ」


メリは背もたれのない丸椅子に腰掛けて足を組んだまま、ヒズミを見ていた。


「あんたのわいへのその態度、ほんまなんなん?」

「べっつにぃ」

「他のみんなの前では良い子ちゃんしてからに…、ほんまはめっさ性格悪いやろ」

「ひっどい! そんなわけないでしょ!」


なんか突っかかってくんねんな、この女…。

ブツブツ文句を言いながら、ヒズミは火を出し続けた。


「まあでもヒズミは、他の人たちとは違うね」

「なにがや」

「話していて、気が楽」

「はぁ? なんやそれ」

「他の人たちは皆優しいよ。でも、やっぱりまだ緊張する。でもヒズミはしない」

「それはほめてんのかいな…」

「ほめてるわよ!」


まあ確かに、人と話すのに困ったことはあんまりないなぁ。

そんなこと、そもそも考えたこともなかったけどな。


「ほら! 火力落ちてるわよ」

「はいはい! すんませんね!」


ヒズミは炎の威力を上げた。

ちなみに、一度息を吹き込むとしばらく炎が出続ける。それが切れる頃にまた吹く、という感じだ。その合間合間に彼女と話をしていた。


「で、アグとはいつ結婚すんのや」

「はい?!」

「するんやったらはよしーよ。せやないと、ヌゥにとられるで」

「何でヌゥ君にとられるのよ」

「あんたは知らんかもしれんけどなぁ、あの二人の仲は友達のレベルやないで。あの二人が何年一緒におるか知ってんの? 10年やで? あんたが小さい頃どのくらいアグと一緒におったか知らんけどな、あの二人はほんっまに特別な関係なんよ?」

「ふふ…何言ってんのよ…そんなわけ…」


メリはヒズミのことをじーっと見た。

ヒズミも何も言わず、じーっと見返す。


「え? 嘘でしょ?」

「嘘ちゃう」

「嘘、嘘よ! アグに限ってそんな…」

「いんやぁ、だってアグ、あんたのこと放ってリオネピアに行ってしもうたやん」


メリは雷が落ちたようなショックを受けて、固まった。

ヒズミはそんな彼女を見て、にんまりと笑った。


(悪いなぁ〜気が立ってて…)


「っ! もう! 今日は帰る! もう寝る!」


メリはヒズミをおいて、さっさとアジトに戻っていった。


(はぁ〜やっと解放されたっと…)


ヒズミは鍛冶打ちの跡を見ていた。

床には灰が散乱していて、使えなくなった火打ち石がごろごろ転がっている。


あの子、今までずっとやっとったんやな…。

火打ち石が足りんなるほど…。


もう昔のメリの面影はない。

普通の女の子や。

普通すぎて、逆に驚くくらいや。


「ちょっといじめすぎたな」


ヒズミは彼女に言われたことを思い出す。


話していて、気が楽。

他の皆は緊張するけど、ヒズミはしない。


まあ正直、ちょっと嬉しいよ。

ムカつくこと多いけど…。

まあ我慢したるわ。


ヒズミは炎を消して、鍛冶場の掃除をちょっとだけやって、帰った。


次の日の朝になって、1つの大陸からなる妖精の国リオネピアが見えてきた。


「うわっ! 結構でかいよ!」


その領土は、ユリウス大陸には及ばないが、その3分の1くらいはありそうだ。これが一つの国だというのだから、妖精の国は相当な規模だ。


アンジェリーナは下降して、その大陸に近づいた。


国というよりは、自然体な感じで、山もあり、谷もあり、森も海もある。建物は例の城しかない。国の真ん中にそびえ立つ巨大な城は、かなり目立っていた。


「私達妖精には、家はいらないの。自然と一緒に暮らし、住んでいるから。あの城も、元は自然の岩山だったのを、加工して作ったの」


皆は未知の大陸を目に焼き付ける。


植物はユリウス大陸のものとまるで違っていた。

色とりどりの葉っぱは、妖精たちの国を鮮やかに見せた。


巨大な木は雲に届きそうなくらいそびえ立って、木と木の間には橋のような空中遊歩道があった。


ある木からは瀧が激しく流れ、その水しぶきは大きな虹を描いていた。


「綺麗だね……」


ヌゥは思わずそう言った。

皆もそう思っていたに違いない。


外の大陸には、こんなに綺麗な場所があるなんて。


俺はその景色に、感動したんだ。


ヌゥは俺の隣にやってきて、一緒に国を見下ろす。


「アグ…こんな景色が見られる日が来るなんて、思わなかったね」

「…ああ、そうだな…」


アンジェリーナは更に下降し、城から少し離れた草原に着陸した。


「グワグワァ」

「アンジェリーナ、お疲れ様」


アグはアンジェリーナの顔を撫でた。彼は嬉しそうにしている。


「夜通し飛んでいたから疲れただろ。ゆっくり休んでいてくれ」

「グワワァ」


アンジェリーナは羽を畳むと、目を閉じて眠った。


草原の草は、パステルカラーをしていた。

薄いピンクや水色、紫色、黄緑色の細い葉が、風になびいて揺られている。

そこは満開の紫陽花のように、優しい色が続いていた。


「妖精たちが、一人もいないね」


そう。俺も気づいていた。

まさかもう、この広大な国全ての妖精が、あの城に捕まってしまったとでもいうのだろうか。


さっきまであんなに呑気に笑っていたキサティは、急に黙り込んで寂しそうな表情を見せていた。


「それじゃ、行くか…」


4人とキサティは、城に近づいていった。





















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