戦いの記録とこれから
俺たちはその後大広間に集まって、報告とこれからのことについてを話し合った。
情報量は膨大で、会議は何時間もかかった。
まずはアシードたちのサバンナでの出来事が報告された。
巨大動物を作るように依頼していたのは案の定ウォールベルトの奴らだった。
作っていたのはシャロットという研究員。彼女は呪術師で、ロアと名乗る黒いドラゴンと一緒に研究をしていた。もとは獣人化実験の研究員で、レインを人間にしたのも彼らだということがわかった。
「そういえばあったね、サバンナが大火事になって、大量のドラゴンの死亡が確認され、そこにいた研究員たちが死亡するっていう事件」
ジーマが言うと、ベーラも頷いた。
「ちょうど近くにいた私とジーマが駆けつけたよ。獣人化実験の研究所は壊され、研究員も捕まったと聞いたが、生き残っている奴がいたということだな」
シャロットはシエナの助けで命は助かり、今はセントラガイトの独房に捉えられているとのことだ。
「鉱山に毒を撒いていた奴らもいたんだって?」
「そうなのだ! しかし、逃げられてしまったのだよ!」
「アシード、お前、わざと逃したな」
「ぎくっ」
ジーマがアシードを睨む目は怖かった。
「し、シエナを助けてくれたんじゃ…。それに、悪い奴らには見えんかったからのう…」
「はぁ…まあいいよ。君が義理堅くお人好しなのは昔からだし、それが君のいいところでもあるからね。このことは上には報告しない」
「うむ。感謝するぞジーマ」
アシードはジーマに頭を下げた。
「で、そっちはどうだったわけ?」
レインは腕を組んで、ウォールベルト潜入組を見ている。
「まずは、わいとアグが侵入した。だけどちょっと進んだら、奴らに待ち伏せされとって…大量のシャドウに襲われたんです」
「俺は無線機の緊急ボタンを押して、外の皆に助けを要請しました」
ベルは気まずそうに証言する。
「皆さんの侵入を奴らに伝えたのは私です…。本当に申し訳ありません」
「いいよベル。頭を上げなさい」
ジーマは優しく彼女に言った。
隣に座っていたヌゥは、ベルの背中をとんとんとさすった。
「入り口ではダハムが待ち構えていた。メリに並ぶレアのシャドウだ」
「レアってなんなんです?」
「…レアは、生きている人間からできたシャドウのことらしい。奴らがそう呼んでいた」
「すっごい強そうなやつだったよ! でもジーマさんが相手してくれて、俺とベーラとベルちゃんで先に進んだんだ」
「途中でベルは行方不明になったがな」
「…すみません。手術室にいました。そうしたら、メリがヒズミさんを運んできたんです」
ベルはヒズミを見た。
「理由は…わかりません」
「ヒズミさんが俺をかばってひどいケガをして、そしたらメリがやってきて、アリスちゃんがどうのって…」
アグも続けた。
「メリはわいのことをシャドウの仲間やと勘違いしとったんや。前に潜入捜査しとったときに見つかってな…わいはシャドウやて嘘ついたら信じよって、勝手にアリスって名前つけてわいのことを呼んどんや」
「アリスって女の名前じゃねえのかよ」
「確かに、ヒズミって女の子みたいな顔してるよね〜!」
「ヌゥ、あんたに言われたくないんやけど!」
「え? 何で?」
シエナもヌゥの顔を覗き込む。
「まあ確かに、ヌゥも女顔よね〜! 可愛い顔してる。ま、私ほどじゃあないけどね〜!」
シエナは頬に手を当てると、にんまり笑ってみせた。
「話それてますよ」
ハルクが言うと、ベルが続けた。
「私はそこでヒズミさんを治しました」
「そうやったんやな…ほんま恩にきるわ、ベル」
「いえ…そんな…」
ベルはそこで、自分がシャドウであることと、自分がしてきたことを話した。
皆はそれを黙って聞いていた。
続いて、ヌゥが話し出す。
「俺とベーラで進んでったら、ベーラにそっくりのやつが襲ってきたんだよ」
「誰やのそいつ」
「私の双子の弟のアイラだ」
ベーラが言うと、皆は驚いた声を上げた。
「ベーラ、双子やったんか?!」
「何で教えてくんなかったんだよ」
「別に隠してなどない。聞かれなかっただけだ」
「まあ確かに、家族の話とかはあんましねえもんな」
「で、その弟はどうしたんや」
「殺したよ。あいつはもう、闇に落ちていた。ヒルカにシャドウにされ、奴と一緒に世界侵略を企てていたんだ」
ベーラがあまりにもあっけらかんとしていたので、皆はそれも驚いた。
(敵とはいえ、実の弟を手にかけたのか……しかも双子の……ベーラさん、やっぱりすごい……)
アグは淡々と話すベーラを見て、そう思った。
「じゃあ次は、俺の話を聞いてください」
アグはシャドウについてあの部屋で読んだことを全て話した。
知られざるシャドウの情報に、皆は聞き入った。
「やはり呪人が派生したものだったか」
「呪人て、ベーラさんが出せるあの馬車の乗り手みたいな人ですよね」
「そうだ。正確には人ではない。核という、呪人にとって脳であり心臓であるそれを体内に宿し、主人の言うことを聞く人形みたいなものだ」
「馬車の乗り手は、ベーラさん以外に呪術師はあと2人しかいないと言っていましたが…」
「べらべら喋る呪人だな…。あいつは村の呪術師の生死を判断できる能力を持っているんだ。特定はできないけどな。私が国家専任の呪術師として働いていた頃、呪術師の犯罪が起こった時、村の一族の誰が行ったのかを照らし合わせる際に役立てられるよう、私がつけた能力さ」
「あと2人ってことは…」
「シャロットとアイラのことだな」
「じゃあもう、呪術師はベーラさんだけってことですか? シャロットって人は捕まったとして…」
そしてヌゥとアグは、メリとの戦いのこと、ヒルカがゼクサスという謎の声に殺されたことまでを話した。
「ヒルカは、外の大陸にもう既にシャドウは揃っていると言っていました。恐らくレアのことじゃないでしょうか。そして、ゼクサスの声は言いました。ヌゥのことを、迎えに行くって……」
「どういうことなの?」
「おそらく、ゼクサスは呪人か何かで、ヌゥはそいつの核に適合する身体で…、ヌゥの身体に入ってシャドウになろうとしている…のではないかと…思います」
アグはヌゥを心配そうに見た。
「俺の推測ですが…、ヌゥの呪いは、適合確認の実験の際に入ったそいつの核の一部が、引き起こすものなんじゃないかと思います」
「じゃあ、仮にそいつを倒したらヌゥの中に入った核はどうなるんや」
「恐らく消えるだろう。つまり…」
「ヌゥの呪いは解けるかもしれません」
ヌゥはきょとんとしている。アグは呆れた顔で彼を見る。
「お前、話わかった?」
「え? あんまりよくわかんない」
「ほんまアホやなあんたは!」
「何さヒズミまで…。難しい話はわかんないんだもん! これから何したらいいのかだけ、簡潔に言って!」
すると、ジーマは皆に言った。
「ゼクサスの元に集まったレアのシャドウを討つ。そしてゼクサスを討つ」
皆は頷いた。
「そうすれば、ヌゥ君の呪いも解ける。そのためには……行ってみるしかないね。外の大陸に」
(外の大陸……。そこには一体、何があるのだろうか……)
話がまとまったところで、皆はこれからの敵との戦いを見据えた。
「あの、俺から話したいことがあるんですけど」
「どうしたの? アグ君」
「…メリを、この部隊の仲間に入れてもらえませんか?」
皆はハっとしてアグを見た。
「話してもらってもいいかな、アグ君が思い出したことを」
「はい…」
アグはメリと貧困の街で過ごしていた時に起こったことを話した。
鍛冶屋で働いていたこと、謎の疫病が流行ったこと、それがガルサイア城で行われていた謎の実験に関わっていること。
メリもその病気にかかって、ヒルカに連れていかれたこと。
「レイン、君は知っていたのか? 実験のこと…」
「いや……全く知らなかったよ……」
「アグ君の事件で城は壊された。生きている王族もレイン、君だけだ。君が知らないというなら、あの城で何が起こっていたのかは、もう知る由もないね…」
レインは城の真実を知って、喪失とした表情を浮かべていた。
「俺は仲間にしていいと思うけど! だってアグの大切な人だし! メリは強いし!」
「メリってやつも、記憶が戻ったからって、簡単に信用できんのか?」
「わいはええけどな〜別に」
ジーマは他の仲間たちの意見も聞く。
「戦力が増えるのはいいと思うがなぁ! がっはっは」
「無論だな」
「でも本当に信用できるの?」
「私は…意見を言える立場ではないです……」
「彼女にも服従の紋をはめたらどうですか?」
ハルクが言うと、それだ!と皆は彼を指さした。
「メリがその条件を受け入れてくれるかどうかだね」
「…受け入れます」
すると、メリが大広間にやって来た。
「メリ……」
「すみません。勝手に話を聞いてしまって」
「身体は平気なのか?」
「だいぶ良くなりました。ベルさん、ありがとうございます」
メリはベルに向かって頭を下げた。
(私の知っているメリじゃない……)
ベルは彼女の変貌ぶりに驚いた。
「皆さんには本当に酷いことをしました。ベルには特に酷いことをしました。私はヒルカと共にシャドウによる世界侵略を企み、行動しました。本当に申し訳ありません」
メリは再度、頭を深く下げた。
「皆さんが賛成してくれるなら、私もここで皆さんの役に立ちたいです。服従の紋を嵌めて、皆さんの命令をきき、皆さんを攻撃することなく、残りのシャドウの駆逐に全力を注ぐと誓います」
皆はメリを見ていた。特に気が狂った頃のメリを見たことがある者は、その変貌ぶりに驚くばかりだった。
「…って言ってるけど、みんなどう?」
「わしは賛成じゃ!」
「俺も! 賛成!」
「わいも! 心強いやん! な!」
「服従の紋を嵌めてくれるなら…私はいいけど」
「私もです」
「まあ本人も反省してるしな!」
「私も、皆さんがいいなら…」
「うむ。私がメリを責任を持って服従する。信頼するかは、その働きを見てからでも遅くはない」
ジーマは笑って言った。
「だそうです、アグ君。メリさん」
アグとメリは目を輝かせた。
すると、ジーマの元にポポがやってきた。
「え? ウォールベルトの国を壊滅したばかりなのに、一体何の依頼だっていうの?」
ジーマの隣に座っていたシエナは、彼の持つ手紙を覗き込んだ。
「これは……」
ジーマは手紙に目を通した。
「なに? なんだって?!」
「なんやの? まだシャドウの生き残りがこの大陸におったとか?」
皆はジーマのことをじっと見ていた。
「外の大陸から、使者がきたそうです」
「え?!」
「それって…」
「初めてのことだね」
ジーマは続けた。
「ユリウス大陸から遥か南にあるらしい、ある一国からなる大陸、リオネピア。そこの使者が、助けを求めてこの大陸にやって来ました」
「まさか…このタイミングで…」
「そして驚くことに、使者は人間ではない。妖精、だそうです」
皆は目を丸くした。
(妖精……?!?!)
外の大陸…それはある意味、未知の世界。
一体いくつの大陸があるのか、一体そこには誰が住み、今そこで、何が起こっているのか。
それはまだ、誰も知らない。




