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イセカイカクメイ  作者: 凪と玄
第二章 双月
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第二章22 『ぐつぐつ・ぐらたん』


 前書きに前書きと書きたい。


 前書き


 グラタン、という食べ物がある。

 有名なのはマカロニグラタンとか、よく聞いたことがあるだろう。

 この世界にも、イツキの世界と似た料理は多々あり、その呼称に差異はあれど中身もよく似たものが存在する。

 その中で味も名前も偶然一致していたものの一つが、グラタンであった。


「ぐ、ぐらたん?」


「そ、セレネの大好物って聞いてな。作り方とか知ってるか?」


 イツキの問いにそのまま疑問を返したエリシアは、一度考え込み、思い出す。


「よく知ってますとも! わたしがセレネ様のことで知らないことは何もありませんから! といいますかっ、セレネ様のお名前を気安く呼ばないでくださいっ!」


 時はイツキたちが邸へ辿り着いてから三日四日経とうかという頃。親睦のために何度か皆で集まって他愛のない会話をしよう、という場でその情報を得たイツキは一度作ってみたくなったのだ。


「ですがっ、わたしはまだまだ未熟ですのでセレネ様のご満足のいくお味は出せてません。非常に不服ですが、知りたいのであればルシール姉様に聞くことをおすすめしますっ。わたしは今忙しいのであなたに構っている暇はありせんし。ですがっ、あまり姉様に近付かないでくださいねっ!」


 イツキは料理が上手いわけでもないが、レシピさえ知っていれば味の良し悪しはともあれ、作れないことはない。何故イツキが突然グラタンを作ろうと思ったのか、それは別にセレネのために作ってやろう、という考えだけではなく、また一つ偶然の一致故である。


「グラタンはガチうま」


 そう、偶然、イツキの好物もグラタンだったからである。


 一通りの仕事を済ませ、使用人室にて休むルシールを見つけ、エリシアに言ったようにグラタンの作り方を聞く。ルシールは読んでいた本を閉じ、調理場へイツキを案内する。

 イツキにもある程度わかっていることだが、グラタンを作るのには手間がかかる。

 ルシールはそれを難なくこなしていき、一人分のそれを瞬く間に完成させた。


「一度召し上がってみてください。料理をするには味を知ることが大切ですから」


 なるほど、それは一理ある。知らないものを作るのはほぼ不可能で、憶測で作ったところで出来上がった大抵のものは別物なのである。

 勧められるまま一口。感じることは多々あるが、何より美味であることが先に出る。その次にイツキの知るグラタンとの違いがいくつか。作る人が違えば多少の味の違いもあるのだから当然である。だが、よく知られるマカロニの入ったグラタンではなく、ベーコンにジャガイモがメインとなっていたのは、イツキにとっては中々に斬新な感覚だった。


 ルシールに順序を教わり、早速挑戦してみる。こういうものはやってみないことには成長はないのだから。


「――しかし、魔石ってのは便利なもんだな」


 この世界の魔石というものはあらゆる所で活用されている。中でも光の魔石はそれ単体でも有能で、単純に辺りを照らすだけでなく、対になるものでトランシーバーのような働きをし、音を拡張したり重力を操ったりと、魔導士の特性の劣化版と言ったところだ。

 現在、イツキの前にある魔石もまた特別な働きをしているのである。


 グラタンの材料に生クリームがあるのだが、それを作り出すのは簡単ではない。詳しい仕組みはイツキにはわからないが、ノンホモ牛乳を遠心分離機にかけて生クリーム分を取り出さなければならないという。

 その面倒で複雑な作業を魔石がやってくれている。当然、その工程が一日で終わる訳はなく、いくらか作り置きをしているのである。そしてまた、それを保存するための冷蔵庫も水の魔石と光の魔石を利用しているのである。

 魔石の便利さを認めずにはいられない。


 案外順調に進むことにイツキ自身も驚きを見せる。いや、これは丁寧かつわかりやすいルシールの説明があるからで、決して手順が簡単だとか、ましてイツキの理解力が高いからでもない。高くない。


「っとぉ、これでしばらく待てばいいんだな……?」


「お疲れ様です。難なく済みましたね」


「まぁ後は味だけど……大丈夫かいな?」


「心配しなくても思い通りの結果というものは簡単には出せませんよ」


「それはフォローになってない……ってルシールさんでも満足いかないことがあるのか」


 さり気なくイツキの自信を抉るような表現をしたルシールは、その最後にどこか遠い目をする。


「問題は味よりも状況ですけどね」


「状況?」


 イツキが言葉を繰り返すと、さっと素に戻るルシール。その状況がどんなものか、それを聞き出すことはしなかったが、イツキは彼女のその顔をしっかりと記憶した。


「それより今晩の献立はぐらたんにしますか?」


「え、俺が決めていいの?」


「練習を兼ねてですが」


「俺、調理師免許持ってないのだが」


 そうイツキは否定したが、確かに一度くらいは皆のために食事を振舞うというのもあってもいいだろう、ということでその方針で決定した。


「ぉあっちっち」


 焼き上がったグラタンをどデカい窯から取り出し、煮え立つようなそれを見る。見た目は普通のグラタンで、鼻腔を刺激する乾酪の強い香りが食欲を沸き立たせる。

 その匂いにつられてか、カインとパルムがひょこっと顔を覗かせる。二人の登場に頭を下げるルシールに気付き、イツキも彼らの存在を認識する。


「お前らも食ってみるか?」


「それ兄ちゃんが作ったのかよっ?」


「何それ?」


「おほん……ご覧に入れます粗食は美味の頂点たる――グラタンになります」


「ぐらぁたん?」


「なんだその可愛い言い方は」


「うまいのかよっ?」


「ガチうま! ――と言いたいところだけどぶっちゃけまだわからん」


 カインはイツキの若干不安そうな答えを聞き流し、ルシールの方に目を遣る。ルシールも首を横に振って明確な意見表明をしないまま。

 不安げにイツキ作グラタンを見つめるカインだが、その横を素通りしたパルムが躊躇なく最初の一口を小さな口に入れる。が、当然、


「あっふ、あっふ! あっふ!」


 グツグツと煮え立ったグラタンは尋常ではない熱を帯びており、気を付けなければ舌が消える。パルムが魔導士であったため、その特性のお陰で軽い火傷で済んだ。すぐに冷やせば治まる。


「あっちゃー……。ごめんな。先に注意しときゃよかったな」


「これじゃっ、オレぁまだ食えねぇなっ……」


「犬なのに猫舌か?」


「はぁっ? ちげーよっ! 腐らせた方が絶対うまいってんだよっ!」


「埋めてやりたいほど失礼なこと言いやがったな! バカイン! ……バカインって違法薬物みたいだな」


 こんなやり取りもあったが、実際に味は良く、カインもちゃんと驚きと満足を見せてくれた。火傷が治まったパルムもしっかり「ふぅふぅ」して、ふわっふわの笑顔を咲かせた。


「うん! この調子で晩飯も作っちゃいますか!」


「お手伝い致します」


 同様の手順を繰り返し、時間までに全員分のグラタンを作る。素人とはいえ、ルシールの手助けもあれば短時間で完成させることは可能だ。


 ――――――


「――よし! それじゃあ、みんな……っていうかエリシアとあの子はいないんだが、何故俺が夜飯を作ることになったのか、まずその経緯を説明しよう」


「べっつにいいよっ」


「人生とは続けは続くほど何かが起こるもんだ」


「聞いちゃいねぇなっ!」


「その長い人生、一年に一度訪れる日焼け三昧」


「走馬灯ですか?」


「それに……いや待て、俺の人生はそんな薄っぺらくないぞ!? っていうか俺はまだ死なねーよ!?」


 ある程度の横槍は無視できるのだが、シルの言葉だけは中々に辛辣で放っておけない。流石によくある茶々だとは思うが、シルのそれは非常に鋭い針のようだ。


「まぁいいや……。実は今日な、俺の誕生日でさ……要するに俺の好物のグラタンを自分で、っていうわけだ」


 それはもう一つの偶然の一致である。実際、今日が何月何日なのかは知らないが、イツキたちが飛ばされてからの時間を考えると今日がイツキの誕生日となる。はず。

 もちろんそれだけが理由ではなく、セレネの好物であることと皆に食事を振る舞いたいというのも加味される。


「と、ゆーわけで、まぁとにかく美味しく頂いてくれってこと。そして俺を祝え」


「おいひい」


「聞いてパルム」


 第一口目は必ずパルム。味が気に入ってくれたということなら仕方ない。食事開始の挨拶が為され、それぞれが目の前にあるグラタンを口に運ぶ。

 中に入れた食材はイツキなりにこだわりがあるもので、ルシールがメインとしていたベーコンやジャガイモに加え、海老、茸、鶏肉を入れてみた。メインだけでなく、野菜類もイツキが好きな食材を使っている。特に熱で溶けて旨みが溶けだしたブロッコリーはグラタンと完璧な組み合わせだ。

 毎年母親が作ってくれたことを思い出す。


「ほぉ……イツキもメシが作れんだな」


 と、感心するガイル。彼のお墨付きなら自信も湧く。誰もが同様に感嘆し、笑顔を見せる。だが、


「なるほど、状況……か」


 先ほどルシールが発した言葉を思い出した。セレネもイツキのグラタンを美味しそうに食べている。だが、その笑顔は何かが足りないように感じた。


 空になった皿が並ぶ中、唯一、半分以上残っている皿があった。パルムの皿である。イツキが作っているところをつまみ食いしていたこともあるが、彼女はそもそも食事スピードが遅いのだ。が、小さな口で一生懸命食べている姿は小動物的で、見ていてほのぼのとするものだ。


「ちっさい、木がある……!」


「ブロッコリーな。あんまり可愛いと誘拐するぞ」


「消しますよ」


「誘拐しません」


 こういった会話で場は和む。イツキが果たせる役目は皆の笑顔を作ることなのかもしれない。そしてその笑顔こそ、イツキにとって、最高の誕生日プレゼントなのである。




 どうも、凪と玄です。

 学生の方は夏休みも終え、二学期が、または後期が始まる頃ですね。……頑張ってください。


 今回はイツキくんたちがルクス邸に着いてからちょっと経った頃、話の流れ的には少し前の話になります。イツキくんの誕生日ということですが、彼の誕生日は11月11日。ポッキーの日です。

 どうやら欲は深くなさそうですね。


 どうでもいいですけど、パインアップル食べたい。


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