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イセカイカクメイ  作者: 凪と玄
第二章 双月
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第二章17 『ルクス領、その地』


 真上からの温かい太陽光に自然を感じつつ、村の穏やかな空気を大きく吸い込む。


「――平和だ」


 カムスラフスの村の中心の、緑色になった井戸に腰掛ける。もうすぐ昼といったところだ。

 しかし、格別空腹なわけでもなく、これから何をするとも決まっていない。つまり、


「暇でもある」



 村に訪れたイツキたちだが、内、ルシールは邸での仕事があるために先に戻り、シルは村人の数人と会話に耽っている。情報収集だ。パルムとカインはイツキと同じく、井戸に腰を掛けている。パルムはともかく、カインは亜人としての特徴が大きいため、目立つ行為を自ら抑えているのだ。彼にしては大人な判断。


「これから関わってくんだから隠さなくてもいいと思うぜ? カインよりちっさい子供たちもいることだし」


「でもよっ、人間ってなんかさっ……」


「怖いのかぁ?」


「はぁっ!? べっつに怖かぁねぇよっ!」


 理由はどうあれ、ゆっくりでも間柄を深めるのは大切だろう。別に急かすつもりもないのでイツキはそれ以上余計な言葉をかけるのを止めた。この先はカイン自身の心で決めるべきだ。


「でも、子供がいるってのはいいことだよな」


 領内で一番の村とはいえ、森に囲まれた村で総合的な人数はそこまで多くない。故に、子供の人数も自然と少なくなるのだが、目に入るのは男子三人、女子二人だ。歳は近いのか、皆が一緒になって遊んでいる。

 遊びと言えば、この世界ではハープとの命懸けの遊びを思い出すが、ここで見る遊びはどちらかと言うとイツキにも馴染みがあるものだ。と言うのも、少し前の子供の遊びだからだ。今ではゲームなどが遊びの主体となってきている時代だが、少し前の遊びとは、外で活発に遊ぶものが多い。

 現在、村の子供たちがしているのは布の塊を球として用いた蹴鞠のような遊びだ。蹴鞠はサッカーとは異なり、体をぶつけあったり、走ってどうこうする、所謂、競技性が薄い。いや、球を落としてはいけない、という点では競技性はあるのだが、どちらかと言うと楽しむのがメインとなる。勿論、技術は必要であるが、とりあえず飛んで来た球を上に蹴り上げればいいので、簡単だ。

 こう長々と思うことはあるのだが、つまるところ、元サッカー部として脚がうずいて仕方ないということだ。


「が、しかし、そんな挙動不審な男がいきなり駆け寄ってきたらどうなる? 警察も忙しいんだぞ」


「イツ、キ……頭だいじょぶ?」


「その心配は心が大丈夫じゃない」


 無意識にイツキを締め付けるパルムの毒舌に悶えながら、何故かパルムの頭を撫でる。一応心配してくれたことに感謝を示しているのだ。イツキなりに。


「パルムは……まぁ、いきなり仲良くって感じじゃないしな」


 一言で言ってしまえば、パルムは人見知りだ。と、そう感じるのはイツキの勝手な思い込みで、実際はセレネともすぐに仲良くなっているし、人と関わるのが苦手なわけではない。ただ、一人で何かをしようと行動することはしないだけだ。するのならカインやイツキも一緒に、というのがパルムの考えだ。

 それがイツキに人見知りとしてとらえられているだけで。


「でも少しは動かないと腹も減らない。美味い飯が食えないのは辛い。けどな」


 今はあまり目立った行動はとらず、村人の視線を無闇に受けたりはしないようにしている。見知らぬ人間が突然やってきて堂々と行動されたら嫌なのはイツキも同じだからだ。


「しかし、暇すぎてな……どうしたもんか」


 パルムの頬をぷにぷにしながら、何もないこの状況を無駄に過ごす。それ以外やることが見つからないのだから仕方がない。存分にぷにろうと思う。それをしても逃げてくれないパルムが悪いと信じて。


 時間は経ち、それでも暇な昼頃。その暇を打ち破る事象は川の中を転がる石のように、静かにイツキたちに近づいていた。

 四つの気の車輪をがらがらと鳴らしながら、一台の鳥車が村へ入ってきた。方向は邸の方ではなく、その反対、王都方面の道からだ。

 それに気づいたイツキは、何事かと立ち上がり、ゆっくり走るその車を迎えた。


「ありゃ? ガイル? なんでや?」


「なんでもクソもねぇよ。見りゃわかるだろぉが」


 その鳥車の御者台には、よく知った顔のガイルがいる。その背後に、布の屋根のついた荷台があるが、その中の様子は伺えない。

 ともかく、「見りゃわかる」ことはない。むしろさっぱりだ。


「その鳥車で見回りでも行ったのかよ」


「いや違ぇ。こいつはさっき拾ったもんだ。この中の奴から奪ったって言った方が正しいけどな」


「ど、どゆこと?」


「――んんんんん!!」


 イツキがそう問うた瞬間、その声に反応したかのように、荷台の中から呻く声が聞こえた。その声で口を塞がれている誰かがいるのはわかった。まるで助けを求めているかのような、そんな誰かが。


「お、おい……。まじで何があったんだよ? 状況めっちゃ悪そうなんだが!?」


「あ? ああ、これか?」


「それだ」


 ガイルはイツキに応え、親指で荷台を示す。そして鳥車から飛び降り、荷台の布の屋根を剥がし中を見せた。

 そこには、


「だ、誰だ?」


 誰かがいた。



「ガイル。帰ってきたんですか。良かった」


「いやいやいや! よく見て! ガイルが誰かを拉致ってきたよ!? 全然良くない!!」


 ガイルの帰還に気付いたシルもその場へかけつるが、その状況の異常性には触れない。


「いやぁな、こいつぁさっきたまたま見つけたんだけどよぉ、説明してもなんも信じやしねぇ。だから無理やり連れてきたってことだ」


「いやいや、お前の説明じゃわからないだろ。現に今お前が言ったことも俺には伝わってねぇぞ? まずその人は誰やねん、ってとこから教えてくれよ」


「……そりゃそうだな」


 イツキの言葉を飲み、ガイルは荷台に連れ込まれていた青年、フラットについて、彼が知っていることを全て話した。

 そして、イツキはその話で荷台に乗っているのがフラットだけでなく、ある選ばれた少女が同乗していることも知る。その少女とは、


「奴隷!? セレネが奴隷を買ってるってことか!?」


「まぁそういうこったな」


「っ!? どういうことだよ!? それじゃセレネのやってることは他の貴族となんも変わんねぇじゃねぇか!」


 想像の外とも言える情報に、イツキは混乱と若干の怒りをともにする。だが、イツキの考えも当然のものであるのは確かだ。

 元々、イツキたちがセレネと協力関係を築く理由となったのは、セレネが治めるこのルクス領が他の貴族とは違い、シルが目指す未来へのパートナーとして十分すぎるほど相応しいと判断したからだ。

 だが、この現実は聞いていた話とは大きく異なる。イツキの言ったとおり、他の貴族と何も変わらない。


「シルもシルだ。なんでそんなところと手を組もうだなんて思ったんだ。それでシルの目指す未来へ繋がるって言うのかよ。もしそんなやり方でできる未来なら俺は何も――」


 言葉が詰まり、その間のうちにイツキは自分の早計さに気付く。そしてその気付きの補填を、振り向いたイツキの前に立つシルが行う。


「私がセレネさんを選んだのは、人柄故です。この国では彼女の考え方は異常。だからこそ私は彼女を、セレネさんを選んだんです」


 よく考えればわかる話だ。

 シルの目的は人間と亜人の共生、共存だ。だが、そのために必要な土台がこの国には備わっていない。そう、問題はこの国の現状なのだ。人は荒み、横暴な貴族が仕切っているこの国では、シルが目指す未来は実現しない。

 だからこそ、セレネを選んだと言った。それはつまり、今この国の現状を変えようとしているセレネとなら、実現が可能なのだと判断したということだ。

 イツキは奴隷として連れてこられた少女を見た時、セレネが国王となっても廃れた国の状態は変わらないと判断した。そしてそのセレネと協力関係にあたったシルもまた、力で未来をこじ開けようとしているのだと、そう判断した。

 まさに早計だ。思い出せば何かが違うことがわかってくる。

 シルは以前、パルムと鍛錬場で鍛錬をしたあとだ。その時にこう言った。


『戦いなんてなければいい』


 この言葉を信じると決めたのは自分自身だったはずだ。

 シルは戦いを望んでいない。それならば奴隷を買うような貴族と手を組むなんてことはしない。例えそうでない貴族と手を組み、戦うこととなったとしても、シルはその判断を間違えたとは言わないだろう。

 平和を愛する彼女なりの考え方だ。

 そこまで考えられるのなら、シルが協力関係になったセレネが奴隷を買うのには、他の貴族とは真逆な理由があるに違いない、と考えるのが当然だ。


「邸に戻った時に全て話しましょう。そちらの少女も憔悴しきっているようですし、休ませてあげなければなりません」


「あ、ああ……。悪い、ちゃんと考えるべきだった」


「いえ、それが普通な反応ですよ。むしろ安心しました」


 彼女はそう言うが、イツキは逆だ。

 イツキは何故まず最初に疑いから入ったのか、自分でもわからないままでいた。


「いい加減お前もわかったろぉが。俺が本物だってのがよぉ」


「ん、んん! んむぅ!!」


 話が一段落つくと、ガイルが荷台で伏せるフラットにそう問いかける。フラットは口を塞がれているため声が出せないが、全身の筋肉を全て使って返事をする。


「そういや信じないって何をだよ?」


「俺がガイルだって言っても信じなかったってだけだ。変な剣振り回してきたからぶっ倒したんだよ」


 なるほど、それでこの有り様か。

 口を開放されて深く呼吸するフラットは、鳥車の床に刺さった二本の『変な剣』を抜き、腰に備え直す。その剣を見てイツキはあることを思い出す。


「もしかしてだけど、巷で噂の『死神』ってのはこいつのことか?」


「あん?」


 イツキはアルベルトとのちょっとした会話で、『死神』と呼ばれる存在が二つの奇妙な形の剣を扱うと聞いている。見たところ、フラットの持つ剣は、イツキの知る限り、普通の剣ではないことがわかる。

 鉈に近いそれは、同じく重心が先端にあるのだが、鉈にしては湾曲が強い。ククリナイフと呼称するのが適当だろう。

 そして、イツキはその特徴的な剣に見覚えこそないが話に繋がるところを見つけたのだ。が、


「いやいやいやいや! ちょっと待ってよ!」


 当の本人は声を大にして否定するのだ。


「僕はセレネ様に仕える身分だよ!? そんな危なっかしい存在じゃないよ!」


「え、あ、そう。悪かった……。てかそう必死になられるとこっちとしても弄りようがないっていうか、なんかやりにくいな……」


「勘違いしておいてその態度!? だ、誰かは知らないけど君は少し失礼じゃないかな!?」


「め、めんどくせぇな……」


 こうしてこの場にいる時点でセレネに仕える身分であることはわかっているし、『死神』だと本当に思っているわけではない。しかし現状、奴隷やらなんやらで気になってしまっているのだ。



 昼下がり、邸の仕事を片付けたルシールがイツキたちを迎えに来た。その頃にはフラットと奴隷の少女は先に邸へ向かっており、ルシールとはすれ違いになったそうだ。

 帰りの道中、ルシールにカムスラフスで気になったことについて聞こうかとも考えたが、それでもやはり、全員が揃った状況で聞こうと決めた。今聞いたところで理解できそうもないからだ。



 セレネ、ルシール、シル、ガイル、パルム、カイン、そしてイツキ。ついでにフラット。全員が揃ったところで食事が開始される。食事の間、ルクス領の詳しい情報を話し合う。


「早速本題で悪いけど、こればっかりははっきりしておきたいからな」


 最初に口を開いたのはイツキだ。彼は明らかに他の人物よりも知識が少ない。協力を求められている以上は当然、聞く権利がある。


「まずは……、あの奴隷のこの話からだ。セレネはなんで奴隷を買ってるんだ?」


 その質問は、セレネはもちろん、ある程度その答えを知ってそうなルシールとシルに向けて投げかけられる。そして対する反応は、三者とも一切動揺を見せないままだった。


「私から言うのは少し気が引けますので」


 そう言って身を引くシルは、その内容の深刻性を態度で示す。

 セレネとルシールはいずれと知っていたのか、それなりの表情を見せる。


「このルクス家は十五年前、サンティア家がルシ・エル・セルヘイト・ルクスによって制圧されたことによって始まりました」


 説明を始めたのはルシールで、イツキにとってまたしても初となるワードが含まれていた。


「十五年前っつったら王が消えた年じゃねぇか」


「王が消えた……?」


 新たな言葉に首を傾げるイツキに、さらに困惑させる内容がガイルの口から発せられる。イツキは鸚鵡のように繰り返し、頭の中で無駄に混乱を広げる。

 そして再びルシールに会話の主導権が戻り、


「王が消えたことにより、王選制度が開始され、新しく五大貴族に含まれたルクス家は王選に参加することになりました。しかし、皆様もご存知の通り、この領内の政治内容は国の中では異端とされています。そこで、他の貴族変わりのないことを示すためにこうして奴隷を買うようになったのです」


「じゃあ、これまでも奴隷を買い続けてきたってことか? でもその人たちは……?」


「当然、奴隷を買う、など普通にはしません。そもそも、目的は人々の安寧です。この領内で買われた奴隷は皆開放されています」


「もしかして村の人は――」


「もともと奴隷だった人たちです。『サイカンの蔵』で働いていた者も、私も、エリシアも、――セレネ様も」


「――――は?」


 理解が、遅れた。






 どうも、凪と玄です。お久しぶりです。

 少し体調を崩してしまった故、執筆が止まってしまっていました。これから巻き返していきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。

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