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イセカイカクメイ  作者: 凪と玄
第二章 双月
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第二章16 『カムスラフスの真心』



「――まだですかい?」


「ええ、もう少し。パルムが食べ終わるのを待ってあげてください」


「待つ」


 イツキは食卓の入り口で、自分も同じ時間に食べればよかったと後悔しながら、一行の食事の終わりを待つ。

 何故、邸内の散策をすると決めていたイツキがこんなにも早くここにいるのかと言うと、答えはそのまま、散策が早く終わったからなのである。


 ここでの生活で必要なものを考えると、食卓、自室、便所、風呂、である。そのうち食卓と自室は既に見つかっている。よって探すものは便所と風呂。そしてそれが、


「自室に揃っているってのは意外すぎたよ……」


 なのである。

 さすが豪邸。だが、さすがにこれはやりすぎな気がする。まるでホテルのような設備の良さにイツキも驚く。と言うか、そこまで揃えるのなら食卓もあってよかったのではないか。


「にしても、ガイルとセレネがいない。まぁ、セレネはまだ寝ているか何かだろうけど、ガイルは何だか?」


「セレネさんはまだお休みらしいです」


 イツキの小さな呟きに気付き、それに答えたのはシルだ。そしてその答えはイツキの想像通り。おねむだ。


「だろうな。それでガイルは?」


「ガイルなら少し前に見ました。この辺りの警戒をすると言って外へ出かけていきましたよ」


「いるんならよかった。どこかに行ってしまわれたらまた色々と面倒なことになるしな」


「ガイルはそんな適当なことはしませんよ」


「ならいいけど」


 確かに今の状況で彼が適当なことをするとは思えない。それに、シルと顔を合わせているのなら安心だ。

 ガイルは何かとシルのことを心配しているのだろう。きちんとシルの安全が彼に伝わったのなら、彼が無茶なことをしでかす確率はぐんと下がったと言える。


「――おふぁようございましゅ」


「超眠たい俺の前でそんな眠そうな顔するとは驚きだぞ?」


 大きな欠伸をしながら、調理場とは違った方向の扉を開けて出てきたのは、この荘厳な邸の持ち主であり、このルクス領を統べる当主であり、そして、今回の王選でシルと協力関係になった人物、セレネである。

 彼女は眠そうな顔に、朝食後に二度寝をかましそうな寝間着姿だ。


「あ、イツキさん、パルムちゃん、カイン君、それとシルさん。皆さんご無事で本当によかったです。一昨日のことセレネは何もできずに申し訳ありませんでした。でも、本当によかったです」


「少しばかり面倒なことにはなりましたが、対処はできるはずです。王選に響く確率は低そうですが、仮に影響があったとしても、どちらかと言えばこちらの一手になると思います。ガイルの存在も誇示できますし、急襲に対応することができる戦力を持っているとも示すことができますから。それと……。朝から話が長かったですね。すみません」


「はっ! す、すみません! シルさんがお話しているときにうとうとなど……!」


 先日の騒動からの別動隊の帰還を喜んだセレネだったが、続くシルの長話に重い瞼が持たず、さらには、徐々に首が傾いてしまう始末。昨晩遅くに帰ったと聞いていたので、仕方ないとシルはそれ以上咎めることはしなかったが、セレネ自信がそれでは済まなかったらしく、自らの頬を赤く染めるほど強く叩いていた。


「まぁとりあえず、朝飯食ってしまえよ。腹が減っては戦はできぬ、ってな。飯食って次に備える。これが大事だ」


「いくさ、って、何?」


 白を赤くしたセレネに着席を促し、ことわざを披露したイツキに、食事中のパルムが素朴な疑問を吹きかける。こちらを向いたパルムの口の周りに、ソースがついているのがまた可愛らしい。


「後で教えてあげるから先食べな。かーわいいなほんと」


「イツキさん。パルムが食事中なので邪魔しないでください」


「あ、はい」


 イツキの言葉で再び口を動かすパルムだが、そのイツキが頬をうりうりするせいで結局邪魔になる。


「うりうりタイムはまた後でだな」



 しばらくして大広間に揃ったのは、シル、パルム、カイン、イツキ、セレネだ。だがしかし、セレネの外出をルシールが止め、その代わりにルシールが同行することとなった。


「なして?」


「セレネ様は王選に備えなければならないからです」


「それか」


 第一優先というのは知っている。何をするのかは知らないが、王選のためにやるべきことがあるのならそちらを優先するのが当然。


「じゃ、行ってみますか」


 カムスラフスの村への道程はそう長くない。鳥車で十五分程度だ。その時間も数人いればすぐに過ぎる。

 これから向かうカムスラフスは森と一体した村で、そこには村民が隠れるように住んでいるらしい。領外との交流は少なく、村に住む数人は村内でも他人と関わろうとしないとも聞いた。


「怪しい」


「何がですか?」


 つい心の声が漏れてしまったイツキは、シルにその意味を問われ、慌てて何でもない旨を示す。

 深い意味はない。考えとしては二つあり、今の国の状況とは違ったものを生み出そうとしているからなのか、村民がセレネに対して信頼を持っていないか、そのどちらかなのだ。

 単純に考えれば前者なのだが、うっかり声に出してしまったのだ。


「ここでの生活ってどんななの?」


 村に着いたイツキたちは鳥車を降り、村内を歩き始める。


「この辺り一帯の土地は地質がとてもいいので主に農作が盛んになってます。この村内では金銭は出回っておらず、生活のほとんどはこの村の中で賄われます」


「金が出回ってないってのはどういうことだ?」


 ルシールの答えにさらなる疑問を抱いたイツキは質問を続ける。


「そのままの意味です。ここでの生活で金銭のやり取りは必要ないのです」


「買い物もただってこと?」


「全ての村民が分け合いによって生活を成立させています。不便があれば邸の方へ報告がありますので、そういう面も対策はできます」


 第一の問題として、村で貨幣が流通してないとなると、領主であるセレネの財源は何になるのかという点が上がる。そも、領民から税金のようなものを集めて財源とするのが領主であるとイツキは感じるが、ここでは違うようだ。

 だが、領民から財源を取り上げていないと五大貴族と呼ばれるまで上り詰めていないだろう。

 実は他の貴族の財力が低すぎてたまたま五番目に入った、なんて可能性も考えられるが、あの邸を見ればそうとも思えない。万金の持ち主であることは確かだ。その源が気になる。


「が、それを聞くのはいやらしいから非常に難いのだよ」


 そのままうまく回っているのなら別にイツキが気にする必要はない。どうでもいいことだ。その理由を何故か誤魔化しながら村の様子を見ていく。


 見たところ、王都のような町っぽさがない、つまり、店などの建物や施設がないのが特徴的だ。貨幣が回ってないのだから当然かもしれない。

 自然と一体しているため、イメージカラーは緑。村の中心にはその緑が色付いた井戸があり、滑車とロープが備え付けられている。所々に設置されており、周りに川は流れているが、水源は主に井戸の方だろうと考えられる。

 人が通っていないようなところには芝生が生えており、落ち着いた雰囲気である。

 畑仕事が成されていることもあり、村のはずれには畑に加え、家畜が飼われるちょっとした広場も存在していた。


 こうして見ていくと、ここでの生活に苦労は少ないと思える。先ほどの金銭的な話は詳しく聞かない限り何とも言えないが、現状を保てるのであれば。


 しばらくすると、数人の村人が姿を現し始める。朝早くの農作業があるのだろう。農具を持って作業場へ向かっていく村人たちは、誰も笑顔で話し合い、今日という一日の始まりを心待ちにしていたかのような様子だ。


「あ、ルシール様じゃないですか」


 その中の一人、唯一の女性がイツキたちに気付いて話しかける。年齢はルシールと同じかそれ以上、といったところだ。


「おはようございます。ところで、こちらの方々は?」


「この度の王選でセレネ様に協力してくださるシル様と、その一行様です」


「では、この方がガイル・トルマリン様ですね?」


 そう言って女性はカインを指さし、若干期待気味に声を上げる。が、


「いやっ、オレはガイルじゃねぇよっ。まあっ? ガイルくらい強いのは認めっけどっ」


 間違えられたカインもまんざらでもなさそうだ。

 そしてその間違いに気付いた女性は次にイツキを指さし、


「ではこの方が? ……にしては何とも弱そうな顔つきですが……まさか?」


「弱そうな顔で悪ぅござんした!」


「ではガイル・トルマリン様はこの小さな女の子……?」


「この人頭の弱い人かも」


 と、そういった冗談は置いといて、


「ガイルは今この辺を見回ってるんだと。多分これから見かけると思うから楽しみにしてて……って言っても期待は裏切られると思うけどな」


 世間に広がったガイルの噂がどんなものか知らないが、きっと実際のイメージとは大きく離れている。だろう。


「ま、強さだけは俺も保障する」



 それからまた時間が経ち、徐々に外へ出てくる村民が増えてきた頃、イツキはあることに気付く。


「なんか王都と全然ちゃうな」


 何が違うかは眼を瞑っていてでもよくわかる。雰囲気だ。

 村人は皆、互いに笑顔を見せ、その間に遠慮やわだかまりは存在しない。勿論、フードやマントで自分の姿を隠す者などどこにもいない。

 これが本来あるべき人の姿だ。


「セレネさんの人望故です」


「なんか他と違った政治してんのかな? でないとこんないい感じにはならんだろうし」


 少なくとも、他の、王都のような政治に比べれば何倍もいいものだ。セレネが国王になり、全ての地域がここのような雰囲気になるのであれば、それは願わしい景色である。


「でも、外に出てこない人もいるってのはどういうことだ?」


 一見素晴らしい雰囲気のこの村だが、事前に聞いた情報から今の視野に入らないものが浮かぶ。

 引きこもり経験のないイツキにはその理由を想像することしかできない。例えば、周りに溶け込めないとかだ。元の世界でいういじめみたいなものでなければいいのだが、今見る村民が何かを飾っているようには見えないのでその心配は必要なさそうだ。


「すぐにわかると思いますよ」


 そうルシールが言うのを、イツキは無意識に聞き逃し、後の情報にさらなる驚きを得るのだった。





 どうも、凪と玄です。

 三十八度後半という、割と高熱が出ました。久しぶりのお熱でなんか楽しいくらいです。頭がどうかしてるっぽいですね。


 それはそれとして、そろそろ二章『双月』のメインにかかりますが、どうでしょう。

 正直、このまま進めていると結論が薄すぎないかと思っています。内容とかではなくて展開が。同じですかね。何と言うかありきたりな気がするんです。同じですね。

 読んでて「ああ、この展開はこうなるな」とかは、まぁ、あまり思われたくないわけです。「え、まさかこんなことになるとは!?」みたいな、勿論、いい意味でですけど、そういう展開にしたいわけでして。

 他の人が思いつきにくい展開がないではないですが、それが面白いかどうかというのは、自分の嗜好、思考だけでは判断し難く、日がな一日、選択、決断というものの恐ろしさを痛切に実感してます。

 そういう時はどうすればいいんですかね。思い切りですかね。しっかり考えたお話よりも、「これ、おもろいんじゃね?」的なノリでパパっと書いてしまう方が案外面白かったりもするんですよね。

 「はぁ、このまま進めてもいいものやら」などと長々と感慨に浸ってもいられず、様々な案が浮かんできます。言い方が悪いですが、それらを処理するのにも時間は必要。どうしたもんだか、です。

 とまぁ、『イセカイカクメイ』の先はまだ長いので、いくらでも変えようはあるんです。臨機応変に書き進め、それが行き当たりばったりにならないようにその度に後ろを振り返る、というのも大切でしょう。私自身、まだまだ若いですし、これからもっと経験していくことも多いはず。その中で感じたことや考えたことを物語にしたり、世の中の不満を愚痴ってみたり、できることをやっていくしかないのです。

 表現者としての道を選んだ以上、何かしらの結果は残したいものですが。


 珍しく後書きを長文? で書かせてもらいましたが、言いたいことは主に、第二章がそろそろ終わる、ということですね。いや、まだ終わりませんが、というか、『双月』についてほとんど触れていないので終わりではなくむしろ始まりかもしれません。

 メイン、ですからね。面白くしていきたいです。


 あとですね。私のようなしがない作家でもいいですよ、っていう絵描きさんに、登場人物を描いてもらいたいという、身分不相応な願望を持っております。詳しい設定等は聞いてもらえればお伝えしますので、「別にかまわぬ!」という方、お願いします。

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