第二章15 『ルクス邸とそのメイド、エリシア』
鳥車を走らせ続け、一日。ようやくルクス領に足を踏み入れた。
と言っても、周りは暗い森に囲まれ、ルクス領のどこに位置するのかはイツキには一切わからない。操縦中のシルからの報告で知ったのだが、彼女がどうやってそれを知ったのかもわからない。考えられるのは彼女の頭脳に全て記憶されているということぐらいだ。
「じゃあ、もう数十分でガイルたちと合流できるんだな」
「ええ、そうですね。このまましばらく走れば村が見えます。その村を越えればルクス家の邸があります。きっとガイルもそこにいると思います」
「ふぅ……。なんかようやっと落ち着いて休めそうだな、ほんと。帰ったらすぐ寝よ」
緊張がほぐれ、眠気が迫る。
ようやくだ。ようやくルクス領へ辿り着いたのだ。たった一日だったが、いつ、どこから襲われるかわからない一日は、とても落ち着ける一日ではなかった。
イツキは眠るパルムとカインの顔を見て、ここまでこられてよかったと、心から思った。
「イツキさん」
「なん?」
「イツキさんもですよね?」
「何がよ?」
「イツキさんも蔵で戦ったんですよね?」
「だけども?」
シルは少し間を置いて、しかしその間には深さが感じられた。
「失礼な言い方になってしまいますが、私にはイツキさんが戦えるような人には見えません。ですが、イツキさんは戦いを終えた後も、落ち着いているように見えます。だからなのか、やはり、私の記憶がなくなったことを疑ってしまうんです」
確かに、イツキは冷静だった。いや、焦ってはいたが、それでも落ち着いて判断を導き出し、ある程度成功させていた。
「なんでかな? 死なないってわかってたからかな? ガイルとかカインに比べたら全然弱いと思ってたし……。だから戦うことに恐怖はなかったんだと思う」
イツキは怪我をしない。正確には怪我をしても治る、と言った方がいいかもしれないが、どちらでも大して変わらない。
問題は、治る怪我の範囲だ。イツキは敵との戦闘で心臓を刺されたのにもかかわらず、それすらも治している。
つまり、死に至るような怪我を負ったとしても、イツキは死ぬことがないということだ。だから、死ぬことに対して恐怖はない。戦うことに恐怖はない。
「怖くない、ですか?」
「まぁ……な。やっぱ訓練したらまともに戦えるようになるかもな、ははは」
そう、死ぬことも戦うことも怖くない。自分は死なない。何も、怖くない――――。
「だんだん明るくなってきたな」
うっすらと周りが見え始める。鳥車に備え付けられた魔石灯の光も必要なくなり、夜明けの日差しがイツキの眠い目に爽快な刺激を与える。
「おっ?」
太陽の光が差し込む、少し遠くに見える景色。それは自然と一体したかのような村だった。上空写真で見たらそれこそ見つからないような、そんな村だ。
「神秘的ってやつか? 幻想的ってやつか? なんかパねぇな……」
「ルクス領最大の村、カムスラフス。と言っても、この領内の五分の一ほどなので大きいとは言えませんね」
「かむふ……なんて?」
「カムスラフス……かつてエルフの一族が集ったと言われる集落と同じ名前です。文面でしか知らないんですが、この村の景色もかの集落と似た景色ですね。美しい」
エルフの集落。そう聞けば大体イメージができる。木々に囲まれた、それどころか木の中身をくりぬいてできた家。水源は川。森から木の実を採取し、動物たちと共存する。本当に自然と一体化している。そんなイメージが。
生活の質は知らないが、外見もこの村はそのイメージと近い。エルフの集落の名がつけられたのもよくわかる。
イツキたちはその村を二つに分かつ、一本の道を抜け、その先に見える巨大な邸へ進み続けた。
そして、
「着いたぁ!」
「でっけぇっ!!」
「おっき……」
ついさっき目覚めたパルムとカインも目の前に聳える巨大な建物に愕然としている。開いた門の中には広い芝生の中庭。龍の形を模した噴水。そしてその奥で豪邸の名を語るに相応しい邸がイツキたちを迎え入れようとしていた。
「これがルクス邸……さすが金持ちはちゃいますなぁ……」
「ですが」
「これで五番目だもんな……」
セレネの邸は豪壮だ。だが、元の世界でも見ないようなこの邸でも、この国では五番目のもの。これ以上を想像すると頭がおかしくなりそうだ。
「で、お迎えが来てもよろしいのでは……と言いたいな」
「必殺! 『神の誓い』!!!」
「あるらんふりぃ!!?」
鳥車から降り、イツキが迎えなしを愚痴った瞬間、重たいブーツの足裏が彼の横っ面を打ち抜く。体全身で繰り出されたドロップキックに、ゴロゴロと転がって受け身も取れなかったイツキは、その正体も見ることなく地面に伏せてしまう。
「何!? 何事!? What happened to my face!!?」
「はっ! わたしの主、愛しのセレネ様ぁ……! の邸に無断で足を踏み入れておいて生きて帰れるとお思いですかっ! おおおお愚かな男ですね!」
ドロップキックをかました少女は、倒れたイツキの顔のすぐ横に箒の柄らしき棒を突き刺し、罵声を浴びせる。言葉からセレネの従者であることはわかる。なら、この仕打ちは勘違い故と考えるのが普通なのだが、
「ようこそお越しくださいましたっ、シル様。そちらのお二方はカイン様とパルム様ですね。お待ちしていました」
「お久しぶりです、エリシアさん。早速ですが鳥車を停めたいのですが」
「どうぞっ、ご案内いたします」
エリシア、と呼ばれた黄金の頭髪を生やし、メイド服を着用した少女は、くるっと振り返り、御者台に座るシルにぺこりと一礼。シルもそれに返し、イツキのことがなかったかのように会話を進める。
「いやいやいやいや! 待てやい! 俺は!? 色々言いたいけど、言いたいけど! なんで俺だけこんな仕打ち!? ……な、なんだ、ゴールデンドロップキッカー!!?」
「……ぺっ」
「っ!? 何こいつ、むかつく!」
イツキを置いてさっさと行こうとするエリシアに待ったをかけるが、彼女はイツキを睨みつけ、その場で唾を吐く。そのまともでない態度にさすがのイツキも憤慨。しかし、彼女との間にシルもパルムもカインも入ってきてくれない。
そしてそのまま、鳥車を停めに邸の裏の方へ姿を消していってしまう。
「って……俺はどうすんのよ……?」
広い中庭に取り残され、寒い空気の中で呆然と立ち尽くすイツキの姿は惨めな姿と言える。
イツキが拾われたのは割とすぐであった。邸の扉の前で開くのを待っていると、重々しい音とともに扉が開き、中からパルムがひょこっと顔を出す。
「イツキ……おいで」
「ああパルム……やっぱお前は俺の天使だ……!」
「――で、なんっだあの態度は!!?」
「はっ」
「ほらっ! その態度! なんなの!? 俺、お客様!」
「はっ! 何をおっしゃいますかっ! 神聖なるセレネ様のお邸にそのきったない足を踏み入れておいて……それでお客様気取りですかっ!? はっ! はっ!! はっ!!!」
「ぬぬぬぬぬぬぬぅ……!」
パルムのおかげで邸の中には入れたものの、エリシアが玄関で立ちふさがる。彼女は自分の腰に拳をあて、イツキの足を指さしながら睨みを利かせて唸る唸る。彼女の怒りの原因はさっぱりわからない。マジで。
「――エリシア」
エリシアとの睨み合いの最中、彼女の背後からイツキもよく知るルシールの声が響く。が、彼女の姿はエリシアと同じメイド服だった。イメージと全く違った姿に、と言うのも、イツキのルシールに対する服装のイメージは王都で見た巫女服でしかないからだ。だからこそ、その予想外の姿に、一瞬言葉を失った。
そしてそれ以外に言葉を失った理由がある。
「ルシール姉様ぁ! おはよぅございます! ああっ、姉様ぁ、姉様ぁ!! 本日も美しいですぅっ!!」
「……え?」
ルシールの声に反応し、というより、その気配か何かに反応し、イツキがルシールの存在に気付くより前に、彼女のすぐ傍に侍るエリシア。その素早さにイツキは言葉を失ったのだ。
「えと……とりあえず無事でよかったよ、ルシールさん」
「っ! 気安く姉様の名前を呼ばないでください! この愚弄! 大体ですねっ、あなたはっぷ!! はぁぁぁ、姉様のお手……いい香りです」
「エリシア、いけません。イツキ様はお客様です。言葉遣いに気をつけなさい」
ルシールの無事を確認したところで、やはり入ってくるエリシア。しかし、ルシールがその口を押え、畳みかける罵声を遮る。
ルシールの言葉は間違いなく正しい。イツキは激しく首を縦に振って同意を示す。
「しっ、しかしですよっ、姉様っ! この男でしょう!? セレネ様と歩いた愚かもっふ」
「それでもです。イツキ様はセレネ様を救ってくださいました。その感謝をあなたも示しなさい」
「はぁい! 姉様の命令とあらば、ですぅ!」
「……何この茶番」
ルシールの両手で頬を包まれたエリシアはとろけるような声でそれに応え、イツキには見せない満面の笑みでルシールに抱き着く。
別に親しくしたつもりもないのだが、ここまでの差を見ると悲しくなってくるものだ。
「お見苦しいところを。遅くなりましたが、ご無事でよかったです。イツキ様の部屋もご用意しておりますので、ごゆっくりお休みください」
「俺の部屋? 専用?」
「ええ。皆様にそれぞれ快適な一室をご用意させていただきました。ですが、シル様のご要望により、パルム様はシル様と同室となっております」
「え、いいなぁ」
「はっ!」
「でた」
何故だろう。エリシアと仲良くできる気がまったくしない。
「エリシア。ご案内しなさい」
「はいっ!」
「マジか……」
「はっ!」
彼女について色々と気になる点はあるのだが、とりあえずこの「はっ」という見下しだか何だかわからない態度はやめて欲しい。
「それにしてもでっけぇなぁ。さすが豪邸だわ」
とにもかくにもイツキにもようやく休める時間が与えられるのだ。しっかり七時間半、爆睡の極みを求めて部屋への案内をされているイツキは、細かい装飾のなされた高い天井と、高価そうな絵画の飾られた壁に囲まれ、高級絨毯の敷かれた長い廊下を歩く。
「はっ。あなたにこのお邸の素晴らしさがわかるはずもありません」
「なんだよ? あっ!? なんだよ!? その距離!」
イツキの案内役を命じられたエリシアは、何かしらの説明はあっていいはずなのに、あろうことか罵声の連続。しかも、イツキとの距離は十メートルはある。
「ルシールさんとの態度の差に物申したいんだが」
「はっ」
「それやめい」
「あなたはほんとに愚かさんですねっ。あなたごときが偉大なるルシール姉様と同格であるなんて、冗談でも出来が悪いです」
「君にとって姉様がどんな存在なのかわからねぇけど、俺がそう嫌われるようなことをした覚えもねぇよ」
「……っ」
イツキがそう言うと、エリシアはふいっと顔を背け、より早く歩みを進める。
彼女がルシールと似た考えの持ち主ならば、主を思う行為として、多少イツキを目の敵にしてもおかしくはないのだが、それにしては度が過ぎている。誤解による嫌悪でないのは確かだ。
「どうぞっ」
「どうも。――あ、他のみんなの部屋……って」
部屋に着き、一歩足を踏み入れたところで振り返るが、すぐに扉は閉まり、エリシアとの間に壁ができる。
「なんか説明あってもよくね?」
一人残された部屋でぽつりと呟くイツキであった。
それからどれほど時間が経っただろうか。
いや、数十秒ほどだ。
「腹減って寝ることすらできねぇ」
空腹だ。
様々な疲れを癒すために、イツキは異様に大きなベッドへダイブしたのだが、仰向けになると同時に腹がへこみ、強烈な空腹を感じたのだ。考えてみれば半日近く何も食べていない。
時間は大体六時くらい。もう一時間もすれば朝食の時間が訪れ、他の皆も目覚めてくるだろう。
「その一時間が長いのよ」
パルムとカインは鳥車で睡眠をとることができていたが、シルとイツキは操縦のため、大した休眠をとれていない。しかし、今眠ってしまうと起床が昼頃になり、生活リズムが大きく狂う。イツキにできることはないが、シルはこれから王選の攻略を考えなければならないため、なるべくそれは防ぎたい。
と、考えているかもしれないが、部屋が割れた今、どうしているのか知る由もない。その部屋に聞きに行くこともできないのだから。
「睡魔と空腹は人間の天敵。ルシールさんに言って何か食べさせてもらおうかな。……なんか変な言い方になったけど、ま、いいか」
ルシールは二十歳らしい。年上の女性に面倒をみられるというのは、男を性に持った以上、憧れるものなのではないだろうか。
「あれ? 俺はどういう性癖なんだ?」
どうでもいい。
イツキはくだらない疑問をどこかの誰かに投げかけながら、来た道を戻り、玄関前の大広間へ歩く。
美しい彫刻に鮮やかな色を付けられた窓からまだ熱を持たない光が差し込み、静かな空間が極彩色に染められていく。
さすが貴族邸、と言えば一言で終わってしまうが、その内容はイツキの想像などでは遠く及ばないもの。
「なんちゃら大聖堂……世界史嫌い」
「どうかしましたか、イツキ様?」
「あ、ルシールさん」
大広間を見渡していると、中央へ向って対になった階段の上からルシールの声がかかる。
「シル様は皆様とご一緒にお食事をとられるようですが、イツキ様はどうしますか?」
「んああ、それなんだけど。眠たいのは眠たいんだけど、腹減って寝れねぇっていう謎な病気にかかったらしくて。みんなと一緒に食べてしまいたいところ」
「でしたら先に何かご用意しましょうか?」
「その言葉を待ってたとこでもある」
「了解です」
「あ、でもそんな本格的なやつじゃなくてもすぐ食べれるようなのでいいかも」
「承りました」
一礼し、笑顔で答えたルシールは、階段下の扉を開き、
「こちらでお待ちください」
と、手でその奥の部屋を示す。そこには長い机と、それに合わせて多数の椅子が備えられている。食卓という場所だ。亜人の集落の豪華版とでも言っておこう。
「ところで、あのエリシアって子、今はどこにいんの?」
「今はセレネ様の寝室におります。御用でしたらお呼びしましょうか?」
「いや、いいっす」
近くにいると何かと暴言を吐いてきそうなのでとりあえず確認しただけだ。
どうせ、という言い方は少々不躾であるかもしれない。だが、この世界だ。訳ありの仲間がいるイツキにはわかると言っても過言ではない。だから、あえてこう言う。
「どうせ、過去に問題があるんだろうな……」
エリシアがイツキにああいった態度をとるのには原因があるはずだ。なければ理不尽にも程がある。が、イツキのこの推測は間違いないだろう。何があったのかは知らないが。
「なんでこんな世界なんだろうな、ほんと、マジで……」
セレネが国王を目指すのは、これも理由にあるのかもしれない。ちゃんと聞いたことはないが、彼女が私利私欲のために一国の王という座を目指すとは思わない。誰かのためにとか、そういう思いから王選に参加することを決めたのだろう。
「『目立たず楽に』がいいんだけど、そうもいきそうにないねぇ」
「時には苦労というものもいいものですよ」
「あれ? もうできたの?」
すぐ横の部屋から台車に食事を乗せたものを運び出してきたルシールが、イツキの独り言に言を差す。
「ええ、ちょうど私の食事を準備していたところでしたので、ついでに」
「ついでって……まぁいいけど。でもいつも苦労してるのはいくら何でも辛いでしょ?」
「苦労してでも尽くしたい相手であれば、それを辛いとは思いません」
「尽くしたい相手……か」
やはり、イツキには向かない話だ。そもそも、イツキが生きてきた世界はそんなに厳しい世界ではなかった。
大抵のことは自分でできる範囲のことだし、誰かに手伝ってもらうと言っても、この世界ほどの苦労はあり得ない。特に自分から役割を得ようとしない限り、苦労はそう感じない。
まして、この異世界で重役を目指すセレネの苦労はより強いものになるだろう。何より、彼女に対する期待は並みの人間に理解できるものではない。
ルシールもエリシアも、またその他のセレネの従者たちは、きっとセレネに期待している。そしていつか、セレネもその期待に応えなければいけない日が来る。もしその時が来た日に、彼女がどう責任をとるかが問題になってくる。
いや、不可能だ。国王になれなければその責任を果たすこともできないだろう。少しでもこの国の状態を変えようと考えているのなら、失敗の先で今の状態を作り出した勢力に潰される。
実力がある者が、権力がある者が、神様気取りで上に立ち、それ以外はその者たちのために働き、腐敗し、死んでいく。そんなこの国では、この国のままでは、今のセレネの試みへの失敗は決して許されない。
誰かのためだった、など、到底言い訳にはならないのだから。
「この後、すぐにお休みになられますか?」
「ん? 一応そのつもりだけど? 何かやらなきゃいけないことがあるのか?」
「これからのことを少しでもお話ししたいと、昨晩、セレネ様がおっしゃっていたもので」
「いや、俺がいても何もできないし。この国のこともあんまりわからねぇからさ」
「わかりました。セレネ様には私から伝えておきます」
食事を終えた二人はそれぞれに目的の場所へ向かう。イツキは自室へ休眠に。ルシールは調理場へ片付けに。しかし、部屋の中の何を切ってもかぐや姫は見つからず、調理場で洗い物をしていても大きな桃は流れてこない。
偶然に起きる奇跡など起きるはずがないのだ。
偶然で、最も力を発揮するのは、今までどれだけ無難に生きてきたかである。その度合いが、その場凌ぎの最大の力となる。無理をして多くの犠牲を払う必要などない。
『目立たず楽に』が一番正しい生き方なのだ。
――――――――。
激しい音楽が、イツキの頭の中で流れている。
べんと、撥弦楽器の乾いた音が何もない、真っ暗な空間に響く。それ以外の音はなく、その一本の楽器だけで演奏が行われている。何を伝えたいのかもわからない音楽は、次第にペースが上がり、イツキの頭の中には乾いた音の連続だけが残る。
べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。の。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。こ。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。し。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。て。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。み。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。せ。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。べん。―――――――――――――――よ。
「――兄ちゃんっ!!」
「うううううううううるせぇ!!! ……は? なんだカインか……」
「なんだってなんだよっ」
「で、ほんとになんだ?」
「シルが呼んでるってだけだっ。何話すかは知らねぇけどっ」
「はぁ……わかった。先に行っててくれ」
日の登り具合からイツキが眠っていたのは一時間程度だろう。おかげで寝る前より眠い。普段から一時間半のサイクルを守るイツキは、このような中途半端な時間に起こされると、若干機嫌が悪くなる。
と、愚痴を言っても仕方がない。
それに機嫌が悪いというよりは、気分が悪い。先ほど見た夢のせいなのか、酷く乗り物酔いした感覚がする。未だに頭の中に音が残り、頭痛すらも感じる。
「相変わらず不格好でぱっとしない人ですねっ! あなたは!」
部屋を出て、その頭痛を強める声が正面から飛んでくる。黄金髪。青い瞳。メイド服。エリシアだ。彼女はモップらしき道具を片手に、イツキの前に小さい体で立ちふさがる。
「出たな、失礼ゴールデン。今度こそそのポニーなヘアーをツインにしてやるぜ」
「っ??? な、何を言ってるんですか、愚かですね! くだらないことを言っていないで部屋で休んでいたらどうですっ!?」
「できればそうしたい。が呼び出されてるんでそうもいかない。だから通してもらう」
「はっ。どうせ何か悪いことでもしたんでしょう?」
「そんな学校みたいなシステムじゃねぇよ」
「がっこう? しすてむ? はっ。頭でも打ちましたか!?」
「じゃあね」
「あっ! 待ってください! ここから先へは――姉様ぁ!」
「さらば」
この道を通すことを断固として許さない。そんなエリシアの決意は、イツキの奥でたまたま通りかかったルシールによって、いとも簡単に砕かれる。
イツキは感じたのだが、彼女は頭が悪いのではないか。大好きな姉様に気をとられてイツキがいなくなったことにも気付いていない。
そしてもう一つ。彼女をイツキだけが知る言葉で弄ぶと案外いい反応が返ってくるので面白い。以上。
「で、用って何さね? シルさんや」
「用があるとは言ってませんが、食事の時間でしたので呼んだだけです。それから――」
「飯は食った。それと話し合いには入らんぞ?」
「あとで村を訪れようと思います。イツキさんもぜひ同行してください」
「殺生な」
先に断りを入れようとしたイツキだが、予想と違った台詞に肩を落とす。ここで眠たいから、と言えば、シルなら睡眠を許してくれるだろうが、よく考えればイツキだけリズムが狂うと、それなりに面倒臭い。ここは眠気を掃って付き合ってやるとする。
などと宣うイツキだが、実際はあの村への好奇心もあるのだ。睡眠を諦める理由には足りないが、先のも含めて妥協を認める。
それはそうとして、皆が食事をとる間のイツキは暇だ。たった数十分ほどだと思われるが、眠いイツキには辛い時間である。して、どうするかと言うと、この邸内の散策だ。
別に深い興味はないのだが、一年近くここにいるかもしれないのだ。ある程度勝手を知っておくほうがいいだろう。
「あの騒がしい子が出てこなければいいんだが……」
「なんでまた歩いてるんですか!」
フラグ回収は、得意だ。
「出たな、えりりん。てか怒るとこが酷いぞ、えりりん」
「えりりんえりりんうるさいですっ。それとわたしの名前はエリシアです!」
「おお、そうだったな、えりーぜ。悪い悪い」
「――んっ!」
言葉にならない怒りを口の中で爆発させたエリシアは、その場で地団駄を踏んで怒りを鎮めようとする。
「いーぃでしょう! あなたがそう呼びたいのなら勝手にしてくださいっ。ですがっ、わたしはエリシア。あなたの呼びかけにはお応えいたしませんから! ふうっ」
言い切って、一息つくエリシアだが、イツキには彼女のテンションがわからない。イツキもかなり頭がおかしい自覚はあるが、彼女について行けそうにない。彼女がおかしいわけではないが。
「いやほんと悪かったって。エリシア」
「気安くわたしの名前を呼ばないでくださいっ」
「どっちだよ」
エリシアのイツキへの態度は少し前のカインに似ている。本質的なところがではなく、状況がだ。
カインもイツキと出会ったばかりの頃は、エリシアのように何かあっては突っかかってきたものだ。未だにその本質、つまり理由というものがわかっていないが、何かイツキに敵意を持つ理由があったのだ。
そして目の前の少女も、イツキに何かしら関係のある理由を見ているのだろう。
「そういや朝飯は?」
「もういただきました。ルシール姉様も昨晩お帰りになられたので朝のお仕事はわたしがしなければならなかったのですっ。――なんであなたにそんなこと聞かれなければならないんですか!?」
「なら答えるなよな……」
むすっとして答えたエリシアは低い身長をさらに低くしてイツキの顔を下から覗き込む。
彼女の話からするに、ガイル、セレネ、ルシール、『サイカンの蔵』の従業員は、昨日の夜遅くに帰ってきたと考えられる。
「ガイルもまだ寝てるか。あいつ案外マイペースだから……いや、違うな。今の状況で落ち着いていられるほど気が長くもないわ」
「何をぶつぶつ言ってるんですかっ?」
「ん? いい加減開放して欲しいなって思って」
「あなたを自由にさせるわけにはいきませんっので!」
「ので!」
「でもでもっ、あなたといるのも癪です!」
「です!」
「真似しないでくださいっ!」
「悪い悪い」
両手を上げて怒るエリシアにこちらもお手上げポーズで謝る。
「もういいです!!」
ぷんぷんと蒸気を発しながら、と言っても本当にそう見えるわけではなく雰囲気が出てるだけだが、そんな彼女は廊下の奥へ大股で歩いて行ってしまった。
少々馬鹿にしすぎたかと、心の中で反省するイツキだが、彼女を弄るのは案外面白い。やめろと言われてなかなかやめられそうもない。そこもカインと似ているところだ。
それより、イツキを自由にしてはいけなかったのではないか。
そんなこんなで自由の身になったイツキは「さて」と、散策を始めようとするのだが、まずはどこへ向かおうか。
「便所は必須。みんなは飯食ってるから部屋に入るのはまずい。あと……あれ? 思ったより興味ない?」
浮かばない。そもそもここでの生活が想像できないために、これといって知りたいことが浮かばないのだ。
「生活に欠かせないものって、食う寝るところに住むところ、ってそれは寿限無……じゃなくて。食卓はあったし、便所と……風呂、か」
浮かんで二つ。とりあえず向かうとする。
が、これが案外すぐ終わってしまうのだ。
はいっ、どーん! ……あれ? なんか暗いです……。あっ、点きました。
ではっ、さっそくわたし、エリシアのお話を始めようと思いますっ。ぱちぱちぱちぱち。
皆さんお気づきですよね? そぉうです! 新きゃらです! この度、この……何でしたっけ? 「イセカイカクメイ」? ……あ、はい。――に、新たに登場させていただきました! ぺこり。
知りたいですか? ですよね。そうでしょうともっ! 実はわたし、セレネ様のメイドなんです! ……えっ? 薄い反応ですけど……? あ、もう知ってるんですか。さっき読んだんですか。え、じゃあっ、わたしは今何をしているんですか? ちょっと不安になってきました。
でもでもっ、やるべきことがないのであれば、わたしはここで、セレネ様とルシール姉様のすばらしさを語らせていただきたいと思います。……はい、何でしょう? ここでは語らなくていい? と言うか「イセカイカクメイ」では語るな? ですか? はぁ……。え? じゃあ、それはどこで話せば? いえいえっ、それを話さないのであればわたしはなんでここにいるんですか!? ちょっとっ、作者さん!? 名前なんでしたっけ? あ、凪と玄さん! ……へ、変な名前ですね。ではなくて!
わたしが愛を語るのはどこでっ――あ、ちょっと待ってくだs




