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イセカイカクメイ  作者: 凪と玄
第二章 双月
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第二章12 『力の差と。』


 イツキと別れたガイルは全速力で風を切り、ルクス領への道を走っていた。


 イツキの言った言葉。あれが本当ならシルは無事なはず。普段から妄言ばかり吐く彼だが、今だけは信じてみよう。

 そう考えながら、自分に託された使命を全うすべく、セレネたちの臭いを辿って走る。


「カインの血の臭いだ……」


 ガイルは鼻が利く。遠くのものを嗅ぎ分けるカインほどではないが、その場に残る臭いくらいは判別できる。

 そのガイルが嗅いだ臭いは、間違いなくカインのものだった。少なくとも彼は戦闘で傷ついている。そしてかなり苦戦しているのだ。

 カインは子供だが、人間の、それも兵士ほどの人間でも、よほどのことがない限り負けはしない。そのカインが傷ついているということは、やはり闇の魔石が使われている可能性が高い。


「他の奴はまだ無事だな」


 カイン以外の血の臭いはしない。まだカインが粘っている証拠だ。だが、それは敵も同じこと。敵の臭いが感じられないのは、カインの攻撃が届いていないからだ。

 恐らく、闇の魔石の作用を知らないカインは、戦闘中の違和感に気付き、彼以外の全員を逃がしているのだろう。


「勝手に死んでんじゃねぇぞ……」


 そこにいなければどうしようもできない不安がガイルの頭の中で広がっていく。




「はぁっ、はぁっ……」


 応戦するカイン。手に、肩に、胸元に、腿に、切り傷を抱えている彼は、息を荒げてただ敵の攻撃を躱す一方の戦闘を強いられていた。

 敵が持つ黒い刃の剣。あれがカインの力を弱めている。それに気付いたのは敵が鳥車に追いついてからの初めの攻撃のとき。



 走る鳥車から飛び降り、同じく鳥車で追ってくる敵、七人を迎え撃つ。全ての力を使っていないときでさえ余裕だった。今もそれは変わらない。

 その考えがカインを追い込むこととなった。否、細心の注意を払っていても知識が足りなかった彼では状況は変わらなかったかもしれない。


 先手、まず行動に出たのはカイン。素早い攻撃で相手に恐怖を与え、完全な優位に立とうと考えた。

 鳥車から降りた敵に向かって直進し、ダウンを狙って鳩尾を打つ。人間では反応できないほどの速さで、胃の中のものを全て吐き出したくなるほどの強さで、カインは苦しみを与える攻撃を繰り出した。

 だが、


「っ!?」


 攻撃はうまく当たった。あの勢いならどれだけ固い人間でもただじゃすまない。だが、それでも敵はびくともしない。それどころか、カインが一瞬ふらつきを感じた。

 違和感。瞬時に後ろへ飛び下がり、距離を置く。


「なんだ、今の……?」


 奇妙な感覚がカインの思考内に侵食し始める。

 反撃された。いや、相手はそんな動作微塵も見せていない。見せていたとしてそれが自分にわからないはずがない。


「オレの力が届いてないってのかよっ……」


 そんなはずはない。当たる感覚はあったし、衝撃もあった。並みの人間なら痛みに耐えきれず悶絶は必須の一撃だったはず。

 痩せ我慢しているようにも見えない。まるで自分の攻撃がなかったかのような、そんな気がするくらい、平然と立っている。


「わっかんねぇならっ、もっかいやりゃあいいってもんだっ」


 再び飛び出し、顔面目掛けて膝蹴り。が、


「っ!? いってぇっ!」


 敵に当たる寸前で威力が落ちたのがわかる。そしてその直後に黒刃が膝を掠める。

 初撃で敵にダメージを与えられなかった理由。それは自分の力が弱くなったから。だが、何故だ。何故そんなことが起きたのか。攻撃するその直前までそんな感覚はなかった。

 では敵に近づくことで起こっている。つまりは敵が持つ何かしらの力によって力を失ったのか。それは、


「あの黒いやつかっ……?」


 蔵で戦ったときとは違う武器。それがあの黒い刃を持つ剣。あれが近づくカインの力を失わせているのだとしたら、今の彼には勝つ手段はない。――今の彼には。

 今回の旅でカインはシルに本気を出すことを禁止されている。

 だが、この異様な状況、打開するにはそれしか考えられない。


「シルにはダメって言われてっけっどっ、仕方ねぇよなっ?」


 敵は七人。気味の悪い雰囲気がカインを追い込むのなら、それすらも無視できる力を使えばいいだけのこと。


「オレに会ったこと……コウカイスンナヨ?」


「っ!!」


 腕を地面に着け、体中のマナの活動を一気に高める。白目が黒色へと変わり、翡翠の瞳に殺気が光る。筋肉が膨張して少年の体が大きく盛り上がり、その変化をより克明に見せつける。


「――ッ!!!」


 獣人の咆哮が月夜に響く。

 カインが起こした変化は至極単純ながらにして驚異的。イツキの肩ほどもなかった身長がそれを優に超え、もともとはっきりしていた筋肉もより隆々としている。

 そして何より、耳と尻尾以外、ただの人間と変わらないカインだったが、体中に生える獣毛、鼻と口が伸び、まるでエジプトのアヌビス神を彷彿させる顔。それは犬族、戦闘種の本来の姿だ。


「シィッ!!」


 刹那、姿を消したカインは敵の前に現れ、腕を一振り。抵抗することもできずに吹き飛んだ敵は林道の木にぶつかり、背骨をへし折られる。立て続けに振られる腕で追加三人、同じように弾き、意識を失わせる。

 慌てて引き下がる敵だが、カインはそれを追わない。

 なぜなら、


 ――――全力が使えない。


 普通、あの張り手を食らえば、肉は裂け、骨は砕かれ、内臓は破裂する。頑丈な魔獣でさえそうなるのだ。ただの人間が気を失う程度で済むはずがない。背骨が折れるなど当たり前。確実に死をもたらすはずだ。

 だが、現状がこれだ。


「ハァッ、ハァッ、はぁっ、はぁっ……っ!? 獣化がっ……!」


 獣化して数秒も経っていない。それなのにその獣化の効果が切れる。本来なら、この姿で生活しても何ら負担はないほどだが、何故かこの状態を保てない。いや、理由は大体わかっている。

 全てあの黒剣のせいだ。あの黒剣がカインの力を奪い取り、今の獣化もそのせいで弱まっている。


 体毛が抜け落ち、体が縮まる。自分が放つ殺気すらも弱くなっていってる。


「でもっ……離れてんのになんでっ……?」


 先ほどまで、近づけば力を失うという形だった。だが、今、敵の近くにいないときでも力は落ち、獣化は解ける。徐々に力が失われていくのを感じる。


「いてぇっ……! まさかっ、このせいでっ!?」


 獣化が完全に解け、痛覚がはっきりと戻る。ふと膝にできた痛みを見て、思い出す。二撃目、膝を掠めた黒剣。もし、あのときの傷から力が出ているのなら、このままだとすぐに底をつく。それまでにあと三人、確実に仕留めなければいけない。

 だが、どうやってだ。

 獣化する力も残ってない。かと言ってこのままではダメージを与えられない。


 ――どうする?


「ちょっと掠ったぐれぇでっ、この様かよっ……」


 右足に力が入らない。怪我を負った膝から亜人の力が流れ出る。

 片足でバランスをとったまま、相手との距離を測り、一定を保つ手段をとる。だが、このままでは体力も尽き、攻撃もできない。


「くっ……!」


 次第に避ける力も弱くなっていく。すれすれで躱すことが増え、その分体力の減少率がぐんと上がる。

 三人掛かりで連続性のある敵は、カインの回避のその先を読み越して攻撃を仕掛け始める。その結果、避けきれずに傷が増える一方となる。

 そして、


「やべぇっ……もぉ力入んねぇっ」


 動かない。立っているのがギリギリ。現在、なんとか敵との距離をつけ、先に動かれても瞬時に考えることはできる状態にある。だが、その対処法が見えない。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 傷ついた箇所にはもう亜人の名残はない。そうでないところもほぼ人間と変わらない。攻撃手段はなく、スピード、体力ともになくなったカインは、敵にとってただの少年、十歳児に過ぎない。

 さらにその上で怪我まで負っている状態で、痛覚も年相応のレベルにある。痛みに苦しみを覚え、死への恐怖すら感じ始める。


「くっそっ! くっそぉっ! 動けよぉっ!!!」


 震える膝が地に落ち、バランスを保つことも適わない。


「あ……」


 気付く。

 迫る敵。振り上がる黒剣。


 ――死にたくない。


 ――まだ、死にたくない。


 ――勝ちたい人がいる。


 ――守りたい人がいる。


 ――自分をここまで強くした人に勝ちたい。自分を強くさせた人を守りたい。


 ――これから、もっと強くなって、最強を引き継ぐ亜人となり、誰もを守れる、そんな存在になるはずだった。なのに――


「もう、終わりか……まだ、一発も入れてねぇのにな……。守りたかったな……ねぇ――」




「――クレイ・ラント」




 暗闇。


 ――ああ。死ぬってこんなあっさりなんだな。


 痛みも苦しみも感じずに迎えたそれに、ただ納得だけを感じていた。

 これが死なのだと。



「ミド・ワーテゥル」


 ――?



「ウィント」


 声が聞こえる。聞き覚えのある声。


「パルム……?」


 そうだ。パルムだ。無心で何かを言っている。これも聞いたことがある言葉。確か魔法。何故かパルムは魔法を放つときに変な言葉を使っていることがあった。恐らく魔法の詠唱のようなものだろう。


「ウィント・エン・ワーテゥル」


 パルムの声が聞こえる度、破裂音や叫び声も遅れて聞こえる。

 どうなっているのか、理解できた。


「ミド・ラント」


 この言葉が言い切られた瞬間、地鳴りが始まり、敵の声は閉ざされる。そして、カインの瞳に再び光が差した。


「カイン……だいじょぶ?」


「パルム……なんでだよっ? 姫さんたちはっ?」


「となりの、町に、かくれてる……あんぜん」


 崩れた土に囲まれたカインは正面に姿を現したパルムに質問を投げかける。が、そんなことを言いたいのではない。


 パルムの背後に聳える土の山。そこにはきっと先ほどまでカインを追い詰めていた敵が埋まっているのだろう。カインが倒せなかった敵を、ものの数秒で動きを封じた。


「なんで助けに来たんだよっ……」


 情けない。


「女に守られるとかっ……」


 全身が動かず、死にかけの虫のような無様さで一人の少女に助けられることが、情けなくて仕方ない。

 まるで自分が負けたかのようで。


 違う。負けたのだ。敵の力も測れず、それを上回る力もなく、ただやられるのを迎え入れていただけだったのだ。

 最後には簡単に諦めて。


 負けたのだ。


「カイン……」


「――」


 空虚な間に感情が流れる。


「っ!? ウィント!」


 パルムが何かに気付き、咄嗟に風の魔法を放つ。飛ばされた何かから黒い物体が離れ落ち、カインがそれに気付いて手に取ろうとする。


「これだっ……これがオレの力をっ」


「だめ……それ、きけんなやつ」


「知ってんのかっ?」


 こくんと頷くパルムは背後へ警戒を向けたまま、カインと向き合う。


「あれは、闇の魔剣……亜人の、力うばうやつ」


「そうかっ……だからあれに斬られてっ、オレは力なくしたってわけかっ……」


 カインは魔剣のことを詳しく知らない。それがために迂闊に近づき、あの魔剣に力を奪われた。そしてその結果、カインは力を開放したところですぐに底をつき、呆気なく攻め潰された。


「考えも足りてねぇなんてっ……バッカだなっ、オレはっ……」


 自分の弱さを何度も噛み締め、それでも足りないくらい、悔しかった。


「……っ? 何してんだっ?」


「かいふく……」


 仄かに、温かい光が体を包んでいるのに気付いた。それがパルムの掌から出ているものだとも。そしてパルムはそれが回復のためだと言う。

 シルに聞いたことがある。魔導士が放つ光は魔導士が魔法を扱うために放つ光だと。そしてそれは、


「光の、マナで、なくした分、回復させてる……」


 奪われたマナを光のマナを直接流し込むことで回復させる。しかし、短時間では傷が治るわけでもなく、その回復後にはまた力が抜け始める。


「気休めに、しかならない、けど……」


「……」


「またきた……ヴール。ラント」


 再び敵に気付いて振り返ったパルムは再び魔法名を呟く。

 一つ、手で円を描き、二つ、拳を上へ向け、五指を弾く。すると紅の焔が円を描いて三人の敵を囲み、円の中では小さな地面の破裂が連続し、敵を翻弄する。

 敵は迫りくる高温の壁の中で何もできず、地道に体力だけが削られていく。


「つえぇっ……」


 目の前の少女が言葉と手の動きだけで敵を窮地へ追いつめている。そんな光景に驚かないわけがない。


 カインとパルムは何度も手を合わせたことがある。修行の実践という形ではあったが、それでもカインは力を出し切っていた。

 修行の場の手合わせのとき、パルムは今のように魔法の詠唱を行わない。いや、シルと手合わせするときは稀にしていた。だが、カインとの手合わせでは一言も喋らなかった。

 詠唱あるなしの威力の違いなど一目瞭然。今目にしている彼女の魔法の威力は、修行のときの無詠唱の比ではなく、さらに余裕すら感じる。


 それが差なのか。


「どうしよ……けが治せない……」


「べっつにいいよっ……」


 力が戻ったカインは膝に手をついて立ち上がり、彼の様子を心配するパルムの配慮を振り払う。


「それよりっ、このままじゃまずいだろっ……」


「むりはだめ……」


「うっせぇよっ。オレがやるってったらっ……っ!?」


 もう一度全身に力を入れ、獣化を試みる。だが、集中し、力んだ瞬間に再び脱力感が襲う。

 急激なそれに、肺が圧迫されるような感覚を覚えたカインは、猛烈な吐き気と倦怠感に見舞われ、先ほどより力が入らなくなる。


「はっ……。そうかよっ……」


 驕りだったと、そう言いきれるほど大人ではない。だが、この場で自分に相応しい言葉はそれ以外にあるだろうか。

 敵を侮り、自らの力も顧みない。その結果が自分の無力を自覚させる。


「結局はっ、オレが弱いだけだってかっ……」


 攻撃方法の差はあっても、ここまでの戦況差を目の当たりにして自分の弱さを認めずにはいられない。しかもだ。パルムは確実に止めを刺すような攻撃はしていない。戦いを楽しんでいるのではないが、彼女のことだ。蔵での戦闘のとき、シルもガイルも敵を殺してはいなかった。そこに何かしらの意味を与え、それに従っているだけのこと。

 だが、それができるのだ。カインにできなかった、否、カインが考えることもしなかった配慮が、それをする余裕が彼女にあるのだ。

 その差がカインを追い詰める。


「どうしよ……えと……」


 それでも現状、カインは動けず、敵を生かしたまま置いておくわけにもいかず、パルムはこの場の処理に迷う。

 魔法で相手の身動きを封じてはいるが、いつ出て来るかもわからない。そうなった場合、再び同じことを繰り返すのか、それとも他の手段をとるべきなのか。どちらにせよ、自分の力が尽きないうちになんとかならないものか。


 そういったパルムの不安を余所に自分の無力さを嘆くカインは、ただ地面に蹲り、徐々に己を忘れ始める。


 何故、今まで努力した結果が、成果が、このように容易く壊れてしまうのか。

 半端な修練ではなかった。死ぬかと思ったこともある。自分が少しずつ強くなっていき、自分を守ることができるほどには成長した自信もある。

 それなのに何故、誰かに守られながら、今こうして地面に伏しているのか。

 足りなかったと言うのか。重ねた努力が。流れた時間が。死の瀬戸際に立つ経験までしても足りなかったのか。

 それなら、何のために。


「カイン……だいじょぶ? カイン?」


 打開策を求めてきたパルムが、俯くカインの顔を覗き込もうとする。だが、彼の意識は胸の奥へ押しやられ、パルムの声に応えない。

 考えを失い、今どこにいるのか、何をしているのか、自分が何者なのか、全てがどうでもよくなった。

 

 だって、どれだけ力をつけてもそれはただの自己満足に過ぎなくて、結果的にうまくいかなければ無駄なことだから。

 全てを賭けてきたつもりだ。そこまでして鍛えてきたつもりだ。それを容易く壊されて、培った自分が何だったのかなど、考える価値すらない。

 自分を壊されたのだから。


 もういっそ、死んでしまった方がマシだった。



「……あぁ? なんだ、これ?」


「っ!?」


 少し離れたところで二人のものではない声が聞こえる。

 それに気付いたパルムは、呆然とするカインを背に、警戒を広げる。その声が彼女の作った土の山の方向から聞こえるのは確か。だが、中に埋めた敵は簡単に身動きが取れるはずなく、その線は消える。では誰なのか。


「邪魔くせぇ」


「え……!?」


 そう考えた瞬間、山が破裂し、埋もれた敵が土とともに弾け飛んでいく。パルムたちと土の山に挟まれていた、円を描いた炎がその爆風で掻き消される。魔力を高めた状態で作った山だ。並の力ではない。

 中にいた敵が姿を現すが、彼らも何が起こったのかわかっていない様子。

 そして困惑する敵の背後に、その人物が現れる。


「あ……ガイル」


 姿を現してすぐ、目の前の敵の一人を踏み倒し、二人の首を掴んだのは、ガイルだった。彼はパルムの存在に気付き、何かを考えた末、首を掴んだ二人を揺すり、首を折る。そして、踏んだ敵の首をかかとで一突きし、また簡単に首を折る。

 恐らくだが、シルが可愛がっているパルムに、残酷な光景を見せないようにしたのだろう。


「カインは生きてんのか?」


「……」


 近づいてきたガイルはパルムに状況の説明を求め、理解する。


「そうか……とりあえずお前らは蔵に戻ってろ。俺があいつらを領内まで連れてっから、シルとイツキを連れて追って来い。闇の魔剣を持ってるやつがいたらイツキに任せときゃいい」


「……」


 ガイルはそう提案し、先ほど飛ばされた敵の方を向き、後始末程度の行動に出る。

 それに対し、黙って頷いたパルムはカインを立たせようと声をかけるが、彼自身が立とうとしないので困る。背後から脇に手を入れ、無理やり引き上げようというのも、優しい彼女の頭の中には浮かばない。

 いい案が浮かばず、悩んでいるパルムに、カインは気付いてくれない。

 そうこうしているうちにガイルが始末を終え、苦戦するパルムに気付く。いや、パルムに気付いたのではなく、カインの様子の異変に、だ。


「何してんだ?」


「――」


「負けたんだろ」


「――」


 ガイルは無心のカインに容赦なく現実を打ちつける。その言葉がカインにとってどれほど突き刺さるものなのか。ガイルがそれを知らないはずがない。だが、それでも迷うことなくそうする。


「オレはっ……今まで強くなるためにっ、やってきたのにさっ……せっかくガイルにも戦い方教えてもらってきたのにさっ……全っ然戦えなくてよっ……もうどうでも――」


「馬鹿か、お前は」


「……は?」


 たった一言。壊された自分の絶望すらも、そのたった一言で否定された。


「俺ぁ戦い方なんて教えたつもりはねぇぞ」


「いやっ、でもっ……」


「そんなことを教えたつもりはねぇ」


 そんなことがあるはずがない。それこそ、今までのカインの修行は何だったのかという話になる。自分が戦えるようになるための修行でないのなら、それはただのガイルの痛めつけなだけではないのか。

 だが、ガイルはそう言う。


「だけどな」


 その否定の上にさらに言葉が重ねられる。

 これ以上、自分の存在を考えたくない。

 だが、


「もしも、お前が戦いたいなら、俺がお前を戦える奴にしてやらぁ」


「――」


 想像していた言葉とは違った。ガイルが負け犬に希望を与える言葉など放つはずがない。そう思っていた、いやむしろ、それが当然すぎて考えるまでもなかったほどに。

 だからこそ、彼の最初の言葉が信じられなかった。何かの心変わりか、とか、そんなことを考えることもできない。


「よえぇ自分が嫌なら、俺がお前を強くしてやる。だから、さっさと言うこと聞いとけ」


 ガイルはそう簡単に言い放ち、パルムにもう一度これからのことを確認してすぐに立ち去っていく。カインにとってやはりその背中がこの世で一番憧れる背中だった。だが、それと同時に、一生追いつくことはできない背中でもあった。




 ここでパルムちゃんが使う魔法名の紹介、説明をちょこっと。

 まず、魔法の属性、火、水、土、風の順に、ヴール、ワーテゥル、ラント、ウィント。

 次に魔法の大きさを示す、ヒロ、ミド、クレイですが、これは前から、大、中、小を示しています。

 最後に属性魔法名の間に入った「エン」ですが、これは「~と~」みたいな感じで、魔法の合体した奴です。勿論、相殺する魔法もあるですが、それはこれからのパルムちゃんの成長次第で変わっていくのだと思います。


 ちなみに、魔法名はとある言語を軽く、とても軽く、捻っているだけです。


 突然の意味不明な言葉に困惑したかもしれないので、補足しておきました。


 評価等、お願いします。


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