第二章9 『目指す道は遠く』
夕食の時間になり、昼と同じ場所に集合した。だが、
「シルさんとガイルさんは……?」
その場にいない二人に気付き、セレネがその疑問を音にする。
「あぁ、えっと……あの二人は……」
もぞもぞと説明しようとするイツキは、それをどう言えばいいのかに迷う。
この場にいない二人、シルとガイルには、イツキもパルムもカインも食事前に会っている。それは二階の大部屋で。
シルはいつもの様子に戻っていたのだが、食事に参加することをガイルが拒否し、それに彼女も従うことになった。病気、と聞いていたのだが、ガイルはその症状の悪化等を案じているのだろうか、セレネたちのみならず、イツキたちとも距離をとらせようとしているのがわかる。
それをセレネたちに言うことで、また何らかの不安を感じさせることもあるかもしれない、という不安が、イツキが言葉にするのを躊躇わせている。
「シル様からお話は聞いています。私はシル様に敵対心があるとは思っていません。私どもとしてはできればシル様のことをもっと知りたく思っているのですが、今はまだ話せないことなのでしょう。どうかお気になさらず」
思考するイツキにルシールがそう語りかける。
気にするなと言われてもなかなかそうはいかない。シルが原因でルシールが倒れたのだからそれを気にしないではいられない。だが、
「私たちはもう仲間なのでしょう?」
「んだけどさ……」
「私も気にしませんので」
ルシールのその目に嘘の色はない。彼女は飽くまで敵意を持とうとはしないのだ。
最悪死に至る可能性だってあったはずなのに何故、そこまでこちらを信じようとするのかはわからない。だが、ルシールの瞳をイツキは信じるべきだ。
「二人の分の飯は後で俺が持っていくことにする。俺がこう言うのもおかしな話なんだが……気にかけさせて悪かった」
「っ……ですから」
「いや、受け取ってくんさい。無事だったとはいえ迷惑もかけたんだし、仲間ならなおさら」
ルシールはシルの代わりに述べたイツキの念押しの謝罪を、目を伏せることで受け取る。と、
「話し終わったんならさっ、早く食べよぉぜっ?」
不安そうな視線を送るセレネと、ルシール、イツキの会話が終わる既のところで、我慢を切らしたカインが口を挟む。
「だな。腹減ったぁわ。俺ぇも」
カインの横やりのおかげで急激に気が抜けたイツキは、肩から力を抜きながら椅子にもたれかかって空腹を思い出す。
そんなイツキの言葉でなんとなく食事は始まった。
「そういやさ、セレネは戦力補強的な意味でガイルを迎えようと思ったんだろ? てことはやっぱり戦いとかはあるんだよな?」
「え、ええ……まぁそうですね……」
唐突に発せられたイツキの質問に、セレネは申し訳なさそうに答える。
大げさに言えば、イツキたちはセレネの道具のような存在になるわけだ。勿論、セレネがそう思ってるはずがない。だが、セレネはそう思われているのではないかと心配しているのだ。
「俺さ、その王様決める方法ってのがわからんのだが……どう?」
町の上で考えたことが全てではないだろう。その基準、方法によってはあくどい政治の中でも国王選抜にて優位に立てるかもしれない。
そのイツキの質問に答えるのはルシールだ。
「国王選抜、俗に王選は、主に候補者の財力、戦力、統率力、そして勿論、政治力を見ることで進められます」
「それをどうやって見極めるんだ?」
「財力は貴族に与えられた爵位で、戦力は闘技大会や他国または他貴族との戦争で、統率力はその貴族に属している人員の質、そしてその使い方」
「ああぁあぁ……」
セレネが懸念し、言い方を考えていたことを、ルシールがストレートに言ってしまう。それにセレネがわかりやすく動揺するが、イツキは気にしないといった風にそちらへ目を向ける。それがかえって彼女の気分を沈めてしまったのだが。
「ってことは俺たちは戦力と統率力に加わるってことなんだな……俺以外」
「ええ、そうなりますね。特に人員面ではガイル様の存在は必要不可欠です」
「それはやっぱりあいつの知名度が絡んで来るよな。良くも悪くも」
以前聞いた話では、ガイルがそこかしこで暴れ、正体不明最強の亜人、としてこの国中で有名になったと聞いた。その噂が広まるのに何ら疑問はない。確か彼がバルト家にわざと捕まっていたのもそんなことが関係していたとか。
「もし、この国で最強とされているガイル様が国王の下にいるとなれば、他国に我が国の力を誇示することができるとともに、いざ、戦争となったときの抑止力として活躍が期待できます。そしてそれは――」
「この王選でも同じこと、か」
ルシールが続けた言葉をイツキが紡ぐ。彼女はそれに首肯し、さらに話を広げる。
「セレネ様は戦争などがお嫌いです」
まぁ、好きな人間はいないだろう。いるとすればそれは狂人だ。
「戦力、とは言いましたが、実際は戦争の抑止力としてあなた方を迎えたい。そう思います。そして、できれば戦うことはしないでいただきたいのも本心です」
「俺も戦いたくはない。と、言いたいところだがそれはできそうにないなぁ」
「無理強いはしませんし、できません。ですが、理由をお聞きしても?」
「いや、俺が何を言おうとガイルは聞かないだろうし、もしものときは力を行使しなきゃならないからだ。と、カッコ悪いこととカッコいいことを言ってみるイツキ君だったり……」
「……? なるほど」
ルシールの質問に嘘偽りなく返事を返す。嘘偽りなく、だ。
嘘はついていないが隠していることはある。力の行使が裏切り行為に対するものであることだったり、その力にイツキが数えられていないことだったり。が、まぁそれは考えなくてもいいことだろう。
「じゃ、次は俺のターン」
軽く往なしたイツキは人差指を立てながらそう言い出す。
「貴族に与えられた爵位ってのは所謂あの爵位だと思うのだが……」
爵位。イギリスで公、侯、伯、子、男、准男、と成立したのだが、元は公爵と伯爵がなんとやら。記憶に残っていないがそんなところだ。ドイツやフランスではまた少し違うらしいのだが、もうわからん。またそういった文献を目にすることができれば少しは思い出せるのだろうが、この世界では無理な話だ。
「一般に五大貴族と言われる貴族には、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、の爵位が与えられており、その爵位が与えられる基準は、やはり財力でした」
「ふぅん……。で、セレネは何を与えられたわけ?」
「ほれは、はんはふれふ」
「何言ってるかわからん……。てか、カイン、パルム。話に参加しろぃ」
イツキの問いに答えたのは口に食べ物を詰め込んだセレネ。気付けばおどおどしていた彼女は食事に夢中になっており、その対面ではカインとパルムも話を聞こうともせず食事に専念している。まぁ、食事のレベルがネルやルボンとは違いすぎるのでそこは割愛しよう。
「で、なんて?」
「男爵です」
「女子なのに?」
普通そこを割愛するだろう。が、イツキなので。
何故男爵というのか、それはかつてこの国でも男性優位の時代があったからだろう。男性が偉い、などというくだらない時代のおかげで、今でもこういった言葉が残っている。そんなことは現代日本でもよくある話だ。
「で……男爵さんはどれくらいの財力で?」
「町が一つ二つ買える程度です」
「恐ろしいな! でも金はいいよね!」
町一つを買うのにどれくらいの金額が必要なのだろう。そんなことをした人物を知らないイツキには想像もつかないが、並大抵のそれではないはず。しかもそれで第五位。公爵とはいかほどに。また国王とは。
「話を戻してもよろしいでしょうか?」
「ん、ああ。どうぞ」
貴族の財力に愕然としていると、ルシールがいつもの調子で話を戻そうとする。
「財力、戦力、統率力については説明したとおり。では最後に政治力ですが、この王選においてルクス家が最も苦手とするところです」
「財力ではなく?」
「国王になるのに財力は大して関係ないのです」
「何故?」
「国王となれば他貴族の財力も国王の権力下にあるからです。とはいえ、それは国王としての威厳を示すためだけですので、実際にその財産の使用権は各貴族のものです」
確かに、財力が王選の大半を占めてしまうのであれば、爵位を与えられた時点で次期国王は決まったも同然だ。聞けば財力の高さで爵位の高さが変わるらしいのだが、つまりは王選開始までに公爵の爵位を得た貴族が国王となるということだ。それこそ王選の意味をないものにすることだ。
「なるほど……。で、気になったんだけど、政治力が苦手ってセレネに問題があるみたいな言い方だが……」
「そんなことは……ございますせん」
「俺は気付いたぞ?」
誤魔化しきれていないことをイツキが指摘する。だが、ルシールはそれをスルー。
「政治力というのは、国民にとって喜ばしい政治を行えるか、また、外交関係の良好化を図れるか、そういった面を総じて言います。そしてそれを見極める方法は演説と領地の政治状態。それらが国民にとっていいものであるか、です。そういった面ではルクス家は何ら不利ではありません。むしろ他貴族より有利と言えるでしょう。ですが……」
「それが有効化しない理由があるわけだ」
見当はつく。どれほどセレネが持つ土地の政治状態が良くても、目指す国政が良くても、どこかの貴族による陰謀があれば決定者へのアピールができない。
「正直もう手詰まりな気がするんだが……そこんとこガイルだけで埋まるのかどうか」
そう口の中だけで呟き、セレネが挑もうとしている王選の道筋を思い遣る。
ガイルという絶対的戦力を味方につけたところで、初めから結果が見えている王選では有利にはならない。その面で優位に立ったとしても、あらゆる面からの圧迫で掻き消える可能性が高い。
政治力、戦力、統率力。実質、セレネの持つこれらは、話だけ聞けばこの国の頂点にあると言えないでもない。だが、王選の制度、その本質を無視された現状ではセレネの力は何にもならない。
「そんな不利の中でセレネ様が王選を勝ち抜くためには、あなた方の協力が必要です」
果たしてそれは可能なのだろうか。方法は考えられるが無謀に近い。
もし、他貴族が金で決定者の意向を操作しているのであれば、こちらも同じことをすればいい。いや、それだけでは財力面で不利にあるセレネでは勝てない。だからその上で決定者が得をする条件を作ってやらなければならない。
しかし、その条件を作ったところで他貴族が同じことをすれば、結局は財力勝負に運ばれ、不利のままになる。
よりいい条件を作れればいいのだが、条件を作るのにも財力は必須。結局のところ、財力で負けていては意味がない。
だからこそ呼ばれたイツキたちだ。
おそらくルシールも上記の方法は考えただろう。考えた結果、結論は同じ場所に着いた。賄賂的なやり方では有利になれないルクス家を勝たせるために、戦力、統率力を高める。
それが最終的に選ばれた戦略だったのだ。
「俺たちにできることはやるつもりだ……と思う。決定権は俺にはないからな。でも、シルは協力を惜しまないだろうし、シルが言えばガイルも聞いてくれるはずだ。って言い切れねぇけど、今ここに来てるってことは力貸すってことだ。だから……やっぱ俺が言うのもあれなんだけど――安心してくれていい」
ガイルがいても勝てる保証はない。シルがいても勝てる保証はない。だが、いなければ勝てないのなら、何としてもここに留まらせる。それがイツキがするべき仕事なのだ。
食事を終え、明日の出発の時間を確認した後に、イツキとパルムでシルとガイルの食事を運ぶ。コンパクトにするため、若干メニューが減らされているが、仕方ない。いざとなれば今夜食べるはずだった非常食を使えばいい。
「何してんだあれ?」
足で扉を数センチほど開いたところで、怪しい現場を目撃してしまう。とは、イツキにとって初めてとなるシルのマントなしの姿。をさらに超えて何故か上半身をさらけ出している。そしてその背中をガイルに向け、そのガイルはシルの背中に何やら粘性の強い液体を塗っているのだ。
それはまるで何かの薬品を塗っているかのようで、
「って言うか状況的にそうだわな」
シルの病気に対する薬か何かだろう。
イツキはシルの病気のことをさっぱり理解していない。病気があるとしか聞いていないからだ。だからか、逆に様々な想像ができてしまう。
と、
「イツ、キ、まだ?」
「おお、悪い……。でも気まずくね?」
扉の前で立ち止まっていたイツキにパルムの震える声が届く。見れば、振るえていたのは声だけでなく、体もだ。例え一人分の食事であっても、九歳の少女が長時間持つには厳しいものだ。
しかしそれでも入室を躊躇するイツキにさらに声がかけられる。
「いいから入って来いよ」
「ばれてたか……」
気配か鼻か。その辺でだろう。イツキに気付いたガイルが部屋の中から入室を促した。
それに応じて部屋の中に足を踏み入れ、座っている彼らの横に食事を置く。
「一応まだあったかいから早めにな」
「ああ」
「……」
「なんだよ」
「いやぁ……」
イツキが気になったのはこの町に着いてからずっとおとなしかったガイル。それがさらにおとなしく感じていることだ。
彼の性格からして、イツキたちがいなくなったせいでそれなりに暴れたのは本当だろう。だが、今はそんなことをした気配も見えない。まるでガイルがガイルでないように見える。
「あー、えっと……昼は勝手に出てったりして悪かった。けど悪意とかそういうのはなくてだな。いや悪かったとは――」
「それはシルが目覚めたら言ってくれ。俺に言われても困らぁ」
「え? いやでも……え? シル寝てんの?」
「精神だけな」
「……?」
ガイルの言葉に首を傾げる。
シルに目を移せば、彼女は寝ているようには見えず、まっすぐ背筋を伸ばしている。がしかし、彼女は微動だにしない。まるで機能を停止させた機械のような状態にあるのだ。
正面から眺めるのはできないので背中から。それでも感じる。そこにはシルの姿があるのに、まるでいないかのよう。死とか、そういうものでもなく。
「今ここにいるのは体だけだ。治療の間だけな」
「……やっぱりまだ、不調か?」
「わからねぇ……」
「なぁ、もし……いや、後でいいや……」
言いかけた言葉を飲み込み、同じように心配そうな顔でシルを見つめるパルムを抱き寄せる。頭を撫でつけ、
「大丈夫だ。シルはきっとすぐよくなる。パルムは信じて待っておけばいい。な?」
そうやって言い聞かせ、パルムを安心させようとする。
それが根拠のある言葉でないことはイツキも自覚しているし、パルムも察しているかもしれない。だが、今できることはそれぐらいしかないのだ。してやれることも、言ってやれることも、イツキには手段も何もないから。だから、これしか。
「っと、暗くなっててもしょうがねぇ……。シルが起きたときに俺たちが暗かったら逆に心配されるしな。シルのためにも明るくしとこうぜ」
パルムの頬をうりうりしながらそう言って、その手でパルムの体を持ち上げる。
軽い体だ。イツキが本気になれば、握るだけで折れそうなほど軽い体だ。こんな少女にイツキは守られた。ならばせめて、この少女の笑顔くらいは守りたい。
「あ……。あのオッサンとこ行ってみないとだ」
「うぇえぇぇ……」
「そぉの反応は酷いなっ! あれは多分寝てるし、雁字搦めにしてあるから大丈夫だって……それにカインが見張ってるはず。運んでやるから、行くぞ」
「むー……」
オッサン、ストゥのもとへ向かう。彼はまだオッサンとは言えない年だが、まあいい。
彼は今、この大辺他の隣にある小部屋で監禁されている。カインがその見張りをやっているので、万が一の事態は起きないだろう。
嫌がるパルムを半ば強引に連れて行くのだが、嫌がらせとかではなく、少しでも変なものを見せて楽しい気持ちにさせてあげたいからだ。と、自分の優しさに浸っていると、
「んだよっ。兄ちゃんたちまでくんのかよっ」
中でストゥの様子を見るカインがイツキとパルムが入ってきたことに、驚きこそしないがどこか面倒臭そうな顔をする。理由はわかるが触れはしない。
「悪いかよ。……で、どうだ?」
「んー、昼からずっと寝てらっ。それっよりもこいつの飯どうすんだよっ?」
「あー……知らん」
「このままってわけにもいかねぇだろっ?」
「ま、そうなんだけどな……」
どうしようにも問題がある。この男、ストゥの処置が決定されていないため、こちら側としても困ったものだ。
もしかしたら忘れられているのかもしれないが、ルシールたちの判断を待つ形となっている。だがもし、ルシールがセレネに伝えるのを、また、セレネがそれを考えることを忘れているとしたら、何か色々と面倒臭いことだ。
と、そんな感じでストゥの遠そうで近い未来を想像しているところに、、
「ストゥさんの処置が決まりましたので、報告に参りました」
扉を鳴らし、静かに部屋に入ってきたルシールが決定を報告。ストゥも目を覚まし、その言葉にその場の四人が耳を傾け、続く言葉を待つ。
「これからしばらく、この『サイカンの蔵』で他の従業員の監視のもと、働いてもらうことになりました。様々な事情を含みまして、このような決定に至りましたが、これはつまり、軟禁状態であるということです」
「軟禁……?」
「そうです」
イツキの返しに頷くルシール。「軟禁」という言葉自体には疑問も反対もないのだが、それができるのかという疑問が浮かぶ。
たった一人でも、ストゥは巨体だ。そんな男が暴れたら、一般人はひとたまりもない。と思う。この世界の一般人がどれくらいの力を持つものなのかをイツキは知らない。が、彼の職業が職業で、少なくとも普通の人間よりは強いはずだと推測できる。
だから、この蔵に置いておくのは危険なのではないかと、そう懸念しているのだ。
だが、その懸念も無駄だった。
「この蔵には元王国騎士団員がおりますので、その点は安心を」
それに元団長でもあると聞いて、ひとまずこれで、イツキの心配はなくなる。
一通りの報告が終わり、ストゥはどれほどのショックを受けているかというと、実はまったく嬉しそうにしているのだ。理由を問えば、
「いやぁ、これで飢え死にはないなって思うと感謝しかねぇよ。マジで」
だそうだ。
イツキたちもセレネがそれでいいなら、何も問題はない。
「では早速、店主に報告しますのでこちらへ。――空き部屋を自室とできるのでそこを……」
説明を受けながら連れて行かれたストゥに手を振る。
短い時間だったが、何かと共感する点は多かったかもしれない。などと考えていると、拉致されたときのことを思い出す。
どうでもいいと、そう割り切ったはずだが、それでもあれは嫌な思い出だ。
そう感じて、振る手を力なく落とした。
二階の大部屋は、そのまま大きな一室でしかないため、五人で過ごすのに、プライベートも何もない。することもないのだが。
広すぎる部屋に静かに眠るシル。ガイルに聞けば、治療は終わり、意識もちゃんとあるらしいが、精神疲労が残っているため、すぐに休ませたのだと。
「じゃ、ガキんちょ、もう寝な」
「兄ちゃんは一緒に寝ないのかよっ?」
「カインは一晩でサッカーボールになりたいらしいな」
「は……?」
「はい。パルムも寝た寝た」
「イツキ、はいっ、しょにね、ない?」
「パルムは一晩で大人の女になりたいらしいな」
「ん……む?」
「いや、何でもない。気にすんな。おやすみ」
くだらない妄言とちょっとした希望を交えながら、布団にもぐるパルムを撫で、ゆっくりと瞼を閉じさせる。カインはしばらくうるさかったが、十分程度時間が経てば、すぐに寝息を立てて深い眠りに落ちて行った。
「何を黄昏れてんだ、って言うつもりはありそうでなさそうで実はあったりなかったり……ガイル。話がある」
「――」
「時間はかけない。明日も早いしな」
皆が寝静まった頃、イツキは一人夜月を眺めるガイルに声をかけた。
先程、パルムがいるときに口を噤んだ。あのときに話そうとしたことを。
「前に風呂で話したよな。俺はお前らの事情を知ろうとは思わない、無理に聞き出さないって。今も無理には聞かないし。……でもな。知りたい、とは思うようになったよ」
「――」
「シルの病気がどんなものなのか。治るのか。みんなの過去に何があったのか。俺は何も知らないから、今は力になれない。――でももし、俺にできることがあるなら、何でも言って欲しい」
「――」
「まだガイルは俺のことを信じられないかもしれない。だけど俺はガイルを、もちろん他の奴らも信じてるし、力になりたいと思ってる。――今じゃなくていい。いつか、ちゃんと教えてくれ。ガイルのこと、みんなのことを」
イツキの言葉に、ガイルは何も返そうとはしなかった。だが、少なくとも何かを考えたはずだ。
今はそれでいい。いつかきっとわかりあえる日が来るはず。そうなればイツキも何かできることを見つけられる。そうなればきっと。
気配と刺激。
はっと目を覚まし、夢でないことを確認。暗闇の中、目の前に何かがいるのを感じる。その何かが、イツキの頬を叩く。
焦ったイツキは座った状態で後退りし、それがなんなのか、目を凝らす。すると、
「なんだ、ガイルか……」
ぼんやり浮かんだ輪郭が、ガイルのものであると認識。ほっと息を漏らして安心する。だが、落ち着いたと同時に違和感を覚える。
ガイルの気が研ぎ澄まされているのだ。
そして気が付けば、ガイルの後ろにも人影、シル、パルム、カインがいる。その様子が、何か異常があったことを知らせる。
「ぼさっとしてねぇで、さっさと準備しろ」
慌てて立ち上がるイツキに小声で伝えるガイルの声色には、緊張が混ざっている。
「何があった?」
「何者かが、この蔵に侵入した様子です」
「え……?」
一日二本ですみません。がしかし、分けないと長く感じると思ったので仕方なく・・・。
そろそろ動きます。の予兆です。
よろしくお願いします。




