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3 事件の波紋 -2-

「あのさあ瀧澤。こういうことを勝手にされると困るんだよ」

 吉住先生がため息をついて撫子お姉さまの顔を見る。

「そうでなくても今、この学校は世間から注目されてるんだからな」


「あらあ……でも、あの方が『あることないこと書いてやる』とか千草さんにおっしゃっていましたので、お友達と学校の名誉を守らないといけないと思って。先に世の中に真実を公開してしまえば、おかしなことも書かれないと思ったんですけど」

「下手に話題になると、便乗してデマを広めたり面白おかしく騒ぎ立てるヤツが出るだろ。勝手なことする前に俺たちにちゃんと報告しろよ。これ、どれだけ再生されてるのかお前わかってんのか」


「えーっと。もうすぐ五桁いきますかしら。SNS に載せたリンクが拡散すれば、もう少し伸び始めると思うんですけど」

 嬉しそうに自分のスマホの画面を見る撫子お姉さま。お姉ちゃんがここぞとばかりに口を開いた。

「ほら、この人に反省とかないんです。そもそも良識がないんですから。加工されているとはいえ、勝手に自分が映っている動画を公開されて私も小百合も迷惑してるんです。悪いのはぜーーんぶ、考えの足りない撫子さんです」

 うーん。お姉ちゃんと撫子お姉さまはお友達だと思っていたんだけど、違うんだろうか。


「瀧澤撫子の愚行は大問題だが、君たちのした行動も十分に問題だ」

 十津見先生が厳しく言った。

「動画を見たが、君が記者を脅迫したり、白濱小百合が無抵抗の男性を竹刀で叩こうとしている姿が全部映っているぞ。こんなものが拡散されたら学校の質が落ちたと嘲笑の的になるだろうな。そうなったら君たちはどう責任を取るつもりだ?」


 お姉ちゃんは露骨に『そんなこと言われても』という顔をした。

「向こうが悪いです。乱暴なことされたんですから、私たちには騒ぎ立てる権利があると思います。緊急事態だったから仕方なかったんです」

「うん。悪党は叩きのめして心を入れ替えさせないとダメだってうちのオヤジも言ってます」

 小百合お姉さまもうなずく。

「それに小百合さんが粗暴なのは、ご近所の方にはもう知れ渡っていますから。今さらかと思ったのですけど」

 撫子お姉さまが微笑む。


 先生方は顔を見合わせ、それぞれため息をついた。

「瀧澤さあ。確かに白濱が竹刀かついで歩くとよその学校の男子も逃げていくよ。だけど、そんなことをわざわざ世界中に宣伝しなくてもいいだろ。お前の画像編集技術は立派だよ。なるべく雪ノ下たちの顔が映らないところを選んでつないでるし、どうしても映るところは加工してるし。けどさあ、制服見えてる時点で特定されるだろ」

 吉住先生がこめかみを揉みながら言う。


「相手が悪いのは分かります。乱暴な行為には時に相応な抗議行動が必要なことも確かです。ですがそういう必要があれば、学校が雑誌社や新聞社に抗議するなり警察に連絡するなりします。あなたたち生徒が矢面に立ってこういうことをすることはありません。瀧澤さんも、白濱さんも、雪ノ下さんもです。反省しなさい」

 市原先生がびしっと言って、お姉ちゃんたち六年生三人は声をそろえて『申し訳ありませんでしたー』と頭を下げた。何だかすごく慣れた感じだった。


「雪ノ下忍は姉を見習わないように。反面教師と思ってこの愚行を記憶しておけ」

 十津見先生が私をにらむ。何だか私も反省しないといけない気がして、頭を下げた。

「それから、瀧澤撫子はすぐに動画と SNS の投稿を削除するように。今ここでだ」

「ええー」

 撫子お姉さまが初めて情けない声を上げた。


「さっさと削除しなさいよ」

 お姉ちゃんが撫子お姉さまの腕をひじでつついた。

「そんなあ。このままにしておけばすぐに十万再生超えるのに」

「人の映像でそんなの狙わないでよ。いい迷惑よ」

 お姉ちゃんと十津見先生にダブルで睨まれて、撫子お姉さまはものすごく渋りながら動画を削除していた。泣きそうな顔になっていた。


 最後にもう一度市原先生のお説教をいただいて、解散になる。

「雪ノ下忍、来なさい。寮まで送る」

 十津見先生に声をかけられた。吉住先生もよっこらしょと立ち上がり、

「じゃあ桜花寮には俺が行こう。ほら三魔女、とっとと行くぞ」

 お姉ちゃんたち三人が一斉に吉住先生に抗議を始めた。お姉ちゃんたちは『百花園の三魔女』と陰で呼ばれているけれど、本人たちはそれをものすごく嫌がっている。


「あれは放っておきなさい。急いで」

 十津見先生に急かされ、私は先生方とお姉さまたちに挨拶をして生徒指導室を出た。


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