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3 事件の波紋 -1-

 結論を言えば、撫子お姉さまがその場で動画を SNS に投稿したという話は嘘だった。

『お友達を助けなきゃと思いまして』

 撫子お姉さまはおっとり笑って言ったが、お姉ちゃんはむすっとした顔をしていた。

 だけどもう一つ先の結論を言えば、それはあまり関係なかった。あくまで『その場で』での話だったからだ。



 夕食が終わって部屋でゆっくりしていたら、寮長の春香お姉さまが来て私を呼んだ。

「忍さん、呼び出しされてますよ。生徒指導室にすぐに来いですって。寮母さんが送ってくれますから、急いで支度してちょうだい」


 百花園は昔からのお嬢様学校だから、学校でも寮でも『言葉遣いは丁寧に』とうるさく言われる。

 お姉さまたちから下級生へと代々伝えられてきた伝統の話し方をしないと叱られてしまう。みんなが『百花園しゃべり』と呼ぶ独特の言葉遣いは丁寧すぎて、正直言ってちょっとおかしな感じもするんだけれど。

 高等部のお姉さま方を四年生、五年生、六年生と呼ぶのもうちの学校だけだと思う。中高一貫で全寮制だった百花園ならではの風習だが、他の学校に行った子たちには笑われることも多い。


 年末まで、寮長は六年生の紗那お姉さまが務めていらっしゃった。そして年が改まると同時に、五年の春香お姉さまに交代したばかりだ。

 別の寮の寮長だったお姉ちゃんも年末でお役御免となったそうで、肩の荷が下りて清々したと家で言っていた。そのあたりの慣習はどの寮でも共通だ。と、話がそれた。



 私は急いで部屋着から制服に着替えた。寮母さんに連れられて夜の学校に入る。

 寮は学校の敷地内にあり、渡り廊下で校舎と繋がっている。それでも校舎に入る時には、どんな時でもきちんと制服を着なくてはならない規則だ。


 生徒指導室に着いた。

 中には、お姉ちゃんと小百合お姉さまと撫子お姉さまがいた。先生方が向かい合っている。十津見先生は立っていて、市原先生と社会科の吉住先生は座っていた。


 お姉ちゃんと小百合お姉さまは渋い顔をしており、撫子お姉さまは相変わらずにこにこ微笑。

 市原先生と吉住先生は厳しい顔をしていて、十津見先生も多分結構怒っていた。


「あの、お待たせして申し訳ありません」

 私は頭を下げた。先生やお姉さま方を待たせてしまったので、きちんとあやまらないといけない。

「全員そろったな。寮母さん、おつかれさまでした」

 吉住先生が頭を下げると、寮母さんも会釈を返し寮に戻ってしまった。何だかとっても不安なメンバーの中に残されたなあ。


「雪ノ下忍は呼ばなくても良かったと思いますが」

 十津見先生がお姉ちゃんたちをにらみながら言う。

「どうせ主犯は、この問題児たちでしょうから」


「うん、まあそうだろうけどね。映っちゃってるし、知っておいた方がいいだろ」

 吉住先生は肩をすくめ、

「忍。そこにパイプ椅子あるから、千草の隣に座れ」

 と私に指示した。


 私は出来るだけ急いでパイプ椅子に腰を下ろした。それと同時に、

「先生方。失礼とは思いますが、ひとつだけ訂正させていただけませんか」

 お姉ちゃんがはっきりと言った。


「十把一絡げにして犯人扱いされるのは、とても不本意です。私と小百合さんと忍は被害者です。知らないうちに勝手にアップされていたんですから。私たちも困っているんです」

 ものすごい目で撫子お姉さまをにらんでる。何が起きたのか、私は全然分からない。


「雪ノ下千草、口を閉じなさい」

 十津見先生が厳しく言った。

「質問はこちらがする」

 お姉ちゃんは先生のことも、すごい目でにらんだ。お姉ちゃんと先生は仲が悪いなあ。


「雪ノ下さん。ええと忍さん。これについては知っていたかしら?」

 市原先生がスマホの画面を私に見せたが、待ち受けの犬の写真しか表示されていなかった。可愛いダッキーだった。

「あら、消えちゃったわ。どうやったら出るんだったかしら」

 うちのパパやママより年上の市原先生は、スマホとかパソコンはあまり得意じゃない。


「市原先生。よくおわかりでないのでしたら、無理をなさらなくても良いです。雪ノ下忍、こっちだ」

 十津見先生が素っ気なく言って私にスマホを見せてくれたけど、いいのかなあ。市原先生がちょっとムッとしているみたいに見えるけれど。


 表示されていたのは投稿動画サイトだった。『道端で女子高生が絡まれてた』というタイトルの動画をスタートさせると、画面に見覚えのある風景が映った。


 百花園の制服を着た女の子に、男の人が声をかけている。女の子の顔にはエフェクトがかけてあるが、男の人の顔はそのままだ。ちょっと遠いけど昼間のあの人だと思う。


『きゃああああ! この人、痴漢でーーす!』

 エフェクトのかかった声で片方の女の子が叫んだ。あれ、これって。

 私は思わず撫子お姉さまの顔を見た。お姉さまは相変わらず、聖母様のように微笑んでいた。


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