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2 不穏な登校 -3- 

「うん。アタシ昨日のうちに寮に来たんだけどさ、何か変なおっさんが通学路にいっぱいいてやたらに声をかけてくるっしょ。先生たちもパトロールするっていうし、アタシも手伝おうかなって。ほら、可愛い後輩たちがからまれたら助けなきゃダメじゃん。お前は大丈夫だろうけど」

「失礼ね。冤罪じゃないわよ、私も忍も体を触られてスマホまで取られそうになったんだから。強制わいせつと窃盗未遂よ!」


「えー。千草に手を出そうとするとかどれだけ女に飢えてるんだよ。完全に変態だな。しょうがないなあ、変態は征伐しないと。後輩の安全のために」

 小百合お姉さまは本格的に相手を叩きのめそうとする体勢になった。


「バカ、データを消そうとしただけだ! それにおかしな言い方するな、肩や腕をつかんだだけだろうが」

 ネットに上げると言われて男の人は焦った様子になる。

 それを聞いて、

「立派に痴漢ですね」

「痴漢だな」

 うなずきあうお姉ちゃんたち。さすが六年の付き合い、息がぴったりだ。


「ふざけるなクソガキども」

 男の人はものすごく怖い顔になった。

「大人をなめるな。実名出してあることないこと記事にしてやるぞ」



「まあ、恐ろしい」

 横手から別の声がした。そちらを見ると、これもお姉ちゃんの友だちの撫子お姉さまだった。

「あらあ、でも申し訳ございません。もう投稿してしまいました」

 優しいおしとやかな表情でにっこり笑う。


「ご安心くださいませ。千草さんにお声をおかけになった時からこんなことになるのではないかと思って、最初から全部動画を撮っておきました。千草さんの悪辣さも小百合さんの粗暴さも全部撮れておりますから、世間の方は公平に見てくださると思いますの。あら、もうかなり拡散されましたわね。久しぶりに六ケタ再生行ってしまいますかしら。先生方の目に入ってしまったら叱られてしまいますわねえ、主に小百合さんが」


「投稿した?!」

 男の人だけでなく、お姉ちゃんと小百合お姉さまも驚愕した顔で叫んだ。私はもう展開について行けない。

「ちょっと待って撫子。投稿したって……私たちの顔は? 名前は?」

 お姉ちゃんに聞かれて、

「加工してる時間なんかありませんでしたもの。そのままですわ」

 優しい笑顔で答える撫子お姉さま。


「ちょっと撫子!」

「あらあ。千草さんをお助けしようと思ってしたことですのに」

「やり方ってものがあるでしょう?! こそこそ盗撮してるくらいなら誰か先生でも呼びに行ってくれた方が助かったわよ!」

 お姉ちゃんが涙目になって撫子さんに詰め寄る。すごく珍しい光景だ。



 その間に男の人は私たちから距離を取り、それからすごいスピードで坂を駆けおりて逃げ出した。

「クソガキども、覚えてろよ!」

 と捨て台詞を吐きながら。


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